全訳『男色大鑑』予告的あらすじ公開!★巻1の2「此道にいろはにほへと」

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井原西鶴が1687年に描き出した、詩情あふれる華麗・勇武な男色物語『男色大鑑』を現代に甦えらせるプロジェクトが始動します。
『男色大鑑』の、若衆と念者の「死をも辞さない強い絆」は、作品中、常に焦点となっている三角関係の緊張感とともに、長い間、誠の愛を渇望して止まぬ人々の心を密かに潤し続けてきました。
そんな作品群を、分かりやすい現代語と流麗なイラストによって新たに世に送り出します。

ここでは、そんな『男色大鑑』のあらすじを予告編的に紹介していきます。今回は巻一の二を紹介いたします。

※あらすじの一覧は以下で見ることができます。
https://bungaku-report.com/blog/2018/07/post-235.html

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■巻一の一

此道にいろはにほへと
この道ひとすじ「一道」先生、少年二人の恋路見守る。

 俺は京(みやこ)の裕福な町人の生まれだが、家を継ぐなんぞ、まっぴら御免だ。女の声を聞くのさえ我慢ならないのに、結婚なんてできるか!ってことで、財産は放棄して、今は石川丈山入道(じょうざんにゅうどう)に憧れての隠遁(いんとん)生活。とはいえ、朝起きたとき「咳をしても一人」なのも寂しい。美少年がここにいてくれたら......。鏡を見ては髪をなでつけ、俺もまだまだ捨てたもんじゃないとつぶやく。
 そんな俺だが、これでも子供たちのお師匠さまだ。「手習い屋の一道」なんて渾名(あだな)まである。この道ひとすじってことさ。何の道かって? おい、さっきも言ったろう?(フッと、髪に手を添え)俺は美少年が好きなんだ。ナニ、そんな山奥に美少年がいるかって? まあ、そう見くびるなよ。確かに田舎侍のせがればかりだが、美しいのがいるんだ、これが。中でも、そうだな、今でも覚えているのは......篠岡大吉(しのおかだいきち)と小野新之助(おのしんのすけ)だ。こいつら同い年なのに、兄分の大吉が新之助をやたらとかわいがるんだ。俺の「書道塾/衆道塾(しゅどうじゅく)」で学んだだけはある。この二人の恋路を、俺はひたすら見守ったってわけよ。ン、終わりまで聞きたいか。泣き過ぎて目が腫(は)れたって知らんぞ......。
 一道先生の一人語りが、いつのまにか物語の背景に消える。もしかして彼こそ、「壁」と一体化して男たちの赤裸々な姿を描き出すBL作家の元祖か!? 『男色大鑑』入門にふさわしい一編。


★畑中千晶(はたなか・ちあき)敬愛大学教授、執筆。

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■編集部より

2018年11月に、『男色大鑑』八巻中、前半の武家社会の衆道に取材した作品四巻までを収録した〈武士編〉を刊行し、後半の四巻を〈歌舞伎若衆編〉として、2019年6月に刊行します。

イラストに、あんどうれい、大竹直子、九州男児、こふで、紗久楽さわ、といった豪華な漫画家陣が参加。現代語訳は、若手中心の気鋭の研究者、佐藤智子、杉本紀子、染谷智幸、畑中千晶、濱口順一、浜田泰彦、早川由美、松村美奈。

このプロジェクトが気になった方は、ぜひ以下の特設サイトをご覧下さい。
文学通信

また本書の詳しい紹介はこちらです。ご予約受け付け中です!
●2018.11月刊行予定
文学通信
染谷智幸・畑中千晶編『全訳 男色大鑑〈武士編〉』
ISBN978-4-909658-03-6 C0095
四六判・並製・192頁 定価:本体1,800円(税別)
※ご予約受付中!
amazonはこちら https://www.amazon.co.jp/dp/4909658033/