新入社員週報第4回「歩かずに見つける史跡(ゲームと学問をめぐって)」(松尾彩乃)
Tweet昨日、写真の位置情報を読み取り、東京から京都へおつかいに送り出したピクミンは、現在、長野県の根羽村を歩いているようです。もうすぐ愛知県。がんばれ。
11月1日に、株式会社任天堂よりリリースされた『Pikmin Bloom』(ピクミン ブルーム)。ピクミンとともに歩きながら街に花を咲かせつつ、その道中で新しいピクミンたちに出会ったりするゲームです。ゲームでは、アイテムを得るために、ピクミンたちに「おつかい」を頼むことができます。この「おつかい」から帰ってきたピクミンたちが、アイテムと一緒におつかい先で撮った写真をくれることがあります。旅の思い出ですね。京都とは言わず、身近な場所におつかいを頼むときもありますが、ときどき、ピクミンたちが自分の知らなかった史跡を背景に写真を撮ってくることがあります。この場合は、その写真の史跡が気になり、写真の場所を特定、「おつかい」を頼んでいたにも関わらず、疲れ帰ってきたであろうピクミンたちを引き連れ、結局、自分自身も歩いて向かいます。そしてピクミンたちと同じように史跡の写真を撮ります。ちなみに、京都へ向かったピクミンは3日かけて、東京-京都間を往復するようです。参勤交代より厳しい。
さまざまなジャンルの専門家をゲストに迎え、ゲームの世界を一緒に探索する「ゲームさんぽ」や、若手研究者を中心に生物学の視点からゲーム実況をする「ゆるふわ生物学」。『早稲田文学2021年秋号』「特集:ホラーのリアリティ」でもホラーゲーム実況(「ホラゲ実況」)が取り上げられていました。このような新しい取り組みたちのおかげで、ゲームと学問とを結びつけ楽しむことは、ゲームのプレイヤーを中心に、十分に浸透しているように思えます。(『Pikmin Bloom』からの史跡発見は、ゲーム内に専門性を持ち込むのではなく、ゲーム内から外へとプレイヤーを連れ出しており、これらの取り組みにおける学問との結びつき方は異なるかもしれません。)
他者の目線を借りて、ゲームを楽しむこと。専門家をはじめ、多様な目線が増えること、それが広く共有されることで、ゲームの作り方にも変化が生じるのか(すでに生じているのか)、気になるところです。ざっくり調べてみると、経済効果、著作権、自作ゲームへの影響など、ゲームや実況にまつわる記事や論文は非常に多くまとめきれませんでしたが、今回の史跡発見の経験や「ゲームと学問とをめぐる」事柄より小さなフェア棚を作るなら...と勝手に妄想してみました。
『ウォークス 歩くことの精神史』(左右社)
『東京の地霊』(筑摩書房)
『ポケモンGOからの問い 拡張される世界のリアリティ』(新曜社)
『ビデオゲームの美学』(慶應義塾大学出版会)
『コンヴァージェンス・カルチャー ファンとメディアがつくる参加型文化』(晶文社)
『ホモ・ルーデンス』(中央公論新社)
今週は「送料無料」を前回に引き続き取り上げる予定でしたが、京都へ歩いて行くピクミンたちに衝撃を受け、内容を変更してしまいました。次回は、送料無料も含め、出版社と書店の関係に向き合おうと思います。今回もお読みいただき、ありがとうございました。
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