【連載】vol.2「ヤフオク!」 - 現役大学生が有り余る行動力で和本に触れてみた件ーー和本探しに出かけてみよう!ーー #和本有り

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vol.2「ヤフオク!」


和本が好きないち大学生が、
どこに行けば和本を見て、触れるのか?
どこに行けば和本を買うことができるのか?
小中高生・大学学部生向けに伝えるべく、はじめた連載、
第二回はインターネットのオークションサイトです!
(※小・中学生はアカウントを作れないので保護者の方と一緒にどうぞ!)

今回の連載の後半では、ゴンくん流の
「くずし字学習法」も公開してます。

ぜひお読み下さい!


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ヤフオクへのアクセス

■アドレスは?
ヤフオク! - 日本最大級のネットオークション・フリマアプリ
https://auctions.yahoo.co.jp/です。

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■どう検索するのか?
 まずは「和本」と検索してみましょう! 1万件以上ヒットしますが、整列を「残り時間の短い順」に変えて探すことをおすすめします。そうすると今日で出品が終わる和本が並びます。その中から気に入った本に入札。入札するか迷ったときは星マークを押してウォッチリストに登録しておくと後で探しやすいです。

 また、私なりのコツですが「黄表紙」や「洒落本」といった専門用語で検索すると、まさにその本を検索することができますが、出品者もその本が「黄表紙」や「洒落本」だと知っているということなので、その分野の専門家である可能性が高く、出品時の値段が高く設定されていることもあります。よって、私は「江戸時代 本」や「年代未詳 本」「骨董品 本」などと、違う単語でも検索をかけてみます。

■入札?それとも即決?
 和本の場合、私の経験では、即決価格が設定されていない場合のほうが多く、競り合いになればなるほど高くなってしまいます。即決価格がある和本は大変貴重な本が多いのですが、状態の良い物だと数万円もするので、私の場合、本当に欲しいと思う本でないとなかなか手が出ません......。

■落札したらどうすればいい?
 落札できたら、商品を受け取る住所を決め、代金の支払いを済ませましょう。忙しくない限り1~2日で終わらせるのがマナーでしょう。また、出品者とメッセージで連絡ができますから、確認してみましょう。代金の支払いは手数料が少しかかりますが、コンビニでも支払うことができます。その後は出品者から商品が送られてきて、基本2~3日内には届きます。雨がよく降る時期などは配達中に本が濡れてしまう可能性があるため、必ず本の状態を確認して、もし異常があった場合、出品者に連絡するのではなくヤフオクのお問い合わせから「お見舞いの申請」(トラブルがあった場合に申請できる補償制度のこと)をしてみましょう。

 みなさんもぜひチャレンジしてみましょう!


★★★★★★★★★★★★★★★

今回購入した本

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写真1 今回購入した『実説名画血達磨』

『実説名画血達磨』

巻数:二巻 上・下

丁数:上巻四十丁、下巻三十九丁

綴じ方:四ツ目綴じ

外題:『實説名畫血達磨』(じつせつめいぐわのちだるま)

柱題:「實説名畫血達磨」

見返し題:「實説名畫血達磨 上の巻」「實説名畫の血達磨 下のまき」

内題:實説名畫血達磨上之巻、實説名畫血達磨下之巻

序:豊水亭夏暁誌

作者:東京 柳葉亭繁彦 補 尾形月耕 画

大きさ:縦17.9㎝、横12㎝

出版年度:明治21年(1888)7月25日印刷 同年8月2日出版

原版人:京橋区銀座二丁目六番地 千葉茂三郎

飜刻人、発行人:東京浅草区壽町四十三番地 山本常次郎

印刷人:京橋区銀座二丁目十二番地 宮本敦

売捌人:浅草区三好町七番地 大川屋錠吉

価格:定価金45銭


■活字とくずし字のコラボレーション

 今回私がヤフオクで購入(落札)したのは『実説名画血達磨(じっせつめいがのちだるま)』です。落札価格は2500円でした。名前からして事件のにおいがプンプンしますね。においといえば、本からカビのにおいというか田舎のにおいというか、和本のにおいがしますね(たまらん!)。

 上下巻で分かれていて、結構分厚い本です。現代の一般的なコミックよりも分厚いと思います。上巻が四十丁、下巻が三十九丁ですので、単純計算で160ページ以上はありそうです。

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写真2 今回購入した『実説名画血達磨』の上巻から。赤く囲った文字はいわゆる変体仮名です。

 この作品は、ちょうど和本から活字本になっていくカオスな時期のもので、序文はくずし字で本文は活字、挿絵で使われるのはくずし字という、活字とくずし字が入り混じっている作品です。

 赤く囲った箇所を見ますと、例えば(1)の「天道なり」の「な」は「奈」のくずし字で「な」に近いようにも「る」に近いようにもみえる形をしていますね。

 2行目と3行目の(2)「舟」みたいな形をした文字は「耳」のくずし字で「に」と読みます。人の鼻の形にも似たくずし字(3)の上の字は「多」のくずし字で「た」ですね。よって、「其信心によって......」と「あらたにして......」というふうに読めそうです。

 (4)のピーナッツみたいな字は「毛」をくずした「も」ですね。(5)のぽっちゃりしたネズミのように見えるのは「由」をくずした「ゆ」、4行目は「......く信心をもつてその霊場にあゆみをはこび」となります。漢字も旧字を使っていて、「場」の字はルビがないと「傷」?と誤読しそうです。

 (6)のアルファベットの「b」にちょんちょんとしたような文字は「可」をくずした「か」ですね。それに濁点がついているということです。よって「......強勢なりかるがゆえに」ということになります。「え」も「ゑ」を使っていますね。

 こんな感じで少し変体仮名が登場しますが、とはいえ、第一回でご紹介した『倹約末の栄(けんやくすえのさかえ)』よりは読みやすいのではないでしょうか!

■明治時代のベストセラー?!

 国文学研究資料館の「近代書誌・近代画像データベース」を検索してみると、二つの『実説名画血達磨』がヒットします。面白いことにいずれも私が今回購入したものと出版された時期が異なります。

写真3 『実説名画血達磨』明治17年3月本(個人蔵)
→近代書誌・近代画像データベースへ

 まず仮にA本(写真3)と名付けてみますが、この本は「明治十七年二月十二日御届」「明治十七年三月出版」とあります。のちほど挿絵も見てみるつもりですが、初版本だと思われます。なんと「カラー版」です(うらやましい......)。

 「大売捌所」としてお店の名前が並んでいます。蔡星慧(2012)氏の解説によると「大売捌所とは、その著書を一手販売で買い占めた時につけられた勲章で、その印刷がついてない著書は一手販売契約解禁後の重版書と見てよい」(★注1)ということで、今回の場合「東京日本橋区通三丁目 丸屋鉄次郎」を含む8カ所の書店で独占販売されていたということになります。

 発行所は「愛善社」(★注2)とありますね。愛善社は小説に対しすべて一冊か二冊の合本版の和装活版本という体裁をしていて、『実説名画血達磨』は愛善社の多色刷木版の口絵が復活した時の作品のようです(★注3)

写真4 『実説名画血達磨』明治18年2月再版本(個人蔵)
→近代書誌・近代画像データベースへ

 次にB本(写真4)はA本と同じく「明治十七年二月十二日御届」「明治十七年三月出版」とありますが、「明治十八年二月」に再版されたものですね。売捌所は「東京及各府県書肆絵双紙店」とあります。全国で販売されたものと思われます。

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写真5 同 明治21年8月出版、今回私が購入した本

 私が購入したC本(写真5)は「明治二十一年八月出版」のもので、初版本と思われるA本から四年後の再版のものですが、再版とは書かれていません。「再版と書いてないではないか!」とツッコミたくなりますね。発行人に「東京浅草区壽町四十三番地 山本常次郎」とあって、A本の「愛善社」とは異なり、個人になりました。また、売捌所も「大川屋錠吉」とありまして、「丸屋鉄次郎」ではないですね。

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写真6 『実説名画血達磨』明治22年11月出版(国立国会図書館デジタルコレクションより)

 それから「国立国会図書館デジタルコレクション」にあったもので仮にD本(写真6)と名付けますが、D本は「明治二十二年十一月出版」で、発行者が「日吉堂 菅谷興吉」とまた変わりましたね(日吉堂は明治22年刊行の高畠藍泉著『落花清風・慶応水滸伝』の奥付を見ると、東京の神田区元岩井町三十七番地とあります)。価格も5銭ほど上がりました。

 よって、出版順序はA本→B本→C本→D本となります。おそらく明治17年に出版され、大変よく流行ったので、B本にて「全国で販売」されるようになり、その勢いは4年経っても冷めることなく再版に再版を重ね、明治21年、22年にも本屋さんで販売されていたということだと思います。A〜D本まで東京で発行されていましたが、地方でこの本を探せば、地方で出版された『実説名画血達磨』が見付かる可能性もあるのではないでしょうか。

■初版本との比較

写真7 『実説名画血達磨』明治17年3月本(個人蔵)
→近代書誌・近代画像データベースへ

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写真8 今回購入した『実説名画血達磨』明治21年8月本。

 写真7は初版本と思われるA本ですが、ご覧のようにカラー版になっています(いいなぁ......)。写真8の私が購入した本と摺りの状態を見比べてみると、そんなに違いは見当たりません。おそらく同じ版木ではないでしょうか。

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写真9 『実説名画血達磨』明治17年3月本(個人蔵、部分、近代書誌・近代画像データベースより引用)

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写真10 今回購入した『実説名画血達磨』明治21年8月本。

 写真9はA本、写真10はC本です。右側の挿絵は色こそないものの、版木は同じに見えます。しかし、初版本は本文の「實説」に「じつせつ」とルビが振られていて、「第一回」の「第」の「竹」のところの字形がC本とは異なります。

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写真11 左が17年3月本(個人蔵、近代書誌・近代画像データベースより引用)、右が21年8月本。

 さて、カラー版でないからC本が劣るのかというとそうでもなく、下巻の表紙を見ると初版本より色の数が多いです!(写真11)

 二つをくっつけて比較してみたのですが、丸で囲った場所が大きな違いでしょうか(ほかにもたくさんあります!)。大きな違いはやはり「外題(げだい)がグラデーション風の摺りになっている!」ということです。また、「紫色」が使われるようになりましたね。そして「より赤く鮮やかな色合いに」なりましたね。版木は同じものではないでしょうか。大きな違いはありません。

 つまりA本とC本の違いは「挿絵の版木は同じ」というのを前提にC本になったことで「本文が改定」されたのと「色版が追加」された点を挙げることができます。詳しい本文の内容まではデータベースで全丁を公開しておらず、すぐに見られないので比較ができませんが、可能性としては一部表現などが変えられた可能性はあると思います。

■『実説名画血達磨』の元ネタと大川友右衛門と伊南数馬

 『実説名画血達磨』ですが、元本(げんぽん)、つまり「元ネタ」が存在します。近世文学の研究者である倉員正江(2000)氏(★注4)によれば、血達磨物と呼ばれる歌舞伎作品の「浅草霊験記」は寛政9年(1797)に上演されており、元ネタの本はそれ以前にあったとし、会津若松市立会津図書館蔵の『奥州会津 敵討刃之奇談(かたきうちやいばのきだん)』(末尾に「于時明和九季秋 洛松静亭」の年記。明和9年は1772年です)にまでさかのぼることができるようです。

 この連載は論文ではありませんから、これ以上深くは掘り下げませんが、とにかく1700年代後半からの約100年以上「血達磨シリーズ」が流行ったと考えられます。

 その内容は、細川家の大川友右衛門(おおかわともえもん)が自身の命に代えて主君の宝である達磨の掛け軸を火事から守るというのが大筋ですが、若衆である伊南数馬(いなみかずま)も登場します。

写真12 尾形月耕「日本花図絵」。二人の若衆の姿が見えますね。前髪はありますが月代をしている事で若衆だと分かります。
→立命館ARCのサイトへ

 ちなみに『実説名画血達磨』の絵師は尾形月耕(1859-1920)という有名な浮世絵師です。尾形は若衆の絵もよく描いています(写真12)。この尾形月耕の木版画を手に入れたという点がやはり今回大きな収穫ですね。

写真13 歌川豊国画「印南数馬」「大高主殿」
→立命館ARCのサイトへ

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写真14 今回購入した『実説名画血達磨』から「大川友右衛門」と「伊南数馬」。

 そして本編で登場する大川友右衛門と伊南数馬ですが、歌舞伎講演もあったため簡単に浮世絵を探す事ができます(写真13)。『実説名画血達磨』でも二人のツーショットが見られます(写真14)。

写真15 市川左団次の「大川友右衛門」
→TOKYOアーカイブ(東京都立中央図書館)のサイトへ

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写真16 今回購入した『実説名画血達磨』から「大川友右衛門」

 写真15は絵師未詳ですが、明治22年(1889)に描かれた市川左団次の演じた大川友右衛門です。私が購入した『実説名画血達磨』の翌年に描かれたものですね。『実説名画血達磨』でも大川友右衛門が火の中に飛び入る挿絵があります(写真16)。どこか似ていると感じてしまうのは私だけでしょうか。私は髪型が似ていると思いました(笑)

■血達磨物はあまり研究されていない

 日本国内の論文が検索できる「CiNii」によると、「血達磨」で検索すると3件しかヒットしません。また、国文学研究資料館の「国文学論文目録データベース」で検索しても2件しかヒットしません。ヒットするのは上記の倉員正江氏のものですが、その論文の最後には「歌舞伎・講談を含む『血達磨』物のその後の展開については、稿を改めたい」とあり、まだまだ掘り下げることのできるテーマと言えるのではないでしょうか。卒業論文のテーマはこうした気づきから見つかるのかもしれませんね。

 また、倉員氏によれば、「血達磨物」はさかのぼれば井原西鶴の『男色大鑑』の巻三の五「色に見籠むは山吹の盛り」と繋がるそうです。『男色大鑑』では田川義左衛門(たがわぎざえもん)と奥川主馬(おくかわしゅめ)という若衆との衆道を描いています。田川義左衛門と大川友右衛門。主馬に数馬。名前も似ていますね。倉員氏はもちろん細川から大川と来た可能性もあるので大川友右衛門の命名のネタが田川義左衛門から来ているとまでは述べられていませんが、でも確かに似ています。そういえば、『男色大鑑』は文学通信ですでに現代語訳が出ていましたね。→詳しくはこちら

 全く関係のない作品かと思いきや、ここまでつながるのか!と感心しました。和本とのめぐり逢いって本当に面白いですね。

★注★
注1★蔡星慧『出版産業の変遷と書籍出版流通 ―日本の書籍出版産業の構造的特質―増補版』出版メディアパル、2012年、216頁。
注2★山田俊治(2015)氏によると、愛善社は明治17年(1884)に『実説名画血達磨』を出版する以前に「芳譚雑誌」という文学雑誌を刊行していて、その雑誌の明治13年(1880)12月21日刊行の第178号には雑誌で連載していた小説の単行本二冊(転々堂主人(高畠藍泉)著・大蘇芳年・落合芳幾画『梅柳春雨譚』と、転々堂主人閲・倉田藍江編輯・松斎吟光、落合芳幾画『近世烈婦伝』)の広告が載りそれ以降自社の雑誌で連載されていたものを出版するようになった経緯があると指摘しています(勉誠出版編集部編『「書」が語る日本文化』勉誠出版、2015年、39頁)。
注3★注2同書、41頁。
注4★倉員正江「実録「細川の血達磨」の成立と浮世草子―『金玉ねぢぶくさ』と『男色大鑑』を中心に―」『国文学研究』131、2000年、59-69頁。


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私のくずし字学習法

1.まずはくずし字を見つけてみましょう

第一回の日本書房編、第二回のヤフオク!編は、いかがだったでしょうか!

 くずし字を読めるようになるには、まずくずし字を見つけなければなりません。そこで、初学者の方には、今回私が購入したような和本から活字本への過渡期にあった明治20年代前後の作品をおすすめしたいと思います。大きなメリットとして一つは「活字とくずし字が混ざっている」という点です。つまり「読めるところは読めて、読めないところも文字の形がはっきりしていて分かりやすい」ということです。さらにもう一つあげると「購入しやすく、日本中に結構残っている」という点です。

 『実説名画血達磨(じっせつめいがのちだるま)』もインターネットで調べると販売している古書店を難なく探すことができました。お値段も大学の参考書程度ですね。とはいえ、明治時代のものですから表現や価値観が少しずれるところがありますから、辞書は必要ですね。

 「自己紹介編」では私が大阪で初めて購入した和本について紹介しました。その和本は江戸時代後期に刊行されたもので、現代の日本語の活字と似ているところが多く、漢字に対してもいわゆるルビが振られていて、そういうところも含め読みやすかったですね。

 もし私が最初に買った和本が浄瑠璃本や古今和歌集や俳諧書等だったら、途中で興味を失くしていたかも知れません......。

 もちろん人によっては、歌集や、例えば「源氏物語の江戸時代の注釈書が読みたい」、「遊女の手紙が読みたい」とさまざまな好みはあると思いますが、最初はやはり読みやすいものの中から、自分の興味に沿って探してみることをおすすめします。

2.くずし字を読むためのツール

 読みたい和本が用意できたら、読むための助っ人を呼ばなければなりません。まずおすすめのくずし字辞典は、児玉幸多著『くずし字解読辞典 普及版』(東京堂出版、一九九三年)と、伊知地鉄男著『増補改訂 仮名変体集』(新典社、一九六六年)です。どちらもそれほど高いお値段ではありませんので、学生の私も手が届きました。

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写真1 くずし字学習アプリ「KuLa」

 また、くずし字を勉強できるアプリがあります。「KuLa」(写真1)というアプリは「あ行」から「わ行」まで、頻出度の高いくずし字の用例をまとめてくれていて、なおかつ用例を挙げてくれるので、とても勉強に役立ちます。また、「テスト機能」があって電車を待つ時間などに少しずつ繰り返すことでくずし字の読解力が上がります。私も最初はこのアプリで勉強しました。

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写真2 木簡・くずし字解読システム「MOJIZO」

 次に、くずし字がまったく読めない、辞書でも探したけどよくわからないという場合、ヒントとして使える「木簡・くずし字解読システム MOJIZO」(写真2)があります。なんとくずし字一文字分の写真を撮ってアップロードすれば、それと類似するくずし字をいくつが並べてくれます。とても便利ですね。

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写真3 「日本古典籍くずし字データセット」

 ある程度「この文字かな?」と予想がつく場合は、人文学オープンデータ共同利用センターで公開されている「日本古典籍くずし字データセット」(写真3)のデータベースから漢字一文字に対して検索をかけることができます。

 かなり多く用例を挙げてくれるので、適当に漢字一文字分を入力して勉強するというやり方もできます。また、データセットでは井原西鶴の『好色一代男』や、曲亭馬琴の『椿説弓張月』などの古典籍を「KuroNetくずし字認識ビューア」で原本とくずし字を対照しながら読むことができます。もう目から鱗ですね。無料で読めるなんて......。これでくずし字の一通りの用例やくずしのパターンに馴れることができます。

3.本格的にくずし字に挑戦

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写真4 カフェでくずし字にチャレンジ!2018年の春、大学入学前の写真。

 さて、準備が整ったらいよいよくずし字とにらめっこですが、私は部屋の中だとどうしても気が緩んで数ページ読むと寝てしまうため、よくカフェなどでコーヒーを一杯飲みながらゆったりと読み進めるほうです。自分自身が一番落ち着く環境を作ってから読みはじめるのは大事だと思います。

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写真5 上記で紹介した「日本古典籍くずし字データセット」から「る」と「事」。

 くずし字を見ていると似ている形がよく出てきます。まずはこれに馴れる必要があります。たとえば「也」という字と「や」が似ているとか、「る」と「事」が似ているとか「まるで違う文字ではないか!」と思われるかもしれませんが、くずし字でみるとかなり似ているのです......。私もよく間違えます。読むのに慣れていても流し読みするとかならずこけてしまうのです。

 そんな風にくずし字と格闘するうちに、頻出するくずし字はルビがなくても読めるようになります(例えば「是」「其」「也」など)。ここまで来たらだいぶ慣れてきたはずです。

 また、私の独自の勉強法になりますが、その日その瞬間ふと開いたページから読むということをしています。1ページ目から読まなければいけないという気持ちは時として本を開くハードルを上げてしまうと思います。だから、その日の気分で、以前読んだページでも良いのでパラパラと開いて、とにかくくずし字を読みます。また、最後のページを先に読んでしまって一度読み終わった気分にしたり、途中から読み進めて、前の内容が気になれば前のページに戻ったりしています。

4.さまざまなくずし字に挑戦

 くずし字に慣れてきたら、いろんなくずし字を読んでみるのもいいでしょう。私は、自分の興味に近いものですと、遊女の手紙や浄瑠璃の台詞が書いてある浄瑠璃本などをよく目にします。

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写真6 近松門左衛門『国姓爺合戦』(出版年不明、国文学研究資料館蔵)

 写真6は教科書などでも見かけたことがあるでしょう、近松門左衛門の『国姓爺合戦(こくせんやかっせん)』ですが、文字がグニャっとなっているのがお分かりいただけるでしょうか。上と下の間隔がかなり狭めで、11行ずつ書かれてあり(ほかの浄瑠璃本では8行などもあります)さらに読みづらく見えるのではないでしょうか。

 また、ルビが振られてない漢字も多いため、ある程度くずし字に慣れてからでないと難しいかもしれません。読むコツは実は「声に出して読んでみる」ことです。浄瑠璃の台詞が書かれてありますから、声に出して読んでいくとどこで文章が切れるか、また、掛詞になっているかどうかも気づけるようになります。

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写真7 歌川豊国『古今名婦伝 新町の夕霧』(1861年、国立国会図書館デジタルコレクションより)

 写真7は大阪の新町の夕霧という遊女が恋文を読んでいる姿です。私が想像するラブレターは下駄箱に入っているようなものを想像しますが、江戸時代のラブレターは横に長い形をしていますね。江戸時代にはこうした恋文の指南書などもあったくらいで、手紙が人々にとってどれほど重要だったか伝わってきます。

 こうした資料はインターネット上で公開されていて、私の母国からも閲覧できるためとてもありがたいです。今もインターネット上で和本をデータベース化し、オープンソースとして提供しようとする動きは研究者の間で行われているそうです。私はそのデータベースを研究者が使うものだと考えるのではなく、一般の方々もそうしたデータベースからご自身の職業と結びつくような(例えば、美容師さんなら江戸時代の髪の手入れに関しての情報とか)ものを得られるとよいのではないだろうかと思っています。

 これからはさらに技術が発展し、インターネット上から簡単に和本を閲覧でき、くずし字に触れることができるようになると思います。私のような学生も、ただ享受する立場でいるのではなく、積極的にその流れに参加し、技術を発展・維持していくべきではないでしょうか。

 また、世界にその技術をもとに自国について発信していくことが大事だと思います。韓国でも歴史書などのデータベース化は以前から進んでおり、『朝鮮王朝実録』等はインターネット上で全文一般公開されています。歴史書のデータベース化で日韓でシンポジウムなどが開かれても面白いと思います。ただ、日韓でシンポジウムをするとき「和本」や「朝鮮本」などと日本内で使われる言葉で話をしては誤解が生まれるかも知れないため、本に対する書誌学的「用語」も国際的観点から改めて行くべきで、これは今後の課題で私達が解決しなければなりませんね。

参考文献(本文中に未掲出のもの)
国立国会図書館「本の万華鏡」「第1章 江戸時代の恋文あれこれ」
https://www.ndl.go.jp/kaleido/entry/26/1.html


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今日の和本日記

 長い文章になりましたが、今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。

 第一回目以降多くの方々が応援・感想など書いてくださいました。本当にありがとうございます。今回は昨今のコロナウイルスの感染拡大もありまして、有り余る行動力をインドア的な行動力に収めました。今回の記事でご紹介したように、和本ならインターネット上でも買えますから(出品者は書店さんであることが多いです)無理をしてまで外を歩き廻ることは、現時点では控えたほうがよいかもしれません。

 私事ですが、この後8月20日に二回目のワクチンを接種しに行きます。皆さんもどうかお元気で、ウイルスが収まったらぜひ和本を探す旅に出かけてみましょう!

 今回特筆すべきは、偶然購入した本が再版本ではありながら、尾形月耕の木版画が付いていて多色刷(それも初版本よりもきれい)であった点がひとつと、この本と同じ出版日のものが国立国会図書館デジタルコレクションにありますが、モノクロで公開されていて、奥付が少しだけ違うので、同じ本は公共機関で公開されていない可能性が高いということのふたつです。実物に触れて読めるのは本当にうれしいですね。

 最後に「明治時代の本の出版事情はどうだったのだろうか」ということに、とても興味が沸いてきました。私が大学で主に勉強している近世初期の日本文学作品では著作権という概念は特になく「あれ、この挿絵どこかで見たような......」とか、「ここの文章、この前の授業で読んだ箇所と同じでは......」というのがしょっちゅうありました。それが明治時代になると、発行人がいて、編集者がいて、販売所がいてと、色んな人が関わってきますから、著作権には江戸初期よりも厳しくなったことでしょう。違う出版社で再版され、また再々版されるということも面白いです。

 次回は、できる限り感染防止対策をしっかりした上で、古書店や、または図書館で和本に触れてくることができたら思います。お楽しみに!