日本近代文学館:特別展「生誕120年 住井すゑ、95年の軌跡―金輪際いつぽんきりの曼珠沙華―」(2022年9月17日(土)―11月26日(土・祝))
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●公式サイトはこちら
https://www.bungakukan.or.jp/cat-exhibition/13909/
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※詳細は上記サイトをご確認ください。
開館時間 午前9時30分~午後4時30分(入館は午後4時まで)
観 覧 料 一般300円(団体20名様以上は一人200円)
中学生・高校生100円
休 館 日 日曜日・月曜日・第4木曜日(9/22、10/27、11/24)
編集委員 江種満子・金井景子・中谷いずみ(日本近代文学研究者)
主 催 公益財団法人 日本近代文学館
向い風の中の曼珠沙華たちへ――「住井すゑ」の世界
住井すゑは晩年、石牟礼道子との対話(「蛽独楽の旅」、「週刊金曜日」1994年3月18日)において、自身の発想の原点とも言うべき興味深い逸話に触れている。
3、4歳の頃、自分でうんこが出るのが嫌でたまらず、出すまいとしては失敗して着物を汚した。現場を見たことがないから大人たちもするということが理解できなかった。6歳の時に、天皇が大和へ大演習で来た際に、耳成山に建てた御陵の便所から人々が天皇のそれを拾って家宝にするという話を聴いて、「天皇も同じことをするという事実」を知った。食べたものは一定の時間が経つとうんこになる。時間の加減でそうなるなら、時間というものこそが人間にとって絶対的なものだと気付いたという。
その絶対の法則があるのに、なぜ人は「時は金なり」という考え方に支配され、「時間は命である」ことを忘れるのかーー住井は深く問いかける。
幼児期の問いは、90年の時間の中で、答えを探して弛みなく言葉を引き寄せ、文が書かれ、また新たな問いを産み出して来たのである。
今年は住井すゑが生誕して120年、没後25年に当たる。
今日、住井が「橋のない川」7部作の作家として記憶されているのは疑いない。しかし、奈良大和に生まれ育った住井が、この地を舞台とする大長編「橋のない川」を描くに至る軌跡は、時代と斬り結び、暮らしの中で自身を鍛え上げ、その中から言葉を紡ぐ時間の先にしかない。そのことを私たちに教えてくれたのは、2013年と2014年の2度にわたって日本近代文学館に犬田章氏(住井すゑの長男)より寄贈された住井すゑ・犬田卯関連資料である。これらの資料から私たちは、児童雑誌への投稿者として始まり、やがては農村に視座を据え、社会の底辺に生きるおんな・こどもの声を丁寧に拾い上げながら、近代を根底から問い直す大きな問いを繰り出しつづけた住井の足取りを辿ることが出来る。
これは、混迷を極めるwithコロナの時代に、人や地域、メディアに大きな影響を受け・与えつつ、文壇の誰にも類似しない、ただ一人の方法で時代に立ち向かった「金輪際いつぽんきりの曼珠沙華」・住井すゑの、人と言葉の豊かな世界を届ける展覧会である。
(編集委員 江種満子・金井景子・中谷いずみ)
● 部門構成
第1部 奈良から東京へ――投稿少女から長編「相剋」の作者へ
第2部 東京・思想のるつぼへ
第3部 牛久沼のほとりで――書き、耕し、育む日々
第4部 「橋のない川」に橋をかける
Ⅰ 「橋のない川」とともにある犬田卯
Ⅱ 創作メモと原稿(第5部以降)
Ⅲ 「橋のない川」劇化と映画化
第5部 対話の時空――拠点としての「抱樸舎」
※展示タイトルの俳句「金輪際いつぽんきりの曼珠沙華(まんじゅさげ)」は、牛久で住井の隣家に暮らし、親交のあった俳人の平本くらら(元「風土」主宰)が庭の曼珠沙華に住井の印象を重ねて詠んだものです(句集『円座』所収)。