地域史料保全有志の会(保全の会)【中部】★『地域歴史文化継承ガイドブック』全文公開

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地域史料保全有志の会
(保全の会)

【団体情報】
設立年●2011年
事務局所在地●〒252-0174 神奈川県相模原市緑区千木良921-11 白水智 方
電話番号●04-7182-1441(白水勤務先:中央学院大学教員室)
メールアドレス●shiryouhozen@gmail.com(地域史料保全有志の会代表メール)
HP●https://ameblo.jp/shiryouhozen/
その他●https://8200.teacup.com/sakaemura/bbs?(参加者同士の情報交換BBS)
【活動地域】
現在は長野県下水内郡栄村が中心です。近隣地域で文化財被災があった際には応援に駆けつけています(2019年秋の台風被害後、飯山市でのレスキュー活動をお手伝いしました)。
【参加方法】
入会●会員制度はとっていませんので、現地での活動に参加していただければOKです。
寄付●JA神奈川つくい 相模湖支店 0010661 地域史料保全有志の会 代表 白水智

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❶崩れた土蔵内で文化財の救出作業(2011年6月18日)

2古老の指導で雪上の材木運搬技術を体験(2017年3月6日).jpg
❷古老の指導で雪上の材木運搬技術を体験(2017年3月6日)

【設立の経緯】
文●白水 智

長野県北部地震をきっかけに設立
代表を務める白水が1999年(平成11)より調査・研究フィールドとしていた長野県栄村が2011年(平成23)3月12日早朝の大地震により被災したのをきっかけに、現地での文化財救出を開始しました。被災範囲は村の北半分を中心とする限られた地域でしたが、最大震度6強・6弱の揺れにより多くの民家が被害を受け、古民家などに保管されていた民具・古文書などが廃棄される状況になりました。現地の方からのSOSにより、4月末に被災後初めて現地入りし、以後、毎月通いながら文化財レスキューに従事しました。

6月にはレスキュー団体の名称を「地域史料保全有志の会」とし、参加者をその都度の会員として活動し、年内に多数の個人宅などから大量の民具や古文書を救出しました[❶]。特に8月には「第1回民具大移動プロジェクト」として新潟資料ネットをはじめとする各地の皆さまのご協力を得て、文化財救出にあたりました。当地は豪雪地のため、破損した民家はほぼ年内に取り壊されることになり、文化財の救出自体はほぼ2011年中に終了しました。しかしその後、救出した資料を整理する作業が始まり、翌年以降、現在まで(2020年〈令和2〉の新型コロナウイルス感染拡大以後はほとんど活動が休止しております)文化財の整理活動を継続しています。2年目以降、年間の活動回数は10回から8回、5回と少なくなってきましたが、まだまだ整理を要する資料・史料はたくさんあり、その作業を続けています。

【活動の特徴】
文●白水 智

楽しみながら文化財を整理していく
当会の特徴は、被災地栄村の文化を楽しみながら整理していく、という点にあります。当会では、文献史料(古文書)、民具、考古遺物の3分野の文化財を主として扱い、整理してきましたが、単に機械的な作業として整理を行うというのではなく、文化が形になって残された文化財を味わいながら整理するとともに、現在まで続く多様な村の文化(食文化・景観・祭などの伝統行事、山菜採りや農作業などの生活文化)を自ら体験しながら村を理解し、その村の残してきた文化継承の一端を担おうという考え方にたっています。文化財から知りえた知見を地元の皆さんに還元していく活動も早い段階から積極的に行ってきており、村立小学校や中学校の児童・生徒を対象にした文化財教室の実施や体験講座、特別授業なども行ってきました。こうした活動が可能となったのは、村の教育委員会や公民館との連携が当初から取られていたからで、そこでは1999年以来の歴史調査のつながりが活きました。

「栄村歴史文化館 こらっせ」開設
また、このような連携の結果、当会の活動の成果が形として実現したのが、「栄村歴史文化館 こらっせ」の開設です。被災後に文化財の応急保管場所として利用していた旧小学校分校の味わい深い建物を耐震改修し、村の民具や歴史史料・考古資料の収蔵・展示・研究施設として2016年にオープンさせることができました。ここはオープン以後、当会の活動の中心拠点ともなっています。美しい田んぼを見渡す穏やかな風景の中にある「こらっせ」は、くつろぎの空間であると同時に村の文化を展示・紹介する発信の基地でもあります。村公民館との共用施設のため、保存されている民具を利用した公民館活動も展開されており、さまざまな文化活動の拠点でもあります。

この「こらっせ」内の展示や収蔵棚などはすべて保全活動に参加した学芸員や地元の村民の方々の手作りです。高価な値の張る展示機材を使い、見かけだけ小きれいな展示にするよりも、地元の皆さんと各地から有志で参加した方々の手作りで等身大の展示を仕上げたいという思いで作りあげました。オープン前夜は参加者が深夜まで作業をして完成にこぎつけました。民具や古文書などの収蔵棚は、収蔵品や収納箱に合ったサイズで手作りし、これまた参加した皆さんが張り切って日曜大工に挑み、製作しました。展示や収蔵室の造作過程も含めて多くの皆さんが参加することでこの施設に愛着をもってもらいたいとの思いから、あえて専門の業者を入れずに、保全活動の一環として楽しみながら作業をしました。

また、保全活動の期間には、救出民具の草籠を持ちだして山菜採りに出掛けたり、古い漆器を使って伝統的なハレの日の料理を再現したりしたほか、各集落の祭を見学したり、貴重なヒメボタルの出る場所に夜間出掛けてみたりと、村の自然から伝統行事までさまざまな体験をしました。こうしたさまざまな取り組みの中ですべての参加者が体験しているのが、地元食材を使った料理です。地元の料理自慢のかあちゃんたちが保全活動の最中に炊き出しをして見事な地元料理を振る舞ってくださったりしたことが幾度もありましたし、普段は差し入れしていただいたり地元の直売所で仕入れた食材で自炊を楽しんでいます[❸]。参加者の昼食は、1人100円のワンコインで地元自慢の食材料理をお腹いっぱい堪能できる方式をとっています。

こうした参加者同士の交流と、民具・文献・考古の垣根を越えた交流とが、当会の地味な活動を背後で支え、リピーター参加者を呼んでいます。2020年度からは新型コロナウイルス感染拡大のため、活動は休止していますが、情勢が落ち着き次第、徐々に再開していきたいと考えています。

3こらっせのくつろぎ空間で自炊昼食(2018年4月29日).jpg
❸こらっせのくつろぎ空間で自炊昼食(2018年4月29日)

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❹みんなで古文書整理(2019年4月30日)

【連携団体】
常時連携を確認している団体はありませんが、当会発足当初からのご支援をいただいているのは、「歴史資料ネットワーク」「新潟歴史資料救済ネットワーク」、また同県内の被災地である「長野被災建物・史料救援ネットワーク」「信州資料ネット」とも人的な交流があります。
【活動がわかる主な文献リスト】
1●下記のWeb上に毎回の活動ごとの報告書すべてを掲載しております。
https://drive.google.com/drive/folders/0B5MQGeVp6XT_OEVuWDBuYklhQU0?resourcekey=0-sVg5rH9OFxNZ0UVtglqApw&usp=sharing
2●白水智「長野県北部地震と民具・古文書の救出─三回の文化財保全活動から─」、神奈川大学日本常民文化研究所『民具マンスリー』44-6、2011年9月
3●白水智「長野県北部震災と文化財保全活動」『歴史評論』742、2012年2月
4●白水智「文化財救出と人文学の現場─長野県北部震災での経験から─」『中央史学』35、2012年3月
5●白水智「長野県栄村における文化財保全活動と保全の理念」『震災・核災害の時代と歴史学』青木書店、2012年5月
6●白水智「文化を伝える─長野県栄村における文化財保全活動の実践から─」『災害・復興と史料』新潟大学災害・復興科学研究所危機管理・災害復興分野、2013年3月
7●白水智「ブンカザイを空疎な言葉にしないために─栄村における救出文化財活用に向けての模索」、奥村弘編『歴史文化を大災害から守る─地域歴史資料学の構築』東京大学出版会、2014年1月
8●白水智「地震被災地での文化財保全活動のあり方について─長野県栄村の事例から─」『日本歴史学協会年報』29、2014年3月
9●白水智「文化財保全活動四年目の新展開─長野県北部地震の現場から─」『歴史評論』774、2014年10月
10●白水智『古文書はいかに歴史を描くのか─フィールドワークがつなぐ過去と未来─』NHK出版、2015年