歴史資料保全ネットワーク・徳島(徳島史料ネット)【四国】★『地域歴史文化継承ガイドブック』全文公開
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歴史資料保全ネットワーク・徳島
(徳島史料ネット)
【団体情報】
設立年●2012年9月
事務局所在地●〒772-8502 徳島県鳴門市鳴門町高島字中島748 鳴門教育大学 社会系コース 町田哲研究室
電話番号●088-687-6362(鳴門教育大学・町田研究室/平日のみ)
メールアドレス●sudachi.shiryo@gmail.com(事務局長 町田哲)
HP●http://tokushimasiryo.blog.fc2.com/
【活動地域】
徳島県等
【参加方法】
入会●会則(http://tokushimasiryo.blog.fc2.com)に記された本会の趣旨・目的に賛同し、諸活動に参加もしくは協力できる個人・団体。会費無料(2021年現在)。上記メールアドレスにご連絡ください。
寄付●郵便振替口座 01660-9-132318 加入者名 歴史資料保全ネットワーク・徳島
❶被災歴史資料のレスキュー活動(2014年8月)
❷市民参加の下貼り剥がしワークショップ(2015年4月)
【設立の経緯】
文●町田 哲
設立に向けた機運の高まり
徳島県内でも、2011年(平成23)3月11日東日本大震災以降、もし徳島周辺で同様の地震・津波が発生したら、歴史に関わる者として何ができるのか、そうした思いを抱き、募らせていた関係者は多くいました。さらに海を挟んだ和歌山県の2011年9月紀伊半島大水害をうけ、史料ネット設立の必要性を訴える声は高まり、2012年1月に地元の徳島地方史研究会も、公開研究大会「災害史に学ぶ阿波の歴史」の中で史料ネット設立の必要性を提起していました。
こうした機運の高まりの中、7月に徳島県内の歴史関係者13名(大学教員・博物館学芸員・県立文書館職員・県教委文化財担当職員)が集まり、設立準備会を開催しました。とにかく徳島なりの史料ネットを設立させ、当面の活動として①災害時の被災歴史資料の保全、②災害以前からの歴史資料の所在確認、③地域の歴史文化をめぐる、地域住民・自治体・大学・史料保存機関の連携・情報発信等を行うことが共有されました。そして広く市民に呼びかけようと、9月16日に設立集会「地域の歴史資料を守り、伝え、活かす。」を開催することになります。歴史資料ネットワークの多大なる協力により、集会では講演と水損古文書の保全ワークショップ[❸]が開かれました。マスコミ各社による報道もあり、予想に倍する57名の参加者を得て、熱気あふれる会となりました。
❸設立集会時の「だれでも出来る水損した古文書等の歴史資料の緊急保全ワークショップ」添田仁さんを囲み、説明を熱心に聞く参加者(2012年9月)
徳島史料ネットの特徴
本会の特徴は、次の3点です。第一は、徳島における歴史文化活動の担い手の現状をふまえた組織だという点です。県内には1990年代設立の博物館が複数あり(県立博物館、市立徳島城博物館、松茂町立歴史民俗資料館、海陽町立博物館)、各学芸員の精力的な活動が、市民からの信頼を獲得してきました。一方、大学は国立2校・私立2校ありますが、院生を多く抱える大学はなく、恒常的に地域の調査活動をする体力が必ずしも強くはありません。ただ、上記博物館や県教委と連携した取り組みは、しばしば行われてきました。こうした互いに顔がみえる関係が設立前からあった点は大きな強みであり、多様な経験と関係を可視化したのが「徳島史料ネット」です。もちろん、担い手の少なさは弱点でもありますが、実情をふまえつつ、無理なく長期的に活動を継続させていくことを重視しました。メンバーが各自の分限を越えて、一歩でも足を前に踏み出し、ゆるやかに連携する。そこから本会のモットー「できることからボチボチと」が生まれました。
第二は、県内における史料保存状況の課題を意識した点です。徳島でも、高度経済成長や近年の新自由主義の横溢にともない、「過疎」化等によるコミュニティの消失や、史料や家を維持することが困難な状況が生まれ、地域資料の散逸・流出につながっていました。一方で、歴史資料の所在確認は遅れており、県全域の悉皆調査はもちろん、各市町村単位の悉皆調査も行われてきませんでした。ただ、市民の歴史文化への関心は高く、その期待に応えていく必要があります。だからこそ、「地域の歴史を未来に伝えていく営みを、多くの組織・個人の共同によって支え、培っていく」ことの意義を自覚し、災害時にこだわらず、日常的な地域の歴史文化を維持・向上させる取り組みとして、活動を意味づけることになりました。
第三は、「文化財の防災に関する共同宣言」の締結です。本会設立後、一般市民の方々や県内関係者から多くの反応がありました。その一つが、各市町村の文化財担当者を担い手とする徳島県文化財保存整備市町村協議会からの働きかけです。石井町での所在確認調査・講演会等の連携が契機となって、2014年(平成26)3月15日に、同協議会・徳島県博物館協議会・本会の三者で、共同宣言を締結しました[❹・❺]。①文化財関係ネットワークの構築をベースとし、②歴史資料基礎情報の整備をはかり、③被災文化財対応手法の確立を目指すという簡単な内容で、細かな規定はありません。しかし、「文書」を一枚締結しておくことで、自治体側は業務として本会との連携が可能となり、本会にとっても市町村の文化財担当者や市民との幅広い連携がしやすくなります。活動の素地を広げる意味で、宣言は重要な一歩となりました。2021年(令和3)4月に徳島県が改定した「文化財災害等対応マニュアル」でも、被災時における徳島県文化資源活用課との連携(支援要請・状況報告等)に、三者が明記されるに至っています。
❹「文化財の防災に関する共同宣言」締結式(2014年3月)
❺「文化財の防災に関する共同宣言」(2014年3月締結)
【活動の特徴】
文●町田 哲
史料レスキュー活動
共同宣言を締結した矢先の2014年8月、県内で台風11・12号による大雨災害があり、本会は、水損した歴史資料のレスキュー活動を初めて実施しました。歴史資料ネットワークにも応援を求め、被災後1~2週間の間に、海陽町・那賀町鷲敷地区・阿南市加茂谷地区で、史料群5件を何とか保全できました。この活動は、共同宣言に基づき、地元自治体の協力を得ることで初めて実現可能となりました。そのこと自体が、共同宣言を締結した大きな意義です。被害状況や自治体側の反応は一様ではありませんでしたが、文化財担当者による地域に根ざした日常的な文化財保護の取り組みを前提に、本会が担当者や地元市民とどれだけ関係を作れるかが大切である点を痛感しました。
ある自治体では、「所蔵者ピンポイント型」で地元の文化財担当者と所蔵者との密な関係に基づいて所蔵者を巡回した。これは未知の史料群の状況把握に難はありますが、担当者の事前把握があって初めて対応が可能な安否確認の方法です。別の自治体では「被害地域全戸巡回型」の巡回を行いました。「捨てないでチラシ」(資料の保存を呼びかけるチラシ)を配りながら、活動の趣旨を丁寧に説明して廻りました。そうした中でも、1878年(明治11)の大雨洪水による被害届を含む廃棄寸前の襖の下貼が見つかりました[❶]。当地が近代初頭にもたびたび那賀川の洪水被害に遭っていた歴史を示す文書です。何もしなければ失ったかもしれない文書を、活動によってわずかでも次につなげることができた点に、一定の意義を見出しています。なお、この襖の下貼については、ワークショップ「剝がしてみえる下貼文書の世界」を3回実施し、多くの市民会員や大学生が下貼りを剝がす作業に携わりました[❷]。これらの活動は、NHK徳島でも放映され、翌年に同地域が再び被害にあった際にも、下貼文書が全国ニュースで紹介されました。
近年の取り組み
ところで近年は、県内の史料保存機関の活動が活発です。「昭和南海地震」70年にあたる2016年(平成28)度には、県教委教育文化課(当時)が地震津波碑39基の悉皆調査を行い(『南海地震徳島県地震津波碑調査報告書』県教委、2017年)、県内の地震津波碑すべてが指定・登録文化財となりました。徳島県立文書館も、同年に地震・復興関係文書の調査を実施し、その成果を、特別企画展「知ろう!学ぼう!記録資料に見る南海地震」で伝え、多くの市民の関心を呼び起こしました(『徳島県南海地震史料集』、展示パンフも刊行)。徳島県立博物館は、2017年(平成29)度に特別陳列「よみがえる、ふるさとの"たからもの"─大津波被災文化財の再生から未来へ─」を開催し、全国の関係者・市民の手によって救出・再生された岩手県陸前高田の市立博物館等の資料や、文化財を守り伝える活動を紹介しました。さらに2021年8月、同館の常設展大幅リニューアルに際し、徳島史料ネットの活動を紹介するコーナーを設けました。
これら近年の活動は、あくまで各機関の取り組みであり、必ずしも本会の活動ではありません。しかし、本会会員の学芸員等が深く関わり、それぞれの持ち場で意識的に災害史や歴史文化活動に取り組んだ成果です。これもまた、広い意味での連携・ネットワークの成果といえるのではないでしょうか。今後も粘り強く活動したいと思います。
【連携団体】
徳島県文化財保存整備市町村協議会(「文化財の防災に関する共同宣言」を締結、2014年3月15日)
徳島県博物館協議会(「文化財の防災に関する共同宣言」を締結、2014年3月15日)
【活動がわかる主な文献リスト】
1●町田哲『歴史資料保全ネットワーク・徳島』の設立と課題」『全国史料ネット研究交流集会報告書』歴史資料ネットワーク・独立行政法人国立文化財機構、2015年10月
2●町田哲「『歴史資料保全ネットワーク・徳島』の設立経緯」『史窓』43、2013年3月
3●町田哲「二〇一四年八月の台風災害における『歴史資料保全ネットワーク・徳島』の活動」『史窓』45、2015年3月