日本近代文学館:中里介山「大菩薩峠」―明滅するユートピア(2021年4月3日(土)~6月12日(土))
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https://www.bungakukan.or.jp/cat-exhibition/cat-exh_current/12805/
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中里介山の「大菩薩峠」は、日本の近代文学のなかでもたいへん特異な、不思議な位置を占める大長編です。1913(大正2)年から始まって、1941(昭和16)年まで28年間も書きつがれ、しかも未完に終わりました。理由のない不条理な殺人から始まって、江戸末期、盲目の侍・机龍之助を中心に夥しい数の人物たちを登場させ、終わりのない物語がくりひろげられます。泉鏡花や谷崎潤一郎らが高く評価し、1920年代半ばにはベストセラーになって演劇や映画にも取り上げられています。大衆文学の起源に祭り上げられたこともありますが、作者はこれを否定しました。しかも、介山は終生、文壇とは距離を置いたのです。この小説は、死の匂いのたちこめる幽鬼のような存在を一方にすえ、ユートピアの建設と崩壊がくりかえし書き込まれています。日本近代文学館には、開館当初より「中里介山文庫」を初めとする多くの資料が収蔵されています。災厄と混乱のつづく21世紀にあらためて「大菩薩峠」を読み返したらどうなるのか、みなさんとともにその文学の可能性について考えてみたいと思います。
(編集委員 紅野謙介)