小風綾乃「2-22. 18世紀研究におけるDHの広がり 第2回 各種ウェブコンテンツの紹介(1)」●『欧米圏デジタル・ヒューマニティーズの基礎知識』より公開

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2021年7月に刊行しました『欧米圏デジタル・ヒューマニティーズの基礎知識』より、小風綾乃「2-22. 18世紀研究におけるDHの広がり 第2回 各種ウェブコンテンツの紹介(1)」を公開します。ぜひお読みください!

●詳細はこちら
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【監修】一般財団法人人文情報学研究所
【編集】小風尚樹/小川潤/纓田宗紀/長野壮一/山中美潮/宮川創/大向一輝/永崎研宣
『欧米圏デジタル・ヒューマニティーズの基礎知識』
ISBN978-4-909658-58-6 C0020
A5判・並製・496頁
定価:本体2,800円(税別)

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2-22 
18世紀研究におけるDHの広がり 
第2回 各種ウェブコンテンツの紹介(1)

文●小風綾乃


1.はじめに
 2019年7月14日(日)から19日(金)にかけて、エディンバラ大学にて第15回国際十八世紀学会(International Society of Eighteenth-Century Studies)大会が開催された。筆者は18世紀研究における DH の広がりを概観すべく、先月号より、本大会の参加報告を投稿している[注1]
 今大会では、ヴォルテール財団[注2]、COMHIS(Helsinki Computational History Group)[注3]などの研究グループの紹介や、データベース・研究ツールの紹介が充実していた。それらの成果物には、すでに公開されて広く認知されているものもあれば、現在は公開準備中で、プロジェクトの構想が紹介されたものもある。第1回ではデジタル技術を取り入れた個別発表に焦点を当てたが、第2回である本節と次の第3回では、18世紀研究に役立つウェブコンテンツには現在どのようなものがあるか、紹介されたプロジェクトに限定した情報を提供できれば幸いである。なお、筆者の専門は18世紀フランス史であるため、自身の研究に関連するコンテンツに比重を置いた記述となることをご了承いただきたい。

2.18世紀研究に役立つウェブコンテンツ
2-1.出版物を対象とした広範な検索ポータル:ESTC, Le gazetier universel
 新聞等定期刊行物の広範な検索ポータルとしては、1473年から1800年までに発行された新聞や雑誌、書物を集めた ESTC(English Short Title Catalogue)[注4]と、アンシァン・レジーム期および革命期フランス(17-18世紀)の新聞・雑誌を集めた Le gazetier universel[注5]が紹介された。前者の ESTC は英国図書館によって運営され、英語、ウェールズ語、アイルランド語、ゲール語のテキスト、計48万件を超えるエントリが登録されている。一方後者の Le gazetier universel はフランス語の定期刊行物約800タイトルを対象とする検索ポータルで、Google Books や Gallica など約40のサイトに対して1.5万件のリンクを提供する。Le gazetier universel では、Dictionnaire des journaux[注6]および Dictionnaire des journalistes[注7]のデジタル版へのリンクや参考文献リストもあわせて閲覧できるため、閲覧するタイトルがいかなる性格をもつのか、またどのような人物によって編集されたのかについても把握できる。

2-2.特定の刊行物を対象としたデジタル校訂版テキスト:DIGITARIUM, MHARS, Philosophie cl@ndestine, ARTFL, ENCCRE
 特定の新聞・雑誌を対象としたデジタル校訂版テキストとしては、18世紀のハプスブルク帝国における最重要メディアであった Wien[n]erisches Diarium(1703年創刊)を対象とした DIGITARIUM[注8]と、パリ王立科学アカデミー[注9]の機関誌 Mémoires et Histoire de l'Académie Royale de Sciences(1666-1795)を対象とした MHARS[注10]が紹介された。オーストリア科学アカデミーが運用するDIGITARIUM では、プレーンテキストと画像データを同一画面上に表示して比較することができる。IHRIM(Institut d'Histoire des Représentations et des Idées dans les Modernités: リヨン高等師範学校に拠点が置かれる大学間協働研究グループ)が運用するMHARSはまだ電子化の途上にあるため、現在は生前科学アカデミーに属していた一部の物故会員に対する弔辞のテキストのみ閲覧できる。注釈としては、人名にBnF dataやIdRef、VIAFへのリンクが付されている。プロジェクトリーダーであるMaria Susana Seguinによれば、翻刻作業は OCR にかけたものをベースに学生の協力を得て手動で修正しているとのことである。翻刻終了後にはクラウド・ソーシングによる TEI/XML マークアップを行う構想もあり、MHARS の全貌の公開はしばらく先になりそうだ。なお、機関誌の画像データはすでにフランス国立図書館が提供している[注11]
 Seguin はさらに、哲学を対象とした啓蒙期の地下文書の書誌情報をまとめたウェブアプリケーションである Philosophie cl@ndestine: Les manuscrits philosophiques clandestins[注12]も運用している。このアプリケーションでは、著作タイトル、著者プロフィール、著作画像・プレーンテキストを提供するだけでなく、実物を確認したいユーザに向けて所蔵館の情報を地図付きで提供している。エクスポート機能を使用して関心のある文書のリストをダウンロードすることもできる。
 18世紀フランスの代表的な著作群である『百科全書』のデジタル校訂版は、The ARTFL Project(以下、ARTFL)と ENCCRE の2種類が公開されている。筆者はこれらの『百科全書』のデジタル校訂版を自身の研究に使っているため、若干の検討を試みる。まず ARTFL(American and French Research on the Treasury of the French Language)[注13]はシカゴ大学を中心に、幅広いフランス語コーパスの編集(12〜20世紀)と、研究者が容易にアクセスできるシステムの作成を目指すプロジェクトである。メインコーパスである ARTFL-FRANTEXT は2.15億語、単語別では67.5万語から構成されており、その一部に『百科全書』も含まれる[注14]。ARTFL はテキストの電子化を行うためのノウハウやその後のデータ処理に関するプログラムも提供しており、次回取り上げるFBTEE[注15]などはその恩恵を享受している。
 一方、ENCCRE(Édition Numérique Collaborative et CRitique de l'Encyclopédie ou Dictionnaire raisonné des sciences, des arts et des métiers(1751-1772))はフランス百科全書研究の第一人者 Marie Leca-Tsiomis を中心に構築され、2017年にフランス科学アカデミーからウェブ公開された『百科全書』研究のプラットフォームである[注16]。同一画面上で、マザラン図書館に保存された『百科全書』初版の画像と TEI/XML でマークアップされたテキストを閲覧できるだけでなく、項目ごとのメタデータ、世界中の専門家による査読付き注釈、参考文献情報が提供される。操作メニューは英語で表示される ARTFL とは異なり、ENCCRE は注釈も含めすべてフランス語で提供されているため、利用にはフランス語力が必要となるものの、今後『百科全書』研究者の間でシェアが広がることは間違いないだろう。

2-3.特定の時期・ジャンルを対象としたデジタルアーカイブおよびデータベース:French Revolution Digital Archive, MEDIATE databases
 スタンフォード大学図書館とフランス国立図書館の協働で実現した French Revolution Digital Archive[注17]には、フランス革命期の主要な研究資料である膨大な画像群と議会記録が集められている。プレーンテキストと画像を同時に閲覧できるだけでなく、画像(jpeg)・テキスト(txt, pdf, TEI/XML)ともにダウンロード可能である。
 ナイメーヘン・ラドバウド大学に拠点が置かれ、18世紀の公衆に対する啓蒙思想の普及のシステムを理解することを主眼に置く研究グループ MEDIATE(Middlebrow Enlightenment: Disseminating Ideas, Authors, and Texts in Europe, 1665-1830)[注18]は、1665年から1830年までにオランダ・フランス・イギリスでオークションにかけられた小規模な私立図書館のカタログを使った二つのデータベースを作成している。The BIBLIO database(Bibliography of Individual Book and Library Inventories Online, 1665-1830)は基本の書誌情報を集めたデータベースであり、The MEDIATE databaseは、検索可能な写本から書物や収集家に関するメタデータを集めたデータベースである。さらに、研究者が同時に複数の書物史データベースに照会するための共通インターフェースである E-ENABLE (Early-modern - Enlightenment Networks of Authors, Books, and Libraries in Europe)も現在作成中とのことで、これら MEDIATE データベースのパブリック版は2019年後半から2020年前半の間に公開される予定である[注19]

3.おわりに
 本節では主に刊行史料を対象にしたウェブコンテンツを紹介してきた。古代や中世に比べ、18世紀研究では研究対象となる刊行史料の数が多いため、一人の研究者や研究グループが特定の史資料群をデジタル化しても、それらを使う研究者の数はそれほど多く見込めないかもしれない。しかしさまざまな史資料がデジタル化されれば、私たちは地理的な制約を超えてウェブ上で新たな史資料と出会える可能性が高まるし、それらがテキストで提供されるのならば、翻訳機能を使うことで言語的制約を幾ばくか取り除きやすくなるだろう。デジタル化はこのように、それまでのユーザに対する有用性を持つだけでなく、新規ユーザ層を広げる効果も持つため、一部の研究者だけが使ってきたような史資料をデジタル化することにも意義があると言えるのではないだろうか。多くの研究者がそれぞれにとっての重要史資料をデジタル化していけば、点と点がつながって線となり、そしていずれは面となっていくように、18世紀研究の空間は広がり、いっそう行き届いたものになっていくことだろう。
 紙幅の関係上、書簡を対象にしたものや、分析機能を持つものについては本節では取り上げなかった。第3回ではコンテンツ紹介の続きとして、これらのコンテンツについて取り上げることとしたい。

▶注
[1] 小風綾乃「18世紀研究における DH の広がり:第15回国際十八世紀学会(ISECS 2019)に参加して 第1回:個別発表にみるデータ可視化」『人文情報学月報』97 (August, 2019).
[2] ヴォルテール財団は国際十八世紀学会の事務局を務める財団で、『ヴォルテール全集』や啓蒙研究書を出版しているほか、研究者への助成活動を行っている。http://www.voltaire.ox.ac.uk/, accessed July 19, 2020.
[3] COMHIS は、近世ヨーロッパの書籍、新聞、定期刊行物の全文テキストと図書館目録からのメタデータを使って、公衆の言説や知識の生産を統合的に研究することを目的とした研究グループである。https://www.helsinki.fi/en/researchgroups/computational-history, accessed July 19, 2020.
[4] http://estc.bl.uk/F/?func=file&file_name=login-bl-estc, accessed July 19, 2020.
[5] http://gazetier-universel.gazettes18e.fr/, accessed July 19, 2020.
[6] http://dictionnaire-journaux.gazettes18e.fr/, accessed July 19, 2020.
[7] http://dictionnaire-journalistes.gazettes18e.fr/, accessed July 19, 2020.
[8] https://digitarium-app.acdh-dev.oeaw.ac.at/start.html?id=jg17xx, accessed July 19, 2020.
[9] パリ王立科学アカデミーは1666年に創設された科学研究機関(ただし「王立」を冠したのは1699年)で、現在のフランス科学アカデミーの前身にあたる。
[10] http://editions.ihpc.huma-num.fr/mhars/accueil, accessed July 19, 2020.
[11] https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/cb32786820s/date, accessed July 19, 2020.
[12] http://philosophie-clandestine.huma-num.fr/index.html, accessed July 19, 2020.
[13] https://artfl-project.uchicago.edu/content/dictionnaires-dautrefois, accessed July 19, 2020.
[14] ただし、ARTFL プロジェクトでは一括の OCR 処理がなされているため、ARTFL Encyclopédie のテキストには多くの誤認識が見られるという問題もある。これについては、現在修正を行っている段階である。https://encyclopedie.uchicago.edu/node/16, accessed July 19, 2020.
[15] FBTEE(The French Book Trade in Enlightenment Europe: Mapping the Trade of the Société Typographique de Neuchâtel, 1769-1794), accessed July 19, 2020, http://fbtee.uws.edu.au/main/.
[16] http://enccre.academie-sciences.fr/encyclopedie/, accessed July 19, 2020.
[17] https://frda.stanford.edu/, accessed July 19, 2020.
[18] http://mediate18.nl/, accessed July 19, 2020.
[19] ゲストアカウントへのアクセスを希望する場合は公式サイトから連絡が必要である。

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小風綾乃(こかぜ・あやの)
お茶の水女子大学博士後期課程(近世フランス史)。論文に「摂政期のフランス王権とパリ王立科学アカデミー―1716年の会員制度改定を中心に―」(『人間文化創成科学論叢』第21巻、2019年)、小風綾乃・大向一輝・永﨑研宣「18世紀パリ王立科学アカデミー集会の出席会員分析に向けたデータ構築と可視化」(『第123回人文科学とコンピュータ研究会発表会(予稿)』2020年)など。


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