那須資料ネット【関東】★『地域歴史文化継承ガイドブック』全文公開
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那須資料ネット
【団体情報】
設立年●2020年10月2日
事務局所在地●〒329-2752 栃木県那須塩原市三島5丁目1番地 那須野が原博物館内
電話番号●0287-36-0949(坂本菜月/9:00〜17:00)
メールアドレス●nasushiryonet@gmail.com(坂本菜月)
HP●https://nasushiryonet.wixsite.com/website
Twitter●https://twitter.com/nasushiryonet
Facebook●https://www.facebook.com/103586178184281
【活動地域】
栃木県那須地区3市2町(那須塩原市・大田原市・那須町・那珂川町・那須烏山市)をコアフィールドとする
【参加方法】
入会●グーグルフォームおよび入会申込書による入会 ※詳しくはHPをご覧ください
寄付●足利銀行の口座へ入金 ※詳しくはHPをご覧ください
❶2020年10月の設立総会
❷分散配置されたレスキュー・保全資材(2020年)
【設立の経緯】
文●金井忠夫
令和元年度台風19号をきっかけとして
那須資料ネットは、それぞれの想いが結集されて結成されたと考えます。
筆者は、奉職していた旧三島別邸の一部を移築した西那須野町郷土資料館が、1993年(平成5)に放火により全焼し、その時多くの方々によるレスキュー活動が行われた経緯があり、全国的にもごく初期の文化財レスキューでした。
さらに、2011年(平成23)に発生した東日本大震災および福島第一原子力発電所の事故により、所属していた那須野が原博物館の文化財レスキューとしてのべ19名のべ35日間の派遣をしました。
事務局長の作間亮哉さんは、宮城県での震災体験を経て、2015年(平成27)より茨城大学では茨城史料ネットの中心メンバーとして活動していました。当役員である山内れいさんは山形文化遺産防災ネットワークや大学との関わりの中で、震災支援を行い、同じく役員の笹沼和葉さんは学生時代に新潟歴史資料救済ネットワークに所属して活動していました。
さらに、当監査委員の多和田潤治さんは、筆者とともに震災支援に同行するとともに、双葉町歴史民俗資料館の剝製標本の避難と那須野が原博物館に保管を担当するなど、それぞれに過去の想いの中で那須資料ネットに参加しています。
令和元年度台風19号の対応
2019年(令和元)10月12日に上陸した台風19号は、全国で多くの被害を与えました。中でも、川崎市民ミュージアムの地下にある収蔵庫の資料は甚大な被害を受け、文化財レスキューに当会の多和田・山内両氏が参加しました。
作間さんは、勤務する那須歴史探訪館において、奈良川の越水による水害により、那須町芦野地区の古文書や刊本・民具などをレスキューし、またいち早く災害ゴミによる資料の消失を防ぐためにSNSで発信しました。
また、長野県における千曲川の氾濫により地域資料が被災し、筆者は長野市立博物館における被災資料の保全活動に参加し、多くの市民が日常の生活の中で、活動する姿を目の当たりにしました。
そして、台風19号で被災した栃木県佐野市の民間所在資料のレスキューを歴史資料ネットワークと宇都宮大学の髙山慶子さんが中心となり、当会の作間さんが参加して、多くの資料を救出しました。
さらに、保全活動は新型コロナウイルスの影響により作業に遅れが生じ、また梅雨に入る時期でもあり、危惧した作間さんと筆者は、分散保全を提案し、現在那須資料ネットの事務局である那須野が原博物館が手を挙げ、40日間をかけて全体の3分の1を処置しました。そこでは、冊子資料を1頁ごとに、書簡は封筒から取り出し、1点ずつ乾燥させました。また、シワ等を極力なくすために、乾燥させた資料を板状の段ボールで挟み、ガスバリア袋に仮保管するという、新たに開発した手法を実施しました[❸]。ただ、時間の経過がアルバムに収納された写真の処理を、困難なものにしました。
このように、那須地域の研究者や学芸員が資料保全の重要性を認識し、台風19号で被災した佐野市の被災資料の保全活動などに携わったことが、那須資料ネットの誕生へとつながりました。
❸資料を板ダンで挟み込み仮保管されたガスバリア袋(2020年)
【活動の特徴】
文●金井忠夫
住民が主体となる那須資料ネット
那須資料ネットは、「市民」を主体とする活動を目指しています。地域に暮らす人びとが、地域を支える存在であることを願っています。それは、那須資料ネットへの参加が、すなわち市民との「協働」のカタチです。
筆者は、那須野が原博物館で永く市民との協働を掲げて、活動を行ってきました。自主団体やボランティア団体との活動を通して「市民と共に活動する」という考え方で、約40年活動をしてきました。
そして、2019年の台風19号にて、長野市立博物館へ文化財レスキューに参加した折、担当されていた原田和彦さんより「市民と博物館は五分と五分」という言葉をつぶやかれ、共感を覚えました。実際にこの考え方が文化財レスキューに生かされ、多くの市民が保全活動に参加していました。そこには「非日常の活動を日常的に行う市民」の光景でした。自分の生活の中に資料保全が組まれ、それは普段のサークル活動を行う感覚のように感じました。
現在、那須資料ネットは、発足して日が浅く、被災資料を資料ネットとして対応した経験がありませんが、被災資料が多岐にわたるときに、どのように対応して行くかが課題です。多くの方々が仕事を持ち、行政に関わる方も多い中で、文化財レスキューや保全活動を常時継続することは、無理な状況と思われます。継続する力を市民に求めたいと思っております。
那須地区をコアフィールドに
那須資料ネットは、那須塩原市・大田原市・那須町・那珂川町・那須烏山市の3市2町をコアフィールとして活動する資料ネットです。コアフィールドとは、重点的に活動する地域を那須地区とし、さらに大きな災害時には県内外にその活動を広げる予定です。地域に対して、よりきめの細かい活動を目指しています。その表れが、レスキュー・保全資材の分散配置であり[❷]、2021年(令和3)度に開催した市町ごとの資料保全研修会でした[❹]。
❹市町ごとに行われたレスキュー・保全研修会(2021年)
レスキュー・保全資材の分散保管
那須資料ネットが発足早々にして行ったのが、レスキュー・保全資材の購入・仕分・配置でした。資材は、3市2町のうち那須歴史探訪館(那須町)・那須野が原博物館(那須塩原市)・馬頭郷土資料館(那珂川町)・那須烏山市南那須庁舎の公的施設4カ所と代表および副代表関係宅の2カ所に配置し、現在6カ所に分散配置を行っています。
これは、災害に対して、即応体制をとるもので、単独被災の時はその規模に応じて資材を結集させ、同時多発的被災の時には、それぞれ分散した資材を活用する予定です。
市町ごとの保全活動研修会
那須資料ネットが、2021年度の事業として取り組んだものに、資料保全のための研修会がありました。
①5月17日(月)
那須烏山市(烏山公民館)
②6月27日(日)
那須塩原市(那須野が原博物館)
③7月11日(日)
那珂川町(なす風土記の丘資料館)
④8月28日(土)(新型コロナウイルス拡大のため延期)→2022年(令和4)1月22日(土)開催
大田原市(生涯学習センター)
⑤11月28日(日)
那須町(那須歴史探訪館)
内容としては、作間事務局長により市町村史や記録などから市町ごとに災害の歴史を紹介するとともに、被災した歴史資料の保全の仕方を講義形式で進め、後半は水損資料応急処置ワークショップを実施しました。併せて、各市町のハザードマップを紹介し、活動の様子や保全の仕方の写真パネルの展示、それぞれの市町で保管するレスキュー・保全資材の公開を研修内容としました。
各市町で行う目的は、市民がより身近な地域で参加し、災害に対して、そして被災資料に対して認識するとともに、それぞれの「地域」を意識することをねらいとしました。また、行政の職員の参加も期待し、多くのところで、担当課長や職員の参加があり、結果として多くの新入会員を得ることができました。今後も継続的に分野別の研修会を開催する予定です。
最後に、今後文書史料の所在調査が「いざ」というときのカギとなるものと思われます。所在調査には多くの時間と労力を必要とします。行政・資料ネットとして大きな課題ですが、地域の研究者や研究団体との協力により、進める必要があります。それは、所蔵者との信頼関係を築くことが、いざという時の早急な救出へとつながるものと思っています。
地域に密着し、市民主体の資料ネットの挑戦は始まったばかりです。皆さまのご指導・ご協力をいただきながら、活動していきたいと思っています。
【連携団体】
那須塩原市那須野が原博物館、那須文化研究会、関谷郷土研究会
【活動がわかる主な文献リスト】
1●金井忠夫・作間亮哉「市民を主体とした那須資料ネットの設立と経緯」『那須文化研究』34、2020年
2●金井忠夫「市民を主体とした那須資料ネットの発足」『群馬の歴史資料を未来へ─歴史資料ネットワーク事始め─』2021年
3●作間亮哉「東日本台風における栃木県内の歴史資料保全活動」『新しい歴史学のために』297、2021年