【連載】vol.6「古典籍展観大入札会」 - 現役大学生が有り余る行動力で和本に触れてみた件ーー和本探しに出かけてみよう!ーー #和本有り

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vol.6「古典籍展観大入札会」


和本が好きないち大学生が、
どこに行けば和本を見て、触れるのか?
どこに行けば和本を買うことができるのか?
小中高生・大学学部生向けに伝えるべく、はじめた連載、
第6回は古典籍展観大入札会レポです。

東京古典会
東京古書組合のなかで、 古典籍をおもに扱っている業者がつくっている会。毎週火曜日に業者向けの市を開催している。
〒101-0052 東京都千代田区神田小川町3-22
東京古書会館内 東京古典会
tel:03-3293-0161 / fax:03-3291-5353
ホームページ:https://www.koten-kai.jp/

古典籍展観大入札会
東京古典会を主催に、東京古書会館で年に1度行われる和本、古文書、古地図、錦絵、中国朝鮮本等を扱う大入札会(オークション)。会は90年以上続いており、全国の和本を扱う古書業者や、収集家、名家から名品が多数出陳される。こちらは一般の来場者も参加可能。
2021年度の開催日程
一般公開(プレビュー) 
2021年11月12日(金) 10:00~18:00
2021年11月13日(土) 10:00~16:30
入札会(全古書連加盟店のみ) 
2021年11月14日(日)・15日(月)

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写真1 令和3年度古典籍展観大入札会のポスター
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写真2 古典籍展観大入札会の出品目録

■「古典籍展観大入札会」ってなに?

 「古典籍展観大入札会」は「東京古典会」が毎年11月中旬に主催するイベントです。東京古典会とは明治45年(1912)に「東京書林定市会(通称:和本市)」をその始まりとし、2012年に100周年を迎えています。

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写真3 東京古典会のホームページ

 東京古典会がどのように誕生したかについて少し触れますと、『東京古書組合百年史』での鹿島茂氏によると、上記の東京書林定市会が始まる前の明治20年代後半から、古本の主流が洋装本に移ったことにより、都内の各所で自然発生的にいくつかの市会が誕生したとしています。

 しかし、当時の市会は問題も多く不正が発覚したことなどもあり、明治43年(1910)に理想的な市会や業界のあり方を考えるために新たに「神田書籍商同志会」が創立され、これが後の東京古書籍商組合の前身となります。

 神田書籍商同志会で市会が機能するようになると、同志会所有の建物で市会を持ちたいということになり、裏神保町(現在の神田神保町1丁目)・芳賀書店の芳賀大三郎氏を軸に資金が集まり、市会専用の建物「東京図書倶楽部」が作られました。

 この東京図書倶楽部が現在の東京古書会館の前身であり、東京図書倶楽部で行われた東京書林定市会が東京古典会の前身ということになります。

 現在の東京古典会には24店が加盟しており(本連載の1話で登場した日本書房さんも加盟しています)、全国から東京に集まった古典籍が11月の大入札会以外にも、毎週火曜日、東京古書会館で「廻し入札」(★注1)の形で市が行われています。

 また、東京古書会館の東京都古書籍商業協同組合インターネット事業部が代表となって「日本の古本屋」というサイトを運営しており、各地にある古書を検索し、購入することができます。

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写真4 日本の古本屋のホームページ

■古典籍展観大入札会に行ってみた!

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写真5 神田にある東京古書会館

 2021年11月12日(金)から13日(土)にかけて、神田の東京古書会館で令和3年度の古典籍展観大入札会が行われました。入札会は4日間開催されますが、そのうち最初の2日間が一般公開日となっていて、本屋さん以外も見学することができます。当日参加可能・入場無料で、入札が行われる約1500点の本を直接手に取って見ることができます。

 一般公開ですから、もちろん小中高生も参加可能ですが、先生が付き添っていると安心ですね。大学の学部生の私はひとりで行ってきました。

 入札会の何がすごいの?と言うと「手に取って触って見られる」という点です。しかも、並べられている本はどれも10万円以上の大変貴重で珍しいものばかり。本にお金の話を持ち込むと私としてはどうも面白くなくなりますが、一番高いものだと1億円はくだらないだろうと言われていました。

■意外だった会場の様子!?

 会場に入ると1階に荷物を預ける場所があります。地下1階は商談が行われる場所で、2階から4階まで各階におよそ500点ずつ、ジャンルごとに分けて置いてありました。

 入札会ですから、古本屋さんたちが大声をあげて競り合いをするような様子を予想していたのですが、まったくそういう感じではありませんでした。商品に入札するかどうか、商品に落丁がないか確認するためにペラペラと本をめくったり、商品を見ながらメモを取ったりしている方が多かったです。

 お昼も過ぎ、午後2時になると人も増え、各フロアに約40人以上の方々が集まっていました。中には私が在籍している大学の先生や、研究会でお会いしたことのある先生方もいらっしゃっていました。

 また、私以外にも学部生や大学院生とみられる若い方も本を見に来ていて、高校生の方々も先生らしき方と一緒に来られていました。

 国籍もさまざまで、中国やヨーロッパから来られたような方もいました。

■入札は代理入札の一発勝負!

 会場に並べられている本の横には入札額を記入して入れるための封筒があり、入札額を紙に書いて、それを折って封筒に入れるようになっていました。人気のある本の封筒には明日の入札会を待たずして、すでに何枚かの紙が入れられていました。

 再入札は不可とのことで、ヤ○オクのように随時再入札できるわけではありません。封筒に入れた額で勝負ということなので、その本をいくらで落札できるか本屋さんとお客さんとで話し合う声が飛び交います(一般のお客さんは直接入札することができないため、ほしい本がある場合は本屋さんにお願いして入札してもらう)。「これは○○さんが持っていた本だから......」とか「この写経の字体は......」など難しい話ばかりで、浅学な私にはチンプンカンプンでしたが、聞いているとつい私もその本が欲しくなってしまいます。

■見てきた本について

 私が見てきた面白い本について、いくつか紹介します。ただ、すでに落札されて誰かの所有物となった本ですので、ここでは状態や内容については深く触れず、作品名なども伏せることにします。

1.友愛や孝行についての話が書かれた朝鮮本(★注2)

 韓国の慶州の歴史・地理史についてわかる、入手が難しいとされる全4冊の本で、巻1では姓氏・官号、巻2では宮室・学校、巻3では人物・科目、巻4では孝行・友愛・異聞などが書かれていて、個人的には巻4が気になりました。東アジアで孝行の話がどのように発展し、衰退したか、個人的にはすごく興味があります(笑)。

 巻の数え方は、「巻一」などとは書かずに「巻一」から「巻四」にかけて「元・亨・利・貞」と書かれていました。これは主に4巻の書物の巻数としてつけられることが多いようで、『易経』に由来する四徳(天地自然が万物を育てる四つの道)を意味しています。日本でいう春夏秋冬のような感じでしょうか。

 表紙の色は黄色で、他に並べられていた朝鮮本もおおむねこの色でした。サイズは和本の大本よりも少し縦長の形で、和本の四つ綴じとは異なり、五つ綴じなのが特徴的です。

 使われている紙は、和本で使われるものより分厚く、個人的な感想ですが、この本以外にも朝鮮本は摺りが和本より薄い気がしました。また、主に1ページごとに10行になっていて、文字数は22文字ほど。この本には見返しに何かメモのようなものが小さい紙に書かれて挟んでありました。以前所蔵していた人のメモかもしれません。

2.体は人間、頭はネズミの江戸時代の謎の本

 ネズミが嫁入りをするという内容のようですが、刊記や奥付なども見当たらず、序文らしきものもないので、なんの本なのかさっぱりわかりません(笑)。

 出だしに「としをへし かしらのゆきの しろねずみ まつとたけとの ふうふなるる也」(読み間違えているかもしれませんが......)という風に書かれていました。

 見るからに草双紙で、黄表紙類かなと思うのですが、出品目録を見てもタイトルが「仮題」となっていて、やはりよくわかりません(笑)。外題(表紙の書名)が少し見づらくなっていて、本当のタイトルは謎ですね。柱題(袋綴じにされた本の折り目あたりに記載された書名)は「よめいり」。まんまじゃねぇか!って突っ込んでしまいました(笑)。

3.1000年前に作られた中国古代史を研究する上で大変貴重な本

 あまりにも有名でタイトルを言ってしまってもよさそうな気もしますね。古典籍展観大入札会が行われる前からツイッター等で話題となっていた本です。この本は値段が付けがたいほど貴重なものらしく、ある方は1億円以上するのではないかと言っていました。

 会場ではやはりこの本に人が群がっていました。中国語も飛び交うなど、この本を見るため、入札するために、日本にわざわざ来た方もおそらくいたかもしれませんね。

 どのぐらい貴重かをわかりやすく言うと、博物館で保管されていて当然で、一生手に取って触れる機会なんてないレベルの本です。もちろん、私は遠慮なく本を手に取って指紋をつけてきたわけですが......。

 本は全部で50冊以上はあるように見え、目録によると欠巻の6冊をのぞいては揃っているようです。木箱も含まれていて、虫食いなどもなく、大変大切に保管されてきたのがわかるレベルでした。

 触ってみた感想ですが、素人の私の眼には紙の質がどうとか摺りの状態がどうとか、あまりわからなかったのですが、その本にこめられた魂というか、オーラを感じましたね。手に取った瞬間、手が震えるレベルでビリビリッと来ます。行数は13行。上記の朝鮮本は10行だったので、それぞれの国で何行の本が出されたかについて調べるのも面白いと思いました。

4.伊勢物語の桝形本

 「桝形本」(正方形または正方形に近い形の本)を実際に見たのも初めてですが、「大和綴じ」(★注3)という綴じ方に「列帖装」(★注4)という私にとっては見たことないような形の和本でした。江戸中期の写本らしいです。このように大和綴じになっている本で、他には朝鮮の弓矢や射芸場について書かれた本もありました。その本は縦の長さは上記の伊勢物語の桝形本くらいだったと思うのですが、横がとにかくめちゃめちゃ長くて、普通の和本の大本の3倍くらいある本でした。

5.霊元天皇自筆の色変わり料紙の本

 なんと、霊元天皇(1654~1732)の直筆の本もありました。「粘葉装」(★注5)と「大和綴じ」で作られています。天皇の自筆であるのも大変貴重ですが、使われた紙は丁ごとに色が違っていて、表紙はシャボン玉のような模様をしていますが、手で描いたわけでもなく、紙を製造する過程で作っているらしいです。シャボン玉の模様をどうやって作ったのか、見てもわかりませんでした(笑)。

 この他にも、本当に珍しく貴重な本をたくさん手に取って、見て、触れることができました。大学のレジュメのプリントでしか見たことない本などもあったり、明治時代の軍人さんのアルバムだったり、役者絵に髪型を入れ替えて遊ぶ着せ替えのような遊び絵もあったり、妖怪の絵がたくさん描かれた浮世絵とか、版木もあったりと、あっという間に5時間以上たっていました。閉館するというアナウンスに心の中で涙し、自分の薄すぎるお財布くんを見ながら帰る準備しなければなりませんでした......。
 
■個人的に欲しかった本

 私が一番欲しかった本は、本物の井原西鶴の本(1600年後半のもの)でした。すでに入札が終わって人の手に渡っていると思うので、作品名や状態などについて伏せることにします。

 私自身が、井原西鶴を専門としていることもあって、やはり本物の西鶴本が欲しくなってしまいましたね。今回出品されていた西鶴本は時代を考えても大変状態もよく(私の感想です)、国文学者である横山重(1896~1980)氏(★注6)の旧蔵本で、今まで誰が所蔵してきたかについての系譜らしき紙も入っていて、蔵書印もところどころ捺されていて、触っていてワクワクが止まりませんでしたね。

 ただ、この本はケースの中に入っていたので、おそらくテーブルの上に並べられている本よりも高価なものだったかもしれません。軽く車は買える値段だったのではないかと思います。いつか私も西鶴の本を買えるのでしょうか(笑)。

■また古典籍展観大入札会に行きたい

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写真6 東京古書会館の前に貼られている今年度の大入札会のポスター。すっかり日も暮れています。

 今回の大入札会で本当にさまざまなことを学び、気づくことができました。それは文字として覚えた知識ではなく、直接手に取りながら本物を見たからこそ得ることができた経験です。また自分がどれだけ浅学で和本の世界が深いのか間接的に気づくことができました。本当にいろんな古典籍があるのだと改めて思いましたね。もちろん、大入札会にある古典籍はほんの一部に過ぎません。

 行ってみてよかったこととして、自分が元々興味のあった時代の作家の本が見られたのもありますが、まったく知らなかった本も手に取って見たことで鮮明に記憶に残り、もっと知りたくなったことです。特に朝鮮本・唐本(★注7)など、日本以外で作られた本についてもっと知りたいと思いました。確かに、本の大きさや紙の触り心地、使われている墨などあらゆる点で異なります。

 会場では特に不便なことはありませんでした。大学生だからといってケースの中にある高そうな本は見せてくれないなどということもなく、他の業者さんや先生方と同じようにケースの中身の本も見ることができました。

 古典籍展観大入札会は入場無料で、入札をしなくても、専門家でなくても、自由に入場し、本を手に取って見ることができます。古典籍に少しでも興味があって、触ってみたい、読んでみたいという方は、古典籍展観大入札会の一般公開される日に行ってみることを強くオススメします。


★注★
注1★廻し入札
ロの字型のテーブルに座り、本を確認し見終わったら隣の人に渡す。まわってきた封筒に入札額を書き入れます。一周し終わったら、封筒を開けて一番高い金額を書いた人が入札となる方式です。

注2★朝鮮本
朝鮮で刊行された書籍。高麗時代、李朝時代のものを、それぞれ高麗本(版)、朝鮮本(版)と呼ぶこともある。
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画像は韓国の国宝第153号の『日省禄』

注3★大和綴じ
書物・帳簿などの綴方(とじかた)の一種。紙を数枚重ねて二つに折り、それを一帖とし、七、八帖前後を重ねて、背の上下二か所に切り込みか穴をあけ、順次糸で綴じ合わせたもの。初帖と末帖とにそれぞれ表紙をつけ、さらに、一、二か所装飾的に紐で綴じて表面に結んだものもある。列帖装(れっちょうそう)。(出典:日本国語大辞典)
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注4★列帖装
列帖装は、本文用紙を数枚重ね合わせて谷折りにして、折り目に綴じ穴をあけて綴じ合わせたものを次々に綴じ繋いでゆくものです。折り目が背にくる点では蝴蝶装に似ていますが、糊ではなく糸で、しかも数枚ずつ重ね合わせた折ごとに綴じています。刊本 (印刷された資料) よりも、手書きの資料(写本、稿本)に多く用いられています。(出典:国立国会図書館コラム「古典籍のつくり」
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注5★粘葉装(または胡蝶装)
蝴蝶装(粘葉装(でっちょうそう))は、本文用紙の字面を中に折って重ね谷折りにし、用紙の折り目の部分で糊付けしたものです。一枚ずつ開くとちょうど蝶が羽を開いたようになるところからの命名といわれています。(出典:国立国会図書館コラム「古典籍のつくり」
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注6★横山重
昭和時代の国文学者。「万葉集」研究をはじめ、琉球史料や室町時代物語などにも研究の幅をひろげ、多数の校本を刊行。校本に「琉球神道記」「古浄瑠璃正本集」、随筆に「書物捜索」などがある。

注7★唐本
中国から渡来した書籍。近世には長崎を通じて到来した。和本・朝鮮本に対しての称。刊本が普通で、宋版・元版・明版などが珍重された。(出典:角川古語大辞典)

★参考サイト★
・佐古田亮介他篇『東京古書組合百年史』(東京都古書籍商行共同組合、2021年)
・東京古典会(https://www.koten-kai.jp/
・橋口候之介「誠心堂書店エッセイ」(http://www.mmjp.or.jp/seishindo/essay/index.html
・2009年度「古典籍展観大入札会」展覧会案内(https://paperzz.com/doc/5586677/
・ジャパンナレッジlib(https://japanknowledge.com/library/
・Wikipedia「日省禄」(https://ko.wikipedia.org/wiki/%EC%9D%BC%EC%84%B1%EB%A1%9D
・国立国会図書館コラム「古典籍のつくり」(https://www.ndl.go.jp/nature/column/column_1.html
・「和書のさまざま――国文学研究資料館通常展示図録(2018年版)――」(https://kokubunken.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=3738&item_no=1&page_id=13&block_id=21