全訳『男色大鑑』予告的あらすじ公開!★巻3の3「中脇差は思ひの焼け残り(ちゅうわきざしはおもいのやけのこり)」

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井原西鶴が1687年に描き出した、詩情あふれる華麗・勇武な男色物語『男色大鑑』を現代に甦えらせるプロジェクトが始動します。
『男色大鑑』の、若衆と念者の「死をも辞さない強い絆」は、作品中、常に焦点となっている三角関係の緊張感とともに、長い間、誠の愛を渇望して止まぬ人々の心を密かに潤し続けてきました。
そんな作品群を、分かりやすい現代語と流麗なイラストによって新たに世に送り出します。

ここでは、そんな『男色大鑑』のあらすじを予告編的に紹介していきます。今回は巻三の三を紹介いたします。

※あらすじの一覧は以下で見ることができます。
https://bungaku-report.com/blog/2018/07/post-235.html

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■巻三の三

中脇差は思ひの焼け残り(ちゅうわきざしはおもいのやけのこり)
死んだあいつの願いを叶えるために「走れ、半助」。

 「何事であっても女のすることを見るものではない、世にこの衆道よりほかの道はないものだ」と同道の男に言われ、「本当にその通りだ」と涙ぐんだのは半助(はんすけ)という男である。半助は、駿河の国府中で京物を扱う店の一子であった万屋の久四郎(よろずやのきゅうしろう)と、13の年から契を結んだ仲であった。久四郎がはかなく死んだ後、半助はその骨桶を高野山の奥の院に納めに行き、女に所縁(ゆかり)のある場所を耳と目をふさいで通り、やっとのことで千本(ちもと)の槙(まき)の奥にたどり着く。そこになんと、白装束の久四郎が目の前に現れた。

 久四郎は悲し気に中脇差(ちゅうわきざし)を捧げ持ち自分の名を呼んでいる。驚いた半助に久四郎は「この脇差は、自分が死んだ時に親が棺桶に入れてくれたものだが、実は先祖代々のものではなく、さる侍から内緒で預かったものなのだ。私の死後に先方から返せと督促されて親が難儀しているようだ。どうか郷里にこれを持って帰ってくれないか」と語り、脇差を渡すと夢のように消えてしまった。半助は不思議に思ったが、言われた通りに久四郎の故郷へ帰ってみると、果たしてその通り、久四郎の親は脇差の返却を迫られ、墓まで掘り返して探すが見つからず、いよいよ住み慣れた家を立ち退こうとしていた。脇差を夫婦に渡し、半助が事のあらましを伝えると、親たちは、何とも類(たぐい)まれな真心の形見を見たものだと、驚いたのだった。

 骨桶を抱えて涙する半助が客観的に描かれる前半に対して、後半は半助の視点から物語が語られる。女嫌いを行動で示そうとする半助の、いささか滑稽味のある描かれ方が、亡霊の登場を夢見心地に感じつつそれでも必死に久四郎の願いに応えようとする後半の姿との対比を生み出している。


★杉本紀子(すぎもと・のりこ)東京学芸大学附属国際中等教育学校主幹教諭。

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■編集部より

2018年12月に、『男色大鑑』八巻中、前半の武家社会の衆道に取材した作品四巻までを収録した〈武士編〉を刊行し、後半の四巻を〈歌舞伎若衆編〉として、2019年6月に刊行します。

イラストに、あんどうれい、大竹直子、九州男児、こふで、紗久楽さわ、といった豪華な漫画家陣が参加。現代語訳は、若手中心の気鋭の研究者、佐藤智子、杉本紀子、染谷智幸、畑中千晶、濱口順一、浜田泰彦、早川由美、松村美奈。

このプロジェクトが気になった方は、ぜひ以下の特設サイトをご覧下さい。
文学通信

また本書の詳しい紹介はこちらです。ご予約受け付け中です!
●2018.11月刊行予定
文学通信
染谷智幸・畑中千晶編『全訳 男色大鑑〈武士編〉』
ISBN978-4-909658-03-6 C0095
四六判・並製・192頁 定価:本体1,800円(税別)
※ご予約受付中!
amazonはこちら https://www.amazon.co.jp/dp/4909658033/