全国史料ネット研究交流集会(川内淳史)★『地域歴史文化継承ガイドブック』全文公開

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全国史料ネット研究交流集会
文●川内淳史


「全国史料ネット研究交流集会」(以下、史料ネット集会)は、全国の資料ネット関係者を中心に、災害から歴史資料や文化財などを守る活動に興味・関心のある多くの方々が集まる場として、毎年1回のペースで開催されています。第一回集会は2015年(平成27)2月、阪神・淡路大震災(1995年〈平成7〉)に際して設立された歴史資料ネットワークの設立20周年記念事業として、歴史資料ネットワークと独立行政法人国立文化財機構との共同主催により神戸市で開催されました。以後、福島(郡山)、愛媛(松山)、岡山、新潟、神戸、宮城(仙台=オンライン)、島根の計8回が開催されています(表参照)。

1.東日本大震災後の資料ネット間「広域連携体制」の構築

史料ネット集会が開催される前提として、2011年(平成23)3月11日に発生した東日本大震災は大きな画期となるものでした。戦後日本史上最悪の被害をもたらした東日本大震災では、東北地方太平洋岸を中心に広範かつ甚大な被害に見舞われました。震災発生当時、東日本大震災被災地にはNPO法人宮城歴史資料保全ネットワークとふくしま歴史資料保存ネットワークの2つの資料ネットが所在し、また震災発生後には岩手歴史民俗ネットワーク、茨城文化財・歴史資料救済・保全ネットワークが設立され、それぞれ災害からの被災資料の救出・保全活動にあたっていましたが、激甚な被害の前に、各地の資料ネット単体の活動では十分な成果を挙げることが困難でした。

そうしたことから東日本大震災では、被災地の資料ネットのみならず、全国の資料ネット同士が連携することで、被災資料の救済・保全の動きが進められました。震災以前においても、各地の資料ネットの間では情報やノウハウの交換・共有といった取り組みはなされてはいましたが、基本的にはそれぞれの地域での活動が中心となっていました。しかしながら未曾有の広域複合災害となった東日本大震災被災地での歴史資料の被災は、必然的に全国的な協力・支援のもとでの活動を必要としました。また、膨大な量の被災歴史資料の救出のためには、その保全処置のための長期的かつ持続的な連携が必要とされ、そのための地道な連携活動は、結果的に各地の資料ネット間に密接な連携体制を構築させることになりました。すなわち、各地域を拠点にネットワークを組織する形で展開した資料ネットは、東日本大震災を契機に全国的なネットワーク化が推進されることで、日本全体に歴史資料の救済・保全のための広域連携体制を構築させることになったのです。

2.「全国資料ネット研究交流集会」の開始と「神戸宣言」

東日本大震災から4年後の2015年は、阪神・淡路大震災の発生から20年が経過し、同震災を契機にはじまった歴史資料ネットワークの活動も20周年を迎えました。これを受けて、当時、歴史資料ネットワークの事務局長を務めていた筆者は、歴史資料ネットワーク設立20周年記念事業の一環として、これまでの資料ネット活動全体の歩みを確認するとともに、東日本大震災で築かれた広域連携体制をさらに強固にする催しができないか考えました。そこで当時の歴史資料ネットワークの他の事務局員・運営委員のみなさんと相談した結果、全国の資料ネット関係者が集まり、日頃の活動や悩みを話し合う場を設けようということになりました。こうした私たちの企画に対して、東日本大震災時に結成された「東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援委員会」を引き継ぐ形で、2014年10月に「文化財防災ネットワーク推進事業」(現文化財防災センター)を開始していた国立文化財機構の協力を得ることで、2015年2月、第一回の史料ネット集会が開催されることになりました。

第一回史料ネット集会では、3名の記念講演のほか、16団体からの活動報告、24団体・機関によるポスターセッションが行われました。またこの集会の最後には、参加者一同によって「『地域歴史遺産』の保全・継承に向けての神戸宣言」が採択されました。この宣言では、「歴史文化に関わる多様な分野の専門家と地域の歴史文化の多様な担い手が、ともに手を取りあって、文化財等の保存・継承活動を一層強めていきます」とする基本的な考え方のもと、地域の歴史資料を災害から守り、後世へと伝えるために社会全体で取り組んでいく必要があることが述べられています(全文については歴史資料ネットワークのホームページ〈http://siryo-net.jp/〉で参照できます)。

史料ネット集会が始まった当時、20数団体あった全国の資料ネットは、2021年(令和3)現在、30団体を超えるまでに拡大しています。史料ネット集会の場は、それら資料ネット関係者のみが集まる場ではなく、歴史文化と歴史資料の保全・継承に関心のある全ての人びとに開かれた場です。今後も史料ネット集会の場が、そうした人びとの交流の場として続けられることを願っています。

【表】全国史料ネット研究交流集会開催一覧(2022年2月末現在)

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