シンポジウム『職業作家の生活と出版環境』特設サイト
和田敦彦編『職業作家の生活と出版環境 日記資料から研究方法を拓く』(文学通信)の刊行にあたって実施されましたオンラインシンポジウム(10月29日(土)、オンライン開催)の特設サイトです。こちらのサイトでは、開催報告、パネリスト3名によるコメント、および本書の「はじめに――文学研究の方法とリソースの可能性」を公開します。
以下よりご覧ください。
================================== 和田敦彦(早稲田大学)
シンポジウム開催にあたって
本書、『職業作家の生活と出版環境』では、職業としての作家が近代の出版環境の中で、どう「作られ」、あるいは「忘れられ」るのかを、日記という資料の活かし方とあわせていくつかの観点から検討することを試みました。
本書の刊行にあたって、執筆者の間で、こうした方法や問題について、外から意見を頂いたり、討議する機会を作りたいとの思いがありました。執筆者間での閉じた合評会ではなく、本書の方法や問題意識について示唆的な研究をされている方々にお声がけし、そうした方から意見を頂くシンポジウムの形にできれば、という趣旨で今回の企画となりました。
ご報告のお三方は、本書の執筆者で話し合って、この方にご報告頂けないか、ということでお願いした方々です。お願いしたのは、一柳廣孝氏(横浜国立大学)、高橋啓太氏(花園大学)、宋恵媛氏(大阪公立大学)です。シンポジウムは、執筆者の多くが関わっていたリテラシー史研究会と、「近代日本の日記文化と自己表象」研究会との共催で、文学通信にご協力頂く形で10月29日に開催されました。
お三方には、まずご自身のご研究についてお話し頂くようお願いしてあります。そしてそのうえで、本書とかかわる点や本書に対しての疑問、ご意見をまとめてくださるよう、お願いしました。このサイトで公開して頂いているのは、その折にお三方にまとめて頂いたものとなります。
シンポジウムでは、お三方のご報告の前に執筆者の一人である河内聡子氏から、本書で扱った日記資料のうち、刊行後に新たに見つかった日記についての報告があったほか、パネリストからのご指摘、示唆頂いた問題についての執筆者からも応答する形をとりました。限られた時間で十分な応答はむつかしかったものの、パネリストからのご意見には本書の問題点や、今後のこうした調査、研究を考えていくうえでのヒントがたくさんふくまれていますので、多くの方々にぜひ読んでいただければ幸いです。
お忙しい中、ご報告とともに原稿の形でコメントを寄せていただいたお三方と、シンポジウムにご参加頂いた皆様にこの場をかりてお礼申し上げます。
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報告1:「早稲田派」という呪縛
一柳廣孝(横浜国立大学)
https://bungaku-report.com/blog/2022/11/-20221029-1.html
報告2:「研究リソース」としての五味川純平――『職業作家の生活と出版環境』との接点
高橋啓太(花園大学)
https://bungaku-report.com/blog/2022/11/-20221029-2.html
報告3:在日朝鮮人作家・
宋恵媛(大阪公立大学)
https://bungaku-report.com/blog/2022/11/-20221029.html
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本書の詳細はこちら。
和田敦彦編『職業作家の生活と出版環境 日記資料から研究方法を拓く』
ISBN978-4-909658-82-1 C0095
A5判・並製・282頁
定価:本体2,700円(税別)
▶︎「はじめに――文学研究の方法とリソースの可能性」を公開
https://bungaku-report.com/blog/2022/11/post-1249.html
作家、とりわけ、忘れられた作家やマイナーな著述を研究するとはどういうことか。どういう表現を、どういう作家や資料を、文学研究はとりあげるべきなのか。研究方法そのものを問い直し、文学研究の意義や方法を新たに見出していこうとする書。
本書は、ある一人の職業作家の、生活と出版環境との関わりに踏み込み、作家や小説の価値をとらえなおそうとする。そこではどういう点に、作家を研究する意味、面白さは見いだせたのだろうか。
その作家の半世紀にわたる詳細な日記から、小説の解釈、あるいは作家の伝記的な事実確認といった従来の文学研究を超えて、生活者としての作家の情報をもとに、出版・読書環境を浮き彫りにし、その変化をとらえ、戦後の長い時間的なスパンの中で、作家が職業として読み、書く行為をとらえる。本書により、文学研究は、その対象や方法の可能性を広げ、他の研究領域と問題意識や関心を共有してゆくことも可能になるであろう。
本書は論考編と日記データ編の二部構成となる。論考編である第一部「作家とメディア環境」は、それぞれの論者の問題意識から日記データを活用しつつ展開した論文によって構成。そして第二部「日記資料から何がわかるか」は、日記データのうち、作家の生活に大きく作用していることが日記からうかがえるテーマを中心に、日記本文が読めるよう日記の記述を抽出し、集成する。最後に人名リストを付す。
執筆は、須山智裕/加藤優/田中祐介/中野綾子/河内聡子/大岡響子/宮路大朗/康潤伊。