NPO法人歴史資料継承機構じゃんぴん【関東】★『地域歴史文化継承ガイドブック』全文公開

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NPO法人歴史資料継承機構じゃんぴん

【団体情報】
設立年●2006年
事務局所在地●〒198-0063 東京都青梅市梅郷3-863-2 西村方
電話番号●090-3699-6582(代表理事 西村慎太郎)
メールアドレス●info@rekishishiryo.com(代表)
HP●http://rekishishiryo.com/
ブログ●http://rekishishiryo.jugem.jp/
【活動地域】
関東・長野・新潟・福島・静岡
【参加方法】
入会●当会ホームページ参照のこと。

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❶蔵内での現状記録調査(2019年)

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❷地域報告会にて修復した古文書披露(2019年)

【設立の経緯】
文●西村慎太郎

民間に遺された歴史資料の保全と調査、地域還元を推進する
2006年(平成18)に設立・登記した特定非営利活動法人歴史資料継承機構(通称「じゃんぴん」。以下、「じゃんぴん」と略す)は主に民間に遺された歴史資料の保全と調査、地域還元を推進する団体です。現在では、関東および長野・新潟・静岡・福島で合計46カ所(その他、covid-19の蔓延防止による「ステイ・ホーム」期に広がった「断捨離」ブームの注意喚起に伴う歴史資料保全の相談や調査・寄贈仲介など27カ所)で活動を行ってきました。

前提となった越佐歴史資料調査会の活動理念と静岡県での保存活動
「じゃんぴん」は筆者が設立し、2021年度現在代表理事を務めています。その設立には二つの個人的な前提があります。

第一に、2001年(平成13)のことですが、越佐歴史資料調査会の活動理念と実践を、筆者が事務局長であった甲州史料調査会で生かせないか、と考えた点です。甲州史料調査会とは、1991年(平成3)に発足した山梨県をフィールドとする「史料保存団体」です。
この越佐歴史資料調査会は、新潟県内の教員・学芸員などが中心となって発足した団体で、県内の歴史資料保全を担っているボランティアです。その活動は『岩田書院ブックレット9 地域と歩む史料保存活動』(岩田書院、2003年)としてまとめられており、現在でも県内各地で自治体とともに精力的な資料保全活動を展開しています。

越佐歴史資料調査会の活動理念は、第1に地域の文化遺産である歴史資料の保存、第2に地方史研究と史料保存ネットワークの拡充、第3に地域住民参加の調査活動、第4に近年の史料整理法と現地主義の原則、でした。2001年当時、甲州史料調査会をはじめとして、関東の「史料保存団体」は「保存」を後景に退かせてしまっており、越佐歴史資料調査会の活動は我々に意識変革を与えるものでした(なお、現在はむしろ研究面が後景に退いてしまい、保存や保全が前面に出ている点は大きな問題だと思っています)。越佐歴史資料調査会に参加し、地域の人びとと協同で進める活動や報告会を目の当たりにした筆者は、自身が事務局を務める甲州史料調査会でこの方法を生かせないかと考えました。すなわち、歴史資料の「保存」の意識を地域や参加者に根付かせること、このことが「史料保存団体」の推進する最大の課題ではないかと考え、甲州史料調査会の運営に生かすこととなりました。

第二に、1999年(平成11)から筆者はボランティアで静岡県賀茂郡南伊豆町石廊崎の古文書の目録作成と保存処置・修復を行ってきましたが[❸]、これをさらに地元自治体と連携した活動に結びつけられないか、と考えるようになりました。

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❸南伊豆町での目録作成(2018年)

越佐歴史資料調査会の場合、県内各地の博物館・文書館などの資料収蔵施設とのネットワークを構築しつつ、実際に現地での資料保全を自治体や地域の人びとと協同して行っています。新潟県内の資料の保全は新潟県立文書館や新潟県歴史資料保存活用連絡協議会、そして越佐歴史資料調査会によって支えられており、筆者が行っている伊豆での活動はボランティアベースであるため、最終的な歴史資料の保存に結びつかないのではないか、地域の人びとに歴史資料の重要性を認知されないのではないかと危惧するようになりました。

「じゃんぴん」設立
この第一・第二の前提が、2001年から2005年(平成17)の間、すなわち筆者自身が学習院大学大学院在籍時から学習院大学助手の頃まで抱き続けることとなり、2006年に特定非営利活動法人として活動し始めることとなりました。

2006年に「じゃんぴん」設立の際に作成した「設立の趣旨書」は以下の通りです(抜萃)。

現在、世代交代や引越し、あるいは自然災害などで地域に遺された多くの古文書や歴史的な資料が失われつつある。このような事態に対応すべく、各自治体の教育委員会や博物館などが懸命の作業をしているが、全てに当たることは不可能である。大切な古文書や歴史的な資料を永久に地域に遺していくためには、自治体と連携して、地域の人々に重要性を訴えていく必要がある。(中略)当団体は、調査と研究・保存処置・伝達と育成の三つの位相こそ「歴史資料」の保存活動にとって重要な点と考え、設立するものである。(後略)

設立時に定めた具体的な活動(事業)「調査と研究」「保存処置」「伝達と育成」について、10年経て、できていること、できていないこと、目標とすべきこと、新しく始めたことを2015年(平成27)度総会で総括して、現在の活動(事業)「保存」「提供」「普及」「修復」の四つに改めました。以下、この各活動(事業)について、実際の地域での活動に触れつつ述べたいと思います。

【活動の特徴】
文●西村慎太郎

じゃんぴんの活動─保存
ここでは「じゃんぴん」の活動(事業)として「保存」「提供」「普及」「修復」に分けてご紹介したいと思います。

「保存」事業。歴史資料が永年に保存されるよう環境に適した保存処置を行います。資料収蔵機関である博物館・図書館・文書館と異なり、民間所在資料の場合、必ずしも歴史資料に適した環境に保管されているわけではないので、より適した環境への提案を所蔵者に行います。その上で、実際に環境整備をするとともに、歴史資料そのもののクリーニングなどを行います。場合によっては新しい保存箱に入れ替えます。また、次の述べる「提供」事業のための個々の歴史資料に番号を付与したり、保管されている現状を記録します(概要記録・現状記録と称されるものです[❶])。その際に、資料を1点ごとに中性紙封筒へ収納する場合もあります。

じゃんぴんの活動─提供
「提供」事業。歴史資料を理解するためのツール(目録・写真など)を所蔵者や地域自治体へ提供することです。要するに歴史資料1点ごとの調書を作成します。たとえば、古文書などでしたら以下のような情報をそれぞれの歴史資料に付与します。

番号・表題・内容・年代・作成者・(手紙なら宛名)・形状・点数・劣化状態・印刷形態・奥書・罫紙色や罫紙行数・一括されている状態・裏書・端裏書・朱書・彩色の有無・印章の有無・貼紙・綴の状態

どのような歴史資料が遺されているかという情報は地域の文化財行政に生かせるので、所蔵者と協議の上で、教育委員会・自治体史編さん室・博物館・資料館へも目録や写真データの提供を行っています。現在、「じゃんぴん」で進めている主な「保存」「提供」事業先は静岡県賀茂郡南伊豆町・長野県北佐久郡立科町ですので、本稿ではこの2カ所をメインに具体例を提示したいと思います。

じゃんぴんの活動─普及
「普及」事業。歴史資料を広く理解するためウェブ・報告会・出版物の作成をしています。たとえば、専門家を招いて報告をしてもらう例会を年4回、地域報告会、ニューズレター『じゃんぴん』刊行、報告書『南伊豆を知ろう会』刊行、ホームページとブログの運営などです。ここでは具体的に地域報告会とニューズレター『じゃんぴん』刊行を例としたいと思います。

地域報告会は、「保存」「普及」事業が進んだ活動場所で行っています。静岡県賀茂郡南伊豆町では2008年(平成20)から地域報告会「南伊豆を知ろう会」を開催し、毎年、「保存」「普及」事業でわかった内容を住民に報告をするものです。ただし、南伊豆町は広いため、作業場所の公民館と町民ホールの2回開催しています(それぞれ別の内容)。この報告会の成果は毎年『南伊豆を知ろう会』として刊行しています。長野県北佐久郡立科町では、2016年(平成28)より襖や壁の裏張り古文書の保全を行っていましたが、2017年(平成29)より地元でのワークショップを開催しています[❹]。そのワークショップ参加者の中に古文書所蔵者があり、新たな古文書の発見に結びついたりもしました。なお、その他すでに活動が終了しているところでも地域報告会を行ってきました。

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❹ワークショップの様子(2019年)

もう一つ、ニューズレター『じゃんぴん』を2006年から刊行しており[❺]、2021年8月現在で31号におよんでいます。現在、ニューズレターの担当は事務局長である武子裕美さんが一手に担っており、コート紙(110kg)のカラー印刷1,500枚で、10,000円以下で発注を依頼しています。「じゃんぴん」はNPO法人ですので、潤沢な資金があるわけでなく、できる限り、廉価でクオリティの高い広報を目指しています。また、バックナンバーはPDFとして閲覧できるよう「じゃんぴん」のホームページ(https://rekishishiryo.com/)でも掲載しています。

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❺ニューズレター『じゃんぴん』vol.31

じゃんぴんの活動─修復
「修復」事業。劣化した歴史資料を東洋美術学校保存修復科と連携して2007年より修復しています[❷]。これは当会から同校の授業に教材として提供し、修復を行った上で、修復報告書とともに所蔵者へ返却するという事業です。このメリットは、①当会や所蔵者、地域としては廉価で修復ができるという点、②修復家の後継者を育成するという点です。もちろん学生が行うとはいえ、指導教員がいるため、高いクオリティの修復を行っています。

2020年春以降の特徴的な活動
次に近年、特に新型コロナウイルスの問題が顕在化した2020年春以降の特徴的な活動を述べたいと思います。

2020年以降の新型コロナウイルス流行によって、4月7日に日本政府は緊急事態宣言(改正新型インフルエンザ等対策特別措置法第32条第1項)を発出したことを受けて「緊急事態宣言発出に伴う自宅などでの大掃除の歴史資料に関する注意点(お願い)」を発表し、注意喚起を行いました。実際にさまざまなメディアが取り上げたおかげで、「じゃんぴん」に多くの所蔵品の保管方法、寄贈の依頼、資料内容の問い合わせが届き、そのすべてに対応しました。

その後、「ウィズ・コロナ」社会のもとで保存・調査活動のため、「歴史資料保存・調査活動ガイドライン(Covid-19対応)」(通称「じゃんぴんモデル」)を策定しました。また、「普及」事業は感染拡大防止のため、オンラインで開催しています。「南伊豆を知ろう会」は地元のケーブルテレビである小林テレビとYouTubeでの配信、長野県立科町でのワークショップは報告会形式として、地元ケーブルテレビである蓼科ケーブルビジョンとYouTubeでの配信を行いました。今後、「ウィズ・コロナ」社会の中で、従来の講演会形式とオンライン配信を進めていきたいと考えています。

以上、簡単に「じゃんぴん」の設立の経緯と活動の特徴を述べました。蛇足的に述べれば、「じゃんぴん」のスタンスは「部活感」です。この「部活感」とは、参加者が楽しみながら、目的を持ってその地域の歴史を学ぶというものです。当然、ここにはその貴重な文化財や歴史資料を守るという点も含まなくてはいけませんが、あまり使命感や義務感を持つと疲れてしまい、長続きしないと思っています。幸いにも地域住民や自治体との連携もうまくいってて、楽しみながら、長く続けることができています。

最後に「じゃんぴん」と史料ネットとの関わりについて触れます。すでに、筆者は群馬歴史資料継承ネットワーク編『群馬の歴史資料を未来へ─歴史資料ネットワーク事始め─』(群馬歴史文化遺産・発掘・活用・発信実行委員会、2021年)の中「NPO法人歴史資料継承機構じゃんぴんについて」という論稿を執筆しました。本稿の最後にこの一文で擱筆したいと思います。

「じゃんぴんは」必ずしも史料ネットに加わっているわけではありません。2011年3月の東日本大震災・東京電力福島第一原子力発電所事故において、「じゃんぴん」は独自の活動は行わず、茨城史料ネットなどの活動に協力・支援する立場を取っています。この協力・支援には「じゃんぴん」事務局長の武子裕美をはじめとして、当時学習院大学の学生ながら毎回作業に参加し、目録作成を推進した高増慧の力が大きいです。このような立場故か、茨城史料ネットより「最強の傭兵」との称号を授与されました。固有名詞ではない「歴史資料ネットワーク」という語句を踏まえれば、「最強の傭兵」はネットワークという構造の最大の完成形なのではないかと自負しています。

【連携団体】
なし
【活動がわかる主な文献リスト】
1●NPO法人歴史資料継承機構編『南伊豆を知ろう会』1〜8、チームじゃんぴん、2014年〜2021年
2●NPO法人歴史資料継承機構ニューズレター『じゃんぴん』1〜31、2006年〜2021年
3●西村慎太郎「NPO法人歴史資料継承機構じゃんぴんについて」、群馬歴史資料継承ネットワーク編『群馬の歴史資料を未来へ─歴史資料ネットワーク事始め─』群馬歴史文化遺産・発掘・活用・発信実行委員会、2021年
4●西村慎太郎「北佐久郡立科町での歴史資料保全─「ウィズ・コロナ」社会での展開─」『信濃』859、2021年
5●西村慎太郎「ウィズ・コロナ」社会の歴史資料保全と歴史研究、『地方史研究』412、2021年
6●西村慎太郎「地域に遺る歴史資料の行方─「ウィズ・コロナ」社会における歴史資料保全─」『歴史学研究』1002、2020年
7●西村慎太郎「西多摩郡檜原村での歴史資料保全と地方協創の可能性」『国文学研究資料館紀要アーカイブズ研究編』16、2020年
8●西村慎太郎「歴史資料の保全と地域貢献・歴史実践」、菅豊・北條勝貴編『パブリック・ヒストリー入門─開かれた歴史学への挑戦』勉誠出版、2019年
9●西村慎太郎「地域歴史資料保存の課題─越佐歴史資料調査会に学んだこと、できなかったこと─」『地方史研究』392、2018年
10●西村慎太郎「「移動する文化資源」への対応と限界─2016年度のNPO法人歴史資料継承機構じゃんぴんの活動─」『第3回全国史料ネット研究交流集会報告書』国立文化財機構文化財防災ネットワーク推進室、2017年
11●西村慎太郎「静岡県南伊豆町地域の民間所在資料の保全─「物語」を構成すること─」、国文学研究資料館編『社会変容と民間アーカイブズ地域の持続へ向けて』勉誠出版、2017年
12●西村慎太郎「調布市内の古文書と歴史資料の保存」『調布史談会誌』46、2017年