地方史研究協議会編『日本の歴史を原点から探る 地域資料との出会い』(文学通信)

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11月上旬刊行予定です。

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地方史研究協議会編
『日本の歴史を原点から探る 地域資料との出会い』(文学通信)
地方史はおもしろい02
ISBN978-4-909658-40-1 C0221
新書判・並製・272頁
定価:本体1,500円(税別)


日本の歴史を原点から探求するために。
地域資料を読み解き考え抜くことで、歴史的な視点をどう手に入れるのか。
各地域に残された資料や歴史的な事柄を通して、自らの地域や日本の将来を考える手がかりにするべく、それぞれの資料に向き合ってきた新進の研究者が、歴史の読み解き方をふんだんに伝える。
【本書のキーワード】八瀬童子、阿波藍、御嶽山、宿場、庄内士族、武家、新田試作、駆け込み、歴史教育、地券、風土記、社会的弱者の歴史、寺院資料、藩士の日記、安政のコレラ、地誌、大木戸、レンガ、浅草十二階
執筆は、廣瀬良弘、宇野日出生、福家清司、斉藤 進、斉藤照徳、乾 賢太郎、寺門雄一、中村陽平、山下真一、今野 章、宮間純一、谷口 榮、佐藤 慎、石田文一、桑原功一、西村 健、久信田喜一、佐藤孝之、牛米 努、藤野 敦、大嶌聖子。





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【編者】

地方史研究協議会

地方史研究協議会は、各地の地方史研究者および研究団体相互間の連絡を密にし、日本史研究の基礎である地方史研究を推進することを目的とした学会です。1950年に発足し、現在会員数は1,400名余、会長・監事・評議員・委員・常任委員をもって委員会を構成し、会を運営しています。発足当初から、毎年一回、全国各地の研究会・研究者と密接な連絡のもとに大会を開催、また、1951年3月、会誌『地方史研究』第1号を発行し、現在も着実に刊行を続けています(年6冊、隔月刊)。

◆入会を希望される方は、事務局宛に下記URL内のフォーム、または郵送・FAXでお申込ができます。おって会費の振込用紙を送付いたします。
◆『地方史研究』の購読は、HPよりお申し込みください。

〒111-0032
東京都台東区浅草5-33-1-2F 
地方史研究協議会事務局
FAX 03-6802-4129
URL:http://chihoshi.jp/

【目次】

地域資料と出会うために─本書の歩き方(地方史研究協議会 会長 廣瀬良弘)

第1部 伝統文化を読み解くのはおもしろい

今なお皇室とつながる特殊な集落
1 八瀬童子のひみつ─天皇側近の里人─(宇野日出生)

1、はじめに
2、八瀬童子とは何か
3、天皇の側近衆として
4、大喪大礼の奉仕がもたらしたもの
5、おわりに
(対象地域:京都)

特産品の起源をどう探すか
2 阿波藍起源論の今(福家清司)

1、阿波藍とは
2、阿波藍起源論の変遷
3、「阿波藍中世起源説」とその史資料
4、『兵庫北関入舩納帳』の藍について
5、阿波藍起源論の課題
(対象地域:徳島)

ランドマークを考古学的に探る
3 「凌雲閣(浅草十二階)」の煉瓦─煉瓦を考古学からみる─(斉藤 進)

1、残っていた「凌雲閣(浅草十二階)」
2、凌雲閣の概要
3、東京における煉瓦生産
4、煉瓦の作り方
5、凌雲閣の煉瓦を考古学からみると
6、窯業生産地の象徴としての凌雲閣
(対象地域:東京)

街角に残された資料から歴史を探る
4 東京近郊のレンガ産業を探る─地域資料発見の楽しさ─(斉藤照徳)

1、いまに残る東京のレンガ建築
2、明治東京のレンガはどこでつくられた?
3、山本煉瓦工場の刻印をもとめて
4、まさかここで「広岡」の名を目にするとは
(対象地域:東京)

神社と人々の結び付きをどう調べるか
5 町の中の「御嶽山」─神社に関連する資料を中心に─(乾 賢太郎)

1、東京都大田区にある「御嶽山」
2、嶺の御嶽山
3、一山行者
4、崇敬神社から氏神神社へ
5、嶺一山講
6、先達─峯山妙覚と鈴木常五郎
7、講元─長久保家
8、むすび
(対象地域:東京)

第2部 資料を読み込むのはおもしろい

残されたパーツから歴史を組み立て直す
6 お上の絵図と地面の下から宿場を探る─絵画資料と発掘成果からみる東海道品川宿─(寺門雄一)

1、お上の絵図 「東海道分間延絵図」にみる石積護岸
2、海は遠くなったが......
3、造り直される石積護岸
4、完璧な石積護岸が出てきたが......食い違う史料と史料
5、おわりに
(対象地域:東京)

歴史の虚像はどう作られてきたか
7 大木戸はあったのか─地域の歴史を読み直す─(中村陽平)

1、はじめに
2、板橋宿大木戸の記録はあるのか
3、板橋宿の木戸を考える─和宮下向時の木戸
4、板橋宿における幕末の関門・番所設置
5、板橋宿大木戸の正体
(対象地域:東京)

その編さん過程から何がわかるか
8 地域を再認識する地誌の編さん─都城島津家の人々と「庄内地理志」─(山下真一)

1、地誌とは
2、「庄内地理志」と地域の歴史
3、「日々史」とは
4、調査に参加する人々
5、地誌の編さんと地域の再認識
(対象地域:宮崎)

書状からその関係性を明らかにする
9 庄内・薩摩交流の始まり─明治初年、東京における庄内士族の情報収集─(今野 章)

1、西郷隆盛が結ぶ薩摩との縁
2、黒田清隆の厚情と隠居酒井忠発の感動
3、酒田県東京出張所機事掛の活動
(対象地域:山形)

感染症史を地域史料から探る
10 地方文書からひもとく安政のコレラ(宮間純一)

1、安政のコレラ
2、江戸からもたらされた情報
3、幕府からの指示
4、人びとの祈り
5、これからの感染症史研究と地方文書
(対象地域:千葉)

第3部 歴史を再発見するのはおもしろい

考古学と文献学の協働で探る
11 武家の格式と威信材─関東公方葛西様と葛西城─(谷口 榮)

1、東京の戦国史研究と関東公方
2、葛西城をめぐる攻防
3、出土した威信材と武家の価値観
4、「葛西様」と考古資料
(対象地域:東京)

意外な資料の出現が歴史を変えた
12 逆転した鮫ヶ尾城の大手と搦手─定説を覆した高田藩士の日記─(佐藤 慎)

1、城郭研究のおもしろさ
2、鮫ヶ尾城の歴史と三つの登城道
3、鮫ヶ尾城の大手と搦手
4、定説を覆した高田藩士の日記
(対象地域:新潟)

寺院資料の調査・整理からわかること
13 真宗末寺のしたたかさ─能登乗念寺直参への軌跡─(石田文一)

1、はじめに
2、乗念寺の草創
3、光徳寺門徒としての乗念寺
4、本末関係の解消と直参化
5、光徳寺触下からの離脱
6、乗念寺弁道の生涯
(対象地域:石川)

史料の文言からみえてくること
14 鎌倉大筒稽古場内の新田試作問題─「御鉄炮御場所」から読み解く─(桑原功一)

1、はじめに
2、新田試作許可文書を読む
3、「御鉄炮御場所」「御場所」の史料文言に注目
4、鎌倉大筒稽古場の機能・性格から「御鉄炮御場所」呼称を考える
5、「御鉄炮御場所」管理体制における大筒役佐々木氏
6、おわりに
(対象地域:神奈川)

社会的弱者の歴史をどう掘り起こすか
15 焼け跡に手を差しのべた人々の記録─地域に残る戦後社会事業団体資料の価値─(西村 健)

1、はじめに─戦後横浜の戦争孤児保護
2、ボーイズホーム資料発見の経緯と施設の沿革
3、ボーイズホーム資料の紹介
4、むすびに─戦後社会事業団体関連資料を保存する意義
(対象地域:神奈川)

第4部 教材として役立つ地域資料

古代史の宝庫を開く鍵(対象地域:茨城)
16 『常陸国風土記』の魅力─茨城の古代史はおもしろい─(久信田喜一)

1、はじめに
2、『常陸国風土記』の成立年代と編纂者
3、『常陸国風土記』の伝来と写本
4、茨城の里と輔時臥の山
5、高市と密筑の里
6、藻嶋郷と藻嶋の駅家
7、おわりに
(対象地域:茨城)

「駆け込み」資料から地域がわかる
17 寺に駆け込むということ─上州館林藩にみる入寺と寺訴訟─(佐藤孝之)

1、入寺と寺訴訟
2、上州館林藩の概要
3、藩による入寺・寺訴訟の規制
4、町村にみる入寺と寺訴訟
5、寺に駆け込むということ
(対象地域:群馬)

地券からひろがる地域の歴史
18 壬申地券からみる地租改正(牛米 努)

1、はじめに
2、壬申地券とは何か?
3、租税改革と壬申地券
4、市街地券の発行
5、郡村地券の発行
6、おわりに
(対象地域:東京)

これからの歴史教育のために
19 地域資料が歴史教育を今につなぐ─中学・高校・大学・市民講座と地域資料─(藤野 敦)

1、学習者と時間・空間を結ぶ地域の歴史資料
2、過去の人と対話する─高等学校 説明、論述の答えは一五〇年前の村役人に
3、過去の人々と出会う 「未来に何を残せるだろう」─中学校での「地域史レポート」
4、過去と今を重ねる、自らの生き方を過去と重ねる─大学や生涯教育の場で
5、「地域」からグローバルに、そして再び「地域」へ─新学習指導要領の歴史学習
(対象地域:東京・神奈川)

あとがき(大嶌聖子)
執筆者紹介
シリーズ刊行にあたって(地方史研究協議会 会長 廣瀬良弘)

【執筆者紹介】

○宇野日出生(うの ひでお)一九五五年生 京都市歴史資料館
 主要業績 『八瀬童子 歴史と文化』(思文閣出版、二〇〇七年)
○福家清司 (ふけ きよし)一九五〇年生 公益財団法人徳島県埋蔵文化財センター
 主要業績 「中世後期の阿波国「大麻宮」と地域社会」(徳島地方史研究会『史窓』第四八号、二〇一八年)
○斉藤 進 (さいとう すすむ)一九五七年生 煉瓦研究ネットワーク関東
 主要業績 「東京における煉瓦と考古学」(『月刊 考古学ジャーナル』第六六四号、二〇一四年)
○斉藤照徳 (さいとう あきのり)一九八二年生 公益財団法人江東区文化コミュニティ財団
 主要業績 「明治期江東区域の煉瓦製造業」(『江東区文化財研究紀要』第一九号、二〇一六年)
○乾 賢太郎 (いぬい けんたろう)一九七九年生 大田区立郷土博物館
 主要業績 「髙尾山の信仰組織─髙尾山分霊院を中心として─」(松崎憲三・山田直巳編『霊山信仰の地域的展開─死者供養の山と都市近郊の霊山』岩田書院 二〇一八年)
○寺門雄一 (てらかど ゆういち)一九五八年生 品川区教育委員会
 主要業績 編・著『品川区史二〇一四』(品川区、二〇一四年)
○中村陽平 (なかむら ようへい)一九八二年生 埼玉県立歴史と民俗の博物館
 主要業績 「御朱印地配分からみる近世鎌倉寺社領の成立と構造」(中野達哉編『鎌倉寺社の近世』岩田書院、二〇一七年)
○山下真一 (やました しんいち)一九六四年生 都城市 都城島津邸
 主要業績 「近世領主家の地誌編纂と地域社会」(北村行遠編『近世の宗教と地域社会』岩田書院、二〇一八年)
○今野 章 (こんのあきら)一九六八年生 鶴岡市郷土資料館
 主要業績 「戊辰戦争における新徴組・新整組」(『山形県地域史研究』第四三号 二〇一八年)
○宮間純一 (みやまじゅんいち)一九八二年生 中央大学文学部  
 主要業績 『戊辰内乱期の社会─佐幕と勤王のあいだ─』(思文閣出版、二〇一五年)  
○谷口 榮 (たにぐち さかえ)一九六一年生 葛飾区産業観光部観光課
 主要業績 『東京下町の開発と景観』古代編・中世編(雄山閣、二〇一八年)
○佐藤 慎 (さとう まこと)一九七六年生 妙高市教育委員会
 主要業績 「神仏に守られた戦国の山城」(妙高市教育委員会編『斐太歴史の里の文化史─鎮守の森の文化財と斐太神社を訪ねて─』二〇一四年)
○石田文一 (いしだ ふみかず)一九六二年生 石川県立図書館 史料編さん室 
 主要業績 「戦国期の加賀国白山本宮荘厳講と在地社会」(東四柳史明編『地域社会の文化と史料』同成社、二〇一七年) 
○桑原功一 (くわばら こういち)一九六九年生 公益財団法人渋沢栄一記念財団渋沢史料館
 主要業績 「享保改革期における幕府大筒役の創設」(『日本歴史』第七四一号、二〇一〇年)
○西村 健 (にしむら たける)一九七九年生 横浜都市発展記念館
 主要業績 「戦後横浜の社会福祉事業─引揚者、浮浪児・戦争孤児・『混血孤児』の保護を中心として─」(『横浜都市発展記念館紀要』第一二号、二〇一六年)
○久信田喜一 (くしだ きいち)一九五〇年生 茨城地方史研究会
 主要業績 「古代の茨城─地域と歴史─①〜⑩」(『常陽芸文』三五三〜三六四、二〇一二〜三年)
○佐藤 孝之 (さとう たかゆき)一九五四年生 東京大学名誉教授
 主要業績 『近世駆込寺と紛争解決』(吉川弘文館、二〇一九年)
○牛米 努 (うしごめ つとむ)一九五六年生 明治大学
 主要業績 『近代国家の課税と徴収』(有志舎、二〇一七年)
○藤野 敦 (ふじの あつし)一九六六年生 文部科学省初等中等教育局
 主要業績 『東京都の誕生』(歴史文化ライブラリー一三五、吉川弘文館 二〇〇二年)

【地域資料と出会うために─本書の歩き方】

地方史研究協議会 会長 廣瀨良弘

 本書「日本の歴史を原点から探る─地域資料との出会い─」は、地方史研究協議会のシリーズ『地方史はおもしろい』の第二冊となります。当会は本年二〇二〇年に七〇周年を迎え、それにあわせ、このシリーズ本の企画がスタートしております。四月に第一冊を刊行し、お陰様で好評にて多くの読者の皆様に支えられて、早くも第二冊を刊行する運びとなりました。
 第二冊では、地域資料に出会い、現在も大いに活躍されている一九名の執筆陣が健筆をふるいました。読者の皆様には、地域資料を読み解き、考え抜くことでみえてくる歴史的な視点を手に入れていくおもしろさを味わっていただきたいと考えます。では各論考の要所を示しておきます。

1 「八瀬童子のひみつ─天皇側近の里人─」(宇野日出生)は、氏が京都で勤務をした中で出会った驚くべき数々の出来事や資料の中から、天皇皇后の大喪・大礼に従事した八瀬童子の役割を新史料に基づいて考察します。重要文化財に指定された「八瀬童子会文書」から現在も続く皇室とのつながりについて、とくに明治〜昭和期にかけての特権について述べています。
2 「阿波藍起源論の今」(福家清司)は、阿波藍の歴史がどのように始まったのか、根拠になった史資料を丹念に読み解きました。栽培の起源となる時期を史料に基づき考察し、当時から特産品として位置づけられていたことを指摘します。また、吉野川流域の主産地は畿内経済圏との関係の中で栽培・加工・移出が行われたという重要な指摘もしています。
3 「「凌雲閣(浅草十二階)」の煉瓦─煉瓦を考古学からみる─」(斉藤 進)は、浅草十二階と親しまれ、浅草のランドマークであった凌雲閣に使われた建築素材の煉瓦に着目します。基礎から十階までの四〇m余りを三三〇万個の赤煉瓦を使用した凌雲閣は、関東大震災で壊れて撤去されますが、土中の基礎は現在まで残ります。その煉瓦に残る製作技法の痕跡を考古学からみます。
4 「東京近郊のレンガ産業を探る─地域資料発見の楽しさ─」(斉藤照徳)は、明治時代に東京近郊、隅田川流域周辺でつくられた資材としてのレンガの歴史について、地域に残された資料をもとに職場での経験を紹介します。レンガ塀の刻印を区民と探して発見した体験など身近なところにある隠れた資料を探し出すよろこび・楽しさが地域資料にはあり、その体験を勧めます。
5 「町の中の「御嶽山」─神社に関連する資料を中心に─」(乾 賢太郎)は、大田区北嶺町に鎮座する御嶽神社に受け継がれてきた資料を読み解き、地域の神社と人びととの結びつきを浮かび上がらせます。村内にあった一小祠が木曽御嶽山の関東第一分社となるまでの経緯、神社の運営を支えた嶺一山講やこれに属した先達や講元の存在について、豊かな資料群から紐解きます。
6 「お上の絵図と地面の下から宿場を探る─絵画資料と発掘成果からみる東海道品川宿─」(寺門雄一)は、近世の品川宿について石積護岸に注目し、埋蔵文化財調査の成果と絵図を巧みに組み立て直しています。現在残っている部分の発掘調査から明らかになったこと、江戸幕府が行った街道とその周辺の絵図のなかから食い違う資史料の読み取りを行い、考え抜く歴史学の醍醐味を示しています。
7 「大木戸はあったのか─地域の歴史を読み直す─」(中村陽平)は、大正十三年(一九二四)刊行の『板橋町誌』以来、指摘されてきた中山道板橋宿にも高輪や四谷のような大木戸が存在したことについて、幕令や絵図などの資史料から確認できず、恒常的な大木戸は存在しなかったとします。和宮下向時の木戸・番所の設置などの幕末期の情勢から、大木戸の正体を探っていきます。
8 「地域を再認識する地誌の編さん─都城島津家の人々と「庄内地理志」─」(山下真一)は、鹿児島藩島津家家臣の都城島津家が編さんした「庄内地理志」の調査過程をみていきます。編さん開始時期の調査状況がわかる日誌から、特に現地調査は、地域住民の協力を得ながら進められ、それは、彼らにとって地元の地理や歴史を再認識することになったのではないかと指摘します。
9 「庄内・薩摩交流の始まり─明治初年、東京における庄内士族の情報収集─」(今野 章)では、庄内士族らが薩摩出身の政府高官にどのように接近していき、良好な関係を築いていったのか、薩摩との交流を具体的に明らかにしました。山形県庄内地方は、地域全体として西郷隆盛に対する思慕が強い土地柄で、それは今日まで受け継がれています。
10 「地方文書からひもとく安政のコレラ」(宮間純一)は、約一六〇年前に流行したコレラに、人々がどのように対処したのか、房総地域の文書から読み解きます。情報が飛び交うさま、幕府の指示が村々へ伝えられ、治療法が示されたことを紹介し、病に立ち向かうときに神仏に祈願したことにも触れます。感染症史の資料は各地に眠っていると思われ、注目される分野でしょう。
11 「武家の格式と威信材─関東公方葛西様と葛西城─」(谷口 榮)では、武家社会のステイタスシンボルとしての高級陶磁器を取り上げます。葛西城本丸の遺構からも出土したものの、当時、小規模な城と理解されていたイメージにはそぐわない遺物でした。文献研究の進展によって、関東公方の足利義氏の御座所であったことが判明し、葛西城の位置づけが考古資料と一致します。
12 「逆転した鮫ヶ尾城の大手と搦手─定説を覆した高田藩士の日記─」(佐藤 慎)は、新たな文献が発見されたことで定説化していた事実が覆った事例を取り上げます。越後国頸城郡に築城された国境警固のための拠点のひとつの鮫ヶ尾城の大手がどこかを問う半世紀以上に及ぶ議論は、大規模な縄張調査でも確定できず、高田藩のある藩士の日記の出現が議論に決着をつけます。
13 「真宗末寺のしたたかさ─能登乗念寺直参への軌跡─」(石田文一)は、浄土真宗本願寺派に属する乗念寺という寺院が所蔵する文書を題材にしています。地元の研究会で調査整理を行い古文書の目録が刊行され、その成果をもとに近世の動静について述べます。本願寺教団内での本山・末寺関係の解消、加賀藩の触頭・触下制度からの脱却過程を解いています。
14 「鎌倉大筒稽古場内の新田試作問題─「御鉄炮御場所」から読み解く─」(桑原功一)は、現在も地元で語り継がれる幕府大筒役を務め、幕府最大の鎌倉大筒稽古場の管理を担った佐々木卯之助がおこなった新田試作(開発)について考えたものです。なぜ、幕府や代官の介入を受けずに地元耕作者が開発を長期間行えたのか、史料の文言に注目し構造的に読み解きます。
15 「焼け跡に手を差しのべた人々の記録─地域に残る戦後社会事業団体資料の価値─」(西村 健)は、戦争孤児などの保護を行った児童養護施設、ボーイズホームの資料を取り上げています。筆者が戦後横浜の戦争被害者救済をテーマとする展示を企画し出会った資料で、敗戦直後の孤児たちの境遇と心境を知ることができる貴重な資料です。戦後、社会的弱者に手を差しのべた地域の団体の歴史は、この事例同様に掘り起こされ、保存されるべきと述べます。
16 「『常陸国風土記』の魅力─茨城の古代史はおもしろい─」(久信田喜一)では、五カ国にしか残されていない風土記のひとつ『常陸国風土記』のおもしろさを伝えます。様々な状況から編纂時期が絞れることや、唯一の伝来の彰考館本と諸写本についても触れます。輔時臥の山にまつわる説話など、『常陸国風土記』を読む楽しさを読者に伝える三つの記事を紹介します。
17 「寺に駆け込むということ─上州館林藩にみる入寺と寺訴訟─」(佐藤孝之)は、近世社会における入寺(寺への駆け込み行為)と寺訴訟(寺院による訴願活動)の検討を行います。領主側の規制にもかかわらず実行されたのは、それを前提とした社会の仕組みが存在したのです。寺院を介した領主(権力)と地域住民(民衆)の関係から、地域社会の一側面を明らかにします。
18 「壬申地券からみる地租改正」(牛米 努)は、地租改正の前段階の明治五年(一八七二)に発行された壬申地券は、二種類の目的の違った地券が大蔵省の近代化政策の一環で発行され、日本の租税の近代化の上では、漸進的かつ長期的なものでした。改正地券とは違い、ほとんど知られていない史料ですが、地域史料として認識すると地方史研究の広がりの可能性があります。
19 「地域資料が歴史教育を今につなぐ─中学・高校・大学・市民講座と地域資料─」(藤野 敦)は、教育現場で地域資料が学習者にいかに過去の社会への関心をはかるか、空間を共有し、自分と歴史との関係性を考察できた事例を示します。中学での地域史のレポート学習、高校での地方史料を活用する学習、大学生のフィールドワーク、市民講座での地域資料を当時の人々と自分の経験を重ねて理解する試みを紹介し、学習者の感想から地域資料の役割を論じます。

 歴史を学ぶ真髄は、資史料が教えてくれること、わかることを確認していくことであり、そうした作業を研究者は常に行っていることは本書をお読みになればわかると思います。各地に残された地域の資史料を身近に感じていただければ、日本の歴史を原点から探求することに繋がります。本書をきっかけに、読者の皆様も地域資料に出会う旅に一歩踏み出してみてください。