教員をめざす人、教員になったばかりの人のために「コラム① 文学研究の成果を知るために」★井浪真吾『古典教育と古典文学研究を架橋する 国語科教員の古文教材化の手順』より期間限定全文公開

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井浪真吾『古典教育と古典文学研究を架橋する 国語科教員の古文教材化の手順』より「コラム① 文学研究の成果を知るために」を期間限定全文公開いたします。

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教員をめざす人、教員になったばかりの人のために「コラム② 古典教育研究・古典教育実践を知るために」
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●本書の詳細はこちらから
文学通信
井浪真吾『古典教育と古典文学研究を架橋する 国語科教員の古文教材化の手順』(文学通信)
ISBN978-4-909658-26-5 C1037
A5判・並製・344頁
定価:本体2,700円(税別)

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コラム①
文学研究の成果を知るために

井浪真吾

 文学研究といっても、時代やジャンル、テキストによってさまざまです。そこでここでは、本書の関心に従って、『宇治拾遺』を例として、その成果の調べ方や研究状況の把握の仕方を説明したいと思います。

 論考をインターネット上で調べるためには、CiNii国文学研究資料館の論文データベースJ-STAGEが便利です。まずはCiNiiを使って、どのような論文があるかをおおむね把握し、興味をもった論文でそのまま読めそうなものは読んでみるとよいでしょう。J-STAGEは、近年『日本文学』や『中世文学』なども登録されているので、優れた論考に出会えると思います。ただ、CiNiiに比べると検索しにくいことがありますので、登録されている雑誌の目次を見ていく方が、意外と発見があるかもしれません。論文によっては閲覧できないものもあるかもしれません。さらに詳しく研究の成果を知りたいということでしたら、国文学研究資料館の論文データベースに進むとよいでしょう。これまでに発表されたものはほとんど網羅されていますので、どのような論考が発表されているのかを知るためには最も役に立ちます。これらは『宇治拾遺』に限らず、どのテキストにおいても有効かと思います。

 『宇治拾遺』に関して、現在の研究にも影響を与えているとされる論考は、日本文学研究資料刊行会編『日本文学研究資料叢書 説話文学』(有精堂出版、一九七二年)、小峯和明編『日本文学研究資料新集6 今昔物語集と宇治拾遺物語─説話と文体─』(有精堂出版、一九八六年)などに収められています。また、『宇治拾遺』を研究する上で知っておくべきことについては、三木紀人編『今昔物語集宇治拾遺物語必携』(学燈社、一九八八年)に記されています。これらのシリーズは、教科書に採録されるような古文テキスト(『源氏物語』や『徒然草』など)に関するものも出版されています。ただし、これらはすでに絶版ですので、図書館などで閲覧する必要があります。

 『宇治拾遺』は中世の説話集テキストですが、説話研究や中世文学研究で現在どのようなことが議論されているかについては、説話文学会編『説話から世界をどう解き明かすのか─説話文学会50周年シンポジウム[日本・韓国]の記録』(笠間書院、二〇一三年)、中世文学会編『中世文学研究は日本文化を解明できるか─中世文学会創設50周年記念シンポジウム「中世文学研究の過去・現在・未来」』(笠間書院、二〇〇六年)を見るとわかります。説話研究については、本田義憲ほか編『説話の講座』(勉誠社、一九九一年〜一九九三年。6巻)、説話と説話文学の会編『説話論集』(清文堂出版、一九九一年〜二〇一〇年。18集)もあります。中世文学研究については、小峯和明監修、諸氏編『シリーズ日本文学の展望を拓く』(笠間書院、二〇一七年)、諸氏編『中世文学と隣接領域』(竹林舎、二〇一〇年〜二〇一四年)があります。ただし、これらは専門的な議論がなされている、高価である、絶版のものもある、書店に売っていないものがほとんど、という点でとっつきにくいかもしれません。小峯和明『岩波セミナーブックス 中世説話の世界を読む』(岩波書店、一九九八年)、同『説話の森─中世の天狗からイソップまで』(岩波書店、二〇〇一年)、同『叢書物語の冒険 説話の声─中世世界の語り・うた・笑い─』(新曜社、二〇〇〇年)、同編『日本文学史』(吉川弘文館、二〇一四年)、同編『日本文学史─古代・中世編』(ミネルヴァ書房、二〇一三年)などは読みやすいですが、絶版になっているものがほとんどです。

 『宇治拾遺』研究の基盤には、『今昔』研究で積み重ねられた成果の数々があります。この点において、小峯和明編『今昔物語集を学ぶ人のために』(世界思想社、二〇〇三年)、同『今昔物語集の世界』(岩波書店、二〇〇二年)などは、読みやすく、説話(集テキスト)の表現を読み解く際のヒントを得ることができます。

 各々の研究がどう展開したかについては、今はもう休刊となって久しいですが、『国文学 解釈と鑑賞』(至文堂、二〇一一年休刊)、『国文学 解釈と教材の研究』(学燈社、二〇〇九年休刊)で折々になされていた学会時評、研究史整理と展望などに、簡にして要を得た説明がなされています。

 ここでは、『宇治拾遺』を例にとりましたが、ほかのテキストにおいても同種のものは出版されていたり、発表されていたりするでしょう。こうしたものを用いると、研究状況を把握したり、研究のヒントを得たりすることができると思います。

 わたしが最も情報を得ているのは、Twitterからです。Twitterはさまざまな研究者や教員、予備校の講師、企業、団体、書店などがアカウントを持っているため、それをフォローしているだけでかなりの情報を得ることができます(その分、見たくない、聞きたくない情報も入ってくるのですが......)。それぞれの興味関心に従って、講座や研究会などの情報がツイートされます。それらを追い、元サイトに進んでいくと、さらに情報を得ることができます。ただし、そうしたことを悪巧みに用いようとする人もいるので、この辺は各自の責任で行ってください。

 文学通信のアカウントもさまざまな情報を紹介していて、とても役に立ちます。文学研究に関して、最新の研究の成果や話題になっていること、ニュース、無料で読める論文、学会や各種講座の開催予定などを知るには、このアカウントをフォローし、ホームページを見るといいでしょう。

 各種講座や講義などの情報は大学や研究施設、学校、予備校、市町村、企業、団体などのホームページに載っていますので、定期的に見ると、新しい情報を得ることができます。

 また、教科書を発行している出版社では、開催予定の研究会やセミナーなどに関する情報をまとめてくれたりしているものもありますので、それらも活用できるでしょう。

 各種教員は、公開授業や研究会に関して、全国規模のものから所在地の各市町村で行われているものまで、学校を介して、広く情報を手に入れられると思います。これらの中には、学生や一般の方が普通に過ごしていて手に入る情報でないものもあると思います。ただし、公立、私立、大学附属などの種別によって入ってくる情報に異なりはありますし、所属している学校がどのような学校で、他校などとこれまでどのような関係を構築してきたのか、所属している教員がほかのところでもどう活躍しているのかなどによっても入ってくる情報は異なります。自分でほかのものも調べながら情報を得るといいでしょう。

 これらの情報の大半は、自分の興味関心に従って手に入れる情報だと思います。しかし、自分のものの見方や考え方を広げるためにはこれだけでは足りないこともあります(もちろん、十分なこともあります)。そのときに、情報との偶然の遭遇がわたしたちを助けてくれることがあると思います。これを実現するには、書店や古書店、図書館などに出かけたり、同僚や友人と会話したりすることだと思います。これらは時間がかかることですが、そこで出会った情報が新しいヒントをくれたり、研究状況を把握したりするのに役立つことがあります(個人的な体験に過ぎませんが......)。

 これらを実際すべて行うと、今度は情報過多になってしまい、結局、何も動けないということがあるかもしれません。そうしたときは、遠慮なく情報を捨てていけばよいと思います。自身の状況に合わせて、情報を取捨選択していきましょう。