井口洋『『奥の細道』の再構築』(文学通信)
11月下旬刊行予定です。
井口洋『『奥の細道』の再構築』(文学通信)
ISBN978-4-909658-62-3 C0095
A5判・上製・608頁
定価:本体11,000円(税別)
本文批判を通して芭蕉『奥の細道』の再構築を試みる。
中尾松泉堂現蔵『おくの細道』は「書き癖から芭蕉の真蹟である」と本当にいえるのであろうか。まず「書き癖」とはあくまでも文字の外形、それはしかも「癖」である限り、容易に真似られるものである。また「夥しい推敲跡」を有すると中尾本は説明されるが、その「推敲」は他者の手になる「添削」を想定されていない。したがって、中尾本は「書き癖から芭蕉の真蹟であることが明らかにされた」などとは到底言えるものではない。
本書は、貼紙などによって添削される以前の中尾本の本文の全体を、『奥の細道』の新出の一異本として読解し、芭蕉の『奥の細道』の復元を企図するものである。
【平成八年十一月、はじめて世に紹介された、中尾松泉堂現蔵『おくの細道』は、貼紙などの添削が施された下から、従来まったく知られなかった本文が出現したところに、その画期的な意義があるであろう。わたくしはそう考えて、岩波書店から刊行された複製版(上野洋三・櫻井武次郎氏編『芭蕉自筆奥の細道』平成九年)の写真と、苦心解読された注とをたよりに、貼紙などによって添削される以前の本文の全體を、『奥の細道』の新出の一異本として読解することを試みた。すると、この異本の本文は、従来、主として、素龍清書本〔西村本〕『おくのほそ道』と曾良本〔天理本〕『おくのほそ道』とに依拠してなされてきた、この作品の本文の校訂に再考を促すもののように思われたので、その結果の一部を、ここに報告する。】
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井口洋「悪戦苦闘のドキュメント」●『『奥の細道』の再構築』刊行に寄せて
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【著者プロフィール】
井口洋(いぐち・ひろし)
1942年、和歌山市生まれ。1965年、京都大学文学部国語学国文学専攻卒、1971年、同大学院文学研究科博士課程修了。1996年、「西鶴試論」で京都大学博士(文学)。帝塚山短期大学講師、奈良女子大学助教授、教授を経て、2006年、奈良女子大学名誉教授。著書に『近松世話浄瑠璃論』(和泉書院、1986年)、『近松への招待』(共著、岩波書店、1989年)『西鶴試論』(和泉書院、1991年)、編著書に『近松全集全17巻』(共編、岩波書店、1985~94年)、『新日本古典文学大系 近松浄瑠璃集 上・下』(共編、岩波書店、1995年)などがある。
【凡例】
○図版引用元一覧
本書における『奥の細道』諸写本及び『曽良旅日記』の図版の引用元は、それぞれ、次のとおりである。
1中尾本(中尾松泉堂蔵)
上野洋三・櫻井武次郎編『芭蕉自筆奥の細道』(平成九年)
※同岩波文庫版(平成二十九年)あり。ともに岩波版複製と略称。
2天理本(天理図書館蔵)
天理図書館善本叢書第十巻別冊『おくのほそ道曽良本』(平成六年)
※カラー版
3曽良旅日記(天理図書館蔵)
天理図書館善本叢書10『芭蕉紀行文集』(昭和四十七年)
4西村本(西村弘明氏蔵)
宮本三郎『校註おくのほそ道』武蔵野書院(昭和四十一年)
○引照書目略称
本書に引用参照する頻度の高い近代の注釈書の略称は次のとおりである(順不同)。
『菅菰抄』......蓑笠庵梨一『奥細道菅菰抄』(安永七年)
阿部『詳考』......阿部喜三男『詳考奥の細道』(昭和三十四年)
白石「総覧」......白石悌三「おくのほそ道」(『解釈と鑑賞』昭和四十二年四月「芭蕉研究総覧」号)
『解釈事典』......堀切実編『『おくのほそ道』解釈事典』(平成十五年)
『大全』......楠元六男・深沢眞二編『おくのほそ道大全』(平成二十一年)
尾形「注解」......尾形仂「おくのほそ道注解」(『解釈と鑑賞』昭和三十九年五月〜四十三年九月)
尾形『評釈』......尾形仂『おくのほそ道評釈』(平成十三年)
角川文庫......潁原退蔵・尾形仂訳注『新訂おくのほそ道』(昭和四十二年)
講談社文庫......板坂元・白石悌三校注・現代語訳『おくのほそ道』(昭和五十年)
講談社学術文庫......久富哲雄『おくのほそ道全訳注』(昭和五十五年)
○表記
引用文には適宜、句読点濁点及び返り点等を付した。
○付記
本書の各章表題には、講談社文庫における白石悌三氏の処置に従い、段を分かち段名と番号を付した(なお、白石「総覧」、「章段」の項参照)。そのために、本書では論及しなかった段の番号が、一見欠番となったことを諒とされたい。
【目次】
序(森川昭)
凡例
行かふ年・心にかゝりて(1序章)付・「草の戸も」句について
月は在明にて・鳥啼魚の(2旅立)付・留別吟と曽良
ことし元禄二とせにや・たどり着にけり(3草加)
同行・又(4室の八島)付・「糸遊に」句について
気稟の清質(5仏五左衛門)
青葉若葉の・芭蕉の下葉・伝え侍る也(6日光)
野飼の馬・曽良(7那須)
自の家にも伴ひて・殊しきりに(8黒羽)付・「夏山に」句について
松杉くろく・よぢのぼれば(9雲岩寺)
館代より・柳かな(10殺生石・遊行柳)付・中尾本貼紙下について
三関の一・置れしとぞ(11白河の関)
常陸下野・三巻・閒に(12須賀川)付・「世の人の」句について
日は山の端に(13安積沼)
忍ぶのさと・さもあるべき事にや(14信夫の里)付・「早苗とる」句について
飯塚の里・茶を乞へば(15佐藤庄司の旧跡)
上よりもり・捨身無常の観念(16飯塚)
笠島は・みのわ笠島(17笠島)
としらる・と聞に(18武隈)
聊心ある者(19宮城野)
今も年々・壺の碑(20壺の碑)
を尋ぬ・ものから(21末の松山)
ことふりにたれど(23-1松島一)付・「ことふりにたれど」再説―田中善信氏に
落穂松笠など・口をとぢて(23-2 松島二)
見仏聖の寺(24瑞巌寺)
城春にして・降のこしてや(25平泉)
富るものなれども・長途のいたはり(27尾花沢)付・尾花沢四句について
最上川のらん・芦角一声・集めて早し(29最上川)
左吉・南谷・出羽(30-1出羽三山一)
木綿しめ・梅花・涼しさ(30-2出羽三山二)付・曽良「湯殿山」句について
風光・東北・莫作(32象潟)付・「象潟や」句について
雲に望・此間九日(33越後路)
ともにす・瓜茄子(36金沢)
此所太田の・給はらせたまふ(37多太神社)付・「むざんやな」句について
菊はたおらぬ(39山中)
千里に同じ・空近う(40全昌寺)
西行・扇引さく(41越前入り)
あとがき