V林田『麻雀漫画50年史』より、「はじめに」を公開

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V林田『麻雀漫画50年史』より、「はじめに」を公開します。ぜひご一読ください。

●本書の詳細は以下より
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V林田『麻雀漫画50年史』(文学通信)
ISBN978-4-86766-049-2 C0076
四六判・並製・564頁
定価:本体2,400円(税別)

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はじめに

著・ V林田

 日本の漫画シーンにおいて、「麻雀漫画」(「麻雀劇画」と呼ばれることもあるが、本書では原則「漫画」で統一する)というジャンルはかなり特異である。何か特定の趣味・競技の類を題材とした漫画の中で、「『専門誌』が長期間にわたって維持され、かつその『専門誌』掲載作品の中に一般性を持ったものがある」という、数少ない存在だからだ。

 特定の競技を題材にした漫画として、野球漫画を例に取ろう。数多くのヒット作があり、高校野球やプロ野球での勝負をメインに描くものから、登場キャラ同士のラブコメ要素などの方が強いもの、監督やファンなどプレイヤー以外を描いたものなど、作品のバリエーションも豊富な一大ジャンルである。漫画好きであれば、『ドカベン』『巨人の星』『タッチ』『MAJOR』といった作品は読んでいるか、読んではいなくても名前程度は知っているだろう。だが、「野球漫画誌」は24年の時点では存在しない。過去には、77年に創刊した『一球入魂』(新日本スポーツ企画)、90年に創刊した日本プロ野球ネタの4コマ漫画誌『まんがパロ野球ニュース』(竹書房)などが存在した時期があったが、いずれも10年は続いていない。これはサッカーなど他スポーツでも同じことが言えるし、将棋や囲碁といった頭脳ゲームでも同じである。

 一方、専門誌が現存している趣味ジャンルとしては、パチンコ・パチスロ漫画(パチ漫画)、釣り漫画がある(ゴルフ漫画も19年までは専門誌が存在した)。しかしこれら専門誌の作品は、そのジャンルを趣味としない人にはあまり知られていない。例えばパチ漫画誌の場合、打たない人であれば、そういう雑誌があることは知っていても『漫画パチンカー』『パチスロパニック7』(ガイドワークス)といった個々の誌名までは認識していないことが多いだろう。掲載作についても、最も有名な作品の一つである『アドリブ王子』シリーズでさえ、「漫画好きなら誰もが知っている」とまでは言い難い。釣り漫画やゴルフ漫画も状況は似たようなもので、『釣りキチ三平』や『プロゴルファー猿』のような一般誌掲載のジャンル作品は知っていても、『つりコミック』(辰巳出版)や、近年まで存在した『GOLFコミック』(秋田書店)・『ゴルフレッスンコミック』(日本文芸社)といった雑誌やその掲載作については知らないという人が少なくないだろう。これら専門誌の作品は、一般誌掲載作と違い単行本化されないものが多いこともあって、一般の漫画ファンの視界には入りづらいのだ(電書版が唐突にバズった『連ちゃんパパ』のような例外もあるはあるが)。

 だが、麻雀漫画の専門誌である『近代麻雀』(竹書房)系列は少し違う。他の専門誌同様に基本的には日陰者とはいえ、掲載作の中からは一般に広まった作品もしばしば生まれてきたのだ。80年代以降の青年漫画をある程度読んでいる人で、『近代麻雀』系列誌自体を読んだことがないという人は少なからずいるだろうが、『アカギ』(福本伸行)も『哭きの竜』(能條純一)も知らないという人は少数派のはずだ。『アカギ』や『スーパーヅガン』(片山まさゆき)はテレビアニメ化だってされている。これが例えばパチ漫画誌になると、テレビアニメ化作品は存在しない(OVAなら『アドリブ王子』が存在する。ドマイナーだがいちおう数少ないテレビアニメの『パチスロ貴族 銀』は、一般誌である『ヤングキング』での連載かつ漫画とアニメが同時進行のメディアミックス作品。また、『快盗天使ツインエンジェル』シリーズはパチスロの機種自体がテレビアニメ化されたものであり、パチ漫画ではない)。

 本書は、この麻雀漫画というジャンルの歴史について、筆者が11〜19年に『麻雀漫画研究』シリーズ(Vol.1〜22)という同人誌上で行った関係者(漫画家、原作者、編集者等)へのロングインタビューおよびその他資料をもととして、19〜22年に同人誌の形でまとめた通史に大幅な改稿と再編集を加えたものである。

 ここで先に書いておくと、麻雀漫画の歴史を見ることで、日本の世相が浮き彫りになる......などということは基本的にない。そういうのは期待しないでほしい。本文を読んでいただければ分かるが、麻雀漫画というジャンルの盛衰は、日本全体どころか麻雀自体の状況とさえそこまでリンクしていないとしか言えないのだ。もちろん、創作は時代に大なり小なり影響されるものであり、麻雀漫画も例外ではないから、チェリーピッキングなり牽強付会なりをすればそれっぽい理屈は捏ねられなくもないだろう。しかしそういうのを筆者は、夜空の星を勝手につなげて新しい星座を作ったり、壁の染みを指さして「見てください、ここに霊障が!!」と言ったりするのと差がある行為だとは思っていない(フィクションやジョークとして行われる分には大好物だが)ので、やるつもりはない。

 本書で記すのは、麻雀漫画という漫画界の辺境ジャンルにも様々な人物がいて、情熱や惰性によって様々な雑誌や作品が生み出されてきたということ、ただそれだけだ。その多くは現在では忘れ去られているし、まあ正直忘れ去られても仕方がないものも少なくないのだが、記録にとどめておきたかったのである。世の中にはそういうことを積極的にやりたがる人間がいるのだと思っていただきたい。