国文学研究資料館編『文体史零年 文例集が映す近代文学のスタイル』(文学通信)

4月上旬刊行予定です。
国文学研究資料館編『文体史零年 文例集が映す近代文学のスタイル』(文学通信)
ISBN978-4-86766-079-9 C0095
A5判・上製・440頁
定価:本体4,000円(税別)
小説、日記、手紙、詩歌、演説、さらにはSNSの投稿文に至るまで、さまざまな目的で書かれた「文」には、意識的にも無意識的にも多彩な文体が選ばれ、表現されています。
けれども、使われた言葉の特徴や微妙なニュアンスは、時が経つにつれて次第に薄れ、忘れ去られることが少なくありません。本書では、それらの言葉を再び蘇らせるために、文学愛好者や言葉を学び始めた人々に向けて出版された数多くの〈文例集〉―大量に出版された語彙集や作法書、実用書、アンソロジーなど―を手がかりに、文体の背後に隠れた深層に迫ります。
これまであまり注目されることのなかったこれらの資料群から、無名・有名を問わず多くの作家たちが描いた文学作品における文体の実態をとらえ、14篇の論考と100冊の書目解題を通じて、文学の実作とそれを受け取る人々の間にあった〈意味〉の輪郭を鮮やかに復元していきます。
【本書のポイント】
◉〈文例集〉を文学研究における重要な資料群として新たに提案
◉14篇の研究論文を通じて、散文や詩歌の作者たちとその読者が〈文例集〉とどのように関わりを持ったのかを解明
◉100冊の書目解題と書影を掲載したカタログ「文範百選」を収録
【......文学研究が小説や詩の言葉を「現代語訳」した意味内容だけを考察対象とするのではなく、右にみてきたような文体のトーンや混淆ぶりを含みこんだ形で捉えて分析するにはどうすれば良いか? そうした問いに手がかりを与えてくれるのが、本書で〈文例集〉と総称する資料群です。近代には右に見てきたような文体状況と呼応するように、様々なジャンルにわたる語彙集や文例集、作法書、あるいは個人・流派ごとのアンソロジーが、実用的な言葉の初学者用入門書からかなりの文学愛好者に向けた書物にいたるまで、大量に出版されていました。書簡、日記、美文、論文、翻訳、金言・教訓、紀行文、近代詩、戯曲、音曲、漢詩、和歌・短歌、俳諧、言文一致会話、説教、朗読、演説、労働者の言葉、小説―ずいぶん読まれていたらしいにもかかわらずどの古本屋でもボロボロになって本棚の隅に置かれており、図書館でもあまり顧みられていないこれらの文例集こそ、失われつつある近代文学のニュアンスを読みとくための「類型辞書」ともいうべき役割を果たしてくれる資料群なのです。】......『文体史零年』のための序―『吾輩は猫である』の文体から(多田蔵人)より
執筆者:多田蔵人/馬場美佳/倉田容子/都田康仁/杉山雄大/堀下翔/田部知季/栗原悠/合山林太郎/北川扶生子/湯本優希/高野純子/山本歩/谷川恵一
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【編者紹介】
国文学研究資料館
国内各地の日本文学とその関連資料を大規模に集積し、日本文学をはじめとするさまざまな分野の研究者の利用に供するとともに、それらに基づく先進的な共同研究を推進する日本文学の基盤的な総合研究機関。創設以来50年にわたって培ってきた資料研究の蓄積を活かし、国内外の研究機関・研究者と連携し、日本の古典籍及び近代文献を豊かな知的資源として活用する、分野を横断した研究の創出に取り組んでいる。
【執筆者】
多田蔵人/馬場美佳/倉田容子/都田康仁/杉山雄大/堀下翔/田部知季/栗原悠/合山林太郎/北川扶生子/湯本優希/高野純子/山本歩/谷川恵一
【目次】
凡例
『文体史零年』のための序
――『吾輩は猫である』の文体から(多田蔵人)
一 「吾輩は猫である」はどんな口調か/二 近代文学、文体のラビリンス/三 現在の研究状況と本書の提言
第Ⅰ部 散文
第1章
紅葉の文範、文範としての「二 人比丘尼色懺悔」(馬場美佳)
はじめに 小説を書きたくなる文体/一 紅葉が意識した文範/二 小説文範としての「色懺悔」/三 作文文範としての「色懺悔」/おわりに
第2章
「同胞姉妹に告ぐ」と『穎才新誌』
――一八八〇年代前半における政治とジェンダーをめぐる表現史の水脈(倉田容子)
はじめに/一 「同胞姉妹に告ぐ」/二 『穎才新誌』における男女(不)同権論争/
三 政治とジェンダーをめぐる表現史の水脈/おわりに
第3章
無口な英雄
――矢野龍渓『経国美談』と演説の時代(多田蔵人)
一 口ごもる政治家/二 演説の時代/三 沈黙の文体/四 文を読む声の系譜
第4章
写生文とは何か(都田康仁)
一 写生文というジャンル/二 文における写生の試み/三 文における「美」/四 絵画という方法/おわりに
第5章
大西巨人『精神の氷点』のスタイル
――実験小説による「世代の自己批判」(杉山雄大)
一 『精神の氷点』と『暗い絵』/二 共有された「暗い青春」の表象/三 世代の自己批判者として/四 ヒューマニズムの切断/五 唯物論とヒューマニズム
❖ 文範百選・壱――小説・アンソロジー・小説作法・言文一致・演説
第Ⅱ部 詩歌
第6章
「里川」考
――佐々木弘綱『詠歌自在』の歌語(堀下翔)
はじめに/一 「里川」の語誌/二 弘綱の影響力と作法書間の対立/三 「里川」の詠まれよう/四 旧派和歌の圏外への伝播/おわりに
第7章
明治四十年代における連句をめぐる交流圏
――俳書堂の連句関連書籍を手掛かりとして(田部知季)
一 近代連句史の空白/二 籾山江戸庵の『連句入門』と『連句作例』/三 連句をめぐる交流圏の広がり/四 萩原蘿月の連句観/五 創刊当初の『冬木』
第8章
和文と唱歌教育の交差
――稲垣千穎『本朝文範』、『和文読本』と『小学唱歌集 初編』の関係を中心に(栗原悠)
はじめに/一 稲垣千穎とは誰か/二 「国楽」と黎明期の唱歌教育/三 千穎と『小学唱歌集 初編』の作詞(一)/四 千穎と『小学唱歌集 初編』の作詞(二)/五 『本朝文範』における編纂方針/六 『和文読本』における編纂方針
第9章
詩語・詩礎集は近代の漢詩に何をもたらしたのか
――『詩語砕金』『幼学詩韻』『幼学便覧』などを例に(合山林太郎)
はじめに/一 「熟字」「熟語」の文化圏―詩語・詩礎集の特徴―/二 詩語・詩礎集における部立ての変遷/三 詩語・詩礎集を用いて詩作するとはどのようなことか―少年期の正岡子規を例に―/四 詩語・詩礎集のもたらしたもの―明治期の文章から―/おわりに
❖ 文範百選・弐――写生文・叙事文・漢詩・和歌・短歌・俳句・近代詩・童謡・紀行文・日記・音曲
第Ⅲ部 書く読者たち
第10章
日清・日露戦争期における美文・写生文と文範
――異文化を描く文体(北川扶生子)
一 書く読者たち/二 美文の主題と表現法/三 『ホトトギス』の「募集文章」/四 地方の日常の発見/五 〈植民地の日常〉をつくる/六 異文化を描く文体
第11章
美辞麗句集の時代
――明治期における作文書の実態(湯本優希)
一 はじめに――美辞麗句集研究の手法と目的/二 作文書概観/三 美辞麗句集の状況/四 美辞麗句集の系譜/五 おわりに――美辞麗句集の転換点
第12章
雑誌『文章世界』と文例集の思想
――「文に志す諸君」の机辺に『評釈 新古文範』を(高野純子)
一 はじめに/二 『文章世界』「文範」欄から『評釈 新古文範』へ/三 『評釈 新古文範』編纂/四 『評釈 新古文範』から『評釈新文範』、そして『類句文範 新作文辞典』へ/五 結び
第13章
すべてが文範になる?
――日本文章学院=新潮社の戦略(山本歩)
はじめに/一 『新文壇』の発行と広告戦略/二 『二十八人集』の文範化/三 長編文範『破戒』と感覚芸術『誓言』/四 結実としての描写論/おわりに
第14章
青年文学者たちの環境、そして文範という営み(谷川恵一)
一 「面白くない小説」の文学史――正宗白鳥の視界/二 「文壇」という空間と青年文学者たち/三 読む・写す・作る・編む――少年たちの言語活動/四 共有される文化資源としての文範/五 文章の革命と素人たちの文学
❖ 文範百選・参――手紙・女性・美文・翻訳・和文・漢文・綴方・文章論・戯曲・作法
あとがき
執筆者プロフィール
【執筆者プロフィール】
多田蔵人(ただ・くらひと)
国文学研究資料館研究部准教授
著書『永井荷風』(東京大学出版会、二〇一七)、校注『断腸亭日乗』(岩波文庫、二〇二四~続刊中)。論文「言葉をなくした男 森鷗外『舞姫』」(「日本近代文学」二〇二一年一一月)など。
馬場美佳(ばば・みか)
筑波大学人文社会系教授
『「小説家」登場 尾崎紅葉の明治二〇年代』(笠間書院、二〇一一年)
「蔵書印〈此ぬし紅葉山人〉をめぐって 小説『此ぬし』と『男色大鑑』翻刻」(『稿本近代文学』二〇二四年五月)、「耐震元年の「五重塔」 濃尾大地震と〈暴風雨〉」(『日本近代文学館年誌 資料探索』二〇二二年三月)、「外科室」と「魔酔」の物語 高田早苗遭難事件顛末との関連から(『論集泉鏡花』和泉書院、二〇二一年)
倉田容子(くらた・ようこ)
駒澤大学文学部教授
『テロルの女たち 日本近代文学における政治とジェンダー』(花鳥社、二〇二三年)、「親密性の条件 松浦理英子「裏ヴァージョン」試論」(『文学・語学』二〇二三年一二月)など。
都田康仁(みやこだ・やすひと)
神戸大学大学院人文学研究科博士課程後期課程/日本学術振興会特別研究員DC
「高浜虚子「風流懺法」論 「主観的写生文」と印象派」(『国文論叢』二〇二三年三月)、「資料紹介 山口誓子は写生文をどう読んだか 「かけはしの記」「はて知らずの記」を中心に」(『国文論叢別冊』二〇二三年九月)
杉山雄大(すぎやま・ゆうだい)
二松学舎大学非常勤講師
「大西巨人『白日の序曲』と「戦後色の褪化」現象 野間宏の事例との比較から」(『日本文学』二〇二四年二月)、「〝犠牲〟をめぐる視差 大西巨人『たたかいの犠牲』における「政治と文学」」(『昭和文学研究』二〇二一年九月)、「一九四七年・大西巨人のスタートライン ヒューマニズムへと展開する我流虚無主義の精神」(『昭和文学研究』二〇一七年三月)
堀下翔(ほりした・かける)
筑波大学人文社会系特任研究員
「「汽車」考 与謝野鉄幹『東西南北』における字音語」(『和歌文学研究』二〇二四年一二月)、「「血汐」考 明治期和歌が受容した新体詩の語彙」(『国語国文』二〇二四年一月)、「新派歌人の「歌」の歌 鉄幹に対する曙覧の影響」(『日本近代文学』二〇二三年一一月)
田部知季(たべ・ともき)
富山大学学術研究部人文科学系准教授
「日本派地方俳誌『アラレ』の位置 個人への関心と俳書堂との繋がりを中心に」(『日本文学』二〇二四年二月)、「万太郎、俳句に帰る 『藻の花』、『俳諧雑誌』にみる大正期前半の足跡」(慶応義塾大学『久保田万太郎と現代』編集委員会編『久保田万太郎と現代 ノスタルジーを超えて』平凡社、二〇二三年)、「古典趣味・佐々醒雪・沼波瓊音 明治四十年代における俳句評価の諸相」(『日本近代文学』二〇二三年五月)
栗原悠(くりはら・ゆたか)
国文学研究資料館研究部准教授/総合研究大学院大学日本文学研究コース准教授
『島崎藤村と創作の論理 一九二〇-三〇年代の〈社会〉と「役」の思想』(有志舎、二〇二五年 ※近刊)、「〈代表〉欠格 島崎藤村「夜明け前」と行政改革としての幕末-明治維新期」(『日本近代文学』二〇二四年五月)
合山林太郎(ごうやま・りんたろう)
慶應義塾大学文学部教授
『幕末・明治期における日本漢詩文の研究』(和泉書院、二〇一四年)、『文化装置としての日本漢文学』(共編著、勉誠出版、二〇一九年)など。
北川扶生子(きたがわ・ふきこ)
関西学院大学文学部教授
『結核がつくる物語 感染と読者の近代』(岩波書店、二〇二一年)、『漱石文体見本帳』(勉誠出版、二〇二〇年)、『漱石の文法』(水声社、二〇一二年)
湯本優希(ゆもと・ゆき)
日本体育大学桜華高等学校教諭・立教大学日本学研究所研究員
「文章の〈型〉の獲得 学校教育における美辞麗句集」(野田研一編『耳のために書く 反散文論の試み』水声社、二〇二四年)、「明治期の文章活動における文壇とその裾野の相互作用 読者が表現者となるとき」(徐禎完・鈴木彰編『文化権力と日本の近代 伝統と正統性、その創造と統制・隠滅』文学通信、二〇二三年)、『ことばにうつす風景 近代日本の文章表現における美辞麗句集』(水声社、二〇二〇年)
高野純子(たかの・じゅんこ)
国文学研究資料館管理部学術情報課データ標準化推進係資料整理等補助員/駒沢女子大学・駒沢女子短期大学学修支援センター学習指導員
五十嵐伸治・伊狩弘・千葉正昭編『田山花袋事物事典』(鼎書房、二〇二四年)所収 『近代の小説』(作品への窓)、「平井鷲蔵・関根(速水)義憲・大塚知平」「宮川春汀」「中村白葉」事項解説、「ダーウィン受容の一側面 藤村旧蔵書からの考察」(『近代作家旧蔵書研究会 年報』第二号、二〇二四年三月)
山本歩(やまもと・あゆむ)
尚絅大学現代文化学部講師
「『文章世界』の指導における「頭の修練」 〈小説作法〉は何を伝えるか」(『近代文学論集』二〇二三年三月)、「『新文壇』上の小川未明 日本文章学院の研究として」(『尚絅大学紀要 人文・社会学編』第五四号、二〇二二年三月)
谷川恵一(たにかわ・けいいち)
国文学研究資料館名誉教授
『言葉のゆくえ 明治二〇年代の文学』(平凡社ライブラリー、二〇一三年)『歴史の文体 小説のすがた 明治期における言説の再編成』(平凡社、二〇〇八年)。校注に、『明治名作集』(岩波書店、二〇〇六年)・『教科書 啓蒙文集』(岩波書店、二〇〇九年)