岡山史料ネット【中国】★『地域歴史文化継承ガイドブック』全文公開

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岡山史料ネット

【団体情報】
設立年●2005年
事務局所在地●〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中3-1-1 岡山大学文学部日本史研究室
電話番号●086-251-7569(代表/平日のみ)
メールアドレス●okayamasiryonet@gmail.com(代表)
HP●http://okayamasiryonet.s1008.xrea.com/
Twitter●https://twitter.com/okayamasiryonet
Facebook●https://www.facebook.com/okayama.siryonet
【活動地域】
岡山県
【参加方法】
入会●会員(年会費1,000円、総会議決権あり)とサポート会員(無料、総会議決権なし)があります。歴史資料の救出や保全に興味関心をお持ちの方でしたらどなたでもご入会いただけますので、事務局までお問い合わせください。
寄付●活動継続のために資金を必要としています。下記口座にお振り込みいただければありがたく存じます。いただいた寄附金は、資料保全活動に必要な物品の購入・会の運営にあてられます。
ゆうちょ銀行 総合口座(普通口座)
【記号】15470 【番号】38569531 岡山史料ネット(オカヤマシリョウネット)
(他金融機関からの振込の場合)
【店名】五四八 【店番】548 【預金種目】普通預金 【口座番号】38569531

【設立の経緯】
文●松岡弘之

災害前から活動を行う「予防ネット」として結成
2000年(平成12)10月の鳥取県西部地震を機に山陰史料ネットが結成され、活動を開始しました。このとき、岡山県からも支援ができればということで、有志が鳥取県日野町での資料レスキューに参加しました。この地震では岡山県北の一部地域でも被害が確認されており、レスキューの必要性について照会を行ったものの、具体的な活動にはいたることはありませんでした。その後も2003年(平成15)7年に宮城県北部地震を契機として、宮城歴史資料ネットワークが設立され、活動を開始します。このように各地で大規模災害の発生をきっかけとした資料保全団体が設立される動向が続いていました。一方、瀬戸内海に面した温暖な気候から「晴れの国」といわれる岡山県も、歴史をひもとけば多くの災害を経験しています。また、県東部の山崎断層帯が動けば、県内でも最大震度6強の揺れが発生することが想定されています。災害時の歴史資料のレスキューに取り組むためには、災害の前から準備を進めておく必要があるということから、県内の行政職員・歴史研究者・学生などによるゆるやかなネットワークを形成し、災害が起こる前から活動を行う「予防ネット」として岡山史料ネットが結成されることになりました。2005年(平成17)のことでした。

【活動の特徴】
文●松岡弘之

「予防ネット」としての活動を続ける
「予防ネット」としての岡山史料ネットは、岡山大学文学部日本史研究室に事務局をおき、以下の二つを活動の柱として取り組んできました。一つ目は、市民を対象とする講演会・セミナーの開催です。すでに資料保全活動に取り組んでいた神戸や宮城、新潟など各地の皆さんをお招きしてお話をうかがいました。また、県内でこれまで地域資料の調査に取り組んでこられた方々や県内で発生した災害に関する講演会の開催、ふすまの下張り剝がしなど実践的なワークショップを開催し、資料保全活動への理解を深める場づくりを行いました。二つ目は、地域歴史資料についてのデータベースの作成です。岡山大学の学生の協力を得ながら、自治体史などに掲載された文書群の名称や概要などの情報を入力し、発災時の迅速な対応に備えようとするものです。この作業は現在も継続しています。

こうした中で、2009年(平成21)8月に台風9号が各地に豪雨被害をもたらしました。歴史資料ネットワーク(神戸市)では、2007年(平成19)の福井豪雨を契機として、地震だけではなく水害時にもレスキュー活動に取り組むようになっており、兵庫県佐用町で取り組まれた資料レスキューには、岡山史料ネットも応援のため参加しました。一方、県内でも被害の大きかった美作市において巡回調査も実施しましたが、具体的な資料レスキューにつなげることはできませんでした。

以上のような岡山史料ネットの活動は、岡山県立記録資料館・岡山地方史研究会・岡山近代史研究会など県内の皆さんとも随時連携しつつ実施してきたものです。一方、岡山県は、相次ぐ災害の発生をうけて、文化財課を事務局として、県内大学研究室・県博物館協会・県建築士会・県内市町村によって構成される岡山県文化財等救済ネットワークを2014年(平成26)3月に組織しました。これも平常時からの連携推進と大規模災害時における情報共有を目的とするもので、岡山史料ネットも参加し、会議・研修会に参加しています。このネットワークは、2019年(平成31)に策定された県の文化財保存活用大綱にも位置づけられています[❶]。

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❶第4回全国史料ネット研究交流集会(ノートルダム清心女子大学、2018年1月20日、小野功裕撮影)

こうした、予防ネットとしての取り組みや地域歴史遺産の減災について議論するために、2018年(平成30)1月20・21日には、第4回全国史料ネット研究交流集会がノートルダム清心女子大学(岡山市)で開催され、全国から60名を越える方々に参加いただきました。初日には、久留島浩さん(国立歴史民俗博物館)・久保田裕道さん(東京文化財研究所)から講演いただいたほか、各地からの報告をふまえて、参加者の交流を深めることができました。

西日本豪雨でのレスキュー活動
西日本豪雨が発生したのは、この交流集会の半年後の2018年7月のことでした[❷]。5日から始まった豪雨は、6日深夜から複数の河川を決壊させるにいたり、7日には倉敷市真備町をはじめ、岡山市、総社市、高梁市など県内各地で甚大な被害の発生が確認されました。岡山史料ネットでは、災害ボランティアセンターに資料保全呼びかけのチラシを設置していただき、グループウェアで情報共有につとめるなどしていましたが、7月下旬になって倉敷市立真備図書館・真備歴史民俗資料館で最初の資料レスキューに取り組みました。また、片づけボランティアの方が救い出してくださった資料群を持ち込んでくださったこともありました。こうしてレスキューされた資料群は6群約1,000点にのぼり、各施設で冷凍保管していただいたものを事務局に移動させながら、2018年10月中旬以降、ボランティアの皆さんと修復を進めているところです。いくつかの文書群は作業が完了し、ご所蔵者に返却することができました。これらの活動を実施するにあたり、全国の皆さま、企業メセナ協議会から多くの募金をいただくことができました。改めてお礼を申し上げます。岡山県・倉敷市でも岡山史料ネットとは別に公文書を中心としたレスキューが取り組まれました。とはいえ、失われた記録は多く、課題は多々あります。

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❷西日本豪雨での資料レスキュー(倉敷市真備町、2018年7月21日、今津勝紀撮影)

岡山史料ネットが対応できるのは、古文書などの紙資料に限られていますが、西日本豪雨では多くの方々が、写真や絵画、楽器などのさまざまなものを対象として、被災地のために自らの経験を活かした活動を展開されました。これらについては、絵画修復士である斎藤裕子さんが中心となって、関係団体・機関の皆さんが寄稿した『残す。西日本豪雨災害 私たちは真備に何を残そうとしたのか』という書籍が企画され、クラウドファンディングの支援を得て2021年(令和3)に刊行されました。現在は、発行元である吉備人出版から全文がPDFで公開されています(https://www.kibito.co.jp/nokosu)。こちらもご覧いただければと思います。また、西日本豪雨を契機として設立された「災害支援ネットワークおかやま」および「岡山市災害ボランティアネットワーク」に岡山史料ネットとして参加し、さまざまな観点から被災者支援に取り組む皆さんとの連携や情報共有につとめています。

コロナ禍での活動
なお、2020年(令和2)2月以降は新型コロナウイルス感染症をめぐる動向により、ボランティアを募った修復作業を進めることができず[❸]、オンライン上での活動報告会の開催や、ニュースレターおよびウェブサイトやSNSを通じた関連する動向についての情報発信が活動の中心となっています。状況が早く落ち着き、ボランティアの皆さんと修復活動が再開できることを願っているところです。こうした不十分な状況ではありますが、2021年9月には、マルセンスポーツ・文化振興財団からスポーツや文化の発展に貢献した県ゆかりの方々を表彰する第18回マルセン賞(文化賞)をいただくことができました。さらによい活動が展開できるよう、これからも努力していきたいと考えています。

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❸岡山大学構内での保全活動(2019年1月7日、今津勝紀撮影)

【連携団体】
岡山大学日本史研究室、岡山県文化財等救援ネットワーク、災害支援ネットワークおかやま、岡山市災害ボランティアネットワーク
【活動がわかる主な文献リスト】
1●今津勝紀「予防ネットという考え方─岡山史料ネットのこれまで」、奥村弘編『歴史文化を大災害から守る』東京大学出版会、2014年
2●上村和史「西日本豪雨被災資料の救出と保全─岡山史料ネットの取り組み─」『岡山地方史研究』147、2019年
3●東野将伸「岡山史料ネットによる水損史料レスキュー・クリーニング作業の現状」『LINK』12、2020年
4●西日本豪雨災害「残す。」編集チーム編『残す。私たちは真備に何を残そうとしたのか』吉備人出版、2021年 https://www.kibito.co.jp/nokosuで公開中(最終閲覧日:2021年10月28日)