西田耕三『なつかしい近代文学 江戸を視野に入れて』(文学通信)

6月下旬刊行予定です。
西田耕三『なつかしい近代文学 江戸を視野に入れて』(文学通信)
ISBN978-4-86766-089-8 C0095
A5判・並製・416頁
定価:本体9,200円(税別)
なつかしいのは、根源的に、見定めようとしていた対象が次第に茫漠となり、やがて世界の中に消失してしまうからである。
「世界」の側にいる私たちに、その現象が「なつかしい」と感じられるのだ――。
近代になって多くの「江戸」は失われた。しかし、すべてが跡形もなくなくなったわけではない。
倫理や思想を巻き込んで展開する文学の場合、前代の思想や倫理が一気に消去されることはない。新来の西洋の思想や倫理と拮抗しながら生き続ける。
本書は、江戸時代の思想や倫理と近代の文学のつながりを、トリヴィアルで断片的な事柄から解き、広い場に引き上げ、それらの特徴を確認したり、新たに見出したりしようとする。
江戸思想はどう転位し、近代文学に流れ込んでいるのか。たとえば、太宰春台の時代には当たり前だった言葉は、賢治の時代には驚異に感じられたことなどである。
【近代になって多くの「江戸」は失われた。しかし、すべてが跡形もなくなくなったわけではない。一般的に思想や倫理は、それに代わるものが出て来ないかぎり簡単にはなくならない。だから、倫理や思想を巻き込んで展開する文学の場合、前代の思想や倫理が一気に消去されることはない。新来の西洋の思想や倫理と拮抗しながら生き続ける。
しかし、江戸時代の思想や倫理と近代の文学を何の媒介もなしに連結することは可能だろうか。それが可能であるためには、膨大な量の作品と研究成果の蓄積を一度かっこに入れ、断片と摘要を旨として考えてみる必要がある。なぜなら、これは総括へ向かってのまったく初心の出発だからである。】......「第一章 江戸思想の転位」より
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【著者紹介】
西田耕三(にしだ・こうぞう)
1942年、石川県生まれ。
東京大学文学部卒(哲学系)。東京都立大学人文学部(夜間部)卒。同大学院中退(国文学専攻)。
熊本大学教授を経て近畿大学文芸学部教授。2011年退職。
編著書に『八犬伝をみちびく糸 馬琴と近世の思考』(ぺりかん社、2021年)、『啓蒙の江戸 江戸思想がよびおこすもの』(ぺりかん社、2017年)、『怪異の入口 近世説話雑記』(森話社、2013年)、『近世の僧と文学 妙は唯その人に存す』(ぺりかん社、2010年)、『人は万物の霊 日本近世文学の条件』(森話社、2007年)、『主人公の誕生 中世禅から近世小説へ』(ぺりかん社、2007年)、『生涯という物語世界 説経節』(世界思想社、1993年)、『仏教説話集成(一)(二)』(国書刊行会、1990/1998年)、『俳諧集』(共編、汲古書院、1994年)、『仮名草子話型分類索引』(共編、若草書房、2000年)等がある。
【目次】
はじめに
第一章 江戸思想の転位
一 太宰春台の「雨ニモマケズ」
二 自ら欺く
三 独歩の「自欺」
四 不透明な人間
五 独歩の「職務」
六 鏡花の「職務」
七 職務意識
第二章 日常と表現
一 流転の人生
二 三馬の会話
三 近代の三馬
四 会話が世界を構成する
第三章 造化の威力―逍遥「没理想」の可能性
一 「没理想」と鷗外
二 逍遥の「没理想」
三 香川景樹から「没理想」へ
四 田山花袋と景樹
五 景樹と仁斎
六 逍遥の反論
七 逍遥の没理想と馬琴の稗史
第四章 「肚裏」をめぐって
一 『八犬伝』の肚裏
二 拡散する肚裏
三 『水滸伝』の肚裏
四 死にたがる信乃
五 逍遥の肚裏
第五章 放心の価値―二葉亭四迷『浮雲』中絶の意義について
一 お勢の放心
二 文三の放心
三 放心の回収―仁義
四 放心の回収―「放心心」
五 回収の遅延―世帯と人情
六 回収不能―勧懲と模写
七 放心の果て
第六章 透谷の心機
一 文覚と袈裟
二 心機と天機
三 心宮内の秘宮
四 「一」と生命
五 心機から心理へ
第七章 『尼ヶ紅』から鏡花的世界へ
一 斬図落頭
二 物格
三 生肝
四 身体の感応
五 万物一体感の出所
六 自分が自分を見る(自己像幻視)
七 万物一体の感覚と言葉
八 万物は我に備わる
九 彼我の〇△
一〇 セザンヌの現象学
第八章 自然の生の外と内―畸人から自然児へ
一 畸人
二 自然児
三 我々はどこから来てどこへ行くのか
四 謎
五 我とは何か
あとがき
初出一覧
索引