渡邉裕美子『藤原俊成』コレクション日本歌人選 63(笠間書院)

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渡邉裕美子氏よりいただきました。

9784305709035.jpg

笠間書院刊
四六判 124ページ
価格 1,300円+税
ISBN978-4-305-70903-5

■版元ドットコム
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784305709035

■歌人紹介

【名は「としなり」とも。平安・鎌倉初期の歌人・歌学者。定家の父、為家の祖父。後白河の命により、1188(文治4)年75歳の『千載集』の撰進で名実ともに第一人者となる。平安末、歌壇は旧来の単純な主知的手法に行き詰まりが生じたが、俊成は古典摂取の詠作手法を開拓して、克服した。彼は単純な叙情詩人だったのではなく、歌論の指導者でもあった。清心温雅な幽玄体の歌を樹立。御子左家の基を築く。歌論『古来風体抄』歌集『長秋詠藻』など。】

■著者プロフィール
渡邉 裕美子 (ワタナベ ユミコ)
1961年生。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程退学(研究指導修了による)。
現在、立正大学文学部教授。博士(文学)。
主な著書に『平家公達草紙』(共著、笠間書院)『歌が権力の象徴となるとき―屏風歌・障子歌の世界―』(角川学芸出版)『新古今時代の表現方法』(笠間書院)『最勝四天王院障子和歌全釈』(風間書房)など。

解説より引用(編集意図)
【(多くの優れた歌の中から50首だけ選ぶのはとても難しいので)なるべく俊成自身が自信を持っていたと思われる歌や、息子の定家が父の代表歌と認めていた歌を選ぶことにした。
そうして、前半は「花」や「鳥」など、歌によく歌われてきた景物ごとにまとめ、後半は「旅」「恋」「哀しみ」などといった、人が生きていく中で遭遇するさまざまな局面の歌をそれぞれまとめてみた。...(中略)...通読する本としてよりも、「花」の歌を読んでみたい、「哀しみ」の歌に浸ってみたい、というような時に、俊成の歌と出会いやすくすることを考えた。】

【目次】
凡例

★花
1 春の夜(よ)は軒端(のきば)の梅(むめ)を洩(も)る月の光も薫る心地(ここち)こそすれ(千載・春上・二四)
2 面影に花の姿を先立てて幾重(いくへ)越え来(き)ぬ峰の白雲(新勅撰・春上・五七)
3 み吉野の花の盛りを今日見れば越(こし)の白(しら)嶺(ね)に春風ぞ吹く(千載・春上・七六)
4 またや見む交野(かたの)の御野(みの)の桜狩り花の雪散る春の曙(あけぼの)(新古今・春下・一一四)
5 紫の根はふ横野の壺すみれ真(ま)袖(そで)に摘まん色もむつまじ(長秋詠藻)
6 駒(こま)とめてなほ水かはむ山吹の花の露そふ井出の玉川(新古今・春下・一五九)
7 誰(たれ)かまた花(はな)橘(たちばな)に思ひ出(い)でむ我(われ)も昔の人となりなば(新古今・夏・二三八)
8 山川(やまがは)の水の水上(みなかみ)たづね来て星かとぞ見る白菊の花(長秋詠藻)
★鳥 
9 聞く人ぞ涙は落つる帰る雁(かり)鳴きて行くなる曙の空(新古今・春上・五九)
10 昔思ふ草の庵(いほり)の夜(よる)の雨に涙なそへそ山(やま)時(ほとと)鳥(ぎす)(新古今・夏・二〇一)
11 夕されば野辺(のべ)の秋風身にしみて鶉(うづら)鳴くなり深草の里(千載・秋上・二五九)
12 須磨の関有明(ありあけ)の空に鳴く千鳥(ちどり)かたぶく月はなれも悲しき(千載・冬・四二五)
★月 
13 石(いし)ばしる水の白玉(しらたま)数(かず)見えて清滝(きよたき)川に澄める月影(千載・秋上・二八四)
14 月清み都の秋を見渡せば千里(ちさと)に敷ける氷なりけり(長秋詠藻)
15 月冴ゆる氷の上に霰(あられ)降り心くだくる玉川の里(千載・冬・四四三)
16 住み侘(わ)びて身を隠すべき山里にあまり隈(くま)なき夜半(よは)の月かな(千載・雑上・九八八)
17 思ひきや別れし秋にめぐり逢(あ)ひてまたもこの世の月を見むとは(新古今・雑上・一五三一)
★雪 
18 雪降れば峰の真(ま)榊(さかき)うづもれて月にみがける天(あま)の香具山(新古今・冬・六七七)
19 今日はもし君もや訪(と)ふとながむれどまだ跡もなき庭の雪かな(新古今・冬・六六四)
20 思ひやれ春の光も照らしこぬ深山(みやま)の里の雪の深さを(長秋詠藻)
21 杣(そま)くだし霞たな引く春くれば雪解(ゆきげ)の水も声あはすなり(長秋詠藻)
★旅
22 夏刈りの葦(あし)のかり寝(ね)もあはれなり玉江の月の明がたの空(新古今・羇旅・九三二)
23 立ち返りまたも来て見む松島や雄(を)島(じま)の苫屋(とまや)浪に荒らすな(新古今・羇旅・九三三)
24 難波人(なにはびと)葦(あし)火(び)焚(た)く屋に宿借りてすずろに袖のしほたるるかな(新古今・羇旅・九七三)
★恋
25 よしさらば後(のち)の世とだに頼めおけつらさに耐へぬ身ともこそなれ(新古今・恋三・一二三二)
26 いかにせんいかにかせましいかに寝て起きつる今朝の名残なるらん(俊成家集)
27 恋しとも言はばおろかになりぬべし心を見する言(こと)の葉(は)もがな(俊成家集)
28 思ひあまりそなたの空をながむれば霞をわけて春雨ぞ降る(新古今・恋二・一一〇七)
29 よとともにたえずも落つる涙かな人はあはれもかけぬ袂(たもと)に(新勅撰・恋一・七〇七)
30 憂き身をば我(われ)だに厭(いと)ふ厭へただそをだに同じ心と思はむ(新古今・恋二・一一四三)
31 いかにせん室(むろ)の八島(やしま)に宿(やど)もがな恋の煙(けぶり)を空にまがへん(千載・恋一・七〇三)
32 思ひきや榻(しぢ)のは端書(はしが)き書きつめて百夜(ももよ)も同じまろ寝せんとは(千載・恋二・七七九)
33 頼めこし野辺の道(みち)芝(しば)夏深しいづくなるらん鵙(もず)の草ぐき(千載・恋三・七九五)
34 逢ふことは身を変へてとも待つべきを世々を隔てんほどぞ悲しき(千載・恋四・八九七)
★哀しみ
35 憂き世には今はあらしの山風にこれや馴(な)れゆく初めなるらむ(新古今・哀傷・七九五)
36 秋になり風の涼しく変はるにも涙の露ぞしのに散りける(俊成家集)
37 まれにくる夜半(よは)も悲しき松風をたえずや苔の下に聞くらむ(新古今・哀傷・七九六)
★歎き
38 憂き夢は名残までこそ悲しけれこの世の後(のち)もなほや嘆かん(千載・雑中・一一二七)
39 世の中よ道こそなけれ思ひ入(い)る山の奥にも鹿ぞ鳴くなる(千載・雑中・一一五一)
40 沢に生(お)ふる若菜ならねどいたづらに年をつむにも袖は濡れけり(新古今・春上・一五)
41 世の中を思ひつらねてながむればむなしき空に消ゆる白雲(しらくも)(新古今・雑下・一八四六)
42 いにしへの雲井の花に恋ひかねて身を忘れても見つる春かな(新勅撰集・雑一・一〇四五)
43 雲の上の春こそさらに忘られね花は数にも思ひ出(い)でじを(千載・雑中・一〇五六)
44 葦(あし)鶴(たづ)の雲路(くもぢ)迷ひし年暮れて霞をさへや隔て果つべき(千載・雑中・一一五八)
45 小笹原(をざさはら)風待つ露の消えやらずこの一節(ひとふし)を思ひおくかな(新古今・雑下・一八二二)
★祈り
46 ももちたび浦島の子は帰るとも藐(は)姑(こ)射(や)の山はときはなるべし(千載・賀・六二六)
47 いたづらにふりぬる身をも住吉の松はさりともあはれ知るらん(千載・神祇・一二六三)
48 春日野のおどろの道の埋(むも)れ水末(すゑ)だに神のしるしあらはせ(新古今・神祇・一八九八)
49 契(ちぎ)りおきし契りの上に添へ置かむ和歌の浦路(うらぢ)の海人(あま)の藻塩(もしほ)木(ぎ)(新勅撰・雑二・一一九七)
50 さらにまた花ぞ降りしく鷲(わし)の山法(のり)の筵(むしろ)の暮れ方(がた)の空(千載・釈教・一二四六)

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