前田雅之『戦乱で躍動する日本中世の古典学』(文学通信)
6月下旬刊行予定です。
前田雅之『戦乱で躍動する日本中世の古典学』(文学通信)
ISBN978-4-86766-047-8 C0095
A5判・上製・952頁
定価:本体12,500円(税別)
そもそも古典なるものの意識はどう生まれたのか。
日々揺れ動きながら、過去・伝統を意識しつつ、伝統の枠組みの中で新たに古典学なり、和歌なりを生み出していくダイナミックな人々の行為を、政治変革や戦乱なかから描き出し、日本における古典知や、古典的素養のありかたを考える。
古典と戦争はどのような関係にあるか。「文学」の重みを考え抜き、そのありかたを歴史的展開の中で叙述する。
古典とは何か。国文学とは何か。根源から説き起こす。
【今後、古典が復興することはおそらくないだろうと思われるが、世界情勢の変容に伴う、新たな国学、ナショナリズムの覚醒による全体主義的な復興ではなく、自己のアイデンティティとは何かという真摯な疑問によって、加えて、現在を相対化するためのツールとして、古典が復興することを今は祈りたい。古典をもつ国・共同体に生まれた人間としては、古典から逃れることなどできないのである。ならば、堂々と古典の中に飛び込もうではないか。それが根無し草にならない唯一の方法であるからである。】......「エピローグ」より
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【著者紹介】
前田雅之(まえだ・まさゆき)
1954年生まれ。1979年、早稲田大学教育学部国文科卒。1987年、同大学大学院文学研究科日本文学専攻博士課程を単位取得退学。博士(文学)。東京女学館短期大学教授、東京家政学院大学人文学部教授を経て、現在、明星大学人文学部日本文化学科教授。専門は古典学。
著書に、『今昔物語集の世界構想』(笠間書院、1999年)、『記憶の帝国 「終わった時代」の古典論』(右文書院、2004年)、『古典的思考』(笠間書院、2011年)、『古典論考 日本という視座』(新典社、2014年)、『アイロニカルな共感 近代・古典・ナショナリズム』(ひつじ書房、2015年)、『保田與重郎 近代・古典・日本』(勉誠出版、2016年)、『なぜ古典を勉強するのか 近代を古典で読み解くために』(文学通信、2018年)、『書物と権力 中世文化の政治学』(吉川弘文館、2018年)、『古典と日本人 「古典的公共圏」の栄光と没落』(光文社新書、2022年)など。
編著に、『〈新しい作品論〉へ、〈新しい教材論〉へ 古典編』(共編、右文書院、2003年)、『中世の学芸と古典注釈 中世文学と隣接諸学5』(編著、竹林舎、2011年)、『アジア遊学 もう一つの古典知 前近代日本の知の可能性』(編著、勉誠出版、2012年)、『高校生からの古典読本』(岡崎真紀子、千本英史、土方洋一共編著、平凡社ライブラリー、2012年)、『幕末明治 移行期の思想と文化』(青山英正、上原麻有子共編著、勉誠出版、2016年)、『画期としての室町 政事・宗教・古典学』(勉誠出版、2018年)などがある。
【目次】
プロローグ 古典と戦乱・抗争をめぐる序章
はじめに―文学と戦争の親和性―
一、前近代文明圏の古典と日本の古典・和歌
二、日本古典における「文学」の重み
第一部 和歌の世界
第一章(総論1) 勅撰集の展開と和歌
序論 戦乱・政治変革と古典・和歌の相互補完的循環構造
はじめに―シュンペーターから―
一節 『古今集』・三代集
一、『古今集』編纂の意味するもの
二、三代集の虚実
二節 『後拾遺集』〜『千載集』―勅撰集という〈伝統〉の形成―
一、「和歌は我国の風俗なり」という共同観念の形成
二、『後拾遺集』の撰集方針と構成
三、金葉集』と『詞花集』
四、『千載集』―勅撰集の制度的完成―
三節 『新古今集』〜『新続古今集』―『新古今集』以降の勅撰集の撰集―内乱・抗争・正統性―
はじめに
一、『新古今集』と戦乱・幕府
二、『新勅撰集』から『風雅集』
三、武家執奏の四代集
各論1 戦乱と撰集─両者の相補的関係をめぐって─
はじめに
一、『千載集』の撰集と戦乱―保元平治の乱・治承寿永の乱・平家滅亡の硲で―
二、後鳥羽院と『新古今集』―束の間の安定期が生んだ奇跡―
三、承久の乱と『新勅撰集』―戦乱と撰集の相補的関係の一時的終焉―
おわりに
四節 応仁の乱前後における和歌の隆盛
一、『永享百首』の詠進
二、甘露寺親長の月次和歌会と公武歌合
おわりに―和歌的公共圏の完成者としての足利義尚―
各論2 実朝の題詠歌─結題(=四字題)歌を中心に─
はじめに―「月前擣衣」から―
一、実朝の四字題
二、実朝創案の四字題和歌
おわりに―実朝を中世歌人と捉えるために―
各論3 足利将軍家における政事と文事─武家執奏・和歌・打聞─
一、武家執奏の勅撰集へ
二、義持の廃絶と義教の復活
三、足利義尚の新たな戦略
各論4 古典和歌の世界と《十二か月風詠》
一、問題の所在―「砧」をめぐって―
二、和歌による閨怨詩あるいは叙景歌 砧系和歌をめぐって
三、月次屛風歌をめぐって
おわりに
各論5 僧侶の恋歌─野僧と顕密僧をめぐって─
はじめに
一、僧侶と恋歌―勅撰集における比率と歌人の系譜―
二、勅撰集の恋歌における西行と慈円という対構造
三、おわりにかえて―その後の西行と慈円―
第二部 古典学の世界
第二章(総論2) 顕と密―注釈における前提的思考をめぐって―
はじめに
一、諸注集成における「顕」と「密」
二、「密」が顕現する場―「雑歌」と顕密―
おわりに
第三章(総論3) 古典的公共圏の成立―本文・注釈・古典の成立―
はじめに
一、古典的公共圏なるもの
二、古典的公共圏の成立
第四章(総論4) 古典学の展開1 鎌倉期〜南北朝期
はじめに―鎌倉期から南北朝へ―
一、モンゴル襲来前(=後嵯峨院期)の古典学
二、ポスト・モンゴル危機の古典学
三、南北朝期の古典学
各論6 放り出された「古事」─『古事談』と古典的公共圏─
一、『古事談』の居場所―「物語」と「雑」―
二、「古事」と「故事」の間
三、理念と現実の静かな野合―「古事」と「公」秩序
各論7 中世人は「橋姫」をどのように読んだのか
はじめに
一、古典形成期における「橋姫」注釈
二、河内源氏家の注釈をめぐって―素寂の西円批判―
三、今川範政の読み
四、兼良の狙いと限界
おわりに
各論8 古典的公共圏の〈春〉─西円の源氏注釈をめぐって─
はじめに
一、西円の歌力―勅撰集入集歌の分析を通して―
二、西円の注釈態度の基調―「桐壺」巻を通して―
三、西円の人となり―「木の枝」問答をめぐって―
おわりに
各論9 『弘安源氏論義』をめぐる史実と物語
はじめに
一、『弘安源氏論義』という書物―跋文の開示する世界―
二、『弘安源氏論義』の論義―一番問答から―
おわりに
各論10 『弘安源氏論義』をめぐる史料と説話
はじめに
一、「「なにがしの院といへる、いづれの所になずらへたるぞや」(三・夕顔)をめぐって
二、「朱雀院の御賀は准拠の例いづれぞや」(十二・紅葉賀)をめぐって
三、「六条院にをきて准拠の人おほし、致仕のおとゞだれの人になずらへたるや」(十六)をめぐって
おわりに
第五章(総論5) 古典学の展開2 室町期 応仁の乱前後の展開
一節 応仁の乱以前の古典学
はじめに
一、〈室町の平和〉の確立と崩壊
二、〈室町の平和〉の古典学
二節 応仁の乱時および乱以後の古典学
各論11 和漢から漢和へ─対中国観の変容から─
はじめに
一、鎌倉〜室町医期における「漢」の変換・変容―『永済注』・『和談抄』と『弘安十年古今集歌注』の間―
二、式目注釈学における漢和世界
おわりに
各論12 「鬼神」と「心正直」─中世太子伝の蝦夷形象をめぐって─
はじめに
一、『伝暦』テクストの生成
二、中世太子伝十歳条の言説
(I、蝦夷の侵攻と侵攻目的―鬼神・道理・心正直―/Ⅱ、太子の献策と蝦夷調伏―神国・夷詞・無差別―)
各論13 和語を和語で解釈すること─一条兼良における注釈の革新と古典的公共圏─
はじめに
一、シニフィエとしての漢字―『河海抄』〜『和漢字源通釈抄』―
二、義のない水平的な言語世界―『和秘抄』―
おわりに
各論14 『源氏物語』はどのように注釈されたか─『花鳥余情』の力学─
はじめに
一、兼良の〈誤読〉を支えた観念と方法意識
二、なぜ注釈は超越しないのか―『源氏物語提要』から―
おわりに
各論15 『花鳥余情』─兼良の源氏学─リアリティーを担保する可視的存在─
はじめに
一、「歯固」をめぐる注釈闘争
二、装束への拘り、あるいは「あるべき日本」の確認
三、末摘花の装束とリアリティー―おわりにかえて―
各論16 文芸知のもつ力─知と財が融合する時─
はじめに
一、中世における個人知の形成
二、知の流通と財の移動・交換―実隆と連歌師の行動から―
三、長享三年=延徳元年の実隆と宗祇
おわりに
各論17 パラダイムとしての仏教─『源氏物語』と天台教学─
はじめに
一、天台六十巻と天台四門説
二、「螢」巻の物語論における天台教学的注釈
おわりに
各論18 藤壺密通事件をめぐる言説と注釈─それははたしてタブーだったのか─
はじめに
一、中古・中世注釈における藤壺密通事件
おわりに
第六章(総論6) 古典学の展開3 近世へ
はじめに
一節 天下統一〜近世濫觴期の古典学
一、九条稙通
二、細川幽斎
三、中院通勝
四、紹巴
おわりに
二節 近世古典学の始まり―季吟と契沖―
はじめに
一、季吟
二、契沖
おわりに
各論19 宗祇から契沖へ
はじめに
一、『百人一首』注釈における中世と近世―宗祇と契沖―
おわりに
各論20 ゴシップの公共圏
はじめに―「おぼえ」・「聞こえ」・「人聞き」―
一、『切臨抄』の「口伝」―浄化回路(1)―
二、孝謙・道鏡と玄賓―浄化回路(2)―
おわりに
各論21 大名文庫形成試論─大名はなぜ古典籍を集めたのか─
一、武家と古典
二、『大綱抄』から
おわりに
エピローグ 近代・古典・戦争
初出一覧
あとがき
索引