今村信隆『「お静かに!」の誕生 近代日本美術の鑑賞と批評』(文学通信)

7月下旬刊行予定です。
今村信隆『「お静かに!」の誕生 近代日本美術の鑑賞と批評』(文学通信)
ISBN978-4-86766-093-5 C0070
四六判・並製・456頁・カバー装
定価:本体2,700円(税別)
「お静かに!」はどのように誕生したのだろう。
果たして、人々の声はどこへ行ったのだろうか。
芸術と出会う場所、美術館。
その鑑賞はどのような環境で行われるのが望ましいのだろうか。
歴史から考える。
作品にじっくりと向き合い、それを味わったり理解したりするための〈沈黙〉か〈静粛〉か。それとも〈語らい〉や〈対話〉のある空間か。作品の鑑賞にとっては、どちらが、より好ましいだろうか。あるいは、どちらがより「正しい」のだろうか。
本書はその問題に踏み込むために、「お静かに!」の背後にひろがる諸問題について、歴史的に考える。
録音・録画が一般的になる以前の声や語らいを歴史的に問い直すことは簡単ではないが、歴史のなかのいくつかのポイントに的を絞り、エピソードを拾い集めるように解きほぐしていく。
果たして明治期以降に次第に整えられていく鑑賞空間、批評空間はどのようなものだったのか。それは現在とどうつながっているのだろうか。
江戸から明治へと移り行く時期の「見世物」と「書画会・書画展観」の様子から、批評と演説との関係、日本の「展覧会」のイメージ、雑誌『白樺』とその同人たちが求めた鑑賞の理想など、今日の鑑賞環境を再考する歴史的な事柄を取り上げ考える。
美術館だけではなく、図書館、劇場、コンサートホールなど、公共性のはざまで揺れながら考える人に。ぜひお読みいただきたい本です。「お静かに!」と言わざるを得ない環境に関わるすべての方に。
【「鑑賞の歴史」と「批評の歴史」という二つの課題は、声や語らいを介して密接に関連している。あるいは、踵を接している、と言ってもよい。というのも、近代的な鑑賞と批評はそれぞれ、声と、声を伴う口頭での語らいとを外側へと追いやることで、自らの輪郭を定めていったと考えられるからである。一方において声や語らいは、鑑賞の際の態度やふるまいには不要なものとみなされ、禁止されたり、監視されたり、囲い込まれたりしてきた。と同時に、他方で声や語らいは、美術作品を論じる批評の手段としても、二義的なものとみなされ、さほど重視されないようになっていった、と言ってよいだろう。】............「はじめに」より
★PayPalでお支払い(各種クレジットカード対応)
入金を確認次第、すぐに発送(送料無料)。
【著者紹介】
今村信隆(いまむら・のぶたか)
北海道大学大学院文学研究院准教授。放送大学客員准教授。
1977年、北海道生まれ。北海道大学文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。民間のバス会社で働いた後、札幌芸術の森美術館に勤務。その後、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)専任講師、同准教授、甲南女子大学准教授等を経て、現職。北海道大学プラス・ミュージアム・プログラム代表(2022~2024年度)。
単著に、『一七世紀フランスの絵画理論と絵画談義』(北海道大学出版会、2021年)、『「お静かに!」の文化史 ミュージアムの声と沈黙をめぐって』(文学通信、2024年)、編著に『博物館の歴史・理論・実践1~3』(藝術学舎、2017~2018年)、今村信隆監修『文学館を旅する』(イカロス出版、2025年)、共編著に今村信隆・佐々木亨編『学芸員がミュージアムを変える! 公共文化施設の地域力』(水曜社、2021年)、佐々木亨・今村信隆編『改訂新版 博物館経営論』(放送大学、2023年)、共著に『開講!木彫り熊概論 歴史と文化を旅する』(文学通信、2024年)などがある。
【目次】
凡例
はじめに
鑑賞と批評の歴史
「声」を問う
この本の構成
第1章 見世物と書画会――二つの系譜
博覧会・博物館の到来
「ものをみる」イベント・見世物の系譜
哄笑する観客たち
異なる雰囲気をまといはじめる空間
「余分な音」とガラスケース
ノイズとしての声・音
「高談互いに起り」――書画会と展観会
集って、みて、語り合う
音とことばのはざま
第2章 作品の前での語らい――龍池会、鑑画会と『大日本美術新報』をめぐって
龍池会・鑑画会の国粋主義と『大日本美術新報』
揺れ動く「美術」
混ざり合う文体
演説の採録
声をもって作品について語る
批評への意志
つなぎとめられる声と批評
「座談会」という問題
第3章 集合と分断――第三回内国勧業博覧会の葛藤
近代化を目指す博覧会と絡みつく見世物
博覧会の活況と苦境
集合と分断の装置・博覧会
ヒエラルキー構造を抱える開場式
声とふるまいによる侵犯
美術の整理
俗受けへの視線
第4章 おしゃべりの愉しみ
会話篇形式の新聞連載
声を出したら罰ゲーム
紅葉が捉えた声
鑑賞空間を描く小説
まなざしにさらされる
江戸の声を響かせる
第5章 美術批評の文体と声色――再考「日本絵画ノ未来」論争
論争の概略
論争への評価
明治の演説文化と熱
喝采・喝采・大喝采
鷗外がこだわった用語の定義
別のフィールドに置かれた声
声の敗北
第6章 「展覧会」のイメージを探る
展覧会のイメージを拾い集める
展覧会と観衆
展覧会に響く声
〈競争〉としての公募展
〈お祭り〉と〈デパートメント・ストア〉
展覧会のたそがれ
疑義を持たれる展覧会
名作に声をのむ
第7章 雑誌『白樺』の言説空間――鑑賞における親密さと静けさ
白樺派と芸術、音楽、演劇
優れた作品と優れた「人格」
騒々しく罵る公衆と、静かに耐える芸術家
大規模展への批判
複製という共同経験
友愛の展覧会
白樺美術館の夢
美の静けさと沈黙
おわりに
・主な参考文献
・人名索引