国立歴史民俗博物館・松田睦彦・山下優介編『REKIHAKU 特集・海藻 東アジアをつなぐ海の資源』(国立歴史民俗博物館)

10月下旬刊行予定です。
国立歴史民俗博物館・松田睦彦・山下優介編
『REKIHAKU 特集・海藻 東アジアをつなぐ海の資源』(国立歴史民俗博物館)
ISBN978-4-86766-111-6 C0021
A5判・並製・112頁・フルカラー
定価:本体1,091円(税別)
発行 国立歴史民俗博物館
発売・編集協力 文学通信
国立歴史民俗博物館発! 歴史と文化への好奇心をひらく『REKIHAKU』!
いまという時代を生きるのに必要な、最先端でおもしろい歴史と文化に関する研究の成果をわかりやすく伝えます。
特集は「海藻 東アジアをつなぐ海の資源」。
海藻とのつきあいが古い日本。
私たちの食卓は海藻であふれています。昆布と鰹節でだしをとったわかめの味噌汁、ひじきの煮つけに海苔巻き、もずく酢、ところてん。
ただ世界を見渡すと、海藻を食用としてきた地域は東アジアに集中するようです。
たとえば、韓国では伝統的に多様な海藻が食べられてきたが、とくにワカメが重宝され、ワカメのたっぷり入ったスープを日常的に食べるだけでなく、お産の無事を祈ったり、子供の成長を祝ったりする産育儀礼でも欠かせません。ワカメの生える岩は大切に管理され、財産として取引の対象にもなりました。中国ではコンブに解毒作用があるとされ、日本から輸入された昆布を他の素材と一緒に煮たり焼いたりして食べたという記録が残っています。東アジア以外でも、たとえばイギリスのウェールズにはノリの佃煮のような食べものが、アイルランドにはところてんのような海藻ゼリーがあるようですが、西欧ではごく珍しい食文化のようです。
その利用が活発になるのは、19世紀以降。
中国・ロシア・台湾・朝鮮などを巻き込んで活性化していきますが、それはどのようなものだったのでしょうか。
日本の重要な輸出品だったコンブはどんな流通だったのか。日ソ外交に翻弄されるコンブ漁民たち。テングサバブルにより朝鮮半島に進出していった志摩の海女たち。植民地政策下で台湾にわたった寒天の製造技術。それは世界へと広がっていきます。日本と韓国、中国の一部でしか見られないヒジキはどう流通が拡大していったのか? 戦争と海藻の関係とは。
日本列島各地や韓国、台湾などで採取・生産された海藻が、どのような加工・流通過程を経て消費されてきたのか、その歴史と現在を紹介します。
特集執筆は、麓 慎一、村上友章、塚本 明、藤川美代子、石川亮太、磯本宏紀、松田睦彦、藤田明良、塩田奈実、小暮修三。
特集以外の記事も、好評連載・鷹取ゆう「ようこそ! サクラ歴史民俗博物館」、石出奈々子のれきはく!探検ほか、盛りだくさんで歴史と文化への好奇心をひらいていきます。
歴史や文化に興味のある人はもちろん、そうではなかった人にもささる本。それが『REKIHAKU』です。年3回刊行!
●特集趣意文(松田睦彦)
「海藻」とは海に生える藻類のこと。「海草」と違って葉・茎・根の区分があいまいで、キノコのように胞子で繁殖する。どちらも光合成することは一緒だが、海藻の根は養分を吸収できず、もっぱら岩などにしがみつくのがその役割である。
日本に住む私たちの食卓は海藻であふれている。昆布と鰹節でだしをとったわかめの味噌汁、ひじきの煮つけに海苔巻き、もずく酢、ところてん。納豆についてくるだし醤油にも「昆布エキス」が使われている。日本では、古代の法制書である延喜式に記録があらわれる以前から海藻が食べられてきたが、世界を見渡すと、海藻を食用としてきた地域は東アジアに集中するようだ。
たとえば、韓国では伝統的に多様な海藻が食べられてきたが、とくにワカメが重宝され、ワカメのたっぷり入ったスープを日常的に食べるだけでなく、お産の無事を祈ったり、子供の成長を祝ったりする産育儀礼でも欠かせない。ワカメの生える岩は大切に管理され、財産として取引の対象にもなった。中国ではコンブに解毒作用があるとされ、日本から輸入された昆布を他の素材と一緒に煮たり焼いたりして食べたという記録が残る。豚肉や海老との相性が良いという。東アジア以外でも、たとえばイギリスのウェールズにはノリの佃煮のような食べものが、アイルランドにはところてんのような海藻ゼリーがあるようだが、西欧ではごく珍しい食文化のようである。
海藻とのつきあいの古い日本だが、一九世紀以降はとくにその利用が活発になる。近世から俵物三品(煎海鼠[いりこ]・乾鮑[ほしあわび]・鱶鰭[ふかひれ])以外の諸色[しょしき]として中国に輸出されていたコンブや、テングサの加工品である寒天をめぐる流通は、幕府による統制が廃止されたことで自由貿易体制へと移行し、ロシア・台湾・朝鮮などを巻き込んで活発化する。また、布地の防染や衣服の洗濯、漆喰[しっくい]の保水・増粘[ぞうねん]といった食用以外の伝統的な用途に加えて、化学工業が発展することで、海藻の利用は工業用や薬品用などにも広がりをみせる。海藻からはさまざまな化学物質が製造されるようになり、不足する原料は植民地の海に求められて地域の文化を変えていった。海藻は、東アジアの近代史に少なからぬ影響を与えていたのである。
本特集では、日本列島各地や韓国、台湾などで採取・生産された海藻が、どのような加工・流通過程を経て消費されてきたのか、その歴史と現在を紹介する。
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【編者紹介】
国立歴史民俗博物館(こくりつれきしみんぞくはくぶつかん)
千葉県佐倉市城内町にある、日本の考古学・歴史・民俗について総合的に研究・展示する博物館。通称、歴博(れきはく)。歴史学・考古学・民俗学の調査研究の発展、資料公開による教育活動の推進を目的に、昭和56年に設置された「博物館」であり、同時に大学を中心とする全国の研究者と共同して調査研究・情報提供等を進める体制が制度的に確保された「大学共同利用機関」。
〒285-8502 千葉県佐倉市城内町 117
https://www.rekihaku.ac.jp/
松田睦彦(まつだ・むつひこ)
国立歴史民俗博物館教授(民俗学) 【著書・論文】「外交文書に見る朝鮮海通漁の成立―貿易規則から通漁規則へ」(『国立歴史民俗博物館研究報告』239、国立歴史民俗博物館、2023年)、『昆布とミヨク―潮香るくらしの日韓比較文化誌』(展示図録、国立歴史民俗博物館、2020年)、『人の移動の民俗学―タビ〈旅〉から見る生業と故郷』(慶友社、2010年) 【関心事】独立系書店めぐり
山下優介(やました・ゆうすけ)
国立歴史民俗博物館テニュアトラック助教(日本考古学) 【著書・論文】「市川市域における古墳時代から平安時代の植物利用」(共著、『市史研究いちかわ』13、2022年)、「弥生・古墳時代移行期における近江系土器の移動とその背景」(東京大学大学院人文社会系研究科博士学位申請論文、2021年) 【趣味・特技】旅先でのご当地キャラ(アイテム)探し
【目次】
トピック1 コンブ――海藻と北方外交
【コンブの流通を掌握せよ】
東アジアにおける北海道のコンブ流通(麓 慎一)
【「平和の海」を未来に残す】
貝殻島コンブ漁と日露外交(村上友章)
トピック2 テングサ・ヒジキ・オゴノリ――海藻の生産・加工と国際化
【寒天の誕生で需要が急増】
テングサバブルと志摩海女の朝鮮出漁(塚本 明)
【世界に広がる寒天の製造技術】
台湾・東南アジアへ渡る寒天製造技術(藤川美代子)
【気候変動で危機に瀕する】
日韓ヒジキの道――鳥羽、伊勢、済州島(石川亮太)
トピック3 ワカメ・カジメ――海藻と歩む地域社会
【ブランドを保ち続けた紆余曲折のワカメ史】
「鳴門わかめ」の誕生と変遷(磯本宏紀)
【戦争と海藻の関係に迫る】
銃後のカジメ――房総半島の沃度生産(松田睦彦)
トピック4 「海藻知」を未来へ
【霊力を持った存在としての海藻】
「海帯」とは何か?――本草書・類書が語る前近代東アジアの「海藻知」(藤田明良)
【海藻たちの評価はいかに!】
博覧会に出品された多様な海藻(塩田奈実)
【研究が私たちの食卓へ届く】
海藻への眼差し――日本における海藻研究の歴史(小暮修三)
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たかが歴史 されど歴史
マンガのなかの歴史、歴史のなかのマンガ(大串潤児)
博物館マンガ 第15回
ようこそ! サクラ歴史民俗博物館
ボランティアさんってどんな人?(鷹取ゆう)
石出奈々子のれきはく!探検 第15回
美しきかな 曲者栽培(石出奈々子)
フィールド紀行
沈黙を破る 島々の歴史証言
─八重山・宮古・奄美─
第3回(完) 島、それぞれの姿
(村木二郎)
誌上博物館 歴博のイッピン
鳥取藩主池田家の伝来品 梅樹下草模様小袖
(澤田和人)
歴史研究フロントライン
東北北部における縄文後期の「十腰内文化」の研究(阿部昭典)
EXHIBITION 歴博への招待状
企画展示「野村正治郎とジャポニスムの時代―着物を世界に広げた人物」
(澤田和人)
SPOTLIGHT 若手研究者たちの挑戦
時代の変化とともに光る、農家のさまざまな実践を追う
(真柄 侑)
歴史デジタルアーカイブ事始め 第14回
3Dデジタルアーカイブの世界
(橋本雄太)
くらしの植物苑歳時記
特別企画「伝統の古典菊」・「冬の華・サザンカ」のご案内
博物館のある街
沖縄県中頭郡 北谷町立博物館
北谷の深層へ。縄文で、待ち合わせ。
(藤 彰矩)
くらしの由来記
荏胡麻─今も昔もスーパーフード!?─
(山下優介)
研究のひとしずく
縄文人の考え方を知るために
第1回●なぜ土器・石器を壊して配置するのか①
(中村耕作)
Kaleidoscope of History
Stone Structures Symbolic for the Asuka Period The Shumisen-seki
(林部 均)
歴博友の会 会員募集
英文目次