和紙文化研究会:6月例会(2024年6月15日(土) 13:30~16:10、小津和紙6F +Zoom)※要申し込み

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研究会情報です。

●公式サイトはこちら

https://washiken.sakura.ne.jp/%e6%9c%88%e4%be%8b%e4%bc%9a%e3%83%bb%e8%a6%8b%e5%ad%a6/

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※詳細は上記サイトをご確認ください。

日 時:2024年6月15日(土) 13:30~16:10
会 場:小津和紙6FとZoomによるオンライン配信
Zoom配信は招聘講師発表の14:30までとなります。

タイムスケジュール
13:30~14:30 「銀座和紙プロジェクトとは―銀座の楮で書画作品を作り、銀座で発表?」
ロギール・アウテンボ―ガルト・日野楠雄会員

14:40〜16:10 「近世アーカイブズの紙質調査」   
青木睦会員

16:15 お知らせ 増田副会長からの「竹紙提供」下記参照

*13:00からZoomの会議室への接続ができますが。
※ プログラムや機材の関係で、時間が変わる可能性があります。予めご了承ください。

会員発表1

題名:「銀座和紙プロジェクトとは―銀座の楮で書画作品を作り、銀座で発表―」

         ロギール・アウテンボ―ガルト&日野楠雄会員 合同発表

10年以上前にオランダ人であるロギールさんが東京"銀座"に「楮」を植え始めた。その頃、私もロギールさんと知り合い、その話を聞き私では考えもしない面白いことをやっていると心が沸き立つのを覚えた。最近、その活動のきっかけに和紙原料の減産を危惧してのことがあったことを知り、あらためて考えさせられている。
色々な方々に協力いただき、ビルの屋上やベランダで少しずつ増えて行き、この冬、高知梼原町にあるロギールさんの工房で104×69㎝の楮100%の紙を100枚漉き上げることができた。この紙が"銀座和紙"である。
この紙を調査すると、一般の楮紙に比べてニジミやカスレなど墨色が特徴的で未知なる魅力を持っていることがわかり、今年の夏に国内の書家と画家(水墨)30人程に協力をいただき、この紙の芸術的な魅力を様々な書画表現で生み出そうとする「銀座和紙書画展」を開催することにした。
国内で最も地価の高い銀座で和紙原料の楮を植えて育てることや、それを紙にして銀座で発表・発信することには、そもそも、楮そのもの・植物を育てるという農業のあり方・日本で一番高い楮原料で紙を漉くこと・未知なる紙と向き合ってその魅力を書画で表現する・その作品を銀座で展示するなど、SDGの意味も重なって様々な要素が見えてきた。
さらに言えば、原料生産~紙利用の完結まで一直線上にあって、言うなれば「紙の一生」を通して見ることができ、それぞれに関わる人間たちが自分の守備範囲以外の部分を垣間みることになる。それは例えば、一般的に書画家は使っている紙の原料がどこで生まれているかなど一々考えない。自分の書画表現に向く紙であればいいのであるが、今回は「銀座」ということを意識せずにはいれない。また、楮を育てる人たちは、この植物の皮が芸術作品に変ることを知ることになり、その作品を見る観覧者は銀座で生まれ育った紙原料とそれを使った書画表現を見て感じることになる。
そして、この楮という植物は雑種だが、日本の気候風土が作り出したほとんど日本オリジナルの植物であり、その紙(楮紙)は聖徳太子の時代から今日まで日本の衣・住・記録・伝達・芸術を支えてきた「日本の紙」であり、まさに「日本」そのものとも言える。この日本性を知り、誰もが知る「銀座」で農業が行なわれ、書画家が芸術で銀座から国内外に発信するということの意味を考えていくと、作り手と使い手、そしてそれを取り巻く人々が紙というものへの認識や価値を問い直すいい機会にもなると考えている。ペーパーレスという時代にあって、敢えて胸を張って逆行するこの取組みは、楮紙産地と消費地の連携の側面もあって、成功したら各産地のいいモデルケースとなるのではないかとも考えている。
このように様々な意味を含んだ内容であり、それらを多くの方々に伝えるために、展覧会に先立って「なぜいま日本の紙か ―銀座和紙の誕生と書画表現―」というテーマでシンポジウムの開催も下記のように企画している。
このシンポジウムでは、基調講演とパネルデスカッションの間に、銀座和紙や他の楮紙・宣紙などを使い、紙によってどのように水墨表現が変化するのか、実際に筆をとって比較することも行ない、これによって基調講演で理論的な理解を得て、その比較試筆によって眼で確認できることになる。そして、理論と実践を踏まえて、パネルデスカッションで楮と書画表現や銀座からの発信について深めていきたいと考えている。
そのひと月後に予定している「銀座和紙書画展」において、書画家による様々な作品を観賞し思いを巡らすことで、作り手、使い手、そして紙を取巻く社会の方々が、銀座和紙の魅力や紙の生命力を感じ取れる機会になることを願っている。
これらのことを、画像を交え、オランダ滞在中(早朝)のロギールさんと、会場の日野がオンラインで結んで合同発表します。


会員発表2

題 名 「近世アーカイブズの紙質調査」
                             青木 睦 会員

本報告では、近世史料を対象とした紙質調査方法とその成果の現状を概観し、近世期の料紙の使用事例を文献から抽出し、その紙名や形状・紙利用基準に留意しつつ、組織体の料紙使用の実態について紹介する。
近世以降の史料は、残存する量が彪大なこともあって、古代・中世史料に比べて史料群中の一点ごとの紙質調査が行われることは稀であったが、近年、前職の国文学研究資料館において、収蔵アーカイブズの紙質調査を目的とした利用が増えている。これからの紙を非破壊で分析診断するための技術について、分光分析やX 線分析などの先進的な技術を探るための方向性について提案したい。
まとめとして、紙質調査の目的の第一である、史料に用いられた料紙に関して、その原料、抄紙・色・用途・産地等によりさまざまな名称は何であるのか、また、それらの紙は、文書の発給者や使用者の身分や格式によってどのような使い分けがなされているかを調査し、史料の発生と機能を解明する重要な手掛かりとするために調査されてきたか。第二に、紙の材質は何か、どのように劣化・損傷しているのか、どのくらい劣化・損傷がひどいのか、などの科学的な調査・分析により、劣化損傷の原因を究明してアーカイブズの保存管理・修復・強化処置に役立てようとすべきか、現状と課題を整理しておきたい。
資料:「近世アーカイブズの紙質調査と組織体の料紙」(『アーカイブズの構造認識と編成記述』国文学研究資
料館編、思文閣出版 、2014 年)

■プロフィール
青木 睦〈AOKI Mutsumi〉
1981 年~2023 年3 月 国文学研究資料館(国立史料館:国文学研究資料館史料館)に勤務。現在、学習院大学大学院でアーカイブズ管理研究Ⅲ(記録アーカイブズ保存と修復)、法政大学で文書館管理研究を担当。元全国歴史資料保存利用機関連絡協議会理事。
文化財保存修復学会業績賞(2011 年)、MLA(Museum・library・archives)、企業など、民間所在アーカイブズを含む、紙資料を主としたアーカイブズの保存修復に関する調査研究を専門としてきた。アーカイブズ保存のための物理的コントロールシステムの確立を目指す。
著書
『被災資料救助から考える資料保存 東日本大震災後の釜石市での文書レスキューを中心に』(けやき出版、2013 年)
『紙と本の保存科学』(共著、岩田書院、2009 年)
"Preservation and Conservation of Japanese Archival Documents in theVatican Library"(共編著、バチカン出版局、2019 年)など。

増田副会長からの「竹紙提供」
長らく増田副会長から皆さんに分けて下さいとして預かっていた竹紙が1反あります。会場の制限が解錠されましたので、6月と7月の例会会場に来ていただければ2 枚ずつお分けします。色や繊維画像(DMS200x)などはHP で紹介します。