前口上(勝又基)を全文公開★勝又基編『古典は本当に必要なのか、否定論者と議論して本気で考えてみた。』(文学通信)

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間もなく刊行する、勝又基編『古典は本当に必要なのか、否定論者と議論して本気で考えてみた。』(文学通信)より、前口上(勝又基)を全文公開いたします。本書の趣意を明確示すものです。ぜひお読み頂ければと思います。

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●本書の詳細はこちらから
文学通信
勝又基編『古典は本当に必要なのか、否定論者と議論して本気で考えてみた。』(文学通信)
ISBN978-4-909658-16-6 C0095
A5判・並製・220頁
定価:本体1,800円(税別)

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前口上(勝又基)

 本日はお越しいただき、まことにありがとうございます。これより、明星大学日本文化学科シンポジウム、「古典は本当に必要なのか」を開催いたします。
 わたくしは、日本文化学科の教授で、本シンポジウムのコーディネーターを務めております、勝又基と申します。開催に先立ち、本シンポジウムの趣旨を説明いたします。

 近年、日本の古典文学研究・教育は、危機に瀕していると言って良いでしょう。大学の日本文学系学科の縮小、国文学研究雑誌の相次ぐ廃刊、学会の高齢化と会員減少、さらには学習指導要領の改訂、入試改革において古典が押しやられるなど、四半世紀前からは想像もできない状況に陥っています。
 これに対して、古典の価値を訴え、人文学の意義を唱えるシンポジウムや書物は、ここ数年来、少なからず世に現れてきました。しかしそれらの多くは、守る側だけの論理を一方的に振りかざすに留まっていた、と言わざるを得ません。古典を軽んじている理系、経済界、そして行政の人たちに、その言葉は真に有効な反論たり得ていたでしょうか。その声は届いていたでしょうか。

 いまわれわれに求められていることは、「古典など不要」と考えている人々の声に、まずは真摯に耳を傾けること、そして、その論理から逃げることなく、正面から反論すること、ではないでしょうか。
 もちろん、SNS上では、こうした対決的な議論は、珍しいものではありません。しかしそれらの多くは、匿名の自称「成功者」による、「オレはこんなに偉くなったが、古文・漢文など使ったことがない」という一方的な発言です。これに対して、反感混じりに正論を投げ返したところで、生産的な発展は到底見込めません。
 こうした反省を踏まえて、本シンポジウムでは、古典否定派を自称してはばからない、大学と企業の研究者をお迎えしました。お2人のご意見に「直接」耳を傾け、「この場で」議論を深めてゆきましょう。

 古典不要論には、多様な論点があります。あなたの人生にとって古典は必要かどうか。新たな価値・学びが生まれている現代、なおも高校の「必修」で古文の「文法」を学ばなければならないのか。大学の役割分担が進む中、地方国立大学に古典文学の教員は必要なのか。同じく軽視されている理系の基礎科学の研究者なら、人文学の重要性を理解してくれるのか。「グローバル人材」を育てるという国の方針のもとで、日本の古典を学ぶ価値とは何なのか......。幸い今回は、さまざまなご所属、お立場の方々が会場にいらしていると聞いております。それぞれのお立場から、多様な指摘がなされることを期待しております。
 今日の議論は、大げさでなく、古典がある側面において、終わるきっかけを作ってしまうかもしれません。またあるいは、日本の古典が新たな一歩を踏み出す日になるかもしれません。すべてはこれから3時間半の議論にかかっています。皆さんの積極的なご参加をお願いいたします。

 本日のプログラムについてご説明します。まず第一部はパネリストによる発表をいたします。否定派の方々がまずお2人発表なさって、そのあと肯定派の方がお2人発表いたします。持ち時間は20分厳守をお願いしております。パネリストの発表後休憩をはさみますが、その時に手元の中間アンケートを回収いたします。質問をご希望の方はその旨ご記入の上、スタッフにご提出ください。休憩をはさみまして第二部のディスカッションに入ります。司会は私ではなくて新たな方をお招きしております。パネリストからまずコメントをいただきます。そのあとパネリスト同士でしばらくお話しいただこうと思います。そのあとに中間アンケートをもとに会場との議論を深めてまいりたいと思います。一つの質問はパネリストからの回答も含めて5分間を厳守していただきたいと思います。できるだけ多くの方のご意見を伺いたいと思っているからです。

 パネリストの紹介をいたします(次ページ参照)。まず否定派のお一方目、某旧帝国大学研究所教授、猿倉信彦さんです。紹介のところをご覧ください(次ページ)。今回ご登壇いただくにあたりまして、これが個人の意見である、所属を代表するご意見ではないということを明確化するために大学名を明記しておられません。その点、ぜひご理解いただければ幸いでございます。続きまして否定派のお二方目、元東芝の前田健一さんです。そして肯定派のお一方目は、東京大学の渡部泰明さんです。お二方目は、日本女子大学の福田安典さんです。第二部の司会を務めてくださるのが、大阪大学の飯倉洋一さんです。

 最後にこれから3時間半議論をするにあたって、いくつかお願いがございます。議論は紳士的にお願いいたします。特定できるような個人団体への中傷、発言中の野次、パネリストの所属先へのクレームはおやめください。実はこれはすでにあったと聞いております。皆さま、ぜひその辺り紳士的にお願いいたします。そしてインターネット中継をご覧の方は、ハッシュタグ「♯古典は本当に必要なのか」をどうぞご利用ください。そしてマイクを通しての発言、アンケートの内容、ハッシュタグを使用してのツィートは、報告書などに利用させていただくことがございます。あらかじめご了承いただければ幸いでございます。では、議論に移りたいと思います。まずは否定派のお一方目、猿倉信彦さんよろしくお願いいたします。