西鶴研究会、第50回(最終回)についての報告 - 染谷智幸(西鶴研究会事務局長)

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西鶴研究会のご報告

8月27日(土)午後2時から6時までオンラインにて、第50回・西鶴研究会(最終回)を行いました。
40名の方にお集りいただき、たいへん有意義な会になりました。ありがとうございました。

お二人の方にご発表いただきました。題目と発表要旨は以下の通りでした。

◆「『男色大鑑』巻一之四「玉章は鱸に通はす」と諸写本について」京都府立大学(院)森上亜希子
井原西鶴『男色大鑑』(貞享四年・一六八七年刊)は八巻一〇冊から成る作品である。その内容は前半四巻で武家社会の男色を扱い後半四巻で歌舞伎若衆を取り上げる。本発表の対象である『男色大鑑』巻一之四「玉章は鱸に通はす」は、西鶴が写本で伝わる小話を種本とし、写本の文章に手を加えて仕上げた作品である。西鶴が参照した写本については、野間光辰氏が「西鶴五つの方法」(『西鶴新新攷』、一九一八年、岩波書店)で、架蔵の写本を二本紹介された。一本目は「延享の書写ではあるが、内容的には事件当時の聞書の古態」をもっており、「実説聞書風」と称される野間(イ)本である。二本目は「貞享の奥書を有するがしかし、内容的には(イ)本の如き聞書を読物風に書き直した」もので、「実録読物風」と称される野間(ロ)本である。野間氏は西鶴が拠った写本は「(イ)本と(ロ)本の中間的な本文を持つ」ものであると言及された。その後、小野晋氏が内閣文庫所蔵の『備前喧嘩物語』(以下、内閣文庫本と記す)を翻刻し解説を加えられた。小野氏は内閣文庫本について、「野間(イ)本に近い性質の文献であった」と考察されている(「『備前喧嘩物語』―翻刻と解説―」、『山口国文』、第二号、一九七九年)。
発表者は、①加越能文庫所蔵『増田甚之介物語』、染谷智幸氏蔵『益田甚之介衆道沙汰 全』、③藤原英城氏蔵『男色八雲之梅』の書誌調査を行った。新たに加わった①~③の写本と野間氏の写本ならびに内閣文庫本とを比較すると、類似する固有名詞や文章もあるが、独自と思われる描写や奥書の記述がある。
本発表では、新たに見つかった写本の紹介に加え、各写本の特徴や系統などを検討し、『男色大鑑』巻一之四で、西鶴がどのように写本を『男色大鑑』に利用し創作にいかしたか明らかにしたい。

◆「西鶴『俳諧独吟一日千句』の創意」早稲田大学 中嶋 隆
「千句」は三日かけて興業するのが通例だった。それを一日で行うというふうに「千句
」様式を変えてしまった点に『誹諧独吟一日千句』の創意を見るのが通説である。さらに、四季にわたるべき「千句」の各百韻の発句の季語がすべて「ほととぎす」すなわち夏に統一されている。このような「千句」様式の改変に、どの程度西鶴の独創を認めるべきか。独吟であることを除けば、「千句」を一日で興行し、各百韻発句の季語を統一することには先蹤があった。牛見正和氏が翻刻、紹介された寛文十三年八月刊『清水千句』である。『誹諧独吟一日千句』は、『清水千句』などの「花千句」がそうだったように、「十百韻」を単に「千句」と称したにすぎないと考えれば、「千句」様式を改変しようという西鶴の意図はなかったと言わざるをえない。簡単に言えば、「追善十百韻」である「ほととぎす千句」を、西鶴は一日で独吟したのである。では、西鶴の創意はいかなる点に見いだされるのか。本発表は、この点に焦点をあてたい。

森上さんは、若手研究者らしく、未発表の実録風写本の解析に果敢に挑戦され、中嶋さんは、西鶴研究を牽引されてきた先達として、いままで西鶴研究が積み残してきた、西鶴の俳諧、そしてその俳諧と小説の結節について重要な提言をいくつもなされました。それぞれの内容については、多岐に渡りますので、ここでは触れません。いずれ、お二人ともに論文として発表されると思いますので、それを待ちたいと思います。

それにしても、発表1時間、質疑応答1時間という長丁場になりました。
ご発表いただいたお二人はもちろん、ご参加いただいた皆さまも、お疲れ様でした。

この西鶴研究会は、会を重ねた20回目あたりから、シンポジウム、講演会など様々なイベントを行うことも多くなりましたが、元来は「研究発表2人、1時間発表、1時間質疑応答」を会のモットーとしてきました。今回、最終回にあたる50回目を、その本来のスタイルで終わらせることが出来たのは良かったと思います。

それから、質問をされた皆様にも御礼申し上げます。今回、質疑をされた方々は、それぞれに一家言をお持ちの方ばかりでしたから、質問そのものに、ご本人の文学研究への真摯な姿勢とその積み重ねが感じられて、お聞きしているだけで楽しくもありました。この、西鶴研究会を始めた頃は、まだ発表者、参加者ともに若く、かなりやんちゃな質問もあったのですが(それはそれとして面白く、懐かしくもありますが)、良い意味で円熟味が加わったと思います。

今回、第50回で西鶴研究会は一応のお開きといたします。
みなさま、27年間、ご支援、ご協力をたまわり、ありがとうございました。
事務局を代表して、心より御礼を申し上げます。

なお、会の場でも申し上げましたが、来春、50回満尾を記念いたしまして、シンポジウム+研究発表+懇親会を、面会とオンラインのハイブリッド方式で行いたいと考えております。

西鶴研究会は研究会はもとより、その後の懇親会がまた単なる親睦でなく、意見交換の場として充実していましたので、ここまで続いてきたと言えると思います。そうした意味でも、やはり最後に懇親会を開かないと、どうにも納まりがつきません(笑)。

ということで、コロナが邪魔しないように祈るばかりです。
内容が決まりましたら、改めてご案内いたします。

染谷智幸(西鶴研究会事務局長)

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(若衆人形(染谷架蔵)、後ろの屏風は『法華経』「如来寿量品」の折本。コロナ退散の祈りを込めて。。。)