第4章 写真資料の救済[松下正和]★『地域歴史文化のまもりかた』全文公開

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第4章
写真資料の救済

松下正和(神戸大学)

はじめに
歴史資料ネットワークが保全対象としている歴史資料は、民間所在の未指定文化財である。阪神・淡路大震災以降に行われた、地域や家の歩みを示す古文書類のレスキューは、どちらかといえば旧家や自治会保管の地域の記録を対象とし、被災地復興の際に必要な歴史的・地理的背景を把握する意味合いが強かった。一方、写真資料は個人・家や地域の歩みを示すものとして、一般の家庭なども含めどこにでもあるものである。特に、2011年の東日本大震災や紀伊半島大水害時における汚損写真レスキュー・洗浄の活動は、その担い手に多くの一般市民も参加することで、家や個人の歩みとしての記録や「思い出」レスキューの手段として、被災地ボランティアの中に一定のウェイトを占めるようになった。

よって本章では、家族の記録のうちでも写真資料のレスキュー活動について述べる。デジタルカメラや携帯電話が普及して以降は、写真記録はデジタルデータとして各種記録媒体にデータが保存されている。そのためデジタルメディアも含めた救済や保存修復についても触れるべきではあるが、紙幅の都合もあり、本章で扱う写真資料とは、白黒・カラー写真プリント(印画紙)、ポケットアルバムや糊付き台紙アルバムに限定する。このような一般家庭で保管されている写真資料を前提として、その救出から乾燥・洗浄に至るまでの作業について記してみたい。

1.写真資料の救出と一時保管
風水害に遭うと資料が水損・汚損するのは当然のことであるが、地震発生後にも建物が被害を受けると雨漏りが生じ、またその後の降雨・降雪、津波により資料に水損が発生する。また地震は火災を伴うこともあるため焼損とともに、消火に伴う水損も発生する。つまり、いずれの場合においても災害による被災資料は水損を免れることができないことが多いため、ここでは写真資料が水損した場合の救出処置について述べる。

東日本大震災の被災現場で見られたように、写真資料に限らないが、津波被災資料・洪水被災資料の場合は、そもそも元の場所から流されてしまい、自衛隊などによって集められることもあるものの、最悪のケースとしては流出し失われる可能性もある。流出を免れた場合であっても、銀塩紙焼き写真(一般の白黒・カラー写真)やネガは水に長時間浸かることによって画像層であるゼラチンやその内部の画像銀や色素が劣化し、画像そのものが消失・溶解していたり、変色・退色している事例が多い[写真1]。特に夏場の高温多湿の被災地では腐敗が進みやすく、写真表面のゼラチン層の腐敗や、虫菌害といった生物被害に遭いやすい。洪水や津波の場合は、さらに生活排水や汚泥、海水の塩分などさまざまなものが写真表面に付着し、一層劣化が促進される。

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写真1 長期間の水損により写真表面の画像層が溶けた写真

また写真は水損後の自然乾燥の過程で、救出する際には、写真相互が貼り付いたり、アルバム内でカビが生えたままになっていたり、アルバムの保護フィルムに画像層が貼り付いて画像イメージが崩れるケースもある[写真2]。

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写真2 津波被害でポケットアルバムの保護フィルムと固着した写真

写真資料の救済は、被災現場を巡回中にレスキューする事例よりも、相談や持ち込みにより処置することの方が多い。歴史資料ネットワークが主体となって対応したレスキュー現場、例えば兵庫県佐用町水害(2009年8月台風9号)の際には、新聞の記事で我々の被災資料保全活動を知った被災者から水損アルバムと固着した写真の束について相談があり、被災者宅にてアルバムの清掃(泥落とし)・乾燥・デジタルカメラ撮影による複製作成などの応急処置を行った。ただ水場も遠く、床が抜けて処置の場所もない中での作業は困難を極めた[写真3]。2011年以降は可能な限り、被災現場で処置するのではなく、水場などが確保されている作業場にて処置を行うことにしている。

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写真3 佐用町での汚損写真クリーニング(2009年10月12日撮影)

先述のように濡れた状態のままでは写真表面の劣化が促進する。画像の損傷を少しでも食い止めるためには、写真資料にカビが発生しないように冷凍保管できる冷凍庫と一時保管場所を確保することが望ましい。冷凍保管ができない場合は、扇風機などを利用し、陰干しすることで可能な限り乾燥を進め、また一時保管場所では可能な限り温湿度を低く保てる環境を保持する。

被災現場から持ち出す際には、被害状況の撮影などの簡単な現状記録を作成し、被害にあった写真資料の数量(アルバムの冊数など)を確認した後、所蔵者との間で借用証を取り交わすこととしている。ここで重要なのは、所蔵者との間で被災写真の処置について十分に意思疎通しておくことである。技術的な習熟度の異なるボランティアが主体となる作業であるため必ずしもすべての写真が元通りになるわけではないこと、プライベートな内容が大多数を占める写真資料が処置の段階で多数の作業者の目に触れることを、あらかじめ了解を得ておく必要がある。特に洗浄するか否かは、画像の残存度に大きく影響を与える。被害の甚大な写真の場合、洗浄をすれば確実に画像層は流失する。しかし、汚損したまま放置すればいずれ虫菌害に遭い劣化はますます促進し、再び閲覧することはできない。所蔵者との間でそれぞれの処置に伴うメリット・デメリットについて理解を求める必要がある。

2.被災写真資料の処置
以下では、洪水や津波などで水損・汚損したカラー写真の処置方針について、平成21年(2009)台風9号(佐用町水害)の際の個人宅アルバム・写真処置、平成26年(2014)8月豪雨の際に広島県立文書館で行われた作業や、平成30年(2018)7月豪雨(西日本豪雨)の際に岐阜県博物館協会により関市文化財保護センター内で行われた作業などを参照して記してみたい。

作業時の注意点としては、その他の水損資料の取り扱いと同様に、カビや泥・ほこりなどを吸わないことである。そのため防塵マスクやラテックスゴム手袋などの着用、作業後の手洗い・うがい、作業室内の換気にも注意するなど、ボランティア作業従事者の衛生面に配慮した。作業の使用する物品については下記を参照のこと[写真4]。

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写真4 被災写真資料処置に使用する道具の一例

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広島県立文書館「土砂災害で被災したアルバム・写真への対処法(手引き)」より

なお写真の被害状況によって必ずしもこの作業手順通りに行ったわけではない。また白黒写真や劣化のひどい写真の処置については、写真専門店による修復を勧めたい。

2.1. 現状記録とアルバムからの写真の取り出し
①アルバムへの付番と撮影
写真資料の被害事例として、ポケットアルバムや糊付き台紙アルバムに写真が収められているケース、写真が束のまままとめられて固着しているケースが想定される。いずれにしても乾燥させる必要があるため、まずは写真を一枚ずつ分離することからはじめる。ただし、写真を分離する際には画像を損なうことがあるため、またどのような順番でどのページに貼られていたのかというまとまり情報も記録するために、必ずアルバムを解体したり写真の束を崩す前には、現状記録の写真をデジタルカメラで撮影する。

アルバムごとに番号を付けて、開くところは全ページ撮影して記録しておく。特にポケットアルバムに記されているメモ、糊付き台紙に挟みこまれているメモ類は、その写真に関する情報を記していることが多いため写真とともに必ず記録する。

②アルバムの泥汚れの除去
まずはアルバムの外側の汚れを除去する。表紙や裏表紙、小口についた泥は竹ヘラや刷毛、キッチンペーパーや雑巾などで落とす。可能であれば固く絞った雑巾により水拭きをしたり、消毒用エタノールをしみこませたキッチンペーパーなどで消毒も行う。その後アルバムを一ページずつ開いて、ページごとに泥汚れを除去する。

ポケットアルバムや糊付き台紙の保護フィルムについた汚れも、竹ヘラや刷毛などで取り除く。ただし、保護フィルムと写真表面の間に水分がある場合は、フィルム面を強く押すことで画像が動いてしまうことがあるため清掃作業は慎重に行う。

③泥汚れ除去後の状況を撮影
アルバムを一ページ開くごとにページ全体をデジタルカメラで撮影あるいはスキャナーでスキャンする。可能であれば、さらに写真一枚ごとを撮影するのが望ましい。保護フィルムを取り外したり、洗浄した際に画像が流れる可能性があるためである。

④アルバムの乾燥
アルバムは可能ならページを広げて立てた状態で乾燥させる。空気清浄機や除湿機、換気扇を稼働させ、できるだけ直射日光の当たらない、温度・湿度の低い、清潔な一時保管場所で乾燥するのが望ましい。

⑤写真の取り出し
保護フィルム内に汚水が入っている場合など、被害が甚大な場合は、ポケットアルバムや糊付き台紙アルバムアルバムから写真を取り出し乾燥させる。写真の輪郭に沿って保護フィルムにカッターの刃を入れ、保護フィルムを取り外す[写真5]。保護フィルムと写真の間に汚水が入って、無理に剝がすと画像が壊れる場合や、保護フィルム面に画像が転写している場合には、写真から保護フィルムを剝がさないままにしておく。糊付き台紙から写真を取り上げる際にはパレットナイフや竹ヘラなどを用いて剝がすが、剝がれない場合は、台紙を相剝ぎにして台紙の表裏を分離し、写真に台紙がついた状態で取り外すこともある。

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写真5 糊付き台紙からの写真の取り出し(2014年9月8日撮影)


2.2. 写真の洗浄と乾燥

アルバムから取り出した汚損写真は、そのまま放置すると劣化が進行するため、洗浄し汚れを落とす必要がある。ただし、洗浄することで画像が流失することもあるため、洗浄する前には必ずデジタルカメラで写真を撮影するなど複製を作成する。写真を扱う際にも、ラテックスゴム手袋と防塵マスクを着用する。

①洗浄
汚損写真を水を入れたトレイの中に漬ける。画像層は小筆や指の腹で軽くなぞりながら汚れを落としていく。その際には、写真の端や角の部分から水に漬けて、画像が流失しないかを確かめること、特に人物などの被写体は無理に洗浄しないことに注意する[写真6]。

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写真6 小筆による写真の洗浄

写真裏面も同様に洗浄する。その際には、表面の画像層を触らないように写真の両端を指で挟むなど、写真の持ち方にも注意が必要である。なお、写真の画像層がすでに溶けて、赤色や黄色などがマーブル状に見える場合は洗浄してはいけない[写真7]。

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写真7 マーブル状になった写真表面

②すすぎ
粗く洗浄した写真を、きれいな水を張ったすすぎ用のトレイに入れ、再び軽く洗浄する[写真8]。

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写真8 写真のすすぎ

③水切り
すすいだ写真を新聞紙やキッチンタオルなど吸水紙の上で軽く水切りを行う。

④乾燥
洗濯ロープやネットなどに洗濯ばさみやクリップで写真を吊るして干す。可能な限り写真が貼られていたアルバムや順番がわかるように、最低限アルバムの番号札やページの番号札もあわせて付けておくとよい[写真9]。乾燥場所が限られている場合は、新聞紙などの吸水紙の上に平置きで乾燥したり、スリット台の上で乾燥することもある。乾燥後、写真がカールしている場合は、写真同士が再びくっつかないように、レーヨン紙やクッキングシートなどで写真を一枚ずつ挟み、上から重石を載せて平らにする。

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写真9 写真の乾燥

乾燥後の写真は、粘つきがない場合は新しいポケットアルバムに入れて保管する。もし乾燥後も粘つきがある場合は、写真同士の間にクッキングシートなどの間紙を挟んで保管する。

2.3. 写真を洗浄しない場合
先にも述べたように、写真の画像層が溶けてマーブル状に見えている場合は洗浄を行わない。また、アルバム被害がそれほどでもなく、写真表面に泥汚れや臭いもなくきれいな場合は無理に洗浄せずにそのまま乾燥させる。ポケットアルバムや糊付き台紙から外せるようであれば一枚ずつ乾燥することが望ましい。

一般には写真の被写体を保持するため、可能な限り画像層を破壊しないような配慮が求められる。兵庫や岐阜の事例では洗浄は行わなかったが、一方広島の事例では写真表面がマーブル状に残ることで災害の記憶がよみがえるために、画像が多少流失してもよいのできれいに洗浄してほしいという要望があった。このようにプライベートな写真資料は所蔵者の意向により処置方針が異なってくる。そのため作業前には所蔵者との間で処置方針についてあらかじめ合意を得ておくことが必要である。

2.4. 写真洗浄に伴う課題
甚大な被害に遭った現物のアルバムや写真自体をどう保存するのかは難しい問題である。結婚式や誕生日アルバムなどはアルバムの表紙自体にもデコレーションが施されており、可能な限り元の形に近い形で残すように処置をしている。ただ、被災した写真資料は、水損を経ることにより劣化速度が増すために、現物自体を残すのが難しい場合が多い。そのため乾燥済みの被災写真とともに、スキャナやデジタルカメラ撮影した複製を作成し、DVDなどに焼いたデジタルデータとしても提供している。さらには写真データを利用しデジタル上で復元している宮崎資料ネットワークのような例もある。

また一般家庭で保管される写真は公的支援を受けにくく、基本的にはボランティアベースにならざるを得ず、その他の未指定文化財と同様の問題を抱えている。ただし、近年では被災写真の取り扱い情報の提供や、ポケットアルバムなど写真保存グッズの提供を行う企業もある。また、2018年7月の西日本豪雨の際には、岐阜県博物館協会の「もの部会」が中心となって、関市内の汚損アルバムの処置が行われた。また岐阜県関市は被災者に配布した「被災者支援制度ガイドブック」内に、写真・アルバム洗浄の支援について掲載を行った。これによって、被災者が汚損アルバムの洗浄依頼窓口を知ることができた。このような取り組みは先進的なものであり、今後の被災地行政による被災写真資料対応のモデルケースとなる注1。今後も、史料ネットや写真洗浄専門のボランティア団体や行政、企業などとの連携による救済活動が有効となるだろう。

おわりに
2000年代に入り、徐々にプリントされた写真を目にする機会も少なくなっている現代だからこそ、デジタル化される以前のアルバムに収められているプリント写真などが被災した場合の応急処置方法について周知する機会を設けることが必要であろう。災害時にはフィルム関連の企業や、写真関連の学会から救済に関するガイドラインの公開や支援もなされてきたが、各地の史料ネットによる救済活動とともに、被災地発の写真洗浄ボランティアによる実践的な活動注2も重要である。

人びとの「思い出」や「愛着」が詰まったものを救うことにより、被災地の人びとの喪失感を少しでも和らげ日常性を取り戻すことにつなげることができるのではないか。また大切な家族や家を失うなど被害に遭った際に、家族ゆかりのものが残ることによって、個人の精神的な復興を後押しする力になっていることはさまざまな被災現場で語られている。災害時における写真レスキューの広がりを通じて、災害時のみならず日常時にも個人の記録を保全することの重要性、ひいては家族や地域の歩みを残す私たちの被災資料保全活動の意義が伝わることを期待したい。



1 なお関市は令和5年(2023)台風7号の際にも「被災者支援制度ガイドブック【初版】」を作成し、被災古文書、写真等の応急処置支援を被災者に対して周知している。
2 被災写真洗浄活動@流山のブログに写真洗浄ボランティア一覧(2023/9/20更新)があり(https://ameblo.jp/sunnyblog/entry-12744745156.html)(以下ウェブサイトは2024年1月23日最終閲覧)

参考文献
・ 山内利秋「台風被害にあった写真資料の保存と修復について」(吉備国際大学文化財総合研究センター編『吉備国際大学文化財総合研究センター紀要 文化財情報学研究』4、2007年3月、pp.123-128)、山内利秋「真空凍結乾燥法による写真資料の保存処理について」(同、pp.129-134)
・ 大林賢太郎『写真保存の実務』(岩田書院、2010年)
・ 大林賢太郎『劣化する戦後写真 写真の資料化と保存・活用』(岩田書院、2010年)
・ 板垣貴志・川内淳史編『阪神・淡路大震災像の形成と受容 震災資料の可能性』(岩田書院、2011年)
・ 動産文化財救出マニュアル編集委員会編『動産文化財救出マニュアル 思い出の品から美術工芸品まで』(クバプロ、2012年)
・ 吉川圭太・吉原大志「広島土砂災害による被災写真アルバムの保全活動」(『史料ネットニュースレター』77、2014年12月、pp.9-10)
・ 広島県立文書館ウェブサイト「保存管理講座~文書・記録を残し伝えるために~」内の広島県立文書館リーフレット「土砂災害で被災したアルバム・写真への対処法(手引き)」(2014年12月)(https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/monjokan/sub19.html
・ RD3プロジェクト『被災写真救済の手引き 津波・洪水などで水損した写真への対応マニュアル』(国書刊行会、2016年)
・ 正村美里「平成30年度もの部会事業「関市の水害における汚損アルバム写真等の洗浄ボランティアについて」の報告」(岐阜県博物館協会「こと部会」編『岐阜の博物館』183、岐阜県博物館協会、2018年9月、p.3)
・ 西日本豪雨災害「残す。」編集チーム編著『残す。西日本豪雨災害 私たちは真備に何を残そうとしたのか』(同、2021年)
・ 松下正和「史料ネットによる水損写真資料の保全・応急処置-「思い出」をレスキューするために」(『日本写真学会誌』84-2、2021年、pp.72-79)