教員をめざす人、教員になったばかりの人のために「コラム③ 説話(集テキスト)の表現・教材分析のために」★井浪真吾『古典教育と古典文学研究を架橋する 国語科教員の古文教材化の手順』より期間限定全文公開

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教員をめざす人、教員になったばかりの人のために「コラム③ 説話(集テキスト)の表現・教材分析のために」を期間限定全文公開いたします。

前回の公開はこちら。
教員をめざす人、教員になったばかりの人のために「コラム① 文学研究の成果を知るために」
教員をめざす人、教員になったばかりの人のために「コラム② 古典教育研究・古典教育実践を知るために」

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●本書の詳細はこちらから
文学通信
井浪真吾『古典教育と古典文学研究を架橋する 国語科教員の古文教材化の手順』(文学通信)
ISBN978-4-909658-26-5 C1037
A5判・並製・344頁
定価:本体2,700円(税別)

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コラム③ 
説話(集テキスト)の表現・教材分析のために

井浪真吾

 ここでは説話(集テキスト)の表現分析や教材分析について、本論で述べたことの補足をしたいと思います。

 まず説話(集テキスト)の表現分析についての補足ですが、わたしが参照した著書や論考などを挙げておきたいと思います。

 説話(集テキスト)の表現分析の観点を端的に述べたものとして、森正人『今昔物語集の生成』(和泉書院、一九八六年)があります。表現分析を編纂行為、説話行為、表現行為の観点から分析する必要を述べたもので、説話教材の教材研究をする上でもヒントをもらえる著書です。

 ここから出発し、説話(集テキスト)の表現分析を例として、人が表現するということを人文学のさまざまな領域の知見を援用して論じたものとして、竹村信治『言述論─for説話集論』(笠間書院、二〇〇三年)があります。これは高価で絶版でもあるので、もう少し手に入りやすいものとしては、説話と表現を副題にもつ竹村の諸論考があります。やや難解なものもありますので、読むのに骨を折るかもしれませんが、古典文学研究と古典教育との接点を示したり、文学研究や古典教育の向かう先を考える上でヒントを与えてくれたりと、学びがたくさんあります。本書でも多くのところで参照しました。

 ほかに、小峯和明『説話の言説─中世の表現と歴史叙述─』(森話社、二〇〇二年)も、「説話」の用例を古文テキストから探り、当時における説話(集)のメディア性に関する指摘がなされており、学ぶところがあります。

 次に教材分析についての補足ですが、ここではわたしなりのテキスト分析の手順などを示したいと思います。

 テキストを読み、何がどのように語られているのかを自分なりに何となくつかんだり、話の構造を考えたり、疑問点を抱いたりした後、注釈書を読みます。注釈書としては新大系、大系(以上、岩波書店)、新全集、全集(以上、小学館)、集成(新潮社)、種々の文庫(岩波文庫、講談社学術文庫、角川ソフィア文庫、ちくま学芸文庫など)などが挙げられますが、その中で近くの図書館や自身で所持しているものを参照します。そこで疑問点を解消したり、どのように読み得る教材なのかを把握します。そうしながら解釈を固めながら、インターネットなどで、まさに教材とする古文テキストが解釈されている論考や、テキスト全般について述べられた論考、それがどのようなことを提示するテキストなのかについて述べた論考、それが授業で用いられている実践報告などを探し、あれば参照します。参照するときは、それぞれの論考や報告の書き手が、どのような言語観、テキスト観、人間観をもっている人なのかを想像しながら読みます。その中でヒントになるものがあれば、それからヒントをもらい、教材の解釈を固め、それからどのようなことばの学びを見いだせるかを考えます。

 教材とする場面だけを読んで、その教材からことばの学びを見いだすことは簡単ではありません。やはり、そのテキストのほかの部分、できればテキスト全部を読んでいる方が、見いだしやすくはなります。教科書に採録される古文テキストは大体決まっているので、それらについては全文通読していると役に立つと思います。時間がない、ということであれば、角川ソフィア文庫のビギナーズクラシックなどは役に立つと思います。また、新書なども役に立つと思います。

 生徒たちに古文テキストを差し出すために、教員もこれまで以上に古文テキストやそれに関するテキストを読んでおく必要があるでしょう。