新入社員週報第8回「日本の大学は海外の研究者にとって魅力的な職場なのだろうか」(渡辺哲史)

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こんにちは。文学通信の渡辺です。
コロナウィルスの影響で、弊社は今週より在宅勤務を開始しました。前日に紙の原稿を持ち帰って、あらかじめクラウドにデータをアップロードして、自宅で校正作業をしましたが、事前準備をすれば自宅でも作業できることがわかりました。ちなみに自転車通勤も試してみたところ片道30分で来れることがわかって、もっと早く気づいていればと少し後悔しています。

さて、こういう緊急時に柔軟に働けるかつ比較的自宅からも近い職場環境のありがたみを実感していたところ、海外から見た日本の職場に関するある記事を読みました。Tokyo Humanitiesに掲載されているローレンス・ウィリアムズ氏の「日本の大学で働く:海外の人文科学の博士号取得者にとって魅力的な選択肢なのだろうか?(原題:Working at a Japanese University: An Attractive Option for International Humanities PhDs?)」です。

記事の執筆者のウィリアムズ氏はオックスフォード大学で博士号を取得したのち、現在上智大学の外国語学部で教鞭をとっており、18-19世紀イギリスの文学・文化における「東/アジア」表象を専門にしています。日本国内と海外の研究者のパイプラインをより太くするために、仲間とともにTokyo Humanitiesを設立したようです。(取り組みとして各種イベントや情報発信、そしてカフェも運営している)

同記事は、これから就職活動をむかえようとしている海外の人文科学の博士学位取得者に向けて書かれており、就職先としての日本の大学の現状や慣習、外国人教員の割合や待遇、実際の応募や面接方法などを丁寧に紹介しています。

特に目を惹いたのが外国人教員の割合で記事によれば、
・過去5年のうち海外からの学生は増加、しかし研究者の採用は遅れをとっている。
・海外出身の大学教員21,000のうち、8,100が常勤。大学単位に変換すると1大学10人の割合(2016年時点)。
・外国人教員の多くは非常勤。1-5年のうち契約更新か別の機関に移ることを余儀なくされている。
・日本の大学の国際化は主に「内からの国際化」、すなわち、すでに国内にいる数少ない外国人研究者を雇用。日本で博士学位取得した教員は56%。また、外国人教員の男女比は4:1。

昨今、日本の大学の非常勤講師問題がクローズアップされることが多いですが、日本人研究者のみならず、外国人研究者にとっても深刻な問題のようです。

また、私自身が「国際教養」や「グローバルスタディーズ」という名前を冠する学部・院に所属していたこともあり、そして耳にタコができるほど「国際化」という言葉があちこちで叫ばれているので、日本の大学はだいぶ国際化が進んでいるという印象がありましたが、記事によると学生の国際化は進んでも、教員の国際化はいまだ十分に進んでいないことが指摘されていました。

試しに「Japan, university, internationalization」という安直なGoogle検索をしてみたところ、2018年の「日本の大学の国際化」と銘打たれたJapan Timesの特集記事が真っ先に挙がってきました。記事の中身や広告を見てみると、焦点を当てられているのは主に学生や卒業生のようで、こういうところからも学生と教員の国際化の進展にギャップを感じます。

加えて、ウィリアムズ氏の記事内でも紹介されているFutao Huang氏の研究によると、研究の生産性について、日本の外国人研究者は日本人研究者に比べて研究の生産性が低いが、アメリカでは状況が真逆で、むしろ海外出身の研究者のほうが生産性が高いという結果が出ています。日本国内の外国人教員の多くが、英語教育プログラムの拡充を目的に雇われていることが影響しているようです。

ウィリアムズ氏の記事ではこのような状況を改善するために、まずは上記の「内なる国際化」から移行する必要があり、そのためには、海外の研究者が就職活動をするうえで、情報を見つけやすく、応募しやすい環境にしていくことや、非日本語話者もサポートする機関の事務体制の必要性を説いています。

文学通信の英語ツイッターアカウントも、国内と海外、特に人文系の研究者の風通しを少しでも良くしたい、少しでも役立ててもらいたい、ということを考えながら運営しているので、記事を読みながら「同志!」と一方的に感じた次第です。

今週は以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまた来週。

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【週報バックナンバー】
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新入社員週報第2回「書名翻訳のストラテジー」

新入社員週報第3回「海外日本研究通信(仮)」

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