三重県歴史的・文化的資産保存活用連携ネットワーク(みえ歴史ネット)【近畿】★『地域歴史文化継承ガイドブック』全文公開

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三重県歴史的・文化的資産保存活用
連携ネットワーク(みえ歴史ネット)

【団体情報】
設立年●2011年
事務局所在地●〒514-0061 三重県津市一身田上津部田3060 三重県総合博物館内 三重県環境生活部 文化振興課 歴史公文書班
電話番号●059-253-3690(文化振興課 歴史公文書班)
メールアドレス●rekibun@pref.mie.lg.jp(同上)
【活動地域】
三重県内
【参加方法】
三重県内市町関連部局により構成。

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❶みえ歴史ネット会議風景

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❷古文書補修実習研修会

【設立の経緯】
文●藤谷 彰

「資料現況確認調査」を契機に設立
三重県歴史的・文化的資産保存活用連携ネットワーク(略称:「みえ歴史ネット」)は、2011(平成23)年4月に誕生しました。2021(令和3)年4月現在、三重県(文化振興課歴史公文書班、三重県総合博物館、教育委員会社会教育・文化財保護課)と県内26市町(教育委員会、資料館等)で構成されています。その契機は、2006年(平成18)度に三重県史編さん班が実施した「資料現況確認調査」でした。

「資料現況確認調査」は、1984年(昭和59)度から開始された『三重県史』編さん事業の資料調査等で以前に収集した史料群が現在どのようになっているのかを、現地調査をして確認するというものでした。その背景には歴史資料をとりまく環境の変化があり、資料調査等で引っ越しや代替わりによって歴史資料の紛失・処分のことを耳にすることが多くなりました。また、2006年前後は平成の市町村合併が盛んで、合併による組織改編や公文書廃棄が懸念される状況の中、歴史資料保存の機運が高まってきつつありました。しかし、資料保存環境等の現状把握は、あくまで感覚的なもので、保存環境等の具体的な状況を目に見える形で把握しておらず、一刻も早く現状を把握することが急務でした。そこで、県史編さん事務局内での議論を経て、まずは歴史資料の保存環境や状況を把握することとし、2004年(平成16)度から展開している「歴史資料の保存活用環境づくり事業」の一環として、2006年度に「資料現況確認調査」を実施し、歴史資料の所在、現状把握に努めることとしました。

その調査の実施にあたっては、調査員を委嘱して歴史資料の現状確認、所蔵者の意識調査、写真撮影等を行いました。結果的にはサンプル調査となりましたが、歴史資料の現在の保存状況がどのようになっているのか、傾向を把握することができました。

その調査で判明したことは、歴史資料のほぼ半数は、保存意識や継承者がいることで今後もきちんと保存されていけるような状況でしたが、残りの歴史資料は、このまま放置することで資料の散逸・廃棄などの危険性があることがわかりました。

このような状況を改善するためには、県だけでの取り組みでは不十分で、県・市町・関係機関が連携し、地域の歴史的文化的資産の保存と活用を図る組織を設立していくことが必要でした。そこで、この調査結果を市町の文化財担当者や博物館・資料館等関係機関に情報を提供し、併せて三重県立博物館(三重県総合博物館の前身)、三重県教育委員会文化財保護室とも対応を協議しました。そして、まずは県市町を中心とする組織を設立し、次の段階として大学や歴史研究会、図書館などとの連携を検討することとしました。しかし、現在も、大学等との連携は進んでいない状況です。また、事務局は設立当初は三重県史編さん班、2014(平成26)~2019年(令和元)までは三重県総合博物館、令和2年からは三重県環境生活部文化振興課歴史公文書班に置かれています。

【活動の特徴】
文●藤谷 彰

歴史資料の保存と活用を図る
三重県歴史的・文化的資産保存活用連携ネットワークは、県・26市町の関係諸機関が連携し、地域の歴史的文化的資産の保存と活用を図ることを目的に設立されたものです。その活動は、地域にある歴史資料を調査し、情報の蓄積と共有化を進め、併せて人材育成や、災害等緊急時の文化財レスキューを行おうとするものです。

具体的な活動は次のようなものです。

①定期的な会合(年2~3回):毎年の活動状況の確認や活動課題などを話し合う機会として、5~6月、9~11月、2月に定期的な会合を開催しています。毎年の会合では、目標や所在調査実施状況を確認しています。各市町とも予算措置や人材不足などの課題があり、会議で取り決めた計画どおりには進捗していない現状です。また、県内市町は29市町ですが、そのうち3市がネットワークに加入しておりません。その市への加入の働きかけや、計画が遅延している市町での取り組みの修正などが課題となっています[❶]。

②研修会・講習会(年1回):毎年2月の定期的な会合日程に合わせて、研修会・講習会を半日かけて実施しています。歴史資料(古文書)の補修実習研修会や水損歴史資料の保全活動、資料保存環境、地域資料の整理と保存、熊本地震災害における文化財レスキュー活動をテーマにした講演会を実施しました[❷]。

③歴史資料の調査:県内の古文書など歴史資料の所在確認を市町が中心となって調査し、それを事務局でとりまとめをしています。これによりネットワークとして情報の共有化を図り、現況確認調査等の現地調査への基本データとしています。現在のところ、8市町が所在確認調査を終了し、現況確認調査(現地調査)を開始する準備を進めています。
所在確認を終えた市町から現況確認調査を実施しますが、この調査は資料1点1点を確認するものではなく、現状の把握が主な目的です。調査では資料群の概況、保存状況の写真撮影などを行いました。現在のところ、現況確認調査は26市町のうち、2市町で実施済みです[❸]。

④文化財レスキュー:2011年の三重県南部での災害により三重県熊野庁舎の公文書が水没する被害にあいました。熊野庁舎へ出向き実態調査を実施し、担当部署と協議の上で、被災資料の保存手立てについての研修会を実施しました。それを受けて熊野庁舎担当部署では被災資料の修復作業を行いました。その後は、集中豪雨、台風、地震等が発生した場合、メール等にて歴史資料の災害状況を確認しています。

⑤人材育成:平成23年以前から三重県史編さん班、三重県立博物館の共催で、古文書解読や古文書整理のできる人材の育成を目的に「古文書調査法研修講座」を実施しました。この講座は、2年間で上記の目的を達成できるようにカリキュラムを組んで実施しました。現在、講座を修了した人たちは約160人で、そのうち1割程度の人が、三重県総合博物館のミュージアムパートナー(友の会会員)となって、毎月2回古文書整理のボランティアとして活動しています。

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❸現況確認調査風景

【連携団体】
三重県博物館協会(略称:三博協)、特に三重県総合博物館
【活動がわかる主な文献リスト】
1●『三重県資料現況確認調査報告書』三重県生活部、2007年
2●藤谷彰「『みえ歴史ネット』の所在確認調査・現況確認調査の取組」『第4回全国史料ネット研究交流会』独立行政法人国立文化財機構、2018年