第5章 民具の救済[日髙真吾(国立民族学博物館)]★『地域歴史文化のまもりかた』全文公開
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第5章
民具の救済
日髙真吾(国立民族学博物館)
はじめに
文化財レスキューとは、自然災害により被災した美術工芸品を中心とする文化財等を緊急に保全し、廃棄・散逸や盗難の被害から防ぐため、災害の規模・内容に応じて文化庁が立ち上げる事業で行われる活動である参考文献1。この文化財レスキューにおいて、数多くの支援要請が出される民具は、もともと同じようなものが大量にあることで、その地域の生活文化を見渡すことができる文化財群である。このため、文化財レスキューの対象となる民具の数は膨大なものとなる。一方、数多くの文化財レスキュー要請が出されるとはいえ、そもそも民具が大切な文化財であるという理解が地域で得られているかというと、残念ながらそうではなく、この点は矛盾がある。ただ、災害で地域そのものが消滅するという危機が現実的なものとなったとき、一つ言えることは、被災者にとっての民具が先祖から受け継いだかけがえのない存在として被災地や被災者自身のアイデンティティのよりどころとなるのではないだろうかということである。そして、日常、あるいは先祖の生活の記憶を表象する民具が残ることで、地域再生について考えるきっかけをあらためて地域全体やそこに住む人びとに与える役割を民具が担うようになるのではないだろうか。本章では、そうした民具が被災した場合の救済の在り方について、東日本大震災で行った民具の文化財レスキューを振り返る。なお、文化財レスキュー事業では、活動の柱を救出・一時保管・応急措置としているが、本章では具体的な処置事例を述べるので、応急措置は応急処置という表現を用いる。
1.被災民具の救出活動
東日本大震災で行った民具の救出活動では、まず、床面に散乱しているガラスの破片を取り除き、津波が運んできたヘドロをかきだしながら、埋もれている民具を探し出す作業からはじまった。装着しているゴーグルは汗ですぐに曇り、全身汗まみれとなりながらの捜索作業は、著しく体力を消耗するものであった[写真1]。
写真1 被災した博物館での民具の救出活動(2011年6月和髙智美氏撮影)
また、どれが民具でどれががれきやごみなのかの判断がつかないものが多数でてくる。そもそも日常の生活の記憶をとどめることで文化財としての価値が見いだされる民具は、生活の場で使われていたものががれきやごみとなっている被災現場において、こうした事態が生じるのは、ある意味宿命なのかもしれない。そこで、がれきやごみなのか? あるいは民具なのか? という判断に迷った場合は、すべて救出の対象とすることとした。いったん廃棄されてしまったら、二度と取り戻すことはできないが、逆に、その後の整理作業で、これはがれきやごみだったという判断が確実にできた場合に廃棄すればよいのである。救出活動のような過酷な環境での作業は、作業者の判断はどうしても鈍ってしまう。だからこそ、「民具かもしれないから、まずは救出の対象としよう。」という心構えが必要となる。また、救出した民具の状態は、程度の違いはあるが、基本的にがれきなどから生じる砂埃による汚損[写真2]が多い。
写真2 被災後、砂埃で汚損した民具の事例(2010年2月橋本沙知氏撮影)
また、被災文化財自体の転倒や落下、収蔵棚の転倒による衝撃で破損し、原形をとどめていないものもある[写真3]。そうした状態の民具をがれきやごみのなかから見つけだすためには、救出活動を行う構成メンバーに日ごろからさまざまな文化財を見慣れている博物館・美術館の学芸員が加わることが望ましいと考える。
写真3 破損して原形をととどめていない民具(2011年6月筆者撮影)
次に、被災した民具の救出活動の体制について述べてみたい。救出活動はとにかく多くの人員を要する作業である。わが国は、阪神・淡路大震災以降、大きな災害に見舞われ、そのたびに文化財が被災し、官民を問わず多くの博物館・美術館の学芸員や文化財の保存機関の関係者が被災地に集結する体制を整えてきた。そして、被災した文化財や博物館資料の救出を行い、大きな成果を上げるという経験を重ねてきた。一方、実際に作業を行う作業チームの陣容は、全国各地からさまざまな専門性をもつ学芸員や研究者で構成される。そのため、作業に参加する者が自身の価値判断や専門性にとらわれると、ばらばらの活動を展開することとなり、作業目標を達成できなくなってしまう。そこで、救出現場全体を掌握し、作業計画を立て、作業者に指示を出す作業責任者が必要となってくる。
作業責任者の仕事は、救出現場の事前調査を行うことからはじまる[写真4]。事前調査では、事故がおこらないよう、効率的な作業計画を立案していく。文化財レスキューが行われる時期は、被災地は復旧途中の段階であり、道路交通網の多くも復旧していない。東日本大震災時の救出活動では、こうした復旧途中の道路事情のなかで、現場までの移動には平常時では考えられない移動時間の長さがかかり、3時間を要することがほとんどであった。このことは、現地での作業時間を十分に確保できないことに直結する。そこで、限られた少ない時間のなかで、どのように効果的な救出活動の成果をあげるのかという計画を、事前調査で綿密に練る必要があった。
写真4 救出作業の事前調査(2011年6月和髙智美氏撮影)
次に、実際の作業では、作業責任者は、まず、作業チーム全員に作業目的、計画を説明する作業前ミーティングを行う[写真5]。作業チーム全員が作業目的や計画、さらにはその日の達成すべき作業目標を共有していないと効果的な成果はまず得られない。そして、作業中のこまめな休憩や作業場の安全確保に努め、けが人や病人をださず、事故が発生しない現場管理を実行しなければならない。特に、休憩の指示は徹底する必要がある。救出現場の過酷な状況は前述した通りである。したがって、休憩をきちんととらなかった場合は、脱水症状を起こしたり、熱中症になったりする危険性が高くなる。その場合、どうなるのであろうか。結局、被災者の助けに頼ることになるのである。そうならないために、体を休め、頭の冷静さを取り戻すための休憩が必要なのである。作業責任者はこのことを自覚するとともに、作業チーム全体にこの意識を共有させることが大きな役割の一つとなる。例えば、筆者が作業責任者を務めた東日本大震災での救出活動では、40分ごとに10分の休憩をとることとした。その結果、けが人や病人をださずに、効果的な救出活動を展開できたと考えている。
写真5 作業前ミーティング2011年6月(河村友佳子氏撮影)
最後に、作業責任者は、その日に実施した救出作業について、次の作業責任者に引き継ぐための日報を作成する役割がある。東日本大震災は、被災地の範囲が広大で、現場の状況によっては、作業責任者を交代することが求められる場合があった。こうした際、作業日報によってきちんと作業を引き継ぐ体制づくりを構築しておく必要がある。
2.一時保管と整理・記録
一時保管とは、救出作業の現場から文化財を移動させ[写真6]、安全な場所で一時的に保管する作業である[写真7]。ここでいう安全とは、雨や風がしのげるということはもちろん、施設を施錠し、管理するという防犯対策の面での安全性も条件に含まれる。
写真6 一時保管場所への移送作業(2011年6月和髙智美氏撮影)
写真7 一時保管場所への仮置き作業(2011年6月筆者撮影)
一時保管の作業では、被災した博物館などの文化財収蔵施設の担当者が限られた時間のなかで立ち会うことになるため、文化財を一気に保管場所へ移送することが求められる。そして、限られた時間で大量の民具を一気に運び出すためには、「美術梱包」をしている余裕はない。そのため、脆弱なものは別として、ある程度強度のあるものは可能な限りトラックの荷台に積み重ねて移送する[写真8]。
写真8 トラックに可能な限り積載した被災民具(2011年7月筆者撮影)
また、被災した民具の移送作業では、トラックの運転を専門とするドライバーではなく、筆者のようなトラックに不慣れな人間が不安定な道路状況のなか、事故を起こさないように50キロメートルから100キロメートルほど離れた目的地まで運転する。こうした過酷な条件のなか一人のドライバーで安全運転に努めるのは難しい。そこで、複数人のドライバーを確保した上で、交代しながら運転し、移動中の安全に留意することが必要であろう。
救出から一時保管の作業は、時間的な制約のなか、迅速な動きが求められる。しかしながら、ここで忘れていけないのは、大量の民具を所定の場所から一時的にせよ移動させるということである。このときには、何を移動させたのかという情報を残すことが必須である。Aという施設の「○○という文化財○点」という情報がなければ、その後の活動において、救出した民具の点数を確認できなくなってしまう。そこで、一時保管の作業では、大まかではあっても全体の点数を確認するための「整理・記録」の作業が必要となる。ただし、限られた時間で被災文化財を移送するという作業のなかで、完璧なリストを作成することはできない。そこで、東日本大震災の際には、まずは民具をまとめて入れるテンバコの箱数でカウントすることとした。この作業では、テンバコに入れている民具の全体がわかるように1カットの写真を撮影し、テンバコに付与した仮番号とともにその写真データを管理することとした[写真9]。その後、民具の応急処置が行えるようになった際に、はじめて民具1点ごとの「整理・記録」の作業を行っていった。
写真9 テンバコを利用した資料整理(2011年5月筆者撮影)
次に一時保管の環境について考えてみたい。被災現場にある民具は、災害そのものの被害に加え、救出され、一時保管場所へ移動するまでにさらされた雨や風、粉塵などによって劣化が進行する。だからこそ、一刻も早く救出し、一時保管し、応急処置を施すことが求められるのである。一方、一時保管の場所では、温度湿度や光がコントロールされる博物館の収蔵庫の環境は望めないことはいうまでもない。また、大規模な災害時においては、さまざまな施設が被災していることから、比較的環境のよい場所のほとんどが被災者の避難所や救援物資の資材置き場などにあてられる。したがって、被災した民具の一時保管場所として提供される場所は、避難所や資材置き場として利用されなかった場所であったり、学校の空き教室や使用されていない施設のエントランスホールであったりする場合が多い[写真10]。
写真10 当面の使用が見送られた施設の一時保管場所(2011年7月筆者撮影)
そのために、一時保管場所の環境をどのように安定させるのかも重要な活動となる。災害時に一時保管場所として提供される場所は、大きな窓や開口部があり、空調システムはまず機能していない。そして、この大きな窓や開口部は、外気の影響を受けやすい状況となっている。このことは、温度湿度の大きな変動を生み出し、脆化した民具はこの温度湿度の変動で破損したり、変形したりする危険が高まる。また、大きな窓や開口部の開閉のためのサッシが取り付けられているレールなどの隙間は、そのわずかな隙間から室内に入ってくる埃による汚損が懸念される。また、民具を食害する害虫の侵入を許し、生物被害が発生しやすい環境となる。さらに、大きな窓から外光が入射することで、紫外線の影響を受けやすくなるなどの劣化要因に民具がさらされてしまうことになる。
そこで、こうした課題については、博物館環境に詳しい保存科学者との連携を推奨したい。保存科学は文化財の保存を学問的に考える研究分野であり、博物館環境もその対象となっている。特に、2009年4月30日に公布された「博物館法施行規則の一部を改正する省令」において、学芸員養成課程で「博物館資料保存論」が必修科目(2012年度に必修)となった前後に、博物館環境についてまとめられた保存科学の研究成果はさまざまな形で出版されている参考文献2。ここでは、温度湿度の管理や生物被害対策など、一時保管場所においても留意したい事項が整理されているので、そうした事項を参照しながら実施可能な環境整備を進めていく必要がある。
3.被災民具の応急処置
応急処置は、被災した文化財の劣化を食い止めるための作業である。地震や水害などによる文化財の被災状態は、ほこりや汚泥、砂などがこびりついた表面の汚損が最初に観察される。また、災害そのものの衝撃や、棚からの転倒、落下の衝撃による破損も確認される。このうち表面を汚損するほこりや汚泥、砂などは、湿気を呼び込む作用もあることから、カビの発生を促進させる要因ともなる。さらには、これらの汚れは、民具そのものの取り扱いを困難にし、整理作業などの活動を著しく阻害する要因ともなる。したがって、応急処置で最初に行うべきは、被災した民具を汚損している物質を除去するための洗浄作業となる[写真11]。
写真11 被災民具の応急処置(2011年8月筆者撮影)
なお、応急処置で行う洗浄作業は、必要最小限にとどめておきたい。少しでも多くの被災した文化財を救出するためには、救出した民具1点ごとに関わる時間をいかに少なくするかということも重要な要素となる。あまりにも丁寧な作業はかえって、応急処置の点数を制限してしまうことにもなるので、作業責任者は応急処置の程度をしっかり見極めながら、作業全体を監督することが必要となる。そこで、筆者は応急処置として洗浄作業を行う場合は、大、中、小の三種類の刷毛、大、小2種類のブラシ、それに筆一種類で構成した6種類の洗浄キット[写真12]を作業者に渡すことにした。
写真12 洗浄セット
もちろん、被災状況によっては、この種類が少なくなることもある。そして、この洗浄キットで落とせる範囲の汚れだけを洗浄対象とし、それ以上の洗浄作業はあえておこなわないというルールで臨んだ。日ごろ、博物館資料や文化財に携わっている学芸員や保存修復の専門家は、このような応急処置としての洗浄作業に物足りなさを感じることもあるかもしれない。しかし、本格的な洗浄あるいは破損個所の接着復元といった専門的な技術を要する作業は、この次に行われる保存・修復活動で行うものと割り切ってもらうことにしている。
次に東日本大震災で実施した具体的な応急処置の活動を紹介する。東日本大震災で被災した民具を汚損しているものは海砂であった。そして、この砂は、乾燥すれば、刷毛などによる払い落としの作業で十分に除去できるものであった。そこで、被災した多くの民具については、水は極力用いず、払い落としの作業で対応することとして、前述したように洗浄キットで除去できるところまで実施するというきわめて明快な判断基準で洗浄作業に臨んだ。
また、東日本大震災は、筆者が経験したことのない津波による被災であった。そこで、被災した民具の大きな劣化要因として問題視されるものに、海水に含まれている塩分があった。この問題については、実際の文化財レスキューの応急処置の現場のなかで、出土遺物や自然史関係、古文書などの文化財は、塩分除去のための脱塩処理が施され、この処理に関する情報についても講習会が開催されたり、WEB上でその方法論が公開されたりしていた。筆者自身も東日本大震災で被災した民具に対して、脱塩処理が必要になるかもしれないという考えはあった。しかし、海水に飲み込まれた期間が限定的な津波被害によって、浸透した塩分を除去するための脱塩処理を優先的に行うべきかについては、慎重に判断すべきと考えた。
民具は他の文化財に比べて、平常時の状態は安定しているものが多い。それは、日常生活や生業のなかで比較的最近まで使用されてきたものであることが大きな要因となっている。また、美術工芸品のように観賞するためではなく、使うために製作されたものでもあることから、必然的にある程度の耐久性を備えたものとなっている。したがって、通常、筆者が民具の保存修復で脱塩処理が必要と判断するものは、常時、塩水にさらされてきた漁撈用具や高濃度の塩分にさらされる製塩用具、あるいは醤油醸造用具が中心となる。
実際に東日本大震災で被災した民具の状態を観察したところ、2011年段階においては、塩分に起因する劣化を示しているものはなかった。むしろ、脱塩処理を行った場合の問題の方が大きいと感じた。それは、脱塩処理を行う環境である。民具はさまざまな形状や大きさがあり、その素材は木材を中心としつつ、金属や紙、漆塗りなども含まれており、多様な素材で構成されている。また、大量の資料群をまとめて扱うこととなる。したがって、民具の脱塩処理では、複数の構成素材の状態を注意深く観察しながら行わなければならない。また、大量に処理できる大きな水槽[写真13]、もしくは大量の水槽[写真14]を用意する必要がある。
写真13 大型資料の脱塩槽(2012年8月筆者撮影)
写真14 資料に応じた複数の脱塩槽(2012年8月筆者撮影)
つまり、脱塩処理を行うという判断をする際は、こうした作業環境を整えることが求められるのである。また、木材を脱塩液に浸漬するということは、当然、処理後の乾燥作業が必要となる。大量に水を含んだ木材は一気に乾燥させると木材の収縮、変形、あるいは亀裂のような破損を引き起こしてしまう。したがって、一度、脱塩処理を実施した場合、ゆっくりと乾燥させる場所が一定期間必要になってくるのである。また、金属部分は水に浸漬することで錆が発生するため、錆止め処理をする場所が必要となる。こうした点から、被災現場からやっとの思いで救出し、あまり広くないスペースに仮置きすることが求められた一時保管場所で、ここにあげたような脱塩処理に関する問題は解決できないと筆者は考えた。
そこで、東日本大震災で被災した民具については、基本的に脱塩処理を行ない判断をし、より緊急的に実施しなければならない対応として、資料に付着した津波による砂やヘドロの除去を中心とした洗浄作業を優先的に行うこととした。ただし、塩分に関する問題を棚上げにしたわけではない。2011年は洗浄作業に専念した後、2012年2月からは脱塩に関する予備実験を実施し、翌3月から本格的な脱塩処理について宮城県を中心に技術指導を行った[写真15]参考文献3。
写真15 脱塩処理の技術指導(2014年和髙智美氏撮影)
最後に、繰り返しにはなるが、被災した民具の応急処置の手順と考え方について、以下に簡単にまとめる。被災した民具の応急処置として実施する洗浄作業では、まず水を使わず、洗浄道具で落とせるだけの汚れを落としていくことを基本としたい。しかし、泥が固着して簡単には落とせなくなっているものや、複雑な形状で隙間に泥や砂が詰まっている民具については、水槽に溜めた水のなかに浸け込んだり[写真16]、流水したりしながら汚れを除去する方法[写真17]を選択する。
写真16 水槽への浸け込みによる洗浄作業(2011年5月河村友佳子氏撮影)
写真17 流水による洗浄作業(2011年5月河村友佳子氏撮影)
ただし、水を使った洗浄作業を行う場合は、作業場に水洗した民具を乾燥させる場所を整えておく必要がある。湿気が高い、あるいは乾燥させる場所がないという作業環境で水洗作業を行うとカビが発生し、その対応に時間を取られてしまうこととなる。このため、実施の判断は注意が必要である。
なお、応急処置の考え方として留意すべきことは、応急処置は自身のもっている技術を披露する作業ではないということである。まずは、より多くの民具を取り扱える程度にまで安定させることを優先させなければならない。それには、どのような作業を行うべきか、そして、次に行われる作業にどのように引き継いでいくのかを意識しながら、洗浄作業をはじめとする応急処置を行っていってほしい。
おわりに
ここでは、被災直後の民具の対応について、文化財レスキューの活動の柱である救出、一時保管、応急処置についての考え方を東日本大震災の経験をもとに述べてきた。ただし、この作業だけで民具が地域の文化財として継承されるものへと再生できるわけではない。この後に行われる作業が重要となってくる。
その作業とは、本格的な修復が必要と判断された被災文化財について専門家が行う保存修復[写真18]、そして、復旧した博物館などで民具を安全に保管する恒久保管の活動へと展開する[写真19]。次に、これまでの文化財レスキュー活動で得られた知見や恒久保管の場となる博物館などで行われる専門的な研究活動を取りまとめ、その成果を公開する研究・活用という活動へとつなげていく[写真20]。そして、研究・活用という活動を通じて、地域住民に対して、その民具が地域のアイデンティティであることをしっかりと理解してもらうために、博物館という機能を存分に生かしながら働きかける工夫が求められる。その上で、次の災害に備えた防災の在り方を地域ぐるみで考えていく活動へと展開させていく[写真21]ことで、民具が地域の文化財として継承されるものへと再生できるのではないかと考える。
写真18 専門家による被災した民具の保存修復(2010年6月橋本沙知氏撮影)
写真19 被災文化財の恒久保管(2010年11月筆者撮影)
写真20 被災民具を対象とした企画展「歴史と文化を救う」の開催(2010年7月筆者撮影)
写真21 文化財防災についての地域住民との意見交換会(2010年11月)
参考文献
1 文化財防災センター「文化財レスキューについて」
https://ch-drm.nich.go.jp/disaster_response/rescue.html(2023年7月21日アクセス)
2 村上隆「博物館の展示環境」岡田文男責任編集 京都造形芸術大学編『文化財のための保存科学入門』(角川書店、2002年、pp.314-325)
三浦定俊「収蔵庫内の保管環境」岡田文男責任編集 京都造形芸術大学編『前掲書』(角川書店、2002年、pp.326-33)
三浦定俊・佐野千絵・木川りか『文化財保存環境学』(朝倉書店、2004年)
独立行政法人東京文化財研究所編『文化財の保存環境』(中央公論美術出版、2011年)
石崎武志編『博物館資料保存論』(講談社、2012年)
本田光子・森田稔編『博物館資料保存論』(放送大学教育振興会、2012年)
稲村哲也・本田光子編著『博物館資料保存論【新訂】』(放送大学教育振興会、2019年)
3 日髙真吾『災害と文化財―ある文化財科学者の視点から』(千里文化財団、2015年)