全訳『男色大鑑』予告的あらすじ公開!★巻3の5「色に見籠むは山吹の盛り(いろにみこむはやまぶきのさかり)」

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井原西鶴が1687年に描き出した、詩情あふれる華麗・勇武な男色物語『男色大鑑』を現代に甦えらせるプロジェクトが始動します。
つい先日、染谷智幸・畑中千晶編『全訳 男色大鑑〈武士編〉』(文学通信)として、〈武士編〉を刊行しました。後半の歌舞伎若衆編は2019年6月刊行予定です。
『男色大鑑』の、若衆と念者の「死をも辞さない強い絆」は、作品中、常に焦点となっている三角関係の緊張感とともに、長い間、誠の愛を渇望して止まぬ人々の心を密かに潤し続けてきました。
そんな作品群を、分かりやすい現代語と流麗なイラストによって新たに世に送り出します。

ここでは、そんな『男色大鑑』のあらすじを予告編的に紹介していきます。今回は巻三の五を紹介いたします。

※あらすじの一覧は以下で見ることができます。
https://bungaku-report.com/blog/2018/07/post-235.html

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■巻三の五

色に見籠むは山吹の盛り(いろにみこむはやまぶきのさかり)
純愛か狂気か、ひたすら見つめ続けた、最強の追っかけ

 訳あって浪人した田川義左衛門(たがわぎざえもん)は、奉公先が決まり、幸せな春を江戸で迎えていた。ところが、目黒不動境内である大名のお小姓(こしょう)奥川主馬(おくかわしゅめ)に一目惚れし、仕事も断ってその大名の屋敷の門前に毎日たたずんでいた。大名が参勤交代で国元出雲(いずも)に帰ると、後を慕ってついていき、江戸と出雲との往復の間、ちらりといとしい君のお顔を見ることもあったが、言葉を交わすことなどできずに三年たった。主馬も自分を見つめる男の視線に気づきながらも、監視役がいる中では何もできずにいた。

 ある時、主馬は武士としての腕試しに人を斬ってみたいと言い、門前にいる落ちぶれた男に声をかけさせた。斬られることを承知した男は義左衛門であり、主馬はやっと彼に言葉をかけることができた。義左衛門の長年の思いを知った主馬は、若衆の意地としてその思いに応えねばならないが、それは殿への不義になるので、お手討ちにしてほしいと殿に訴えた。殿はしばらく思案して、主馬に閉門(へいもん)を申しつけた。主馬と義左衛門は死を覚悟して契りを交わしたが、主馬は許され元服(げんぷく)することになり、義左衛門はその後大和に隠棲(いんせい)して心静かに一生を送った。

 義左衛門は、血気盛んな若者と紹介されている割に、主馬に対する態度が大変受け身である。かつて四国で名高い美少年だったとあるので、当然兄分を持っていただろう。今は成人したので今度は兄役となるはずだが、主馬に対する思いは念者だったのか。巻二の一や二の三では思う相手をひそかに見守る行動が描かれている。しかし、義左衛門はただ見ているだけであり、主馬の刃で殺されても幸せだと思えるのだ。義左衛門は若衆心を捨て切れず、武士として普通に生きていくことができなかったのかもしれない。若衆という期間に限定された男色について考えさせられる一編。


★早川由美(はやかわ・ゆみ)奈良女子大学博士研究員・愛知淑徳大学非常勤講師。

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■編集部より

2018年12月に、『男色大鑑』八巻中、前半の武家社会の衆道に取材した作品四巻までを収録した〈武士編〉を刊行し、後半の四巻を〈歌舞伎若衆編〉として、2019年6月に刊行します。

イラストに、あんどうれい、大竹直子、九州男児、こふで、紗久楽さわ、といった豪華な漫画家陣が参加。現代語訳は、若手中心の気鋭の研究者、佐藤智子、杉本紀子、染谷智幸、畑中千晶、濱口順一、浜田泰彦、早川由美、松村美奈。

このプロジェクトが気になった方は、ぜひ以下の特設サイトをご覧下さい。
文学通信

また本書の詳しい紹介はこちらです。ご予約受け付け中です!
●2018.12月刊行
文学通信
染谷智幸・畑中千晶編『全訳 男色大鑑〈武士編〉』
ISBN978-4-909658-03-6 C0095
四六判・並製・240頁 定価:本体1,800円(税別)
※ご注文受付中!
amazonはこちら https://www.amazon.co.jp/dp/4909658033/