新入社員週報第3回「海外日本研究通信(仮)」(渡辺哲史)

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こんにちは。文学通信の渡辺哲史です。新入社員週報第3回のお届けです。
今週は「海外日本研究通信(仮)」と題して、試験的に海外の日本研究関連の動向でとくに目を惹いたものについて取り上げたいと思います。

一つ目は、正倉院文書の手引きを記したサイト
プリンストン大学の研究者らが中心となって運営しており、アドバイザーとして『正倉院文書入門』の著者でもある栄原永遠男氏を迎えているようです。
2013年に開設されたサイトで正倉院文書をはじめ日本の歴史を学び・研究するための手引きとなるような場にしたいとあります。

二つ目のトピック、今回これが一番気になりました。
出版社のラウトレッジが"New Frontiers in Japanese Studies"(『日本研究の最前線』)という題の論集を2020年の4月に刊行するようです。

内容は4部構成で、以下のような内容になっております。
Part 1: Rethinking Japanese area studies in the 21st century(第一部:21世紀における日本の地域研究を再考する)
Part 2: Coping with an aging society(第二部:高齢化社会に向き合う)
Part 3: Migration and mobility(第三部:移住と流動性)
Part 4: The environment(第四部:環境)

各部に収録される論文タイトルのキーワードをいくつか拾ってみました。※詳細はリンク先のContentsをご覧ください
第一部:マリア・ルス号事件、コンテンツ・ツーリズム、異文化学習としての日本語教育、戦後の日中関係、インドネシアにおける日本研究
第二部:バリアフリーオリンピックと高齢者人口、フィリピンの介護福祉士、移民同士のケア
第三部:サハリンからの移住者、戦後の朝鮮半島における日本人女性、JETプログラム元参加者の会、バングラデシュからの語学留学生、法適用の境界線、在外日本人のウェルビーイング
第四部:日本の環境不正、ポストフクシマの再生可能エネルギー

Descriptionによると、本書は「これまでの日本研究の地理的な重心であった欧米圏からアジア太平洋地域にシフトし、国際的な観点から、今後日本が重要な役割を担うであろうトピック」を中心に扱っている、とあります。つまり日本が今後直面する/しつつある喫緊のアクチュアルな課題にどう取り組むか、そしてその知見を他国と共有することを重視しているようです。

私自身の出自、そして現在の仕事もあってか、日本研究/Japanese Studiesはどうしても人文学中心のイメージが強かったです(それも問題かもしれませんが)。
実際「日本研究」ないしは「日本学」を冠する国内の諸機関の多くがまだまだ文学・言語・歴史・思想・宗教・美術などに大きな力を入れているいっぽうで、本書が打ち出す日本研究/Japanese Studiesは人文学よりも社会科学的な側面が強く、各論で扱われている時期・時代の多く(むしろほとんど)が戦後に設定されていて、結果的に大きく「実学化」しているように思われました。

未刊の書籍なのでなんとも言えませんが、目次を見るかぎりこの『日本研究の最前線』の主役はどうやら人文学ではないようです。
私自身がこれまで抱いていた「日本研究」という言葉のイメージが今回大幅にアップデートされた思いです。

今週はとりあえず以上です。最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまた来週!