全訳『男色大鑑』予告的あらすじ公開!★巻3の4「薬はきかぬ房枕(くすりはきかぬふさまくら)」

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井原西鶴が1687年に描き出した、詩情あふれる華麗・勇武な男色物語『男色大鑑』を現代に甦えらせるプロジェクトが始動します。
つい先日、染谷智幸・畑中千晶編『全訳 男色大鑑〈武士編〉』(文学通信)として、〈武士編〉を刊行しました。後半の歌舞伎若衆編は2019年6月刊行予定です。
『男色大鑑』の、若衆と念者の「死をも辞さない強い絆」は、作品中、常に焦点となっている三角関係の緊張感とともに、長い間、誠の愛を渇望して止まぬ人々の心を密かに潤し続けてきました。
そんな作品群を、分かりやすい現代語と流麗なイラストによって新たに世に送り出します。

ここでは、そんな『男色大鑑』のあらすじを予告編的に紹介していきます。今回は巻三の四を紹介いたします。

※あらすじの一覧は以下で見ることができます。
https://bungaku-report.com/blog/2018/07/post-235.html

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■巻三の四

薬はきかぬ房枕(くすりはきかぬふさまくら)
叶わぬなら殺してしまえ美少年。お前こそ殺してやろう野暮男

 ある大名(殿)に仕える伊丹右京(いたみうきょう)という美少年がいた。同じ家に仕える母川采女(もかわうねめ)は、右京への恋煩いから寝込んでしまう。志賀左馬之助(しがさまのすけ)は采女の恋人であったが、采女の思いの深さを知って、二人の仲を取り持った。ところが、新参者で無骨な細野主膳(ほそのしゅぜん)も右京に恋い焦がれて、茶道坊主松斎(しょうさい)を仲立ちに迫ったが相手にされなかった。松斎は主膳をそそのかし、右京を殺してしまおうと計画した。それを知った右京は、先に主膳を襲い殺害した。

 殿は怒りながらも右京を役人に預け、争いの事情を詮議させた。しかし、主膳の両親が厳罰を嘆願し、右京は切腹と決まり、仲立ちの松斎も自害した。帰郷していた采女は、事情を知って右京切腹の場に駆けつけ、その場で右京に続いて腹を切って跡を追った。右京の家臣の中には跡を追う者もおり、左馬之助も自害し、右京に関わる多くの人間が命を失った。切腹した慶養寺には右京采女の墓が残っている。

 寛永(かんえい)年間に実際にあった事件を元に書かれた『藻屑(もくず)物語』という実録(じつろく)の筋をほぼそのまま使っている。しかし、右京が殿のお気に入りであったことへの遠慮や、左馬之助が采女の心変わりをなじるところなどを削除し、左馬之助の最期も異なる。つまり、武士の衆道で大切なポイントである主従関係を排除し、心変わりされた兄分の無念さなども扱っていない。殿、右京、采女、左馬之助、主膳の五角関係が回避され、右京をめぐる三角関係に絞られたことで、被害者遺族の感情で厳罰が決まり、右京を中心に花の盛りで死を迎えることを賞賛する終わり方となっている。こうした改変に西鶴のねらいがあるのかもしれない。


★早川由美(はやかわ・ゆみ)奈良女子大学博士研究員・愛知淑徳大学非常勤講師。

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■編集部より

2018年12月に、『男色大鑑』八巻中、前半の武家社会の衆道に取材した作品四巻までを収録した〈武士編〉を刊行し、後半の四巻を〈歌舞伎若衆編〉として、2019年6月に刊行します。

イラストに、あんどうれい、大竹直子、九州男児、こふで、紗久楽さわ、といった豪華な漫画家陣が参加。現代語訳は、若手中心の気鋭の研究者、佐藤智子、杉本紀子、染谷智幸、畑中千晶、濱口順一、浜田泰彦、早川由美、松村美奈。

このプロジェクトが気になった方は、ぜひ以下の特設サイトをご覧下さい。
文学通信

また本書の詳しい紹介はこちらです。ご予約受け付け中です!
●2018.12月刊行
文学通信
染谷智幸・畑中千晶編『全訳 男色大鑑〈武士編〉』
ISBN978-4-909658-03-6 C0095
四六判・並製・240頁 定価:本体1,800円(税別)
※ご注文受付中!
amazonはこちら https://www.amazon.co.jp/dp/4909658033/