新入社員週報第2回「書名翻訳のストラテジー」(渡辺哲史)

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こんにちは。文学通信の渡辺哲史です。新入社員週報第二回のお届けです。

今週は校正のお手伝いなどをしながら先週に引き続きツイッター@BungakuReportENでニュースや学会、新刊情報の収集、そして弊社の刊行物についても発信しました。
今回は新聞書評新刊見本が届いた以下の2タイトルを訳してみました。

『六波羅探題 研究の軌跡』
→『The Research History of Rokuhara Tandai』

『古典は本当に必要なのか、否定論者と議論して本気で考えてみた。』
→『Do we really need Japanese Classics? A serious discussion with the opponents』

日本語の本を英語で紹介する際に日本語タイトルをどう翻訳するか、頭を悩ませます。海外の本のタイトルはそのままストレートに訳すと変になったり、場合によってはタイトルやサブタイトルを入れ替えたりする必要がある、と前職の先輩にアドバイスをされたことがあります。今回は書名を訳すことのストラテジーについて書いてみようと思います。

『六波羅探題 研究の軌跡』→『The Research History of Rokuhara Tandai』
まずは「六波羅探題」について調べてみたところ、歴史学の論文の英文要旨でそのまま「Rokuhara Tandai」と訳すのが通例になっているようなのでそれに従います。
「研究の軌跡」ですが、「軌跡」を訳すのが少し難しいです。「pathway」や「trail」も違うしな...。そこで「研究の軌跡」を「研究史」とも言い換えられると思ったので、「Research History」と訳しました。
二つを合わせて『The Research History of Rokuhara Tandai』としました。

『古典は本当に必要なのか、否定論者と議論して本気で考えてみた。』
→『Do we really need Japanese Classics? A serious discussion with the opponents』

次は『こてほん』について。
まず頭の「古典」をどう訳すか。単に「classics」だと「どの国の?」と問われそうなので「Japanese」を頭につけました。英題には無理やり「we」をつっこんでいます。逆翻訳すると『私たちに古典は本当に必要なのか?』になります。なんだか一体感が増して原題にあった肯定派vs否定派の対立感が薄れてしまいました。「We」ではなく「you」や「I」にするとなんだかしっくりきませんね。
後半部は『A serious discussion with the opponents』としています。逆翻訳すると『否定論者との本気の議論』になるでしょうか。「考えてみた」の部分が訳せていません。「考えてみる」でまず思い浮かぶのは「consider」「consideration」ですが「〜てみた」の独特さ(ニコニコ動画感?)を醸し出すのが難しいです。また、ここでも原題では「考えてみた」の主語が省略されていて「we considered about〜」や「our consideration」だとやはりタイトルとしての座りが悪い。泣く泣く「考えてみた」の部分を省略しています。
というようなことをぐるぐると考えて『Do we really need Japanese Classics? A serious discussion with the opponents』になりました。

以上、自分なりに2点英題をひねり出してみました。「いやこう訳したほうがいいでしょ」というご意見、感想もあると思うので、その際はぜひ当方までご連絡ください。
今週も最後までお読みいただきありがとうございました。それではまた来週。