考古学ブックレット『仮家塚遺跡! 南房総最古の農村を探して』(白石哲也編)全文PDF公開サイト

2025年3月31日公開
山形大学仮家塚遺跡発掘調査団が2019年度から行っている発掘調査でわかったことを、なるべくわかりやすく伝えるブックレットを無料公開いたします。南房総のことだけではなく、発掘のこと、考古学とはどういった学問なのかなど、幅広いものごとを扱っています。ぜひご一読ください。
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2025(令和7)年3月31日 第1版第1刷発行
ISBN 978-4-86766-084-3 C0021
プロローグ(白石哲也)
①仮家塚遺跡とは?
こんにちは。現在、僕たちは千葉県房総半島の南端に所在する南房総市仮家塚という弥生時代の遺跡の発掘調査を行っています。読者のみなさんは、「発掘」と聞くと何を思い浮かべますか? 古代エジプトのピラミッドや南米ペルーのナスカの地上絵などが有名ですよね。日本では、吉野ケ里遺跡(佐賀県)や三内丸山遺跡(青森県)などが教科書にも出てきます。しかし、そうした有名な遺跡ばかりではなく、私たちの身近なところにも、たくさんの遺跡が眠っているのです。
仮家塚遺跡は、登呂遺跡(静岡県)や吉野ケ里遺跡に比べると、一般的には、あまり知られていないと思います。しかし、仮家塚遺跡は今から約2200年前に南房総でコメ作りを初めて行ったと考えられる人たちが住んでいた可能性のある遺跡であり、房総半島の歴史を紐解いていく上で、とても重要な遺跡です。
②調査の歴史
仮家塚遺跡は、1986年に住宅建設の事前調査として、はじめて発掘調査が行われました。その後、1993年までに計7回の調査が行われ、複数の方形周溝墓(墳丘を作り、周囲を溝で囲ったお墓)と呼ばれる弥生時代のお墓が見つかりました。また、方形周溝墓から出土した土器の文様や器形から、弥生時代中期後葉頃(前2世紀頃)に作られたことがわかりました。これは、南房総の弥生時代では最古のお墓です。しかし、これまでの調査では方形周溝墓だけで、人びとが住んだ集落が見つかっていませんでした。そこで、僕らは未調査部分に集落が展開していたのではないかと考え、今回の調査を開始しました。
僕らの研究チーム(山形大学仮家塚遺跡発掘調査団)では、仮家塚遺跡の集落を探すことを目的として、2019年度から遺跡の分布調査(遺跡の広がりなどを調べる調査)や、過去に仮家塚遺跡の発掘調査で出土している遺物の検討などを行ってきました。そして、2021年度には遺跡の発掘調査を開始し、現在(2024年9月時点)までに計3回の調査を実施してきました。2023年度の調査は、大型の住居跡と思われる遺構が見つかり、そこに弥生時代の集落があった可能性が見えてきました。
③ブックレットの構成
本ブックレットでは、仮家塚遺跡を中心に、考古学とはどのような学問なのか、考古学に関わる人たちの想いなどについて少しでも知っていただければと思い、執筆しました。
本書は、第1章から第7章までで構成されています。第1章では、弥生時代がどのような時代や文化だったのかをお話します。そして、第2章以降は、より具体的に農耕集落や土器、環境、住居、お墓、石器といったさまざまな角度から仮家塚遺跡を中心に南房総の弥生社会を見ていきます。多面的な視点から見ていくことで、今から約2200年前にはじまった南房総最初の農村のありようが見えてくると思います。また、他にも考古学に関わるさまざまなコラムがありますので、ぜひ読んでいただき、考古学の世界を楽しんでいただければ幸いです。
【編者】
白石哲也(しろいし・てつや)
山形大学学士課程基盤教育院。研究分野は考古学。
主要な著書・論文に「宮ノ台式土器成立期の移動・移住―相模湾沿岸地域を対象として」(『法政考古』49、2023年)、「第6章 土器付着炭化物から見る池子遺跡」(共著、『弥生時代 食の多角的研究 池子遺跡を科学する』六一書房、2018年)、「弥生時代における鳥形土製品の役割」(『古代』139、2016年)など。
【執筆者】
杉山祐一(すぎやま・ゆういち) 印西市役所
小倉淳一(おぐら・じゅんいち) 法政大学文学部史学科
池田 治(いけだ・おさむ) 公益財団法人かながわ考古学財団
杉山功成(すぎやま・こうせい) 静岡県スポーツ・文化観光部文化局文化財課
佐藤兼理(さとう・けんり) 神奈川県立歴史博物館
根本岳史(ねもと・たけふみ) 印西市教育委員会
小林 嵩(こばやし・こう) 公益財団法人千葉市教育振興財団
千葉まい子(ちば・まいこ) 株式会社武蔵文化財研究所
廣田哲徳(ひろた・あきのり) 館山市役所
【目次】
プロローグ
(白石哲也)
①仮家塚遺跡とは?
②調査の歴史
③ブックレットの構成
1 時代と文化
弥生時代と仮家塚遺跡
(白石哲也)
①弥生時代と弥生文化
【コラム】仮家塚遺跡とは何か(白石哲也)
2 農耕集落
その誕生と社会変動
(杉山祐一)
①稲作のはじまり
――紀元前2世紀~紀元前1世紀頃(弥生時代中期後葉)
②農耕社会の発展
――紀元1世紀~3世紀前半頃(弥生時代後期~終末期)
③政治的社会の誕生
――紀元3世紀前半(弥生時代終末期)
3 土器
稲作農耕社会を物語る宮ノ台式土器
(小倉淳一)
①弥生土器とは
②宮ノ台式土器の発見
③宮ノ台式土器の時期細分と位置づけ
④仮家塚遺跡の宮ノ台式土器
4 地理と考古学調査
南房総の歴史はどう解明されてきたか
(池田 治)
①南房総の地理的特徴
②南房総の考古学調査の歴史
③南房総の考古学調査の特徴
【コラム】人が動く、石器も動く!(杉山功成)
5 住居
房総半島の竪穴住居と仮家塚遺跡が重要な理由
(佐藤兼理)
①竪穴住居とは何か?
②弥生時代の房総半島の竪穴住居
③発見!?仮家塚遺跡の竪穴住居
【コラム】発掘ってこんな感じ!(根本岳史)
①どうして時期がわかるの?
②学術調査と緊急調査
③調査計画
④確認調査
⑤本調査
⑥記録保存
⑦整理作業
⑧報告書の作成
6 墓
仮家塚遺跡の方形周溝墓と弥生時代のお墓
(白石哲也・杉山祐一)
①弥生時代の墓制
②房総半島の墓制
③弥生時代中期後葉
④弥生時代後期
⑤弥生時代終末期
7 石器
石の道具からわかる房総半島南端の生活・交流
(小林 嵩)
①大陸系磨製石器
②珍しい石庖丁
③漁撈に使われた石器
④弥生時代の祭祀具
⑤勾玉類の製作
【コラム】当時の小学生がみた 調査の記憶と(千葉まい子)
【コラム】南房総の海蝕洞穴遺跡 館山市大寺山洞穴遺跡を例に(廣田哲徳)
参考文献
執筆者一覧