「資料ネット」活動の広がり(天野真志)★『地域歴史文化継承ガイドブック』全文公開

このエントリーをはてなブックマークに追加 Share on Tumblr

pres-network_b.jpg

トップへ戻る

■本論のPDFはこちら。

■本書全体のepub/PDFはこちら。


「資料ネット」活動の広がり
文●天野真志

1.地域におけるネットワーク

地域に注目した多様な資料の発見や保存・継承に向けた活動、さらには資料を通した人びとの交流が広がっています。特に、自然災害が多発する近年では、地域に伝わる歴史文化資料を災害から守り伝えるための対策が求められ、多様な資料を地域が主体となって保存・継承する取り組みが模索されています。

地域の資料を地域で守り伝えるために、全国各地では特定の専門家や組織に限定されない相互連携が希求されています。すなわち、地域を主体としたネットワークを構築し、膨大な資料を多様な担い手が連携して継承していく取り組みです。

地域におけるネットワークには、いくつかの傾向が見受けられます。例えば、博物館や図書館といった資料保存に関わる機関が軸となって形成されるネットワークです。地域によっては博物館や文書館が伝来する個人所蔵資料の所在調査を実施し、資料の所在状況を把握して散逸を防ぐための取り組みを実施しています。また図書館では、住民が地域情報にアクセスできる拠点となり、地域住民と協働して地域に関するさまざまな資料や情報の収集・保存を行っています。このように博物館や文書館、図書館などの施設では、地域の歴史・文化に関する情報拠点として多様な資料の保存・継承に向けた取り組みを進めており、その過程で地域住民や関連する団体・組織、さらには地域住民とのネットワークを構築しています。

こうした取り組みとともに、特定の枠組みを超え、組織・団体や個人が相互に連携した活動を展開していることは、近年の大きな特徴です。とりわけ、災害時の対応を想定した横断的なネットワークが各地で模索され、実践的な取り組みを通して形作られています。そこでは、自治体における文化財担当部局や博物館などの資料保存機関、大学等の研究機関、さらには地域住民といった地域を構成するあらゆる存在が連携し、地域に伝わる資料の保存・継承が目指されています。いわば地域を主体とした資料保存のネットワークともいえますが、こうした取り組みを象徴する活動として「資料ネット」という存在が注目されます。

2.「資料ネット」とは

1995年(平成7)阪神・淡路大震災を契機に発足した「歴史資料ネットワーク」(通称、史料ネット)を端緒として、全国各地に「資料ネット」を掲げる諸団体が設立されていきます。それらの多くは、史料ネットをモデルとして組織されていきますが、それぞれが対象とする地域の実情に応じたネットワークを構築しており、その活動形態や構成などは実に多様です。

実は、「資料ネット」という名称を掲げるための明確な定義が存在するわけではありません。博物館などの公的機関と違い、「資料ネット」はさまざまな組織や人びとが緩やかに連携するネットワークであり、各地の「資料ネット」を統括するような全国的な組織もありません。そのため、各地で活動する「資料ネット」は独自の取り組みを展開しており、一見すると必ずしも同種の団体とは思えないかもしれません。しかし、全国の団体による活動を概観すると、いくつかの共通点を見出すことができます。

まず、個人宅などに伝来する資料の保存と継承を目的としている点です。各地の「資料ネット」が対象としているのは、文化財指定等を受けていない古文書や民具など、民家に数多く伝来する資料です。特に、「資料ネット」の活動で象徴的なのは、こうした資料の災害対策を強く意識していることで、災害時における救済やその後のクリーニング・整理作業、さらには資料を通した地域研究と継承に向けた地域との対話といった、一連の活動を推進しています。すなわち、地域における資料保存を総合的に実践する拠点として、「資料ネット」という活動が位置づけられています。

また、こうした活動を特定の専門分野や組織のみで実施するのではなく、多様な視点から地域を観察するネットワークを形成しているのも、各地の「資料ネット」に共通する特徴といえます。多くの「資料ネット」は大学に所属する歴史研究者が中心となって組織されていますが、対象となる資料も、古文書など特定の資料に留まらず、地域の歴史文化を構成する多様な資料を幅広く保存・継承することが目指されています。そのため、地域をとりまく多様な関係者が担い手として相互に連携しており、専門分野や立場を超えたネットワークとして地域の資料保存を担っています。

このように、「資料ネット」という活動は、地域を主体とした資料保存を実践するためのネットワークと捉えることができるでしょう。「資料ネット」活動では、多くの市民が参加しています。そこでの市民参加は、地域における歴史文化を継承する主要な担い手として位置づけられており、災害対策だけでなく、日頃の社会観察を通した資料の探求や地域像の再発見など、あらゆる場面で多くの人びととの連携が確認されます。「資料ネット」は、組織や専門性を超えた多様な価値観を共有し、地域を主体とした持続的な取り組みを実践するネットワークとして、多くの地域で活動を広げています。

※第Ⅱ部の各資料ネットの配列は主な活動地域を目安としました。

資料ネット事務局所在地

資料ネット地図.jpg