東海歴史資料保全ネットワーク(東海資料ネット)【中部】★『地域歴史文化継承ガイドブック』全文公開

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東海歴史資料保全ネットワーク
(東海資料ネット)

【団体情報】
設立年●2020年
事務局所在地●〒464-8601 名古屋市千種区不老町 名古屋大学大学院人文学研究科日本史学研究室
メールアドレス●tokaishiryonet@gmail.com(代表)
HP●https://tokaishiryonet.wixsite.com/website
Twitter●https://twitter.com/tokaishiryonet
【活動地域】
愛知県、岐阜県、三重県、静岡県(主に西部)
【参加方法】
入会●①名前(ふりがな)、②日常的に連絡がとれるメールアドレスもしくは電話番号、③住所の市町村名(名古屋市など、区がある市または東京都は区まで)、④歴史文化資料を取り扱う機関等での勤務経験あるいは資格(学芸員など)の有無(それらが全くなくても問題なく活動可)を、Eメールもしくは書面で知らせる。年会費は、正会員1,000円、サポート会員(正会員と異なり、総会での議決権がない)無料。
寄付●郵便振替「東海歴史資料保全ネットワーク 00860-6-218167」まで(会費も同様)

1ワークショップ「資料の緊急対応を考える」(2019年12月22日).jpg
❶ワークショップ「資料の緊急対応を考える」(2019年12月22日)

2シンポジウム「歴史文化の保存・継承と防災対策」(2019年12月22日).jpg
❷シンポジウム「歴史文化の保存・継承と防災対策」(2019年12月22日)

【設立の経緯】
文●堀田慎一郎

予測される災害に備えて
東海地域(ここでは、愛知県、岐阜県、三重県、西部を中心とする静岡県を指すものとする)は、一説には30年以内に起こるとされる南海トラフ巨大地震により、激甚な災害が予測されています。また、世界的な異常気象を考えると、2000年(平成12)のいわゆる東海豪雨のような大水害がいつまた発生しても不思議ではありません。それにもかかわらず、東海地域では、特に最も人口の多い愛知県で被災資料救助活動のネットワーク作りが遅れていました。また、長きにわたる愛知県史編さん事業が2020年(令和2)3月に終わろうとしており、その過程で明らかになった膨大な民間所在資料の保全が大きな課題として残っていました。

このような状況をうけて、東海地域の大学の日本史学関係者有志は、天野真志さん(国立歴史民俗博物館特任准教授、所属・肩書は当時、以下同じ)や斎藤善之さん(NPO法人宮城歴史資料保全ネットワーク理事長)などからの多大な教示と協力を得ながら、資料ネット設立の検討を進めました。その結果、①設立の趣旨を地域に普及するためシンポジウムを開催すること、②大学関係者有志を発起人としつつも、地域の大学、博物館、行政、市民等が広く協働するボランティア団体とすること、③対象とする資料は、地域の歴史文化資料全般とすること、④地理的な対象は、地域としてまとまりやすく、交通の便もおおむね良好な東海地域とすること、等を方針とすることになりました。

そして2019年(令和元)12月22日、名古屋大学東山キャンパスにおいて、地域歴史文化大学フォーラムin名古屋「地域資料保全のあり方を考える」を開催しました。これは、名古屋大学大学院人文学研究科と人間文化研究機構「歴史文化資料保全の大学・共同利用機関ネットワーク事業」が主催したものです(その他、共催・後援団体等多数)。この日、午前の天野真志さん(前述)を講師とするワークショップ「資料の緊急対応を考える」[❶]の後、午後から行われたシンポジウム「歴史文化の保存・継承と防災対策─東海資料ネットの設立に向けて─」[❷]には、158名もの参加者がありました。加藤規博さん(〈愛知〉県史編さん室主幹)、岡田靖さん(木文研代表理事)、斎藤善之さん(前述)、今津勝紀さん(岡山史料ネット代表)の報告、黒田和士さん(愛知県美術館学芸員)、大塚英二さん(愛知県立大学教授)、奥村弘さん(歴史資料ネットワーク代表)のコメントの後、これら7名をパネリストとするディスカッションを行いました。

なお、このシンポジウムの報告内容は、『東海国立大学機構大学文書資料室紀要』第29号に掲載されました(名古屋大学学術機関リポジトリで閲覧可)。また、2022年3月刊行予定の同30号には、コメントとディスカッションの模様が掲載されることになっています。

【活動の特徴】
文●堀田慎一郎

設立総会の開催と活動方針の決定
2020年2月16日、名古屋大学東山キャンパスで設立総会が開催され[❸]、同日をもって東海歴史資料保全ネットワーク(通称:東海資料ネット)が設立されました。設立総会では、「東海歴史資料保全ネットワーク規約」が定められ(ホームページで閲覧可)、役員を代表する代表委員には「東海資料ネット」設立発起人の1人であった大塚英二さん(前述)、副代表委員には池内敏さん(名古屋大学教授)が選出されました。また、「活動方針」については、発起人の案を設立総会での議論をふまえて修正し、次のように決定しました。

①大学や歴史系博物館をはじめ地域の人びとと連携しつつ、講演会・シンポジウムやワークショップの開催などを通じて歴史資料保全の意義を社会に訴え、幅広い人びとが東海資料ネットの活動に気軽に参加できるよう基盤整備を進める。
②自治体史編さん室やその後継組織、地域の文化財保護団体等と連携し、社会への呼びかけや地域における調査などを通じて民間所在の歴史資料の現状把握に努める。
③自治体の防災関係部署や関係者の団体等にも働きかけるなどして、県域や市町村域、行政と民間の垣根を越えて災害時に連携・協力できる準備を進める。
④以上をふまえて、災害発生時において東海資料ネットがとる行動の概要をあらかじめ整理しておくとともに、作業場所の確保や備品・機材などの準備を進める。
⑤上記の活動を充実させるため、会員を拡大し、本会の組織・ネットワークを広げるとともに、会費以外の財源の確保についても模索する。
⑥全国各地の資料ネット組織と連携し、全国集会を始めとした各種の取り組みに関わっていく。
⑦その他

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❸東海資料ネット設立総会(2020年2月16日)

しかし、設立総会直後から、新型コロナウイルス感染症の流行が本格化し、その影響で被災資料の救助活動を実際に行うための体制づくりが大幅に遅れることになりました。ただ、2020年7月に岐阜県飛騨地域を中心とする豪雨災害が発生しましたが、東海資料ネットでも歴史文化資料の水損状況について情報収集をしたものの、出動を要請されることはありませんでした。2021年(令和3)11月15日の時点では、東海資料ネットとして被災地に出向いての資料救助活動は行えていません。

市民からの資料に関する相談
その一方で、被災資料ではありませんが、東海資料ネットの設立を知った市民から所蔵資料に関する相談が寄せられるようになりました。それらの内容はさまざまですが、そこからうかがわれるのは、古い時代の資料が家にあるものの、歴史的文化的に重要なものなのかどうかわからず、さりとてしかるべき専門機関に相談することもできず、処遇に困っている市民の姿でした。そういった資料は、世代が交代する時などに廃棄されることも多いでしょう。実際、旧家を取り壊すにあたり、このままだと廃棄せざるを得ない資料についての相談もうけました[❹]。

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❹東海資料ネットが市民から相談をうけた資料群の一つ(写真はその一部)

東海資料ネットは、こうした資料への対応も一つの歴史文化資料保全活動であるととらえ、感染症の状況を考慮しつつ概要調査を行った上で、所蔵者と地域の専門機関を仲介する役割を果たしました。相談をうけた資料のほとんどは歴史的文化的な価値の高いものであり、それらは地域の歴史系博物館に引き取られたり、地域の大学において整理作業などが行われたりしています。

オンラインでの活動と交流
その他、いずれもオンラインで開催された、2021年2月20~21日の第7回全国史料ネット研究交流集会、3月28日の歴史文化大学フォーラム「資料ネット活動を取り巻くネットワーク構築」(主催:人間文化研究機構「歴史文化資料保全の大学・共同利用機関ネットワーク事業」)には、報告やポスターセッションなどを通じて積極的に参加し、他地域の資料ネットとの交流を深めることができました。
2021年6月12日には、松下正和さん(歴史資料ネットワーク副代表)を講師に迎えて講演会を行うとともに、2021年度総会を開催しました(いずれもオンライン)。総会では、前述の活動方針の①と⑥については成果が見られたものの、③~⑤については、行政との連携・協力体制の構築、災害発生に即応するための準備(被災資料の修復作業場所および一時保存場所の確保を含む)、東海という広範囲の地域に対応できる会員の確保(2021年11月15日現在57名)や他組織とのネットワークの拡大など、多くの課題があることが確認されました。②については、愛知県公文書館から、愛知県史の編さんで判明した県下の民間資料所蔵者リストの提供を受けたことの意義は大きいが、そのリストには所在地情報が書かれていないため、災害時の活用方法について課題を残しており、他の三県についても把握に努める必要があることが指摘されました。

【連携団体】
今のところ、正式に協力や連携関係を締結した団体はなし。
【活動がわかる主な文献リスト】
1●〔シンポジウムの記録〕「歴史文化の保存・継承と防災対策─東海資料ネットの設立に向けて─(前編)」『東海国立大学機構大学文書資料室紀要』29、2021年 https://nagoya.repo.nii.ac.jp/search?page=1&size=20&sort=-custom_sort&search_type=2&q=1623805993279&timestamp=1633165386.7874863 
※同紀要30(2022年3月)に後編が掲載予定。 
※これまでの経緯や活動は、ホームページにも掲載されています。