芸能文化研究会 第十四回研究会(2019年12月21日(土)、早稲田大学人間総合研究センター分室(27-8号館))※要申し込み

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研究会情報です。

●公式サイトはこちら
http://geinobunka.blogspot.com/2019/10/blog-post_16.html

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※申し込みは上記公式サイトをご確認ください。


日時: 2019年12月21日(土)14:00~
於 :早稲田大学人間総合研究センター分室(27-8号館)


報告1:遠藤協(記録映像制作・ドキュメンタリー映画制作配給)
「無形民俗文化財の映像記録制作事業」という営み 

 無形文化財の伝承や保存において、映像(動画)は有力なツールとしてみなされ、とりわけ民俗芸能や民俗技術・行事の記録映像が数多く作られてきた。こうした無形文化財の記録映像制作の多くが、都道府県や市町村、大学や博物館等の調査研究機関、助成金等を得た保存会や伝承者が実施主体となって、「事業」の形態で行われる。発表者は、記録映像制作をなりわいの一つとする映像ディレクターとして、これまでに複数の「映像記録制作事業」に携わってきたが、通常そのプロセスが知られることは少ない。発表者は記録映像の資料批判および方法論を検討する材料を提供するために、実際に携わった事業の「覚書」を書き留めてきた(遠藤2015、2019)。本発表は、そうした実際の経験に基づき「映像記録制作事業」の課題や、無形文化財の伝承や保存に与える影響を、映像制作者の立場によって整理しようと試みるものである。映像作品も参照しながら下記のような話題に触れる予定である。
●映像の特性と「映像記録」
●「映像記録」なのか「記録映像」なのか
●助成金と入札ー事業をめぐる制度
●「普及版」「記録版」「伝承版」ー3点セットの限界
●事業そのものが発揮する伝承への影響
●予算なき時代の記録映像とは


報告2:久保田裕道(東京文化財研究所)
「芸態研究のススメ」

 民俗芸能研究は、この四半世紀、学問としての確立をすべくその方法論が検証されてきた。本田安次に始まる黎明期の民俗芸能研究の抒情的な部分が批判され、文献資料に基づく客観的分析が重視されるようになった。特に近現代史の研究が進んだことは、芸能史研究においては大きな発展となった。またフィールドワークに根差した研究では、以前は重視されていた信仰的要素が文献資料による歴史研究側に回され、代わりに社会学的な調査研究が多くを占めるようになった。いずれにしても、民俗芸能研究を社会科学としての学術的確立を望むがゆえの方向性だったといえる。
 しかしながら一方で、科学的な研究には必須であるはずの、調査対象つまり民俗芸能の客観的記述の方法論はないに等しい状況であり、研究者ごとに思い思いの記述を重ねてきた。道具などの有形部分や音楽に関してはまだよいが、民俗芸能の根幹たる芸態に関しては未だ確立が見られない。本田安次の記述や舞踊譜の存在など初期段階での腐心は、映像記録の普及に伴って関心を持たれなくなったが、さりとて芸態記録の方法論を持たないままの映像記録は単なる記録素材であり、分析のための共通視座が設定され得ない。この方法論の欠如は、芸態による類型化を阻み、結果的に民俗芸能全体の類型分類を不可能にしている。もちろん民俗芸能全体の悉皆調査データが不十分なこともあるが、この問題を解決しなければ、民俗芸能の学術的資料化はなし得ないのではないか。
 以上のような問題意識のもとに本発表をおこなうが、もとより提示すべき試論は持ち合わせていない。芸態を捉えるためには、民俗芸能のジャンル毎の研究者や音楽の専門家、身体論の研究者や映像関係者などによる幅広い議論が必要となる。そのための呼びかけの場になれば幸いである。