川端康成学会:第190回例会(2024年8月31日(土)14:00~、鶴見大学 1号館4階401教室+オンライン)※オンラインのみ要申し込み

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研究会情報です。

●公式サイトはこちら
http://kawabatayasunari-academy.org/2024/08/01/%e5%b7%9d%e7%ab%af%e5%ba%b7%e6%88%90%e5%ad%a6%e4%bc%9a%e3%80%80%e7%ac%ac190%e5%9b%9e%e4%be%8b%e4%bc%9a/
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※詳細は上記サイトをご確認ください。

川端康成学会 第190回例会
2024年8月1日事務局
川端康成学会 第190回例会 
日時 2024年 8月31日(土)14:00より
場所 鶴見大学 1号館4階401教室

研究発表
*馮 思途(早稲田大学文学研究科博士後期課程)
「憑依する「家」――川端康成の初期活動を再考する」

*汪 星(東北大学大学院文学研究科)
「川端康成「高原」論―多文化空間としての軽井沢を中心に 」
閉会の辞 片山倫太郎

【発表要旨】
*馮 思途「憑依する「家」――川端康成の初期活動を再考する」
 本発表では、川端康成の少年期に立ち戻り、日記、書簡をはじめとする資料を改めて考察することにより、上京前後の川端康成の言動に憑依し続ける「家」の問題を照射することを目的とする。まず、個人の内面として処理された川端康成の「孤児」の言説を、「家」との関係性の中において再検討し、作家の主体性の形成に寄与していた「家」の特徴を浮き彫りにする。次に、川端康成の言語観の中核を担う「遺産」という概念を注目し、「遺産」の内実が「家」の影響によって生まれたことを、彼の評論への精査を通じて解明し、「新感覚派」の一員として活躍していた川端康成の諸活動を解釈する新たな視点を提示する。以上の考察を踏まえ、「ちよ」(一九一九・六)という初期創作を取り上げて分析を行う。さらに、一九二〇年代以降の小説作品に織り込まれた「家」のモチーフについて指摘し、伝記研究とモダニズム研究によって二分化されてしまった川端康成の初期活動における連続性を取り出すことを試みる。

*汪 星「川端康成「高原」論―多文化空間としての軽井沢を中心に 」
 川端康成の作品「高原」において、軽井沢は単なる避暑地であるにとどまらず、複数の文化が交差する特異な空間として描かれている。また、戦争の影響を相対的に受け にくい空間として描かれており、川端はこの避暑地を通じて、登場人物が戦争による 不安や混乱から一時的に逃れつつも、その影響が内面にいかに浸透しているかを巧み に描いている。従来の研究では、軽井沢という土地が、日本の伝統的な風土と西洋文化の影響を受けた独特の環境であることが指摘されるとともに、二項対立的な視点のもとで論じられることが多い。しかし、軽井沢の空間設定は、登場人物、特に主人公 の須田の内面的な動揺や変化に深く関与し、単なる西洋と日本の二項対立に収まらな い側面を持っている。軽井沢には、西洋人、日本人、混血児が混在しており、この人種的・文化的な多様性を含む環境が須田の内面的な動揺を促すものとして機能してい る。須田は、洋子や混血児といった他者の関係を通して内面が揺さぶられ、異文化との接触を通して自身の文化的融合性について考えさせられるという過程を経験する。こうした須田の内面の動きを捉える上で、これまであまり注目されてこなかった須田の女性への眼差しの流動的な動きに目を向けることが必要であるだろう。本発表では、 須田の女性への眼差しを考察することによって、「高原」における軽井沢という多文化空間が持つ文学的意義と機能を明らかにしたい。