高知地域資料保存ネットワーク(高知資料ネット)【四国】★『地域歴史文化継承ガイドブック』全文公開
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高知地域資料保存ネットワーク
(高知資料ネット)
【団体情報】
設立年●2016年
旧名称●高知戦争資料保存ネットワーク(2021年3月まで)
事務局所在地●〒780-8520 高知県高知市曙町2丁目5番1号 高知大学人文社会科学部
小幡尚研究室
メールアドレス●kusukei31@yahoo.co.jp(楠瀬慶太)
Facebook●https://www.facebook.com/groups/404644176658001
【活動地域】
高知県全域
【参加方法】
入会●定例会に参加してもらい、活動や趣旨等に賛同してもらえれば誰でも入会可能です。
寄付●活動や趣旨等に賛同する方から寄付の相談があれば受け付けています。
❶定例会での資料記録の様子(2020年1月)
【設立の経緯】
文●楠瀬慶太
人材不足や資料の散逸に備える
2020年(令和2)に県立公文書館が設立されたばかりで、自治体や博物館が専門人材の不足・収蔵庫の限界等の問題を抱える高知県では、家庭や地域に残る近現代資料の散逸が課題となっています。また、地域資料に携わる郷土史団体の衰退が進み、こぼれ落ちていく地域資料を救う人材も枯渇しています。
散逸の危機にある資料救済に民間で取り組み、公的機関に資料保存を呼びかけることを目的に、戦争体験の記録などに関わってきた元教員や郷土史家らの呼びかけで「高知戦争資料保存ネットワーク」が2016年(平成28)、高知大学の小幡尚さんを代表に十数名で結成されました。将来的に近現代資料全般へ活動を広げる構想を持っていましたが、まずは多くの家庭に残り、県民の関心も高い戦争資料に絞った活動から始めることとし、団体名に戦争資料を冠しました。また、資料保存の対応が難しいモノ資料は対象とせず、紙資料を中心として記録保存の活動を始めました。
活動を進めるうち、戦争資料に付随して近現代の資料や古文書が持ち込まれるようになり、メンバーに前近代史の専門家や古文書教室の参加者がいたため、徐々に対象資料が広がっていきました。対象の広がりと5年間で相当数の戦争資料の記録保存が実現できたことにより、2021年(令和3)4月の総会で団体名を「高知地域資料保存ネットワーク」(以下、高知資料ネット)に改称し、現在に至っています。
【活動の特徴】
文●楠瀬慶太
「資料継承のサイクル」をつくる活動モデル
高知資料ネットは、地域住民が中心となった民間のボランティア団体で、寄贈・寄託などの資料の受け入れはせず、記録資料はすべて所蔵者に返却しています。また、所蔵者に資料の記録保存の作業に参加してもらい、資料は公開を前提に記録することを了解してもらっています。
「高知資料ネットの活動モデル図」に示したように[❷]、月1回行われる定例会へ資料を持ち込んでもらい、メンバーと所蔵者で資料のクリーニング、撮影、表題付け、中性紙封筒への封入等の記録・保存作業を行います[❶]。資料の相談は、個人からが多いですが、博物館や図書館、自治体の仲介で持ち込まれる場合もあります。資料は中性紙封筒に入れて所蔵者に返却し、高知資料ネットで作成した資料の記録(資料価値などを記した「調査レポート」、「資料目録」、撮影データの入った「DVD」)とともに保管をお願いしています。この際紙資料保存の手引書を渡し、保管方法も助言しています。撮影データ・資料目録類は高知資料ネットのハードディスクで保管し、連携するオーテピア高知図書館(県立図書館と高知市立図書館の合築施設)や市町村立図書館に目録集・DVDで収蔵し、貸し出しや閲覧の形で「公開」しています。
❷高知資料ネットの活動モデル図
上記の活動モデルは、資料散逸の防止や資料公開について公的機関や研究機関のような体制を取れない弱点を克服するために構想したものです。定例会では、資料について大学教員らが解説しながら記録保存を行っています。作業を通して家庭にある資料の歴史的価値を所蔵者に認識してもらい、家庭で大切に歴史資料として保存し、次世代に伝えていくことを期待しています。また、保存用具で資料劣化を予防し、資料目録やデータDVDで閲覧時の資料の劣化を防ぎ、調査レポートや資料目録によって所蔵者が次代に資料の価値を伝えることができる体制も整えています。所蔵者への啓発によって「資料継承のサイクル」をつくることを目的とした活動です。なお資料の記録保存、保存用具の提供等はすべて無償で、会費のほかに民間の助成金を獲得し、活動費や印刷費を捻出しています。
また、資料公開については、コストの掛かる高度なデータベース等は構築できないため、図書館という市民が日常的に利用できる施設と連携して、上記のような公開体制を整えています。図書館での資料公開は、関係する研究者や学校の教員らに周知していますが、県民に広く認知してもらうに至っていません。目録集はSNS上でPDF公開してダウンロードできるようにし、閲覧希望があった資料画像についてはDVDで発送しています。
定例会は「生涯学習の場」
高知市の市民活動サポートセンター会議室で月1回の定例会を定期活動として開催しています。現在は大学教員らが指導役となり近現代班2班、前近代班1班の体制で記録保存を行っています。毎回15人前後が参加し、資料のクリーニング、撮影、古文書の翻刻、目録作成、中性紙封筒への封入など3時間程度作業をしています。専門家から助言を受け、試行錯誤を重ねながらこれまで計50回の定例会を開催し、所蔵者宅や保管施設を訪れる外部調査も随時実施しています。
活動は当初立ち上げメンバーが中心でしたが、近年定例会に参加した所蔵者が歴史資料の重要性に気づき、自身も記録保存の活動に携わりたいと常時参加するようになっています。また、作業を通して目録作成や撮影方法を学び、自身の住む地域で資料の記録作業を始めたメンバーもいます。定例会は平日開催なので、シニア世代が多いですが、夏休みなどは歴史系の大学生も参加しています。活動を通して住民が資料保存のノウハウを学び、定例会の拡充や地域での活動につながる「生涯学習の場」となっています。
冊子で資料保存知識を普及
高知資料ネットの小規模な活動で資料散逸を防ぐことは困難であり、資料保存の知識を県内に普及することをもう一つの目標として活動しています。高知城歴史博物館の田井東浩平学芸員による定例会での講演を元にした冊子『高知の戦争資料を残す・伝える─紙資料の保存活用の手引き─』を2017年(平成29)に1500部、2019年(平成31)には改訂版『高知の歴史資料を残す・伝える─紙資料保存の手引き─』を800部印刷し、県内の博物館・図書館で配布してもらっています。冊子には、紙資料の劣化プロセスや県内の満州開拓団資料を例にした資料保存のノウハウ説明、クリーニングや自主燻蒸、資料保管の方法、中性紙保存箱・封筒等の入手方法などを載せています。また、資料保存に関わった所蔵者のコラムも載せ、家庭に残る近現代資料の重要性を訴え、地域で資料保存に取り組んでもらうことを呼びかけています。冊子は高知資料ネットのSNS上にPDF公開し、ダウンロードできるようにしています。
GISを使った資料データベース
約5年半の記録活動で、68件約4,000点の地域資料を記録しており、日露戦争やアジア・太平洋戦争の県関係部隊の資料、県からの移民が多かった満州関係資料、未発見の地元新聞、近世の浦庄屋の文書群、中近世のいざなぎ流関係文書など新資料が数多く見つかっています。
うち16件1,058点を『高知県近現代資料集成Ⅰ』に収録して資料目録・撮影画像を公開しています。記録した資料はすべて所蔵者に返却しているため、資料保管で困った際には目録記載の高知資料ネット事務局の連絡先に相談してもらえるようにし、次代の所蔵者を事務局で把握しフォローができる体制を構築しています。また、各資料の詳細や保管場所の位置情報は、Googleマイマップを使ったデータベース(CSV形式、非公開)に登録し[❸]、事務局で管理しています。さらに、南海トラフ地震などの災害を想定し、GIS(地理情報システム)にデータ入力し[❹]、県などが配布する浸水予測や土砂災害予測のデータと重ねて資料の被災状況をトリアージし、資料救済の優先順位を決められるシステムも導入しています。
❸高知資料ネットのデータベース(非公開)
❹津波浸水予測と資料所在地をGIS上に表示した図
【連携団体】
高知県立高知城歴史博物館、高知県立歴史民俗資料館、高知市立自由民権記念館、高知県立図書館、満洲の歴史を語り継ぐ高知の会、土佐地域史研究会、高知県の学校資料を考える会、NPO法人「地域文化計画」
【活動がわかる主な文献リスト】
1●楠瀬慶太「高知戦争資料保存ネットワークの設立について」『地方史研究』383、2016年
2●小幡尚「高知の戦争資料」『資料学の方法を探る』18、2019年
3●楠瀬慶太「地域における近現代資料の記録─高知戦争資料保存ネットワークの活動─」『西南四国歴史文化論叢よど』20、2019年
4●高知戦争資料保存ネットワーク編『高知県近現代資料集成Ⅰ─目録集─』地域資料叢書21、2021年 https://www.facebook.com/groups/404644176658001/filesよりDL可能