Visualizing Texts, Reading Images Ⅲ: Thinking 〈Women X Women〉 in Japanに参加して――オンライン開催による研究の可能性を考える(江口啓子、畑 恵里子)

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■はじめに

2020年は、新型コロナウイルスの影響で各学会がオンラインで行われることとなった。世界中で移動制限されることに伴い、各種国際会議・ワークショップなどは軒並みオンラインに移行することになったのである。そういう意味でオンライン学会元年とも言える年であった。

数多く開催されたオンライン学会の中で、今回取り上げるシュミット堀佐知氏(ダートマス大学)主催のオンラインワークショップは日本の研究者にとっても海外の研究者にとっても議論がしやすくなるようにさまざま工夫されていたものである。今後、時間と距離を容易に超えられるオンラインのさらなる積極的な利用が見込まれる中で、国際共同研究はますます存在感を増し、その可能性も切り拓かれていくことだろう。ここでは、国際共同研究において、参加者が有意義な場をいかにして作ることができるか、その一例として紹介していきたい。執筆は、江口啓子(豊田工業高等専門学校)、畑 恵里子(静岡英和学院大学)、による。

ワークショップの概要は以下の通りである。

Visualizing Texts, Reading Images Ⅲ: Thinking 〈Women X Women〉 in Japan
https://sites.dartmouth.edu/visualizingtexts2020/program/

このワークショップはシュミット堀佐知氏による「Visualizing Texts, Reading Images」を目的としたワークショップの3回目にあたり、今回のテーマは「Thinking 〈Women X Women〉 in Japan」であった。詳細は上記のHPを参照されたい。

ワークショップは10月16日(金)、17日(土)(日本時間では17日(土)早朝と夜)にZoomを用いて行われた。Rebecca Copeland氏(ワシントン大学)による基調講演を除いては、ワークショップの発表者とディスカッサントのみの参加とした。

日本からの参加者は畑恵里子、江口啓子の2名であった。発表は日本語・英語のどちらを使ってもよく、質疑応答もお互いの得意な言語を使ってよいとされた。発表者は事前にフルペーパーを用意し、提出することになっていたため、参加者はそのフルペーパーを読んだ上で発表を聞くことができた。1つのパネルは90分で、2名の発表者がそれぞれ25分以内で発表を行った。発表ではすべての発表者がパワーポイントを用いていた。発表後にディスカッサントからのコメントがあり、残りの時間はすべてディスカッションにあてられた。ワークショップの参加者が10名程度と少なかったためか、どのパネルでも活発な議論が行われた。

これからの国際共同研究にむけて

江口啓子
豊田工業高等専門学校講師。共著に『室町時代の少女革命 『新蔵人』絵巻の世界』(笠間書院、2014年)、『室町時代の女装少年×姫 『ちごいま』物語絵巻の世界』(笠間書院、2019年)など。論文に「男装と変成男子―『新蔵人』絵巻に見る女人成仏の思想」(『中世文学』65号、中世文学会、2020年)、「画中詞の創作―『住吉物語』絵巻と『児今参り』絵巻」(『説話文学研究』53号、説話文学会、2018年)など。


私はこれまでにAAS(Association for Asian Studies)の年次会議をはじめ、いくつかの「国際」と名のつく会議やワークショップに参加してきた。さして多くはない経験ではあるものの、それらと比較して、今回のワークショップではシュミット堀佐知氏の工夫が際立っていたと感じた。おそらくそれは、氏が日本古典文学研究における日本とアメリカの隔絶された研究状況に対して問題意識を持っているがゆえの配慮であったろう。そして、このワークショップを通じて確かに研究の交流ができたと実感した。

■日本語・英語併用制
まず、今回のワークショップが日本語と英語を併用できるものであったことは参加者すべてに対して言語的にフェアであったと考える。日本語話者にも英語話者にも平等に母語を用いる機会を与えてくれた。外国語は総じてリスニングよりスピーキングの方が難しい。それぞれの得意な言語を使ってよいという環境のおかげで臆することなく発言できたように思う。
もちろん、自身の研究発表を英訳するという営みも、新たな問題への気づきにつながるという意味では貴重な機会ではある。しかし、日本語を英語などの他言語に置き換える際には注意も必要で、さまざまな意味が包括された語を、似たような外国語に安易に置き換えてしまうことにはリスクもある。

例えば、今回のワークショップでは「遊女」という語を英語の「prostitutes」と表現することの妥当性が議論になった。日本語の「遊女」が意味するものと英語の「prostitutes」が意味するものは完全には一致しない。よって「yūjo」と表記すべきではないかというのが主な論点であった。私は「prostitutes」を辞書的な意味以上には理解し得ないが、双方の語の背景を理解している者同士が議論できる場は重要であると感じた。

■フルペーパー事前配布制
このワークショップでは事前に発表者のフルペーパーを読んだ上で参加することができた。このことは、自分にとって外国語である英語の発表の理解を助けた。発表時間が25分と限られていたため、すべての発表者はフルペーパーの内容を抜粋する形で発表を行った。

つまり、フルペーパーの方が実際の発表よりも詳細なのである。多くの学会・研究会では、発表要旨は事前に提出させるが、フルペーパーまでは用意させない。もちろん、要旨があるだけでも何がトピックであるかはわかるため、それは外国語による発表を聞く上で理解の助けにはなる。しかし、それがフルペーパーであるならばさらに理解が深まり、発表後の質疑もしやすくなる。活発で意義のある議論を期待するならば、事前のフルペーパー配布は極めて有効ではないだろうか。

■オンライン会議でできること
ダートマス大学で行われるはずであったワークショップがコロナ禍の影響でオンライン開催になったことに対し、最初はただ残念に思っていた。しかし、実際に参加した今となっては、オンラインによる国際会議には良い点も多いと感じている。

第一に、飛行機による長距離移動をしないですむ。金銭面はもちろんのこと、体力や時間的負担がかなり軽減される。時差があるため、開催時間に配慮は必要であるが、現地に集まるよりはるかに簡便である。

もちろんワークショップの意義は発表による研究の交流だけではない。現地での研究者同士の交流、情報交換も大事な要素である。しかし、今回のワークショップではランチタイムや、ワークショップ後にも研究者間の交流のための時間が設けられており、アメリカにおける最新の研究情報などを得ることができた。さらにそこでご教示いただいた本をすぐさま電子書籍で購入することさえできた。

自宅でネットをつなげば、まるで現地に行ったかのように海外の研究者たちと意見交換ができる。海外に行くにしろ、海外から研究者を招聘するにしろ、これまで国際会議を開くためにはかなりの準備が必要であったが、オンラインであればこの気軽さで行える。そのことに気づき、11月からアメリカの研究者と月に1回の輪読会を始めている。おそらくコロナ禍による遠隔授業がなければ、ZoomやTeamsを使いこなして発表をするスキルは身に付いていなかったであろう。そういう意味でこのコロナ禍はオンラインによる国際共同研究の可能性を開いたとも言える。

■国際共同研究の可能性
私が初めてAASに参加したのは2015年のことであったが、大変な衝撃を受けた。日本における学会の形式との違いはもちろん、海外の研究者たちの作品に対するアプローチの仕方や研究上の興味関心の対象の違いに刺激を受けたのである。その違いは受け入れられるものばかりではなかったが、しかし、研究交流をすることでお互いの研究の質を高められるのではないかと考えた。今回のワークショップを通じて、オンラインによる国際共同研究は可能であるという手応えを感じた。

文学通信のメルマガでは定期的に海外の研究情報がまとめられて発信されている。また、今は電子書籍の普及により、海外の研究書であっても簡単に手に入るものも多い。日本国内の最新情報を追うだけでも大変であるが、情報化の時代だからこそ、効率よく情報を収集し、利用していくこともできる。そうして幅広く研究交流をし、互いに批正しあうことができる時代に来ていると感じた。


"Thinking 〈Women X Women〉 in Japan:Visualizing Texts, Reading Images Workshop III"
ダートマス大学ワークショップ発表へ対するいくつかの雑感

畑 恵里子
 
静岡英和学院大学准教授・立命館大学衣笠総合研究機構客員協力研究員。著書に『王朝継子物語と力―落窪物語からの視座―』(新典社研究叢書212、2010年)※本書により、平成24(2012)年度第7回全国大学国語国文学会賞、共著に「舞鶴市糸井文庫蔵『新版龍宮洗濯噺-芋蛸の由来-』翻刻・語釈・抄訳および英訳」(静岡英和学院大学編『静岡英和学院大学紀要』18、2020年。畑恵里子、原豊二、西野由紀、園山千里、荒川吉孝)など。

秋が深まった令和2(2020)年10月16日〜10月17日(現地時間)、"Thinking 〈Women X Women〉 in Japan:Visualizing Texts, Reading Images Workshop III"が開催された。本来、同年4月にダートマス大学(アメリカ・ニューハンプシャー州)で、通常形式の直接対面による開催が予定されていた。ところが、突如世界的に蔓延したCOVID-19のため急遽延期となり、半年後のオンライン開催に至った。

歴史でしか知らなかった疫病の猛威とは、日常生活を、常識を、これほど根底から揺さぶり、社会のひずみや弱者の苦しみを無遠慮に照射するものだったかと、初めて感覚をもって知った。そして、知識のみ把握して理解したと見なしてしまうこわさを学んだ。無自覚のうちに、歴史を他人事と切り捨ててしまっていたようにも思う。文学や文化に携わる人間として、それでよかったか。研究者である以上、客観性の維持は必須であり、対象への没入を回避する姿勢は求められる。そのかたわら、このような時、文学は何ができるのか。常識という概念が一部変質しつつある混乱した現在、このタイミングで開催されたジェンダーを扱うワークショップの雑感を記録しておきたい。ジェンダーが、ある共同体における常識のありかたと密接に結びついていることは、言を俟たない。

■浦島をめぐる女君たちの系譜のジェンダー的視点による分析
コーディネーターは、ダートマス大学のシュミット堀佐知氏である。拙著『王朝物語と力―落窪物語からの視座―』(新典社研究叢書、2010年)をアメリカで目にしてくださったことを契機として、当時のわたくしの勤務地であった京都府舞鶴市へ来訪してくださった。中古に成立した『落窪物語』は世界各地で見られるシンデレラ・タイプのひとつではあるが、『源氏物語』をはじめとする作品群に埋没するかのように、その存在感も、評価も、高くはない。だからこそ感激した。そして今回、〈Women X Women〉という魅力的な課題をいただいた。

女性と女性。未成年と成年。姫君と北の方。姫君と侍女。北の方と侍女。女房と女童。都の女性と鄙の女性。超自然的存在と人間。どの切り口がよいか。丹後地域に奉職してきた縁から、近年、中古文学という自分の専門領域とは少しく異なる浦島伝説、それも近世享受の様相を意図的に扱ってきた。そのため、そろそろ本来のフィールドである『落窪物語』で久しぶりに論じてみたい気持ちはあった。シュミット堀佐知氏との交流の契機も『落窪物語』研究に拠る。それに加害する継母と継子との対比は理解しやすい。『落窪物語』と同時代の継子物語である『住吉物語』と対比しても、安定した内容となる。

しかし、現在研究を進めている京都府舞鶴市指定文化財である糸井文庫の浦島伝説を扱う科学研究費基盤研究(C)の採択最終年度にあたることもあり、近世浦島享受に決めた。研究者だけではなく国内外の一般読者へ本資料の内容を伝えるため、翻刻・語釈・抄訳・英訳・ハングル訳という一連の共同研究に心血を注いできた。文学とは一般読者と共にあるべきではあるまいかという信念を抱いてきたためであった。一方、作品そのものを論じられていないことへの反省が、かねてよりあった。

対象作品は『水江浦島対紫雲篋』(みずえのうらしま ついのたまてばこ)に即決した。草双紙の一種の黒本である。作者未詳、画は鳥居清経(きよつね)、判型は中本、全3巻(上巻・中巻・下巻)である。明和8(1771)年刊、制作は鱗形屋孫兵衛(うろこがたや まごべえ)である。『博物志』『荘子』『列子』などが随所で引用されており、作者名は不明だが、教養ある人物と推測される。ことに『華厳経』の引用はすぐにそれとはわからない叙述で、ひねりがきいている(いつも見守りご助言くださる名古屋大学の塩村耕氏へ深甚の謝意をあらわす)。

本作品では、丹後地域の竹野神社(たかのじんじゃ)の巫者である斎姫(いつきひめ)、龍宮の乙姫、空海の弟子となる如意姫(後の如意尼)の3名の女君が順に登場する。浦島には兄がいる設定であり、兄は弟の妻となった斎姫へ横恋慕をした挙げ句に毒殺してしまう。その代替のように、乙姫、如意姫が入れ違いであらわれて、浦島とすぐ恋に落ちる。空海が守敏(しゅびん)との祈雨争いで勝利した背景に、如意姫が譲渡した玉手箱の存在があったというエピソードを経て、丹後地域の網野神社の祭神として浦島をめでたく祀るという結末で締めくくられている。

女君たちはみな、超自然的な霊力を秘めた品物を有している。斎姫は慈雨や豊漁を呼ぶ水神鏡(水心鏡か)を、乙姫は2つの玉手箱を、如意姫は奇瑞の慈雨をもたらす玉手箱を浦島から引き継ぎ、後に空海へと譲渡する。もうひとつの玉手箱は、従来の展開通り、浦島へ老死をもたらす。これらの女君たちの系譜からは、何が読み取れるか。この作品に対して、海外研究者はどのような意見をご提示くださるか。海外発表がうまくいく保証はない。母語である日本語での研究発表さえ、まず常に評価されない。だが、この新資料だけでも一定のインパクトはあると判断して、「日本古代文学の異界の女君と霊力」と題した発表を行った。

ボウディン大学(アメリカ)のジャヤンティ・セリンジャー氏がコメンテーターを担当した。セリンジャー氏は、本伝説の主体であったはずの浦島を超越する3名の女君の存在感の意義を、ジェンダー的視点から分析した。本作品では主軸はあくまでも女性側にあり、玉手箱とは浦島の老死を招いて作中から退場を促す役割を担っているのではないかという指摘も、巫女たちの婿取婚のかたちと見る指摘も、「形見」の呪的機能の装置という指摘も、新鮮に映った。また、歌舞伎役者に喩えられる美形の浦島と醜男の兄という対比構造は、実は古代的ではないかとするシュミット堀佐知氏の指摘も興味深く思った。確かにイワナガヒメとコノハナサクヤヒメとの関係性を想起させる。浦島は女君の系譜のために機能する存在だとする指摘も、本ワークショップの特性によるであろう。

■使用言語を選択できるワークショップの方法
さて、本ワークショップでは使用言語を選択できた。当初は英語発表を準備していたが、スキルの十分ではない英語によって正確に議論できない可能性を懸念して、ペーパーも発言も、わたくしはすべて日本語とした。しかしながら、日本からの参加者以外は英語による発表や発言ばかり、ワークショップ全体の使用言語の80%以上は英語、よって参加者の発言に全神経を集中しつづけた。原則通訳はない。それでも互いに意思疎通が比較的できた要因のひとつは、発表形式にあったと考えられる。

(1)発表者は事前にフルペーパーを提出する(発表時のパワーポイントのデータやレジュメとは別である)、(2)コメンテーターは、フルペーパーへのコメントを事前に発表者へ渡しておく、(3)参加者全員がフルペーパーを熟読しておいた上で参画する。通常の学会よりも入念な事前準備を全員が要するが、今回の参加者は比較的少人数であり、有効的であった。丁寧な参画方法だ。ただこの方法の場合、参加者数に多少の制限は必要かもしれない。

■海外オンライン学会の可能性
今回、発表者の立場から海外オンラインの可能性を学んだ。プログラム設定に時差の考慮は必要であるし、直接対面に比してもの足りなさは残るが、環境さえ整えば、国内研究あるいは日常生活と海外研究の場とは容易につながる。アメリカの学会の翌日に、イギリスの学会へ参画することも可能だ。校務への影響も少ない。オンラインによる国内学会の開催は今年度の学会活動の主流となっているが、一過性とするのではなく、今後の開催方法の選択肢のひとつに据えることは真剣に検討してもよいように思う。経済的・時間的負担を軽減して参画しやすい環境を模索・提供することは、今後の文学研究の発展のために必要であろう。

また、オンラインの共有(シェア)機能によって、絵巻や挿絵の明確な画像資料が目前に提示されることによる利点も大きかった。通常の対面形式の発表の場合、モニターとの距離があるため、クリアな画像を目視しにくいというきらいはある。その問題は解決できる。

面白かったのは、プログラム終了後の情報交換であった。現在どのような研究が行われているのか、面白い発表や新刊書籍は何かなど、率直な意見が交わされた。日本古典文学を扱う海外研究者は苦境にあることも改めて知ることができたし、日本国内の文学研究が海外研究者からどのように見られているのかを客観視する一助となった。国内で活動していると、英語による学術論文・学術書への目配りまでは、なかなかいかない。だが、海外研究者による評価や研究方法を適切に把握することは、翻って、国内の研究活動や学生教育に資するはずだ。身近かつ国際的な学術交流という選択肢を、絵空事としてではなく、リアルに検討する時が来たのかもしれない。

以上、オンライン開催による研究の可能性の雑感を簡易に記録した。

【謝辞】本稿はJSPS科研費 JP17K02438の助成を受けたものです(科学研究費基盤研究(C)「舞鶴市糸井文庫蔵浦島伝説関連資料の基礎的研究」研究代表者 畑恵里子)。また、立命館大学アート・リサーチセンター文部科学省国際共同利用・共同研究拠点「日本文化資源デジタル・アーカイブ国際共同研究拠点」国際共同研究課題〔研究設備・資源活用型〕採択(研究代表者 畑恵里子)の採択課題です。日本学術振興会、立命館大学アート・リサーチセンター、資料を有する舞鶴市(舞鶴市掲載許諾済)、シュミット堀佐知氏へ深甚の謝意をあらわします。

【付記】本科研費研究成果報告書の刊行を予定しています(畑恵里子編、静岡英和学院大学畑研究室、2021年3月)。ご関心のあるかたは、畑へご連絡ください(e-hata◆(◆をアットマークにしてください)shizuoka-eiwa.ac.jp)。