ふくしま歴史資料保存ネットワーク(ふくしま史料ネット)【東北】★『地域歴史文化継承ガイドブック』全文公開

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ふくしま歴史資料保存ネットワーク
(ふくしま史料ネット)

【団体情報】
設立年●2010年
前身団体●ふくしま文化遺産保存ネットワーク(2010年まで)
事務局所在地●〒960-1296 福島市金谷川1 福島大学行政政策学類 阿部浩一研究室気付
電話番号●024-548-8318(阿部浩一研究室)
メールアドレス●shiryo-net@ipc.fukushima-u.ac.jp(事務局)
HP●プロバイダーのサービス終了により当面閉鎖中
Facebook●https://www.facebook.com/fukushima.shiryo.net
【活動地域】
福島県内全域、必要に応じて県外でも活動
【参加方法】
入会●登録は無料です。歴史資料の取り扱いに関する資格や経験等は全く問いませんが、パソコンへのメール配信が可能であることを条件とさせていただきます。当ネット事務局までeメールにて、「ネットワーク登録希望」と明記の上、①お名前、②居住市町村名、③電話番号、④所属団体等(無所属も可)をご記入の上送信いただければ、登録完了となります。よろしくお願いいたします。
寄付●ゆうちょ銀行の振替口座 口座記号番号:02220-5-109986 口座名称(漢字)ふくしま史料ネット 口座名称(カナ)フクシマシリョウネット
※ゆうちょ銀行以外から振り込む場合は、下記内容をご指定いただくようになります。
店名(店番)二二九(ニニキュウ)店(229) 預金種目:当座 口座番号:0109986

【設立の経緯】
文●阿部浩一

設立に向けて
前身は2006年(平成18)設立のふくしま文化遺産保存ネットワークで、これを発展的に解消するかたちで、2010年(平成22)11月27日に財団法人福島県文化振興事業団(以下、事業団、現在は公益財団法人福島県文化振興財団)、福島県立博物館、福島県史学会、国立大学法人福島大学の四者を呼びかけ人に、「歴史資料の救出と保全」「歴史資料を守り、後世に伝える」ことを目的に、福島県民・文化遺産保護団体・研究機関・行政が幅広く手を携える活動を目指した機関・個人の連絡体として、現在のふくしま歴史資料保存ネットワーク(以下、ふくしま史料ネット)が発足しました[❸]。現在のふくしま史料ネットへの衣替えを主導したのは、事業団が指定管理者となっている福島県歴史資料館の本間宏さん(現在は福島県文化財センター白河館「まほろん」副館長)でした。災害発生前から文化財防災に取り組む「予防型ネット」としてスタートし、まずは関係機関や一般市民にネットワーク登録を呼びかけることから始めました。

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❸ふくしま史料ネット発足記念講演会(2010年11月27日、松下正和氏撮影)

本格的な始動
ふくしま史料ネットの発足から約4カ月後、具体的な活動に着手するどころか、運営体制すら決まらないうちに、2011年(平成23)3月11日に東日本大震災が発生し、さらには福島第一原発事故が起こりました。

活動開始のきっかけとなったのは、3月31日の「東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援事業」の実施を伝える報道でした。福島県では県教育委員会が現地本部を立ち上げられる状況になく、一方でレスキュー支援を求める声も少しずつ集まっていたことから、ふくしま史料ネットが先行して救援活動に取り組むことを決めました。呼びかけ人の話し合いで、菊地芳朗さん(福島大学行政政策学類)を代表に、福島大学行政政策学類阿部浩一研究室に事務局を置き、連絡窓口を福島県歴史資料館に置くことになりました。2012年(平成24)7月からは阿部浩一が代表を務めています。

【活動の特徴】
文●阿部浩一

東日本大震災での初期対応
ふくしま史料ネットが最初に手がけたのは、2011年4月の須賀川市文化財収蔵庫と国見町個人宅でのレスキュー活動でした[❶]。
須賀川市の旧長沼町では農業用ため池の藤沼湖が地震で決壊し、土石流が発生して人家を襲い、須賀川市歴史民俗資料館の文化財収蔵庫も被災しました。8月以降、国の被災文化財等救援事業によって、発掘図面等を含めた一連の考古資料の保全処置が行われました。

県北の国見町では地震による建物の被害が甚大で、国登録有形文化財を有する個人宅の蔵が被災しました。中から大量の近代文書等が救出され、その後は地元の市民ボランティアの協力でクリーニングされたのち、福島大学教員・学生の支援でデジタル撮影や目録作成が行われました[❷]。こうして救出→一時保管→クリーニング→デジタル撮影・目録作成という、一般的な歴史資料保全活動の基本的スタイルが確立しました。

1_活動イメージ写真:国見町での史料整理(2011年7月3日).jpg
❶国見町での史料整理(2011年7月3日)

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❷福島大学での古文書学実習(2017年10月25日)

5月の連休中には、ふくしま史料ネットとして初めて市民ボランティアを公募し、いわき市内から会津若松市の福島県立博物館に移送された古文書類の整理に取り組みました。6月には、全村避難の決定した飯舘村から考古資料と古文書類の大規模な搬出が行われました。

上記以外にも、震災発生時に約20例のレスキューが行われていますが、その大半は、本間宏さんがふくしま史料ネット事務局として精力的に対応しました。

旧警戒区域での文化財レスキューとふくしま史料ネット
宮城県や岩手県から遅れること約半年、福島県でもようやく東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援事業が、先述した須賀川市で始まりました。その後、旧警戒区域内でも文化財レスキュー活動が可能と判断されたことから、2012年(平成24)5月に福島県被災文化財等救援本部が発足し、国の被災ミュージアム再興事業を財源に、応援要請のあった双葉町・大熊町・富岡町の資料館等でのレスキュー活動が8月から始まりました。この活動は2014年(平成26)3月まで続けられ、救出された資料は相馬市内の一時保管場所に搬入されたのち、記録整理が行われ、福島県文化財センター白河館の敷地内に建てられた仮保管施設に収蔵されました。県救援本部では、ふくしま史料ネットは当初外部の連絡調整団体に位置づけられ、2013年(平成25)4月から救援本部の構成団体となり、幹事会にも加わりました。ただ、ボランティアベースの連絡体であるふくしま史料ネットが活動に係ることは難しく、筆者は幹事構成団体の一つである福島大学の教員として同僚・学生たちとともに、相馬市内の一時保管場所で資料の搬入を支援する活動に従事しました。

この間、ふくしま史料ネットへの支援要請はほとんどなく、市民ボランティアを募集した活動の機会もなかったことから、このままでは史料ネットが自然消滅しかねないという危機感が生じました。そこで、代表である筆者が大学教員である立場を活かし、学生を実質的な担い手の中心に据え、そこに市民参加を促していくかたちにシフトさせていきました。多くの史料ネットは大学の歴史教員が立ち上げて代表などをつとめているため、研究室やゼミに所属する学生たちが史料ネット活動に参加するのはごく自然なことです。しかし、福島大学はふくしま史料ネットの呼びかけ人の一つにすぎませんので、大学の授業や学外活動の中に史料ネットの活動を織り交ぜていく方法をとりました。

文化財レスキューで縁のできた国見町内では、主な地区での被災資料調査を行い、『国見町史』で把握していなかった多くの資料を確認できました。2012年(平成24)5月には、茨城文化財・歴史資料救済・保全ネットワークが進めてきたいわき市内の個人宅での文化財レスキューに加わりました。同年8月には、山形文化遺産防災ネットワークが後方支援として取り組んでいた宮城・岩手の水損資料の保全作業にも参加し、2013年度まで続きました。宮城歴史資料保全ネットワーク(以下、宮城資料ネット)の協力を得て、ふくしま史料ネットで市民ボランティアを公募し、古文書のデジタル撮影技術の講習を行ったのも同じ頃でした。こうした活動の多くが次の新たな活動へと結びつき、ふくしま史料ネットの活動基盤となる人的つながりや技術力の蓄積・継承へと展開していきました。

災害対応からその後の日常的活動へ
2013年3月の東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援委員会の解散後、福島県内被災文化財等救援事業がさらに1年間実施され、2014年3月に終了しました。福島県被災文化財等救援本部はその後も存続しますが、活動の中心は旧警戒区域の自治体や幹事団体へと移っていきました。

福島県立博物館は浜通り(福島県太平洋側)の自治体・博物館・学会等とともに「ふくしま震災遺産保全プロジェクト」を立ち上げ、震災が産み出し、遺し、復興の過程を示す「バショ」と「モノ」を、ふくしまの経験を示す歴史的資料としての「震災遺産」と呼び、それらを収集・保全・記録・展示する活動を精力的に推進していきました。被災ミュージアム再興事業の対象となった3自治体のうち、富岡町はいち早く役場内に横断的な「富岡町歴史・文化等保存プロジェクト」を立ち上げ、役場職員が中心となって、個人宅に所蔵された多様な資料を保全する活動に取り組みました。

福島大学では、2013年の福島大学うつくしまふくしま未来支援センター棟の竣工と歴史資料担当の設置を受けて、2014年度から被災資料を預かり、行政政策学類の古文書学実習で記録整理し返却する活動を始めました。これにより、多くの学生が古文書を撮影し、目録を作成する経験を積めることになり、歴史資料保全活動を支える人材の育成が本格的に始まります。

ふくしま史料ネットも2014年度から2日間の夏季集中作業を企画し、学生・卒業生のみならず、県内外から多くの市民ボランティアが集う年中行事になりました[❹]。2020年(令和2)度はcovid-19の影響で対面授業ができなかった関係で休止しましたが、2021年(令和3)度は学内限定で実施しました。同じく2014年度から富岡町と協力し、町職員が保全してきた資料類を学生たちが撮影して目録を取る作業を支援し、そこにふくしま史料ネットの呼びかけで市民ボランティアが加わるかたちでの歴史資料保全活動が始まりました[❺]。現在はcovid-19の感染防止の観点から休止していますが、2021年7月に開館したとみおかアーカイブ・ミュージアムで活動が再開されるのを心待ちにしています。

4_活動の特徴に関する写真:夏の集中作業(2019年9月1日).jpg
❹夏の集中作業(2019年9月1日)

5_自由:富岡町資料整理(2018年8月10日).jpg
❺富岡町資料整理(2018年8月10日)

ふくしま史料ネットの情報発信
ふくしま史料ネットの重要課題の一つは、「ふくしまの今」を県内外に発信することにあります。全国規模の学会の開催はもとより、地元向けにもシンポジウム等を企画し、活動への理解の促進と参加呼びかけを行っています。2013年2月のシンポジウム「ふくしま再生と歴史・文化遺産」での後援を皮切りに、2015年(平成27)度には2度の「懇話会 ふくしま再生と歴史・文化遺産」を主催し、文献・考古学・民俗・自然史の現状と課題、富岡町の新たな取り組みなどの報告を得ました。2016年3月には郡山市内で第2回全国史料ネット研究交流集会を開催し、2017年6月の「ふくしまの未来へつなぐ、伝える」、2018年4月の「ふくしまの未来へつなぐ、伝えるⅡ」では、震災後のふくしまを舞台に生まれた震災遺産、自治体主導の地域資料保全、民俗技術の伝承、大字誌、さらに地域に根ざした独自の取り組みなどを紹介しました。2020年11月にはオンライン開催での「地域歴史文化フォーラム福島」を後援し、震災10年を前に震災関連施設の開館の状況や新規施設の構想などの報告を通じて、ふくしまの10年の現状と成果、課題と展望を発信しました。

令和元年東日本台風と令和三年福島県沖地震
2019年(平成31)10月に発生した台風19号は東日本の太平洋側を縦断し、福島県内では阿武隈川に流れる中小河川でバックウォーター現象が起こり、広域で氾濫が発生しました。文化財関連では本宮市立歴史民俗資料館と伊達市旧梁川町史編さん室で大きな浸水被害がありました。10月25日にも台風21号の影響で福島県の太平洋側沿岸部で大雨が降り、いわき市内の国宝白水阿弥陀堂が浸水する被害が出ました。

ふくしま史料ネットは関係者と協力して情報収集につとめ、本宮市立歴史民俗資料館では県内の学芸員や福島大学学生たちとともに初期対応にあたりました[❻]。その後、福島県教育委員会の呼びかけで市町村や博物館等の関係者が集まり、救援応援活動が実施されたことは特筆すべきです。これを先行事例に、福島県文化財保存活用大綱の策定にともない、2020年3月に福島県と59市町村による「文化財に係る災害時の相互応援に関する協定」、11月に福島県とふくしま史料ネットなど関係4団体による「文化財に係る災害時の応援活動支援に関する協定」が締結されました。

6_自由:本宮市での歴史資料保全活動(2020年2月22日).jpg
❻本宮市での歴史資料保全活動(2020年2月22日)

2021年2月の福島県沖地震は、宮城・福島県境域を中心に震度6を観測する大規模な地震でした。ふくしま史料ネットは宮城資料ネットと連携し、新地町で史料所蔵者の追跡調査を行い、蔵3棟が被災した個人宅での資料レスキューなどに取り組みました。

今後に向けて
以上のように、ふくしま史料ネットは福島大学での学生の諸活動とリンクさせつつ、市民ボランティアを積極的に受け入れながら、資料の撮影と記録を軸とする日常的な歴史資料保全活動を継続し、災害時には福島県内の関係諸機関との協力関係を活かして応援を呼びかけ、資材提供等を支援し、現場での活動をコーディネートし、多様な成果を県内外に発信する活動を続けてきました。これからも関係者同士の協力関係を維持しつつ、歴史・文化遺産を護ろうと尽力する地域住民の思いに寄り添う活動を推進し、地域で歴史資料保全活動を支える将来の人材育成に取り組んでいく所存です。

【連携団体】
国立大学法人福島大学、公益財団法人福島県文化振興財団、福島県立博物館、福島県史学会
【活動がわかる主な文献リスト】
1●本間宏「東日本大震災と歴史資料保護活動─福島県の現状と課題─」、国立歴史民俗博物館編『被災地の博物館に聞く─東日本大震災と歴史・文化資料─』吉川弘文館、2012年
2●阿部浩一・福島大学うつくしまふくしま未来支援センター編『ふくしま再生と歴史・文化遺産』山川出版社、2013年
3●阿部浩一「歴史資料保全活動の意味と可能性を問い続ける─ふくしま歴史資料保存ネットワークの活動を通じて─」、大門正克・岡田知弘・川内淳史・河西英通・高岡裕之編『「生存」の歴史と復興の現在』大月書店、2019年
4●阿部浩一「福島の歴史・文化遺産の記録 福島大学学生による文化財レスキュー」『BIOCITY』85、2021年
5●阿部浩一「ふくしまでの災害対応と史料ネット─令和元年台風19号と令和3年福島県沖地震を例に─」『歴史評論』2021年12月号、2021年
6●阿部浩一「3.11から10年のふくしまとこれから」『地方史研究』2021年12月号、2021年