【連載】vol.1「日本書房(神保町)」 - 現役大学生が有り余る行動力で和本に触れてみた件ーー和本探しに出かけてみよう!ーー #和本有り
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vol.1「日本書房(神保町)」
和本が好きないち大学生が、
どこに行けば和本を見て、触れるのか?
どこに行けば和本を買うことができるのか?
小中高生・大学学部生向けに伝えるべく、はじめた連載、
第一回は神保町にある日本書房さんです。
和本って普通にお店に置いてあるんです。
しかも意外と安かったりもします。
ぜひお読み下さい!
日本書房
〒101-0065 東京都千代田区西神田2-8-12
TEL: 03-3261-2744 FAX: 03-3261-2738
Email: nihonsho@xc4.so-net.ne.jp
ホームページ http://nihon.jimbou.net/
営業時間 10:00-18:00
定休日 不定休
最寄り駅:
神保町駅(東京メトロ半蔵門線、都営地下鉄新宿線、都営地下鉄三田線)
水道橋(JR総武線・都営地下鉄三田線)
インタビュー
──日本書房の西秋幸男さんにお話をうかがいました!
■ご自身とお店について教えて下さい。
ゆきおさん:お店は昭和23年、私の祖父が開業しました。祖父が初代で、私の父が二代目になります。その子供で今ここにいる兄の輝彦が現在は社長で、私はその弟です。国語・国文学に関するものはすべて在庫として置いておこうというスタイルの本屋です。
ゴン:平安時代や鎌倉時代、近代などという時代区分に限らないということでしょうか。
ゆきおさん:そうです。国語・国文学の研究書が店の基本商品です。とくに近代文学の初版本などは兄が担当していて、私が和本などを扱うというスタイルです。
ゆきおさん
ゴン:日本書房さんのツイッターをフォローしているのですが、ラーメンが好きとありました。ゆきおさんの趣味はラーメンでしょうか。
ゆきおさん:趣味というほどではなくて(笑)。ラーメンに関しては今は新規開拓はほとんどしていないですね。昔から醤油はココ、豚骨はココと決めている程度のものです。
■お店にかわいい猫ちゃんとワンちゃんがいると聞いたのですが。
ゆきおさん:今はコロナでお店を換気しなければならないので、猫(ジーナ)は外にでてしまう恐れがあるので連れてこれませんが、週に一回、日曜日にししまるを店番犬として連れてきています。
ししまるちゃん(8)
ゴン:そうだったんですね!ししまるは今年でいくつになったのでしょうか。
ゆきおさん:この間8歳になったばかりです。
ゴン:ししまるは外に出たりしないんでしょうか。
ゆきおさん:ししまるはおとなしいので、お店に連れてきてもいいかなと。
ゴン:ジーナちゃんは活動的なんですね(笑)。ジーナちゃんはいくつになったんでしょうか。
ゆきおさん:同じく8歳ですね。
ゴン:同い年でナカヨシそうですね!喧嘩とかもしたりしますか?
ゆきおさん:喧嘩は......基本しないです(笑)。
(間が気になりつつ、ししまるの「それ以上聞くな」という視線を感じ、次の質問に移りました)
■神保町はどういう町でしょうか。
ゆきおさん:実は日本書房は町名でいうと西神田という町になって、神保町からは歩いて4、5分の距離にあります。私はここで生まれ育っているので、なんでしょうね......地元なのでうまく説明できないんですけれども、本屋とスポーツ用品店がたくさんある町ですよね。学生街だからということなんでしょうけど。実際は昔に比べて学校がだいぶ移転しちゃってて、イメージしている学生街とはちょっと違うかもしれませんね。昔の名残のある学生街っぽい飲食店なり店なりはたくさんあるんでしょうけど、企業とかも入ってきたから、社会人向けの店も多い感じの町かなと思います。
ゴン:たしかに、スポーツ用品店も結構見かけました。神保町に学生は来るのでしょうか。
ゆきおさん:一定数いるんじゃないでしょうか。神保町はほかの学生街に比べて広い町だと思うので、学生はたくさんいると思うのですが、広い分、普通の町と見た目は変わらない気がします。
ゴン:日本書房さんには学生も来店していますか。
ゆきおさん:どうなんでしょうかね。見た目的にまず学生がどうか分からないのですが......。
ゴン:制服を着た学生ならどうでしょうか。高校生とか。
ゆきおさん:高校生はちょっとレアかもしれませんね。ゼロではないですけれども。学部生でも専門性の高い本が多い気がするので。でも高校生でも読める本はたくさん用意しているので、ぜひ来ていただきたいですね。
■日本書房にはどのような和本がおいてありますか?
ゆきおさん:そうですね。気軽に買えるような金額設定の本を置くようにはしています。
ゴン:(和本の山を見ながら)そしてサイズ別に整理してありますよね。
サイズ別に詰まれた和本
ゆきおさん:そうですね。大本(★注1)、半紙本(★注2)、中本(★注3)、小本(★注4)かな? 中身できっちり整理するほどの量はないんですね。ありとあらゆる本があるので、全部見ようと思えば見れるくらいの量で揃えています。だから、掘り出しものも見れるかなと思います。
ゴン:後ろの棚にある和本は結構高い値段でしたけれども、どういう本でしょうか。
後ろの棚にある本
ゆきおさん:そうですね。多少値は張りますけども、そちらはネットに在庫として登録している本ですね。ネットは登録する作業や売れた時の処理などで手間が増えるんです。ネットに登録していないと、新入荷を素早く出せますし、値下げも自由にできるので、そういった意味では(先ほどの和本の山は)掘り出し物が多いコーナーと思っていただけるとありがたいです。
■お店で和本に触れる際の注意点やマナーなどはあるでしょうか。
ゆきおさん:基本的には自由な感じで、どうぞお手に取ってごらんくださいというスタイルです。たぶん大学とかで和本を扱うマナーというか作法は教わるんじゃないでしょうか。
ゴン:ないですね......(一部のゼミや授業でするくらいかなぁと)。
ゆきおさん:よく言われるのは手を洗うとかですね。いずれにしてもどうぞご自由にという感じなんですけれど、和本に限らず本は水がNGなので、飲み物とかは絶対こぼさないという自信があっても、手に持ったまま店の中で本を見られるとこっちはドキドキしてしまいます。李下の冠じゃないですけれど、やはりどこかにしまうなり、置いたりしたりほしいかなと。
ゴン:タピオカとは一緒に入れないということですね(笑)。
ゆきおさん:タピオカはもう飲まないんじゃないですか学生さんは(笑)。お店によっていろいろあるので、あんまり私からはどうのこうのとは言えませんが、いろんなお店に入って学ぶしかありませんね。
■学生が一人で古書店に来るのは大丈夫でしょうか。
ゆきおさん:どうぞどうぞ、ご自由に来てください!(笑)
■おすすめの和本を紹介してください。
ゆきおさん:学生にオススメな本でしょうか。今はちょうどとりわけオススメできるような本はなくて、こればっかりはやはりタイミングですね。たまたま自分が欲しかった本が古本屋にあったということもあるので、よく古本屋に通うのがいいと思います。うちは外にも和本をおいていて、これなら高校生でも手が届くかなと思います。(外に移動)
外に積み上げられた和本(左側)。特価本コーナーには一般の書店ではなかなか見られない本が並んでいます。
ゆきおさん:江戸時代ではないですけど、明治時代の本とかですね。あと『戯場訓蒙図彙(しばいきんもうずい)』とかですね。芝居の衣装とかの百科事典で、明治摺りで端本(はほん)(★注5)ではありますけどね。
『戯場訓蒙図彙』巻三。歌舞伎関連の挿絵がたくさん載っています。
ゴン:ああ!『戯場訓蒙図彙』ですね!授業で取り上げられていた記憶があります。ゼミの授業で学生が好きなページを選んで翻字(ほんじ)(★注6)し、言葉の意味を調べ、絵に注釈をつけるということをやりました。懐かしいですね。ここにあったとは......。
ゆきおさん:そうでしたか。今回この山積みの中では、この本とこっちの本が目玉ですので、隠しておきますね(笑)。
(ゆきおさんは、目玉の本を山積みの真ん中らへんに隠しました(笑))
ゆきおさん:あ、昨日入荷したこの『日本外史』なんてどうですかね。有名な本ですが、日本の著作だけれど中国にいって出版された和本というか「唐本」なのでしょうかね。また、ショーケースの中は毎月テーマを変えて中身を変えたりしていますが、今月は伝本が少ないと言われているレアな本を揃えています。
8月のショーケース。テーマは「伝本の少ないと思われる本たち」。ショーケースの中身は毎月入れ替えられる。
ゴン:伝本とはどういう意味でしょうか。
ゆきおさん:伝本というのは、今現在まで伝わって、存在している本ですね。今月のショーケースは、その伝本が少ないレアな本ということです。「日本古典籍総合目録データベース(★注7)」を調べると所蔵先が出てくるんですけれど、それが少ないので、珍しいかなと思ってならべてみました。
ゆきおさん:この本(鼻山人(はなさんじん)作『孝婦貞鑑・実之巻(こうふていかん・じつのまき)』)は人情本なので基本は中本形式なんですけれども、小本形式という点がレアですね。
『孝婦貞鑑・実之巻』。小本形式の人情本という点がレア。
ゴン:一万円と少し......これならなんとか大学生でも買えそうですね!
ゆきおさん:そうなんです。所蔵先がまったくない本もあります(『中臣祓略説(なかとみのはらえりゃくせつ)』=前出ショーケース中央)。こういう本は稀かもしれないですね。
ゴン:つまり、「日本古典籍総合目録データベース」に載っているということは、本の存在は知られていたけど、どこにあるか分からないということだったんですね。
ゆきおさん:そうですね!その通りです。
ゴン:所蔵先がないにも関わらず、この値段は安すぎではないでしょうか。
ゆきおさん:そうですね。ただ、「日本古典籍総合目録データベース」に登録されている所蔵先は公共の機関だけですから、個人の持ち主がいるかもしれないので、実はそんなに珍しいものでないのかもしれないということですね。
■最後に、和本の魅力とはなんでしょうか。
ゆきおさん:私は基本的に本屋の商売人ですから、どうしても和本の魅力の大半は商業ベースを中心に考えてしまいます。ですが、それを抜きにしたとしても、今の世の中は分かりやすいものであふれていますが、昔のものはやはりそう簡単に理解できないものが書かれてあったりするじゃないですか。くずし字という壁もありますし。もともと古本屋って分かりやすいものを創作するようなものとは対極にあるような人たちが集まるような場所なので、和本を扱っているとそういう方々と会話したり教えてもらったりするというのがすごく楽しいと考えています。
過去の事象など分からないことの方が多いですし、学術的に言語化して解明できるものは稀だと思うんです。ただ、証明できなかったとしても、我々の前には、和本という「かたち」があったり、そこに記された「文章」があったり、描かれた「もの」があるんです。それらを尊重し、理屈で分かった気にならず、謙虚に味わい、考え続けていくことが肝要なのでは、というような話に、とても共感しました。「和本」というものが持つ魅力の一つだと思っております。
ゴン:和本からつながる人々......私もこうした経験を通して多くの方と和本について意見が話せたらと思います。今のお話の記された「文章」、描かれた「もの」というところがまた和本の魅力かもしれないですね。東アジアの中で日本ほど挿絵と文字をコラボレーションして本を作った国はないのではないでしょうか。現在も日本は漫画の国として知られていますが、そのルーツは古くからの絵と文字の融合から来ているのかもしれないと思いました。
インタビューは以上となります。本日はお忙しいところどうもありがとうございました。ゆきおさんとししまるちゃんとで写真を撮りたいのですが大丈夫でしょうか。
ゆきおさん:お疲れ様でした。もちろん、いいですよ。
ゆきおさんとししまるちゃんと私
──ありがとうございました!!
★★★★★★★★★★★★★★★
今回購入した本
写真1 『倹約末の栄』(1842年作)。Surface Proと並べてみた。
今回購入した和本がこちら、『倹約末の栄(けんやくすえのさかえ)』!
お金に関する本です!私の興味と一致しているのでバッチリですね。
『倹約末の栄』(けんやくすえのさかへ)著者:山田野亭(山田案山子)
サイズ:16.5㎝x11.7㎝。小本。
刊行年:1842年(天保13年)大阪心斎橋通ばくらう町、伊丹屋善兵衛、同心斎橋通ばくらう町、鹽屋喜兵衛
ジャンル:心学(日本古典籍総合目録データベース)
外題:御免 倹約末乃榮(けんやくすえのさかへ)全
見返し:質素天下萬代願。倹約人間一生實。
柱題:けんやく
頁数:全20丁
価格:1500円(税込)
まず、匂いですが、ん...あまりしません(たまらん!)。状態は、ページをめくったせいでページの下のところが汚れています(写真4参照)。よく読まれた本という証拠ですね。表紙にあるタイトルを「外題(げだい)」と言います。今回は摺ったもののようで、他の和本ではこれが表紙とは別の紙を使って貼り付けたものもあります。その場合はそのタイトルの紙を「題箋(だいせん)」と言います。
ここで、日本史好きな方はすでに「天保」と「倹約」でお気づきでしょうか。この本は1842年のものということで、いわゆる「天保の改革」(1830~1844年)の時代のものですね。また、1841年には老中の水野忠邦によって倹約令が出されましたね。よって、この本はその翌年の本ということになります。ただし、大阪で作られた本ですから、どれほど影響があったかは難しいところでしょう。
表紙の上になにか文字が書かれていますね。私の下手な読解力で読んでみますが、
質素倹約を守れば一生安楽なり此書は倹約のあらましを記し且いろは歌たとへ草等を以て女子童を教諭すべき一助に供え備ふる者也
と書かれています。要は「児童用教科書」のようなものですね。
本のサイズは「小本(約17㎝x12㎝)」にあたるので、持ち運びに便利!着物の中にも入れられる!ということで持ち歩きながら読めるサイズとなっています。
一方で、虫食いはあまりなく、全体的に汚れてはいますが、文字も読めるし綺麗な方だと思います。落書きがあるのもまたかわいい。
■元の持ち主は大阪の人だった?!
表紙の下には筆で「川上九〓太、アホイケ?」と筆で落書きされていますね(写真1)。どうやらこの「川上」という方は前の持ち主ではなく、この本を借りていた人のように見えます。
写真2 裏表紙にも落書きがある。なんて書いてあるんだろう。
写真3 奥書には「川上」というハンコが数回押されている。
裏表紙(写真2)には「大阪市川上サマ...」と書かれているように見えます。奥書(写真3。本の一番後ろのページ)には「川上」のハンコが何回も押されています。この本の版元(出版社)が大阪市なので、大阪で作られて大阪で読まれた本が、日本書房さんを経て、今では東京にいる私の手にあるということですね。なんか興奮する...!
■気になる本の内容
まず、本を開いて1丁表をみると、最初にこのように書かれていました(ちなみに、和本は「袋綴じ」になっていて、今でいう1頁2頁にあたるところを1丁表、1丁裏のように呼びます。3頁は2丁表になりますね)。
写真4 1丁表の書き出し。いっしょにくずし字解読に挑戦してみませんか?
歌(うた)は小児(こども)まで学(おほ)へ安(やす)きものなれば、けん約(やく)の事をいろはうたにつゞりて左にしるす。是(これ)を幼稚(いとけなき)小児(こども)にもそへ、乳(ぢ)の伽(とぎ)によみて聞せおぼへさせれば、おのづずからけんやくの道を弁(わきま)へせい人(じん)の後(のち)の為(ため)ともなるべし。(句読点は筆者によるもの)
なるほど。要は、いろは歌は子供もよく覚えているものだから、ならば倹約の事をいろは歌にして覚えさせちゃおうという考えなんですね。なんというコラボレーション。さらにいうと母乳を飲む時に読み聞かせれば、自ずから倹約の道をわきまえて、大人になったとき役に立つということですね。子供の意志はいずこへという気もしますが、こうした倹約の知識は無条件に良しとされていたのかもしれませんね。
写真5 1丁裏、2丁表。下の方に解説を、上にいろは歌というスタイルですね。
いろは歌を全部紹介するのは難しいですが、今回は「い」「ろ」「は」と、個人的に面白かったものをあげてみたいと思います。まずは「い」。
いつまでも わすれず守れ 倹約は 身をあんらくに する宝なり
きれいに5・7・5調でそろっている...!とまずは感心しながら、確かに最初の「い」に来る歌としてピッタリな歌ですね。「安楽」という言葉は今ではよく耳にする方ではないですね。古典を読んでいると今ではあまり使わない表現も登場して面白いです。次に「ろ」!
ろんごをば よくよまずとも けんやくを するがろんごの 道にかなふぞ
出ました! 子供たちは『論語』が嫌いだったのでしょうか。『論語』を読まなくても倹約をすればそれが『論語』で教えていることなのだ、ということですね。次に「は」。
はき物や あたまのかざり 身のまはり とかく質素を 第一にせよ
身の回りの服装を質素にせよ、ということですね。これは現代においても納得がいきますね。
■私が選んだ「倹約のいろは歌」
このように始まる『倹約末の栄』ですが、私が個人的に面白いと感じたのは、例えば「け」からこの歌。
けんやくの 札はりおいて 内証で おごるは上(かみ)を あざむくの罪
ここで「上」はいろんな解釈ができそうではありますが、私はあえて「妻」と解釈してみます。私もいつかは結婚して妻に内緒でへそくりを貯めて、憧れていたあのベースギターや欲しかったゲームソフトを買う人生を過ごすでしょうね...(20年後の私、どうですか? 気づかれてはいけませんよ!(笑))。
それはさておき、倹約すると決めておいてこっそりまた贅沢するのは確かによくないですね。私も今月はお小遣いで二万円だけを使おう!と言っておきながら、はじめの週でほとんど使い切ったりしてしまいます...節約って難しい。この本は私の痛いところを突きますね。反省します...。
また、これもなかなか面白いです。「や」からこの歌。
やすいとき 買しめ高値 まつ人を 貪欲秘儀の 鬼といふべし
安い時に物を買って高い値段になったらそれを売る。いわゆる「転売」が江戸時代にもあったのですね。コロナ禍でマスクの買い占め問題が記憶に新しいです。これについては次のような解説が付け加えられていました。
安き物を買い込み、高値を待って売り、その身一分の利をのみ秤て、人の痛みを思わざるは、はなはだ不正路(ふしょうろ)にて吝嗇(りんしょく)とも奸商(かんしょう)とも唱へるなり。
この「不正路」という言葉。現代の日本ではあまり聞かないような気がしますね。「吝嗇」とはいわゆる「ケチ」の意、「奸商」は不正をはたらく「悪賢い商人」という意味になります。自分の利ばかり気にして他人の痛みも考えず道を外れた商人は、当時においても批難されていたことがこの文章からも伝わってきます。
この歌とつながるような内容でこれもありますね。今度は「う」です。
売り買いは とかく正路を まもれ人 不正路の利は 盗み同然
売るのも買うのも正直にしなさい、不正で稼ぐのは盗み同然のことだ、という忠告ですね。
ここまでいくつかこの本に収録されている倹約のいろは歌を見てきました。受け取り方は人それぞれとはいえ、現代においても十分通じる内容でしたね。
以上、私が選んだ面白い倹約のいろは歌でした。
この本は本当に面白いですね。私自身ははたして倹約しているのだろうか。必要でもない服を買いすぎてはいないだろうか。自分が捨てた服が海を渡って、例えばガーナにあるとある川を汚してはいないだろうか、などと考えてしまいます。また、百円一枚でも大切に考えて使っているのだろうか、などと改めて考えさせてくれる一冊でした。
★★★★★★★★★★★★★★★
今日の和本日記
いよいよ第一話が始まりました!SNSでたくさん応援と期待してくださった皆さんありがとうございます。今回は日本書房さんにお邪魔し和本に触れて参りました。ししまるが可愛すぎて「キュン死」寸前でした(笑)。最近はとにかく暑いですね。雲一点ないとはどういうことかと。熱中症には気を付けなければなりませんね。
今回のの記事で「和本って普通にお店に置いてあるんだ」「和本って意外と安いんだなぁ」などと何か皆さんが和本を知るきっかけになれたら限りなく嬉しいです。
今後の予定ですが、コロナウイルスで中々図書館などの公共機関にはいけないので、感染状況を確認しながら柔軟に「有り余る行動力」で頭から和本にダイビングしようと思いますので、これからもよろしくお願いいたします。
また、今回登場した「ボール表紙本」という本もとても面白いです。活字になったからといって簡単に読めるかと思いきや変体仮名交じりで書かれてあるんです。そして、いわゆる「朝鮮本」(この「朝鮮」という表現は実は私はあまり好きではありません)や「唐本」などにもたくさん触れてみたいですね。いずれ紹介できたらと思います。
では、来週もどうかお楽しみに!
★注★
注1★大本
縦横約27㎝x18㎝で現在のB5判(週刊少年ジャンプなど)の本とサイズが近いです。和本を作る時に使われる紙は大きく美濃判紙(約27㎝x36㎝)と半紙判(約24㎝x32㎝)がありますが、大本は美濃判を半分に折ったサイズです。約27㎝x18㎝の中で、江戸初期では大きく、幕末になるにつれ小さくなっていきます。江戸前期の仮名草子や浮世草子、漢詩文集や和歌和文集などのジャンルがこの大本にあたります。
注2★半紙本
半紙本は半紙判(約24㎝x32㎝)ものですから、約24㎝x16㎝
ほどで、現在のA5判(文芸春愁などの文芸誌など)と近い大きさです。ジャンルとしては読本、談義本などがこのサイズで、江戸期を通して最も普通の大きさだと言えます。
注3★中本
大本の半分の大きさです。縦横約18㎝x13㎝ほど。現在のB6判(少し大きい漫画の単行本など)と近いサイズです。草双紙や、江戸後期の滑稽本、人情本などがこの中本にあたります。
注4★小本
半紙本はさらに半分にしたサイズで約16㎝x12㎝です。現在のA6判(文庫本など)より少し大きいサイズです。洒落本が主にこのサイズで、コンニャクとほぼ同じサイズであったことから蒟蒻(コンニャク)本とも呼ばれたそうです。
注5★端本(はほん)
全巻揃ってなく、欠けている本のことを言います。
注6★翻字
くずし字を現代日本語の文字に書き換えることを意味します。広い意味ではくずし字を活字になおすことに限りません。例えば、「ゑ」という字のくずし字を「ゑ」となおすのが翻字で、「ゑ」を現在の仮名遣いで「え」となおすことは「読み下し」と言います。
注7★日本古典籍総合目録データベース
岩波書店から刊行された『国書総目録』をデータベース化したものです。『国書総目録』は日本人が1867年まで著述・編纂・翻訳した約50万点の本を分類し、その情報と所在地が書かれてある本です。
つまり、古典籍を調べる際、どこの公共機関で所蔵しているかすぐ検索できるためとても便利です。
参考文献
平凡社『改訂新版 世界大百科事典』(平凡社、2007年)
長島弘明・清登典子編『近世の日本文学』(放送大学教育振興会、1998年)
中野三俊『書誌学談義 江戸の版本』(岩波書店、1995年)
橋口候之助『和本入門 千年を生きる書物の世界』(平凡社、2011年)