樋口敦士『故事成語教材考』より、COLUMN「歴史的仮名遣い」と「文語表現」、を公開(PDF)

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樋口敦士『故事成語教材考』より、COLUMN「歴史的仮名遣い」と「文語表現」、を公開します。ぜひご一読ください。

●本書の詳細は以下より

文学通信
樋口敦士『故事成語教材考』(文学通信)
ISBN978-4-86766-015-7 C0095
A5判・並製・332頁
定価:本体2,800円(税別)

COLUMN
 「歴史的仮名遣い」と「文語表現」

一 「仮名遣い」の歴史的考察

 高等学校で古典を取り扱う際には、導入期に「歴史的仮名遣い」を指導することになります。この「歴史的仮名遣い」の指導は、学習者の古典に対する興味関心を左右するものと考えています。そもそも「歴史的仮名遣い」とは、平安中期の音韻をもととして作成された仮名の表記であり、平安後期にはすでに表記通りに発音されなくなったと言われています。仮名表記の変革はしばしば試みられましたが、基本的には戦前まで踏襲されていました。 

 鎌倉時代の歌人藤原定家は『下官集』の中で、「を」、「お」、「い」、「ひ」、「ゐ」、「え」、「へ」、「ゑ」の常に混同されがちな八つの仮名を取りあげ、それぞれどのような単語が当てられたのかを記した「定家仮名遣い」を提示したことが「仮名遣い」の最初であると言われています。その後は、定家の示唆を受けた源親行の孫行阿が『仮名文字遣』を著し、「定家仮名遣い」の増補をしていますが、中世には、「定家」の名の下に徐々にこれが浸透していきます。

 江戸時代に入ると仮名遣いはさらに混迷の度を深め、一般向けに仮名遣いの書き分けを手引きするような書籍も数多く作られました。元禄四年(一六九一)には『初心假名遣』が刊行され、仮名表記の誤りについての事例が紹介されました。例えば、「天地門」には「くもい くもゐ 雲井」、「めうぜう みやうじやう 明星」などとあり、「誤、正、漢字」の順で仮名遣いの正誤表が記載されています。元禄八年(一六九五)には、契沖が『和字正濫鈔』を出版して新たな仮名遣いを発表しますが、これは「定家仮名遣い」のようにアクセントの違いには触れずに、『万葉集』や『古事記』といった古書を繙きながらその用例からの検証をおこなったものです。ここに、「歴史的仮名遣い」が誕生することになりました。その後、橘成員が『倭字古今通例全書』(元禄九年〈一六九六〉)を刊行して契沖の「仮名遣い」を批判する一方で、契沖の影響を受けた国学者賀茂真淵が『国意考』(明和二年〈一七六五〉頃)において仮名文字の簡易性を主張したことから、国学者を中心に和文の見直しがはかられました。

つづきはこちらから。PDF。

https://bungaku-report.com/shoten/kojiseigo_P124_130.pdf