地方史研究協議会編『日本の歴史を解きほぐす 地域資料からの探求』(文学通信)

このエントリーをはてなブックマークに追加 Share on Tumblr

4月下旬刊行予定です。

9784909658289.jpg

地方史研究協議会編
『日本の歴史を解きほぐす 地域資料からの探求』(文学通信)
地方史はおもしろい01
ISBN978-4-909658-28-9 C0221
新書判・並製・272頁
定価:本体1,500円(税別)


日本の現代社会の、その先を見るために、歴史はこう読む。
地域資料から日本の歴史を読み解くと、さらに歴史がおもしろくなり、現代社会もその先に見えてきます。本書は、各地域に残された資料や歴史的な事柄を通して、住まいの地域や日本の将来を考える手がかりにするべく、それぞれの資料に向き合ってきた新進の研究者が、歴史の読み解き方をふんだんに伝える書。知名度はかならずしも高くないものの、地域を考えるうえで重要な資・史料に焦点をあてて、学術的なその面白さを広めていきます。
執筆は、廣瀬良弘、山碕久登、野本禎司、新井浩文、山澤 学、菅野洋介、芳賀和樹、鬼塚知典、伊藤宏之、荒木仁朗、平野明夫、生駒哲郎、鍋本由徳、原 淳一郎、長沼秀明、吉岡 拓、萩谷良太、工藤航平、富澤達三、風間 洋、大嶌聖子の21名。





PayPalでお支払い(各種クレジットカード対応)

入金を確認次第、すぐに発送(送料無料)。

案内をメールでお送りいたします。




b1.jpg

b2.jpg

b3.gif

b4.gif

【編者】

地方史研究協議会

地方史研究協議会は、各地の地方史研究者および研究団体相互間の連絡を密にし、日本史研究の基礎である地方史研究を推進することを目的とした学会です。1950年に発足し、現在会員数は1,400名余、会長・監事・評議員・委員・常任委員をもって委員会を構成し、会を運営しています。発足当初から、毎年一回、全国各地の研究会・研究者と密接な連絡のもとに大会を開催、また、1951年3月、会誌『地方史研究』第1号を発行し、現在も着実に刊行を続けています(年6冊、隔月刊)。

◆入会を希望される方は、事務局宛に下記URL内のフォーム、または郵送・FAXでお申込ができます。おって会費の振込用紙を送付いたします。
◆『地方史研究』の購読は、HPよりお申し込みください。

〒111-0032
東京都台東区浅草5-33-1-2F 
地方史研究協議会事務局
FAX 03-6802-4129
URL:http://chihoshi.jp/

【目次】

シリーズ刊行にあたって(地方史研究協議会 会長 廣瀬良弘)
地域に残された資料からなにがわかるのか─本書の歩き方(地方史研究協議会 会長 廣瀬良弘)

第1部 地域を歩くのはおもしろい

とにかく現場を歩く
1 面白い研究をするには─将軍家鷹場鳥見と彦根藩世田谷代官─(山碕久登)

1、はじめに
2、江戸周辺地域はどんな場所か
3、鷹場制度とは何か
4、幕府の役人と藩領代官の関係について
5、おわりに
(対象地域:東京)

長屋門建立の歴史的背景
2 江戸周辺地域の長屋門─郊外化のシンボル─(野本禎司)

1、長屋門のある家
2、江戸周辺地域の百姓主屋と村落景観
3、江戸周辺地域における長屋門の建立背景
4、江戸周辺地域に建立された長屋門のゆくえ
(対象地域:東京)

あたらしい城郭研究の方法
3 「河川台帳」に遺されていた幻の中世城郭を追う(新井浩文)

1、はじめに─埼玉県立文書館収蔵の行政文書と「河川台帳」
2、「河川台帳」に記録された城郭
3、誰が築いた城なのか
4、むすびに─これからの城郭研究に期待するもの
(対象地域:埼玉)

まつりの出し物を探る
4 蔵からのぞくまつりの文化─日光・弥生祭付祭の御幸町万度─(山澤 学)

1、幻の万度
2、まつりにおける万度
3、町内蔵に残る猩々出し
4、御幸町の町印としての「猩々」
(対象地域:栃木)

水と人々と生存のあり方
5 行徳塩浜と「災害」─水の管理をめぐって─(菅野洋介)

1、はじめに
2、村絵図の内容と荒浜
3、荒浜と「災害」
4、囲堤と塩引江川をめぐって
5、塩浜諸道具と「災害」
6、むすびに─海と江戸川に囲まれて
(対象地域:千葉)

第2部 資料を読み込むのはおもしろい

地域のモノ、文字、絵図資料
6 「御札」から読み解く秋田藩の山林─山林管理のユニークな制度─(芳賀和樹)

1、秋田藩の山林と御札山
2、肝煎の家に伝わる「御札」
3、山林に「御札」を立てる意味
4、絵図にみる御札山
(対象地域:秋田)

出土状況と立地から探る
7 下総と武蔵の埴輪─ふたつの地域でつくられた埴輪をもつ古墳─(鬼塚知典)

1、下総と武蔵
2、塚内古墳群
3、塚内四号墳の調査
4、「下総型」と「下総系」・「武蔵型」と「武蔵系」
5、塚内四号墳の円筒埴輪
6、二系統の埴輪が出土した古墳群、古墳
7、塚内四号墳で円筒埴輪はどのように樹立されたか
8、河川と塚内古墳群
(対象地域:埼玉)

身近な文化財を読み解く
8 浅草寺の西仏板碑─中世における家族の供養─(伊藤宏之)

1、はじめに
2、西仏板碑の概要
3、西仏板碑の図像
4、西仏板碑の類例と年代
5、西仏板碑の銘文
6、家族の供養
7、西仏は誰か
8、おわりに
(対象地域:東京)

借用証文をどう理解するか
9 借用証文の読み方─村のリアルな金融事情─(荒木仁朗)

1、村の借用証文を読む
2、村の借金事情
3、借用証文の解釈と大量に残された証文類の意味
(対象地域:神奈川)

政府に振り回された地方
10 千葉県庁に伝来した文書の謎(平野明夫)

1、千葉県庁舎でみつかった朱印状
2、明治新政府による回収
3、地方寺社の対応
4、千葉県庁伝来文書の寺社
5、朱印状伝来の経路
(対象地域:千葉)

第3部 歴史を再発見するのはおもしろい

経典受容のあり方
11 能登の仏事の一齣─加賀藩主前田家の権威─(生駒哲郎)

1、協力しあう寺院
2、「大般若経」の願文─加賀藩主前田宗辰の武運長久を祈願する
3、京都の本屋、「大般若経」を出版する
4、金蔵寺にはいつ入ったか
5、神仏習合と「大般若経」
(対象地域:石川)

史料探しは「宝探し」
12 長崎阿蘭陀通詞本木家のアイデンティティ─史料を探す楽しみ─(鍋本由徳)

1、長崎という地域
2、江戸城での将軍とオランダ商館長・オランダ通詞
3、オランダ通詞本木庄左衛門由緒書
4、長崎奉行曲渕甲斐守への由緒提出
5、史料を探す楽しみ
(対象地域:長崎)

日本の宗教文化の特質
13 偶然ではない必然─高山彦九郎と羽黒修験─(原 淳一郎)

1、高山彦九郎の東北への旅
2、特異な米沢藩の宗教政策と湯殿参詣
(対象地域:山形)

地方史と国の歴史を結ぶ
14 ワッパ騒動の裁判と法─庄内の維新─(長沼秀明)

1、庄内大会開催とワッパ騒動義民顕彰会の活動
2、ワッパ騒動関係史料集の刊行による研究の進展
3、法制史上の重要事件としてのワッパ騒動
4、森藤右衛門関係史料
5、史料を読む─「法律学舎支校開業願」
6、地域の史料そして地方史研究を守り育てる人びと
(対象地域:山形)

地域の歴史を豊かにするには
15 「山国隊」隊名をめぐるあれこれ─誰が名づけたのか・何と読むのか─(吉岡 拓)

1、山国隊について
2、「山国隊」は誰が名づけたのか
3、「山国隊」は何と読むのか
4、地域の歴史をより豊かなものとしていくために
(対象地域:京都)

第4部 教材として役立つ地域資料

絵葉書は地域史を語る
16 写真絵葉書にみる風景へのまなざし─一九三〇年代の土浦と創造された景観─(萩谷良太)

1、絵葉書の発行年代を知る
2、花もないのに桜川
3、名実ともに真の桜川
4、遊覧都市土浦
5、水郷らしい花見
6、流通する地域の景観
7、絵葉書の変化を読みとく
(対象地域:茨城)

文書史料がなくてもわかる
17 筆子塚から読み解く庶民教育(工藤航平)

1、よくわからない庶民教育の実態
2、筆子塚とは?
3、筆子塚からわかること
4、危機に瀕する筆子塚
(対象地域:埼玉)

戯画で時事を伝えた国芳
18 お江戸のキャラクター─幕末風刺画の「判じ物」から「戯画物」への転換─(富澤達三)

1、歌川国芳の「判じ物」が大当たり
2、嘉永の流行神と錦絵
3、国芳の身辺調査
4、風刺画の転換─「判じ物」から「戯画物」へ
(対象地域:東京)

これからの歴史教育のために
19 『足利持氏血書願文』を一緒に読もう─鎌倉地域の中世文書を教材化する試み─(風間 洋)

1、はじめに
2、「足利持氏血書願文」
3、生徒と一緒に「願文」を考える
4、おわりに
(対象地域:神奈川)

あとがき・執筆者紹介


【執筆者紹介】

山崎久登(やまざき ひさと)一九七七年生 都立砂川高等学校
 主要業績『江戸鷹場制度の研究』(吉川弘文館、二〇一七年)
野本禎司(のもと ていじ)一九七七年生 東北大学東北アジア研究センター
主要業績「近世後期旗本家の用人就任過程─江戸─周辺地域の視座から─」(大石学編『近世首都論─都市江戸の機能と性格─』岩田書院、二〇一三年)
新井浩文(あらい ひろぶみ)一九六二年生 埼玉県立歴史と民俗の博物館
 主要業績『関東の戦国期領主と流通』(岩田書院、二〇一一年)
山澤 学(やまさわ まなぶ)一九七〇年生 筑波大学 人文社会系
 主要業績『日光東照宮の成立』(思文閣出版、二〇一六年)
菅野洋介(かんの ようすけ)一九七五年生 駒澤大学文学部歴史学科
 主要業績『日本近世の宗教と社会』(思文閣出版、二〇一一年)
芳賀和樹(はが かずき)一九八六年生 東京大学大学院農学生命科学研究科
 主要業績「近世阿仁銅山炭木山の森林経営計画」(『林業経済』六四─七、二〇一一年) 
鬼塚知典(おにつか とものり)一九七三年生 春日部市郷土資料館
 主要業績「古隅田川の一考察」(『埼玉考古』第五三号、二〇一八年)
伊藤宏之(いとう ひろゆき)一九七二年生 台東区教育委員会生涯学習課
 主要業績「「位牌」と呼ばれた板碑」(『論集 葬送・墓・石塔』狭川真一さん還暦記念会、二〇一九年)
荒木仁朗(あらき じろう)一九七六年生 明治大学・中央学院大学
 主要業績「日本近世農村における債務と証文類」(『歴史評論』第七七三号、二〇一四年)
平野明夫(ひらの あきお)一九六一年生 國學院大學・駒澤大学
 主要業績『徳川権力の形成を発展』(岩田書院、二〇〇七年)
生駒哲郎(いこま てつろう)一九六七年生 東京大学史料編纂所図書部
 主要業績『畜生・餓鬼・地獄の中世仏教史─因果応報と三悪道』(吉川弘文館、二〇一八年)
鍋本由徳(なべもと よしのり)一九六八年生 日本大学通信教育部
 主要業績「江戸時代、長崎唐人番・唐通事の記録などにみる日中関係」(『東アジア日本語教育・日本文化研究』第22号、二〇一九年)
原 淳一郎(はら じゅんいちろう)一九七四年生 山形県立米沢女子短期大学日本史学科
 主要業績『近世寺社参詣の研究』(思文閣出版、二〇〇七年)
長沼秀明(ながぬま ひであき)一九六二年生 川口短期大学こども学科
 主要業績『尾佐竹猛研究』(共著、明治大学史資料センター編、日本経済評論社、二〇〇七年)
吉岡 拓(よしおか たく)一九七八年生 明治学院大学教養教育センター
 主要業績『民衆と天皇』(共著、高志書院、二〇一四年)
萩谷良太(はぎや りょうた)一九七七年生 土浦市教育委員会
 主要業績『図解案内 日本の民俗』(共編著、吉川弘文館、二〇一二年)
工藤航平(くどう こうへい)一九七六年生 東京都公文書館 
 主要業績『近世蔵書文化論─地域〈知〉の形成と社会─』(勉誠出版、二〇一七年)
富澤達三(とみざわ たつぞう)一九六七年生 松戸市立博物館
 主要業績『錦絵のちから 時事的錦絵とかわら版』(文生書院、二〇〇四年)
風間 洋(かざま ひろし)一九六七年生 私立鎌倉学園中学・高等学校  
 主要業績『おはなし日本の歴史9 鎌倉幕府と元寇』(岩崎書店、二〇一五年)

【序文】

シリーズ刊行にあたって

地方史研究協議会 会長 廣瀨良弘

 地方史研究協議会は、二〇二〇年に創立七〇周年を迎える。これを期して書籍刊行の企画が検討された。全国各地で保存されてきた地域の資・史料を学術的にアピールするための企画である。
 日本全国の文化財は、国の指定文化財として国宝・重要文化財があり、都道府県の指定文化財もあり、さらに市区町村の指定文化財もある。このうち都道府県や市区町村の指定文化財は、各自治体が地域にとって重要であると考える資・史料を指定文化財として保存・公開している。しかしながら、自治体が指定した文化財をその自治体以外の人々が知る機会はそう多くはない。全国の博物館やその他の保存機関などには、限られた研究者のみしか利用されてこなかった資・史料も存在している。
 これまで全国の文化財行政に携わる人々や研究を志す人々などによって、資・史料の調査や保存活動が地道に行われ続けてきた。そうした人々の努力により、今後も将来にわたり、歴史的に価値のある資・史料が保存・公開され続けていく。一方で近年、地震や台風、火災などで地域の資・史料が被災し、損失している。地域の資・史料の地道な保存活動は、多くの人々の理解があってこそ成立する。そのためには、地域の資・史料のもつ情報の凄さを広く知ってもらいたいと考える。
 本企画は、知名度はかならずしも高くないものの、地域を考えるうえで重要な資・史料に焦点をあてて、学術的なその面白さを広めるシリーズ企画である。題して『地方史はおもしろい』である。資・史料が地域の歴史のなかでどのような意味を持っているのか。また、資・史料からどのような人々の営みやさまざまな情報を読み取ることができるのか。地域で保存され、伝えられてきた資・史料をもとに地域の歴史にスポットをあてていく。
 多くの方々が本シリーズの各書をお手に取り、地域の歴史のおもしろさを身近に感じていただきたい。

【本書の歩き方】

地域に残された資料からなにがわかるのか─本書の歩き方

(地方史研究協議会 会長 廣瀨良弘)


 本書「日本の歴史を解きほぐす─地域資料からの探求─」は、地方史研究協議会編のシリーズ本、『地方史はおもしろい』の一冊めとして刊行します。本来は、対象地域を絞り、何らかの小テーマを設定するところではありますが、第一冊は、その前提として、地域を絞らずに構成しました。地域に残された資料から語ると、日本各地のどのようなことがわかってくるのか、地域資料に向き合ってきた新進の研究者がそれぞれの資料のおもしろさをふんだんに伝えます。
 目次をご覧になって、気になるところから読みすすめられてもよし、関心のあるテーマごとに読みすすめられてもよし、どの論考も歴史に興味を持たれている方なら、引き込まれること間違いなしの文章に仕上がっています。
 ここでは、各論考の要所を簡単に紹介します。ただし、核心の資料のおもしろさは、それぞれをお読みいただかないとわかりません。是非ともページをめくりながら、地域資料のおもしろさ・日本の歴史の奥深さを味わっていただきたいと思います。

1「面白い研究をするには─将軍家鷹場鳥見と彦根藩世田谷代官─」(山碕久登)では、東京都世田谷区(現、目黒区を含む)を歩き、実感したことに古文書から検討を加えました。江戸幕府八代将軍徳川吉宗は、幕府領・旗本領・寺社領・大名飛地領などが混在する江戸周辺地域を一元支配するために、各地域に鷹場(将軍家鷹場)を設けました。鷹場を管理する鳥見の役所、駒場御用屋敷(目黒区大橋)と彦根藩世田谷領の代官屋敷(世田谷区世田谷)の至近距離に着目し、一元支配とはいえ、単純ではない両者のやり取りの実態を明らかにします。
2「江戸周辺地域の長屋門─郊外化のシンボル─」(野本禎司)では、現在でも旧家などに見られる長屋門に注目しています。本来、江戸時代の長屋門は大名・旗本などの武家屋敷に設けられた門形式の一つです。それが、江戸時代後期には江戸周辺の名主層の屋敷にも広がっていきます。武蔵国多摩郡下井草村(東京都杉並区)を事例に、高家旗本今川家を財政的に支援する名主層の社会的地位の変化(武士身分)などとの関連で、身分の違いを示す長屋門のシンボル的な意味を解説します。
3「「河川台帳」に遺されていた幻の中世城郭を追う」(新井浩文)では、現在では全貌がわからない中世城郭の復元を試みます。河川を利用して築城した中世城郭の多くは、現代の河川工事によって全貌を知ることができません。そうした城郭を明治二十九年(一八九六)施行の河川法によって作成された「河川台帳実測図」(埼玉県立文書所蔵)によみとり、「埼玉県内渡良瀬川平面図第六号」を活用し、そこに記載された城郭が現在では遺構を残していない古河公方の柏戸城であった可能性を指摘します。
4「蔵からのぞくまつりの文化─日光・弥生祭付祭の御幸町万度─」(山澤学)では、元禄十四年(一七〇一)から始まったとされる日光二荒山神社の祭礼である弥生祭の際に繰り出される「万度」(山車)についての考察です。栃木県日光市御幸町の町内蔵の調査によって発見された「万度」を復元し、明治期に電線などの整備が進んだことなどによって現在ではみられなくなってしまった同地域の華やかな祭文化の一端を紹介します。
5「行徳塩浜と「災害」─水の管理をめぐって─」(菅野洋介)では、千葉県浦安市行徳地域を事例に江戸時代の災害、とくに水害について検討を加えています。海岸線沿いの地域の災害といえば津波などの海からの被害が想定されますが、河口近くの村々にとっては、河川の氾濫も重大な被害でした。とくに塩を採取している地域にとっては、塩山が真水に浸かることによる損害が大きく、江戸時代の河口近辺の村々の水の管理のあり方を指摘します。
6「「御札」から読み解く秋田藩の山林─山林管理のユニークな制度─」(芳賀和樹)では、出羽国秋田藩領による山林管理の制度を紹介しています。秋田藩では、村人の利用を厳しく制限した「御札山」と呼ばれる山林がありました。しかし、利用を制限されるはずの「御札山」に指定してほしいと村人の方から願い出る例があり、それは、他の村々による盗伐などの被害にあわないように、藩による保護を期待してのものでした。一見すると藩による上から下への厳しい支配制度のなかに、一方的な面だけではなく、村にとってのメリットを読み取ります。
7「下総と武蔵の埴輪─ふたつの地域でつくられた埴輪をもつ古墳─」(鬼塚知典)では、埼玉県春日部市所在の塚内古墳群出土の円筒埴輪の分類について、地域的特徴という視点で検討を加えています。同古墳群からは、「下総系」「武蔵系」という二系統の円筒埴輪が同時代のものとして出土しています。塚内古墳群は、いわゆる武蔵国に所在し、同古墳群の眼下には、古隅田川が流れていました。同じ場所から二系統の円筒埴輪が出土する、他には見られないこの事例を河川を利用した地域間交流という視点から解き明かします。
8「浅草寺の西仏板碑─中世における家族の供養─」(伊藤宏之)では、浅草寺(東京都台東区)出土の板碑から中世における死者供養のあり方に言及しています。「板碑」は、関東地方にみられる石造供養塔で、なかでも埼玉県秩父郡・比企郡産出の「緑泥片岩」を用いたものは、「武蔵型板碑」と呼ばれています。浅草寺出土の「武蔵型」に属する西仏板碑の形状・図像・銘文などから、中世浅草寺周辺地域の「有徳人」(富裕層)の存在を浮かび上がらせます。
9「借用証文の読み方─村のリアルな金融事情─」(荒木仁朗)では、江戸時代の借金事情がわかる古文書を紹介しています。借金の証文である借用証文を読み込み、同じ借主で、なおかつ同じ貸主との間での借用証文が短期間に何度も作成されている事実に注目し、そこから少額の貸借が何度も繰り返されているという村におけるリアルな金融事情を述べています。
10「千葉県庁に伝来した文書の謎」(平野明夫)では、千葉県庁で発見された同県に所在する朱印状の伝来について考察しています。寺院に対して徳川将軍が発給した朱印状は、江戸幕府が寺社の所領を保証するものでした。新たな秩序作りのため、明治新政府はこれらの文書の収公を命じます。江戸時代の寺社奉行所は、明治期に寺社裁判所となり、朱印状の提出先になります。しかし、新政府もまだまだ盤石ではなく、法令・制度などが急に変更になり、そのため提出先がわからなくなってしまった文書がどうなったのかを紐解いていきます。
11「能登の仏事の一齣─加賀藩主前田家の権威─」(生駒哲郎)では、石川県能登半島の寺院、高野山真言宗白雉山金蔵寺(石川県輪島市町野町所在)に伝わった『大般若経』六〇〇巻と同教典を用いた大般若経会という年中行事について述べています。これらの経典に、加賀藩主前田宗辰の武運長久を母浄珠院が祈願する内容の墨書がみられることから、神仏習合を説く経典の功徳だけではなく、同地域における加賀藩主前田家の権威についても言及しています。
12「長崎阿蘭陀通詞本木家のアイデンティティ─史料を探す楽しみ─」(鍋本由徳)では、江戸時代にオランダ通詞を務めた本木家の由緒書を検討しています。天和二年(一六八二)にオランダ商館長は、江戸城において将軍徳川綱吉と長子徳松とに謁見し、本木庄太夫は、その通訳として江戸参府に随行しました。由緒書に記載された本木庄太夫の事蹟から、謁見の際、徳松がオランダ人の舞踏を所望したという逸話を紹介し、由緒書の内容が家のアイデンティティとして代々伝えられていくことを指摘しています。
13「偶然ではない必然─高山彦九郎と羽黒修験─」(原淳一郎)では、江戸時代後期の尊王思想家として知られる高山彦九郎の出羽三山参詣を通して、羽黒山・月山・湯殿山をめぐる宗派の勢力争いと、現地での宗派を超えた活動を検討しています。江戸時代、羽黒山・月山は天台宗(江戸寛永寺末)、湯殿山は真言宗が管轄していました。羽黒修験に属する修験者が湯殿山で活動することもみられ、一見すると矛盾するような宗派の混在状態を日本の宗教文化の特質であると指摘します。
14「ワッパ騒動の裁判と法─庄内の維新─」(長沼秀明)は、「ワッパ騒動」に関する史料の紹介をしています。「ワッパ騒動」は、明治六年(一八七三)末から同十二年十二月まで山形県庄内地方で起った一揆です。「ワッパ騒動」のなかで、多数の農民たちの実力闘争を中央政府への訴願闘争へと導いた森藤右衛門に焦点をあてています。
15「「山国隊」隊名をめぐるあれこれ─誰が名づけたのか・何と読むのか─」(吉岡拓)では、戊辰戦争の官軍に加わるため、山国(現在の京都市右京区京北地域)から八十余名が出陣した、いわゆる「山国隊」に関する新知見を披露しています。戊辰戦争の時、武士ではない身分の者からなる草莽隊が結成されて、なかでも山国隊は比較的著名な隊です。しかし、「山国隊」という隊名を誰が名づけて実際にどう呼ばれていたのか、諸説ある読みについて、関連史料を読み込んで、その根拠を解説していきます。
16「写真絵葉書にみる風景へのまなざし─一九三〇年代の土浦と創造された景観─」(萩谷良太)では、写真絵葉書から近代茨城県土浦市の景観の変遷を検討しています。上流が桜の名所だったことからその名がついた桜川は、茨城県桜川市を水源とし、土浦で霞ケ浦に注ぎ込みます。土浦にも桜が植えられるようになり、遊覧都市として変貌する土浦の景観を「写真絵葉書」から探り、歴史資料としての活用方法なども述べています。
17「筆子塚から読み解く庶民教育」(工藤航平)では、筆子塚から庶民教育(寺子屋)の実態を探ります。筆子塚とは、寺子屋などの手習塾で弟子らが亡き師匠のために建立した墓碑です。筆子塚には、師匠の来歴や弟子らの名前などが刻まれ、古文書などからは得られない情報を知ることができます。筆子塚から庶民教育の実態を探り、知られていない筆子塚が現在でもまだまだ地域に存在していることを指摘しています。
18「お江戸のキャラクター─幕末風刺画の「判じ物」から「戯画物」への転換─」(富澤達三)では、水野忠邦による天保改革(一八三〇〜四三)で、ぜいたく品とされて禁止された錦絵(多色摺の浮世絵版画)をとりあげています。あの手、この手で禁止の目をかいくぐる錦絵の技法の変化に注目します。主に考察の対象とするのは、浮世絵師の歌川国芳です。本来の意味を隠す「判じ物」や、風刺化させた「戯画物」などの錦絵の新展開を解説しています。
19「『足利持氏血書願文』を一緒に読もう─鎌倉地域の中世文書を教材化する試み─」(風間洋)は、古文書を教材に用いた歴史授業の実践レポートです。その授業は教科書にも登場する鎌倉公方足利持氏の永享六年(一四三四)三月十八日付願文の複製を用いて、くずし字・花押(サイン)・紙質などを授業を受ける生徒の興味関心を引き出すように解説しています。勤務地ゆかりの古文書の選び方、地域を意識した授業の進め方など、教材としての古文書の活用方法を例示しています。

 本書は、当会、地方史研究協議会がまさに七〇周年にあたる年に、刊行されることになりました。シリーズ本の第一号ですから、これから各地で、その地域ならではの地域資料を題材に取り上げた書籍も出版する予定です。地域資料から日本の歴史を読み解きほぐすと、さらに歴史がおもしろく、また現代社会もその先に見えてきます。本書を読まれた皆様が、各地域に残された資料や歴史的な事柄を通して、お住まいの地域や日本の将来を考える手がかりにしていただきたいと考えます。