全訳『男色大鑑』予告的あらすじ公開!★巻3の1「編笠は重ねての恨み」

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井原西鶴が1687年に描き出した、詩情あふれる華麗・勇武な男色物語『男色大鑑』を現代に甦えらせるプロジェクトが始動します。
『男色大鑑』の、若衆と念者の「死をも辞さない強い絆」は、作品中、常に焦点となっている三角関係の緊張感とともに、長い間、誠の愛を渇望して止まぬ人々の心を密かに潤し続けてきました。
そんな作品群を、分かりやすい現代語と流麗なイラストによって新たに世に送り出します。

ここでは、そんな『男色大鑑』のあらすじを予告編的に紹介していきます。今回は巻三の一を紹介いたします。

※あらすじの一覧は以下で見ることができます。
https://bungaku-report.com/blog/2018/07/post-235.html

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■巻三の一

編笠は重ねての恨み
恥辱を晴らすは衆道の義――。武士に劣らぬ稚児の心根。

 近江の国筑摩(つくま)神社の祭りでは、氏子の女たちが契った男の数だけ鍋をかぶって供奉(ぐふ)するという習わしがある。その祭見物の一行の中に比叡山の若衆、蘭丸(らんまる)もいた。蘭丸はまだ十四とは思えないほどの麗しさであったが、これに思いを寄せる井関貞助(さだすけ)によって祭の帰りに思いがけない恥辱を受ける。貞助は道中で自分の編み笠を脱いで蘭丸の笠の上に重ね「祭で女たちがしていたことをお前にもしてやるよ。念者の数だけ笠をかぶせてやろう」と言ったのである。蘭丸はそれを聞き、確かに自分には兄分がいるがそのただ一人が自分が心を寄せる男であると反論する。周囲のとりなしで事はいったん収まったように見えたが、蘭丸の怒りは収まることはなかった。
 蘭丸の兄分は白鷺(しらさぎ)の清八(せいはち)。一生を美道にささげる髪結い職人であったが、蘭丸は今生の別れにと貞助とのやりとりを明かさないまま清八と夜を共にしたのち、寺に帰って貞助を討ち果たす。寺の荒法師(あらほうし)たちは蘭丸を捕らえさらに辱めを加えようとするが、蘭丸を追って駆けつけた清八によって斬り散らされる。その三年後二人がそろって尺八の巣ごもりの曲を奏でているのを鶴岡八幡宮で見かけた者があったという。
 自分の誇りのために恥辱を雪(そそ)ごうとする人の情熱と、嫉妬に駆られた人間のあさましい欲望が交差する章段。比叡山という権威と内実の対比の中で浮き彫りになってくる二人の関係が結末部で穏やかに結ばれる。

★杉本紀子(すぎもと・のりこ)東京学芸大学附属国際中等教育学校主幹教諭。

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■編集部より

2018年11月に、『男色大鑑』八巻中、前半の武家社会の衆道に取材した作品四巻までを収録した〈武士編〉を刊行し、後半の四巻を〈歌舞伎若衆編〉として、2019年6月に刊行します。

イラストに、あんどうれい、大竹直子、九州男児、こふで、紗久楽さわ、といった豪華な漫画家陣が参加。現代語訳は、若手中心の気鋭の研究者、佐藤智子、杉本紀子、染谷智幸、畑中千晶、濱口順一、浜田泰彦、早川由美、松村美奈。

このプロジェクトが気になった方は、ぜひ以下の特設サイトをご覧下さい。
文学通信

また本書の詳しい紹介はこちらです。ご予約受け付け中です!
●2018.11月刊行予定
文学通信
染谷智幸・畑中千晶編『全訳 男色大鑑〈武士編〉』
ISBN978-4-909658-03-6 C0095
四六判・並製・192頁 定価:本体1,800円(税別)
※ご予約受付中!
amazonはこちら https://www.amazon.co.jp/dp/4909658033/