千葉歴史・自然資料救済ネットワーク(千葉資料救済ネット)【関東】★『地域歴史文化継承ガイドブック』全文公開
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千葉歴史・自然資料救済ネットワーク
(千葉資料救済ネット)
【団体情報】
設立年●2012年
事務局所在地●〒263-8522 千葉県千葉市稲毛区弥生町1-33 千葉大学教育学部 小関研究室
電話番号●043-290-2550(小関研究室/平日のみ)
メールアドレス●chibasiryounet@gmail.com(代表)
ブログ●http://chibasiryounet.blog.fc2.com/
Twitter●https://twitter.com/8dahbfQJ8XTMRCH
【活動地域】
千葉全域
【参加方法】
入会●参加をご希望される方は、次の事項を事務局または上記メールアドレスまでご連絡ください。①氏名(ふりがな)、②メールアドレス、③緊急時連絡先、④自宅住所、⑤所属(①~③は必須)。
寄付●事務局にお問い合わせください。
【設立の経緯】
文●鈴木 凜
東日本大震災をきっかけに設立
千葉歴史・自然資料救済ネットワーク(千葉資料救済ネット)は、災害時などにスムースな情報共有と資料救済活動ができるよう、歴史資料の継承に関心を持つ県内外の有志が集って立ち上げられたボランティア団体です。東日本大震災をきっかけに2012年(平成24)3月に設立され、今年で10年目を迎えました。
本稿ではまず、当ネット設立の経緯を紹介したいと思います。ただし、筆者は2019年(平成31)から活動に携わっているため、ここでは当ネットに関わるこれまでの論考を参照しながら設立の経緯を振り返ります。
東日本大震災が起きた2011年(平成23)当時の千葉県には、千葉県文化財救済ネットワークシステム(2009年〈平成21〉設立)、千葉県史料保存活用連絡協議会(1996年〈平成8〉設立)が存在しました。前者は、九十九里いわし博物館爆発事故(2004年〈平成16〉)でのレスキューをきっかけに千葉県博物館協会地域振興委員会主導で結成され、後者は、会員相互の連絡・連携、史料の保存・活用、自治体史編さん事業の振興への寄与を目的に千葉県文書館に事務局を置いて結成されました。ところが、千葉県も被災した東日本大震災に際しては、フットワークの重さが見られ、被災情報(特に民間所在資料・未指定文化財に関する情報)の集約・交換が十分にはできなかったといいます〔久留島2014〕。
さらに、東日本大震災時には県内の自治体による対応も行われましたが、自治体によっては、未指定文化財は救済の視野に入れておらず、個人蔵史料の所在を把握していないため調査ができないといった状況が存在しました。また、被災自治体との連携にも難しさがあったといいます。ここに、県内外の研究者や市民が情報・意見を交換し、いざという時にスムースな資料救済活動を実現することが重要な課題として浮上しました〔小関2018〕。
こうした東日本大震災での経験をふまえ、「初動の情報収集と被害のなかった地域の資料ネットや有志個人への発信」が重要であるとの認識に基づき(「立ち上げ文」、2012年3月25日付ブログ)、当ネットが立ち上げられました[❸]。それまでのネットワークとは異なり、大学に拠点を置くことでいざという時の機動性を確保し、情報の収集・集約・発信を行って、所属する組織や機関を超えた人と人との連携による資料救済活動の実現を目指して設立されたのです。こうした当ネット設立の趣旨は、その後の活動のあり方を支えるものとして重要な意義を持っています。
❸千葉資料救済ネット発足集会(2012年)
【活動の特徴】
文●鈴木 凜
千葉資料救済ネットの活動
当ネットには、現在100名ほどの会員がおり、運営委員と共同代表を中心に活動を展開しています。特定機関に依拠しない、いわゆる「もちより型」の運営形態のため、本務との兼ね合いや運営会議等での集まりづらさといった困難を伴いつつも〔小田2016〕、資料救済への思いを胸に今日まで活動を継続してきました。
当ネットでは、総会・運営会議、資料救済活動、各種勉強会、メーリングリスト(ML)・ブログを通じた会員相互の交流、県内外の連携に関する活動を実施しています[❶]。このうち資料の救済・保存に関する活動としては、茂原市旧家での東日本大震災による被災資料救済・整理(2014~2018年)、君津市旧家所蔵資料の確認調査・整理(2015~2020年)、富津市某家収集資料の保全活動(2016年~)、千葉県文書館公文書廃棄・移動問題に対する一連の対応(2016年~)、君津市・南房総市・館山市等での台風・大雨被害による被災資料調査・救済(2019年~)等に取り組んできました〔詳細は、小田2016・2021、小関2018・2020を参照〕。
❶千葉資料救済ネット総会・勉強会(2019年)
情報発信・県内外での連携
当ネットの活動を通して見えてくることは、古文書はもちろん、公文書から建造物まで、幅広い資料、多様な課題への対応が求められている、ということです。このことから、特定機関に依拠せず歴史分野の関係者を中心に活動する当ネットとしては、今後、①情報の収集・集約・発信、②県内外での連携の仕組みをいかに構想していくかが重要になると考えています。いくつか例をあげてみてみたいと思います。
設立以来、千葉県内に最も甚大な被害をもたらした台風15号(2019年)に際して、当ネットでは台風通過直後からブログ・MLを通じて被害に関する情報提供を呼びかけました。その結果、県内各所の関係者から被害情報が寄せられ、とりまとめの上、迅速に発信しました。この発信に対しては、他県の資料ネット・関係者の方々から支援の申し出や応急処置法の助言等が多数寄せられ、資料救済に必要な知見・情報として集約し発信しました。ライフラインの復旧もままならない災害時、情報の入手は重要な課題となります。被害状況とそれへの対応をまとめた発信内容(例えば停電時の湿度管理方法等)は、実際に県内の自治体博物館での資料救済に役立てられたといいます〔井口2019〕。また、各所からの相談や情報提供に応じて、運営委員を中心に現地調査・資料救済活動も行いました[❷]。
❷台風15号被害に対する自治体との合同調査(2019年)
このように、台風直後からの情報収集・集約・発信は、被災地と県内外の資料ネット・関係者をつなぐネットワークとしての役割を果たすことにつながったと考えます。台風被害への対応を通して改めて、初動の情報収集、他の資料ネット・個人への発信の重要性(「立ち上げ文」)が見えてきたのです。ただし一方で、ブログでの情報発信に求められる慎重さも課題として浮かびました。
また、県内外での連携の重要性とそこで果たせる当ネットの役割は、富津市某家収集資料の保全活動(2016年~)を通じて見出されました〔小関2018〕。この経験をふまえ近年では、千葉市在住の方が所蔵する茨城出身者の従軍関係資料の調査・保存活動(2020~2021年)に、県内外の諸機関と連携して取り組みました(2021年6月22日付ブログ)。この資料群は、いわゆる「移動する文書たち」(文書と密接に関わる地域から乖離した地で所蔵される文書群)と呼ばれるものです〔西村2012〕。ともすると文化財行政から抜け落ちてしまう可能性もありましたが、所蔵者からの相談を契機に、茨城史料ネット・千葉市史編さん担当と連携して茨城県内の最終保管先へ移管することができました[❹]。
❹所蔵者らを交えた資料調査の様子(2020年)
以上、当ネットの活動を紹介してきましたが、大規模災害が頻発する今日、資料救済のための広域的なネットワークの存在は、一層その重要性を増しているといえます。その一方で、災害時に限らず、人口移動の進展、過疎化や市町村合併等により、地域の歴史の継承に困難を伴う状況も少なくありません。当ネットでは今後も歴史資料に関わる人と人とをつなぎ、少しでも多くの歴史や文化を後世に伝えていけるよう、活動に取り組んでいきたいと思います。
参考文献
久留島浩「地域の歴史・文化資料とどのように向き合うか」、奥村弘編『歴史文化を大災害から守る』東京大学出版会、2014年
小関悠一郎「地域史料の保存利用と資料ネット─千葉歴史・自然資料救済ネットワークの活動を通して─」『日本歴史学協会年報』33、2018年
小田真裕「千葉資料救済ネットの現状と課題」、神奈川地域資料保全ネットワーク編『地域と人びとをささえる資料』勉誠出版、2016年
小田真裕「民間所在資料を守るのは誰だ?─二〇一九年九月・一〇月の千葉県における台風・豪雨災害後の経験から考える─」『関東近世史研究』87、2021年
小関悠一郎「資料ネットによる地域資料の保存と災害対応─二〇一九年の台風・大雨による千葉県内の資料被災と対応の現状─」『会報 明治維新史学会だより』27、2020年
井口崇「令和元年の台風被害と博物館の対応に関する覚書」『国府台』25、2021年
西村慎太郎「文書の保存を考える」『歴史評論』750、2012年
千葉資料救済ネットブログ http://chibasiryounet.blog.fc2.com/blog-entry-1.html(最終閲覧日:2021年9月8日)
【連携団体】
なし
【活動がわかる主な文献リスト】
1●久留島浩「地域の歴史・文化資料とどのように向き合うか」、奥村弘編『歴史文化を大災害から守る』東京大学出版会、2014年
2●小田真裕「千葉資料救済ネットの現状と課題」、神奈川地域資料保全ネットワーク編『地域と人びとをささえる資料』勉誠出版、2016年
3●小関悠一郎「地域史料の保存利用と資料ネット─千葉歴史・自然資料救済ネットワークの活動を通して─」『日本歴史学協会年報』33、2018年
4●小関悠一郎「千葉資料救済ネットの活動と課題」、群馬歴史資料継承ネットワーク編『群馬の歴史資料を未来へ』群馬歴史文化遺産発掘・活用・発信実行委員会、2021年